ビジネスにおいて、イニシエーションをどのように行ったらよいのかと悩んではいませんか。
従業員が組織で成果を上げるためには段階があり、2つのイニシエーションを意識すると効率よく組織になじんでもらいやすくなります。
この記事ではイニシエーションの意味や種類、メリット、イニシエーションを確立する方法を紹介します。
人材の流出を防ぎ、最大限に力を発揮させたいと考える経営者は、ぜひ最後までお読みください。
目次
イニシエーションとは通過儀礼のこと
イニシエーションとはもともと宗教的な意味で使われていた言葉で、「通過儀礼」のことです。
イニシエーション(initiation)を直訳すると「開始」「入門」であり、ある活動が開始されるときや新しいメンバーが組織やグループに加入する際の儀式を指すケースが多くみられます。
ビジネスや心理学、医療とさまざまな分野で使われる言葉で、そのシーンによって以下のように意味が異なります。
- 宗教……教徒になる際の儀式
- 医療……発がんの初期ステップ
- 心理学……心理的なショックを克服して精神が成熟へと向かうこと
ビジネスでは「新しい環境や組織に適応するための通過儀礼」をいい、現代の成人式や入社式もそのうちのひとつです。
終身雇用制度が崩壊し、変動が著しい時代に突入したことで人事異動や転職の機会が多くなりました。
それによりイニシエーションの機会が増え、組織に馴染めないという悩みを抱える人も多いでしょう。
学生時代とは異なる雰囲気や人間関係、周囲からの期待にプレッシャーを抱えてしまうケースもあります。
ビジネスにおけるイニシエーションの例
ここからは米国の産業心理学者D・フェルドマンが提唱した、2つのイニシエーションを説明します。
グループ・イニシエーション
グループ・イニシエーションとは新卒社員や中途入社の社員が、加入しようとする組織や集団のメンバーとして認められることです。
具体的には、入社式や歓迎会が当てはまります。
グループ・イニシエーションが成功すると「組織に馴染めない」という問題が軽減され、心理的安全性を築けます。
結果として、企業で成果を発揮できる人材に近づくでしょう。
このようにグループ・イニシエーションはいわば「人間関係」に焦点を当てた活動といえます。
タスク・イニシエーション
タスク・イニシエーションとは、同じく新卒社員や中途入社の社員が新たな組織で成果を出し、組織に貢献することを通して周りから認められることをいいます。
グループ・イニシエーションが人間関係に焦点を当てている一方、タスク・イニシエーションは「組織での役割」にスポットが当てられています。
なお業務の遂行には、周囲のサポートが不可欠です。
順番としてはまずグループ・イニシエーションにて、心理的安全性を確保します。
そのうえで組織のメンバーと協力したり相談したりすることを通して、タスク・イニシエーションを実現する流れがスムーズです。
イニシエーションをおこなう3つのメリット
ここからは、イニシエーションをおこなう3つのメリットを紹介します。
1.人材の流出を防げる
近年労働人口が減少傾向にあり、多様な考えを持つ人とともに仕事をするケースが多くなりました。
しかし、なかには企業の人間関係になじめず、入社しても早期に離職してしまうケースもあるでしょう。
そのため、グループ・イニシエーションを通して、組織や人に馴染む経験を与えることが重要です。
イニシエーションは相談をしやすくしたり、協力を得やすくしたりといった効果があり、従業員の心理的安全性を確保することに役立つため、人材流出を防ぐことにつながります。
2.リアリティショックを軽減できる
リアリティショックとは、入社前に持っていた企業に対するイメージと、実際に入社してからの職場環境や仕事内容、人間関係とでギャップを感じることです。
例えばアットホームな環境だと思って入社しても、実際は業務が繁忙で上司が黙々と仕事をしており、不明点を聞きづらいと感じるケースがあるでしょう。
この場合、人間関係の構築に対してネガティブなイメージを抱いてしまうかもしれません。
そのような事態を防ぐため、まずグループ・イニシエーションにて相談しやすい環境を作りましょう。
このようにしてタスク・イニシエーションを乗り越えやすくすることで、成功体験を積み、モチベーションが下がってしまう事態を防げます。
3.成果を上げやすくなる
タスク・イニシエーションを成功させるためには、新入社員のパーソナリティやスキルを把握したうえでの、業務を遂行しやすい適切な人材配置が欠かせません。
例えば指導役としてコミュニケーション能力が高い社員を配置したり、チーム内に経験の近い従業員を配置したりすると、職場での孤立を避けられるでしょう。
人材配置が適切にされていると、指導が行き届いたり人材に合ったハードルの仕事が与えられたりといったことにつながります。その結果、成果を生むこととなるでしょう。
イニシエーションの場面例
