労働者を雇用する企業は、雇用保険の対象になる労働者に対して、必ず雇用保険に加入しなければなりません。
しかし、雇用保険のルールは少々複雑です。
特にアルバイト、学生、非正規雇用などの労働者の場合、必ずしも雇用保険の対象になるわけではないので注意が必要です。
そこで本記事では、雇用保険の担当者向けに、雇用保険の加入条件や、加入手続きの注意点について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
雇用保険の3つの加入条件
雇用保険の加入条件は、主に以下の3つです。
- 勤務期間が31日以上
- 週20時間以上働いていること
- 学生ではないこと
それぞれ詳しく解説していきます。
条件①:勤務期間が31日以上
厚生労働省は、雇用保険の加入条件として「31日以上の雇用見込みがあること」を挙げています。
ここで重要なのは「見込み」です。
仮に、本当に31日以上になるかどうかが現時点でわからなくても、その可能性が少しでもあるのであれば「雇用見込み」があるとみなされます。
逆に言えば、ほぼ確実に雇用期間が31日間未満になるのであれば、対象外になります。
例えば契約書で「雇用期間は14日間」と明示されている場合は、雇用保険の対象外です。
条件②:週20時間以上働いていること
厚生労働省は、雇用保険の加入条件として「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」を挙げています。
所定労働時間は、契約書に明記されている労働時間のことです。
仮に、実際に週20時間以上働くときがあるとしても、契約書に明記されている所定労働時間が20時間未満であれば、雇用保険の対象外です。
ただし、所定労働時間が週20時間未満でも、実際に週20時間以上働いている期間が長期間に及ぶ場合は、雇用保険の対象内になることがあります。
条件③:学生ではないこと(例外あり)
厚生労働省は、雇用保険の加入条件として「学生ではないこと」を挙げています。ここで言う学生とは、昼間学生のことで、夜間学校や定時制の学生の場合は、雇用保険の対象になります。
また、昼間学生でも、以下のような要件を満たしていれば、例外として雇用保険の対象者になります。
- 休学中である者
- 卒業見込証明書を有しており、かつ卒業後も同一事業所に勤務する予定の者
そもそも雇用保険とは?【失業・休業に対する保険】
ここまで、雇用保険の加入条件について説明してきました。
では、そもそも雇用保険とは一体どのような目的で設立された制度なのでしょうか。
雇用保険は、以下の目的で設けられた制度です。
- 労働者の生活及び生活の安定と就職の促進
- 失業の予防
- 雇用状態の是正及び雇用機会の増大
- 労働者の能力開発及び向上
- 労働者の福祉の増進
雇用保険で事業者と労働者から集めたお金は、失業等給付やハローワークに用いられます。
これにより、国民全体の雇用機会を安定化させているのです。
雇用保険の被保険者の4つの種類
雇用保険の被保険者の種類は以下の4つです。
- 一般被保険者
- 高年齢被保険者
- 短期雇用特例被保険者
- 日雇労働被保険者
それぞれ詳しく解説していきます。
①:一般被保険者
一般被保険者は、のちほど紹介する高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者以外の被保険者のことを指します。
②:高年齢被保険者
高年齢被保険者は、65歳以上で、短期雇用特例被保険者と日雇労働被保険者に該当しない被保険者のことを指します。
2016年まで、雇用保険には年齢制限がありました。
そして2017年に雇用保険の年齢制限が撤廃され、65歳以上でも雇用保険の加入義務が認められた結果、誕生したのが高年齢被保険者です。
③:短期雇用特例被保険者
短期雇用特例被保険者は、4ヶ月以上の期間を定めて雇用され、週の所定労働時間が30時間を超える被保険者のことを指します。
具体的には、4ヶ月以上働くリゾートバイトが、短期雇用特例被保険者に該当します。
労働者が雇用保険に加入する大きなメリットである基本手当を受給するには、退職日以前2年間で雇用保険の被保険者期間が通算で12ヶ月以上あることが求められます。
その中で特例として、短期雇用特例被保険者に対しては「一時労働金」が支給されるようになっているのです。
④:日雇労働被保険者
日雇労働被保険者は、日々雇用されて、30日以内の期間を定めて雇用される者を指します。
ただし、前2ヶ月で月18日以上同じ会社で雇用された場合や、同一の事業主で31日以上雇用された者は、一般被保険者などで取り扱われるようになります。
日雇労働被保険者は、派遣会社に登録しているにもかかわらず派遣されなかった場合などで、日雇労働求職者給付金を受け取れます。
雇用保険加入時に必要な4つの書類
雇用保険加入時に必要な書類は以下の4つです。
- 保健関係成立届
- 概算保険料申告書
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
それぞれ詳しく解説します。
書類①:保険関係成立届
保険関係成立届は、労働保険加入義務を履行するために必要な書類で、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
一般的に、雇用保険は労災保険とセットで取り扱われ、この2つの保険のことを「労働保険」と言います。
本来、この2つの保険の徴収は別々で実施されますが、それを一元化するために必要な書類が保険関係成立届です。
書類②:概算保険料申告書
概算保険料申告書は、保険関係成立届を提出した後に渡される書類です。
所轄の労働基準監督署、所轄の労働局、日本銀行のいずれかに提出する必要があります。
概算保険料申告書は、被保険者の見込み賃金を算出し、それから保険料を割り出して申告するための書類です。
雇用保険を含めた労働保険料は、年度を単位とした概算額を前払いするのが原則なので、概算保険料申告書を用いて年度分まとめて申告する必要があります。
書類③:雇用保険適用事業所設置届
雇用保険適用事業所設置届は、ハローワークに提出する書類です。
この書類を提出しないと、雇用保険の加入手続きができません。
事業所を設置した翌々日から10日以内に提出する必要があります。
書類④:雇用保険被保険者資格取得届