ここからはイニシエーションの場面例を紹介します。
それぞれについて、人材を受け入れる側もイニシエーションを意識して接するようにしましょう。
就職・転職
自分が所属する企業によって仕事内容や風土、運営方法、人間関係は大きく変わります。
そのため、転職や就職は代表的なイニシエーションのひとつです。
業界での職歴が長いからといって、転職した企業でも同じ業務をおこなうとは限りません。
受け入れる側の社員は、入社する社員に対して適正やスキルを考慮し、きちんと説明や指導をおこないましょう。
新卒の社員と中途入社の社員とでは、つまずくポイントが異なるケースが往々にしてあります。
そのため、スキルや社会人としての段階を考慮した研修や、セミナーを用意することも大切です。
その他、周囲が適切な目標を与えたり、適切なコミュニケーションをとり、組織として社員を受け入れる姿勢を見せましょう。
職務変更・部署異動
ステップバック(最終的な目的に近づくために、あえてキャリアの後退を選ぶこと)や長期目線での組織作りにより、職務変更や部署異動を経験するケースがあるでしょう。
会社は同じでも、仕事や部署が変わるとまるで転職を経験したかのように、これまでのスキルが通用しないことはあるものです。
人間関係も再度構築する必要があるため、そこで受ける負荷は大きなイニシエーションだといえます。
新入社員の負荷を軽減するために、業務を適切にサポートしたり、チームワーク運営や仕事のおおまかな流れなどを、きちんと説明したりすることが重要です。
出向
人手不足の解消や組織でのキャリアアップの一環などさまざまな理由から、出向の機会も増えています。
たとえ同じグループ会社であっても、職務や人間関係、評価制度が異なる他会社に異動することはイニシエーションです。
場合によっては出向先の営業成績を押し上げることを期待されたり、組織改革を任されたりと、プレッシャーを感じるときもあるでしょう。
また、出向元で業務をそつなくこなしていた場合は、なかなか自分から「わからない」「教えてほしい」と声を上げづらいものです。
そのため、出向者が業務以外で余分なストレスを抱えず、出向元でおこなっていたような成果を上げられるようにすることが大切です。
具体的には、コミュニケーション能力や観察力がある人を同じチームに配置したり、席を近づけたりといった配慮をしましょう。
イニシエーションを確立する方法
ここからはイニシエーションを確立するために、有効な方法を3つに絞って紹介します。
コーチング
コーチングとは、本人特有の可能性を最大限に引き出して行動力を上げ、目標達成や自己実現を促すコミュニケーション技術です。
単に教えるのみではなく、気付きを与えて主体的な行動を引き出す点がポイントとなります。
コーチングにて上司と部下との間に信頼関係が生まれると、コミュニケーションが活性化され、心理的安全性が確保されるとともに、グループ・イニシエーションを越えやすくなるでしょう。
それと同時に問題解決へ必要な報告・連絡・相談などの要素が機能し、チームワークが高まる結果、タスク・イニシエーションを実現しやすい環境へとつながることも期待できます。
関連記事:コーチング型マネジメントとは?メリット・デメリットや必要なスキルを解説
メンター制度
新卒や中途入社の社員、新人マネージャーに対して組織や人間関係への不安を取り除くためにおこなうメンター制度も、イニシエーションの一例です。
なおメンター制度とは、入社3〜5年目の年齢や社歴が近い社員がメンター(指導者や助言者)となり、新入社員をサポートする制度です。
メンターは日頃指示・命令する直属の上司ではなく、他部署や他支店の先輩がその役割を担います。
双方向での対話を実現し、先輩・後輩間の育成的な人間関係を制度的に作り上げているのが特徴です。
仕事や人間関係、プライベートとのバランスを相談できる環境を設けることで安心感が生まれ、グループ・イニシエーションを克服しやすくなります。
OJT制度
OJTとは「On the Job Training」を略した言葉で、業務を通してマンツーマンで上司が部下に指導する取り組みです。
OJTでは実際の業務に対応するなかで知識を得ることが特徴です。その過程で具体的な成功体験を積み、タスクイニシエーションを克服しやすくなります。
例えばテレアポ業務で初めてのアポイントが取れたり、営業で商品を販売できる経験を積むと組織や顧客から徐々に認められるでしょう。
繰り返し目標を乗り越えることで、組織に貢献している実感を持てます。
人材マネジメントのためにイニシエーションを整えておくことが重要
労働人口の減少により、これまで以上に人材の確保が難しくなっています。
そのため、早期離職を防ぐためにイニシエーションを適切におこなうことは、組織の重要な課題といっても過言ではありません。
新しく共に働く社員が一刻も早く組織に馴染んで成果を出せるよう、適切にイニシエーションをおこない、企業の競争力を上げましょう。