雇用保険被保険者資格取得届は、雇用保険の加入条件を満たす労働者を雇用した際に、ハローワークに提出する書類です。
新たな従業員を雇用してから翌月の10日までに提出する必要があります。
雇用保険加入時の3つの注意点
雇用保険加入時の注意点は以下の3つです。
- 加入条件を満たす場合は加入の義務がある
- 雇用形態・労働時間を変更する場合は再確認しておく
- 雇用保険は二重加入できない
それぞれ詳しく解説していきます。
注意点①:加入条件を満たす場合は加入の義務がある
雇用保険加入時の注意点として、まず挙げられるのが「加入義務」です。
雇用保険には、加入条件を満たす労働者に対する加入義務があります。
そして、加入手続きを行う義務があるのは、労働者ではなく事業者です。
従業員を新たに雇用した段階で、書類を準備して提出する必要があります。
また、従業員が加入条件を満たしているにもかかわらず、雇用保険に加入していない場合は、過去に渡って保険料と追徴金が徴収されます。
それに加えて、雇用保険の届け出をしなかったときや、偽りの届け出をした場合、雇用保険法により事業主は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
雇用保険関連の手続きは、確実にミスのないようにしましょう。
注意点②:雇用形態・労働時間を変更する場合は再確認しておく
雇用形態の注意点として、雇用形態や労働時間の変更が挙げられます。
例えば、アルバイトで週20時間未満の所定労働時間で雇用したとしても、長期的に、実働時間が週20時間を上回っている場合は、雇用保険の対象になる可能性が極めて大きくなります。
その場合は、就業途中で雇用形態や契約内容を変更し、雇用保険の加入手続きを進める必要があります。
逆に、就業途中で加入条件を満たさなくなった場合、事業主は資格喪失手続きを実施しなければなりません。
具体的には、就業条件が変更された前日を「離職日」扱いにして、資格喪失手続きを実施します。
その場合は、離職日の2日後から10日以内に、離職証明書と資格喪失届をハローワークに提出する必要があります。
注意点③:雇用保険は二重加入できない
雇用保険は、二重加入できない点に注意が必要です。
近年は多様な働き方が認められるようになっているため、複数企業に所属するケースも珍しくなくなっています。
一方で、雇用保険は二重加入できません。厚生労働省は「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入する」と述べています。
基本的には、収入が多く、かつ安定している方の企業で雇用保険の手続きを済ませるべきでしょう。
なお、雇用保険の加入要件は1つの企業で満たす必要があります。
例えば、2つの企業に所属し、それぞれの企業での所定労働時間が週20時間未満である場合、雇用保険の加入要件を1つの企業で満たせていないため、雇用保険に加入できません。
ダブルワークの労働者に対しては特に注意が必要です。
雇用保険に関するよくある質問
ここでは、雇用保険に関するよくある質問に回答していきます。
初めての申請だけど、まずは何をすればいい?
個人事業主・法人や、事業規模にかかわらず、1人でも労働者を雇用するのであれば、原則として労働保険が適用されるので、まずは「労働保険関係成立届」を管轄の労働基準監督署に提出します。
また、労働保険関係成立届を提出した後は、雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を、添付書類と一緒に管轄のハローワークに提出します。
なお、様式はハローワークで受け取り可能で、ホームページからのダウンロードも可能です。
取締役や役員は雇用保険に加入できる?
企業の取締役と役員は、原則として雇用保険に加入できません。
ただし、企業の役員であると同時に、部長、支店長、工場長などの従業員としての身分を有し、賃金・報酬などからみて労働者的性格が強く、雇用関係が認められる場合にのみ、雇用保険に加入可能です。
この場合、雇用の実態を確認できる書類をハローワークに提出する必要があります。
また、本当に雇用保険に該当するかどうかがわからない場合は、ハローワークで相談が可能です。
雇用保険料はいくら支払えばいい?
雇用保険料は、労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて算出します。
保険料率は年度によって変動することがあるため注意が必要です。
なお、令和6年度の一般事業の保険料率は、労働者が0.6%で事業者が0.95%となっています。
雇用保険に本人の同意は必要?
雇用保険は、加入条件が満たされている場合に加入義務が発生します。
そのため、加入条件が満たされる契約書を本人と締結しているのであれば、特に本人の同意が必要ないと言えます。
特によく見受けられるのが、アルバイトやパート労働者の方が、扶養と雇用保険を混同してしまっているケースです。
所得税の納税義務が発生する「103万円の壁」、社会保険料の支払い義務が発生する「130万円の壁」は、どちらも雇用保険とは全く関係ない基準です。
本記事冒頭で紹介した3つの加入条件を満たしている場合、否応なしに雇用保険の加入義務が発生するため、アルバイトやパート労働者の方にしっかり説明する必要があると言えるでしょう。
どうしても雇用保険料を払いたくありません!
事業者がどうしても雇用保険料を支払いたくないのであれば、労働者を一切雇わずに経営するしかありません。
業務委託は基本的に雇用保険の対象外なので、業務委託を活用することで、一般的な企業と同等レベルの事業をこなしつつ、雇用保険料を支払わない経営を構築することが可能です。
ただし業務委託でも、労働者として雇用形態に相当する実態がある場合は、雇用保険への加入が認められるので、その点は注意が必要です。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 雇用保険の加入条件は①勤務期間が31日以上、②所定労働時間が週20時間以上、③学生ではないことの3つ
- 雇用保険加入は「義務」であることに注意する
- 就業途中で加入条件を満たさなくなった場合は資格喪失届の提出が必要
雇用保険の加入条件は、簡単そうに見えてかなり複雑です。
ミスの少ない従業員や、雇用保険関連の専門機関に業務を任せておくのが得策だと言えるでしょう。