近年、社会的な存在意義を追求するパーパス経営が注目されており、それに伴い「クレド」という単語も注目されるようになっています。
利益を徹底的に追求する資本主義社会に辟易した若年層は、社会的な意義について深く考える傾向があります。
そんな若者をマネジメントする手段として、クレドは有効な手段の1つです。
本記事ではマネージャー向けにクレドについて徹底解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
クレドとは?【信条・行動方針】
ラテン語で「志」「信条」を意味するクレド(Credo)は、ビジネスシーンでは「企業における信条・行動指針を明文化したもの」を指しています。
クレドは「経営理念」に近い言葉だと言えますが、ニュアンスが異なります。
経営理念が「企業が目指すべき方向性」だとしたら、クレドは「その方向に進むために必要な行動指針」です。
そのため、経営理念に比べてクレドの方が具体的かつ実践的だと言えます。
クレドを作成する4つのメリット
クレドを作成するメリットは以下の4つです。
- ビジョンを明確にできる
- 従業員のモチベーションが上がる
- 人材育成に活かせる
- コンプライアンス強化
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット①:ビジョンを明確にできる
クレドを作成するメリットとして、ビジョンの明確化が挙げられます。
ビジョンを追求するパーパス経営の時代では、従業員がビジョンをどれだけ具体的にイメージできるかが重要です。
しかし大抵の場合、ビジョンというのは曖昧なものです。
例えば自社が「地球温暖化を阻止したい」というビジョンを掲げていたとしましょう。
しかし、地球温暖化を阻止する方法はたくさんあり、そのアプローチも多彩です。
この場合「電気自動車で地球温暖化を阻止したい」というようにビジョンを具体的にするのはもちろんのこと、「常にチャレンジする」というように行動指針も具体化することが重要です。
その際にクレドは非常に有効な手段となります。
メリット②:従業員のモチベーションが上がる
クレドを導入することで従業員のモチベーションが上がる可能性があります。
基本的にクレドは、企業が一方的に決めるものではなく、従業員ファーストで決定されるものです。
また、クレドは行動指針を明文化したものなので、それぞれの従業員が自らの判断に基づいて仕事に取り組みやすくなります。
以上のことから、クレドを導入することで、従業員の主体性が高まり、結果的にモチベーションが向上するのです。
全社的にモチベーションを高めたいときに、クレドは有効な手段になるでしょう。
メリット③:人材育成に活かせる
クレドは人材育成に活用することができます。
現代社会は変化が激しくなっているため、上司の言われた通りに仕事するだけでは、価値あるビジネスを進められません。
従業員の主体性が求められているのです。
その点、クレドを導入すれば、従業員は行動指針を基に自分で考えて仕事を進めるようになるので、主体性が養われていきます。
また、クレドは行動指針が定められているので、キャリアプランの道しるべとしての機能も期待できるでしょう。
マネージャーはクレドを活用することで、部下の人材育成を促進させることができます。
メリット④:コンプライアンス強化
クレドはコンプライアンス強化にも繋がります。
近年、SNSが普及したことで、良くも悪くも、社内の取り組みが外部に伝わりやすくなっています。
特に何かしらの問題が起こったときは、SNSを通じて一気に拡散されるようになりました。
そして大抵の場合、そういったトラブルは企業規則を破った1人または少人数の従業員によって発生するものです。
そこでクレドの出番です。クレドは、企業の行動方針を漏れなく全体に共有できるツールとなっています。
そのため、従業員はクレドを意識するだけで、正しい判断が可能になるのです。
コンプライアンスを強化したい際は、クレドを通して、社内規則を意識させるのが良いかもしれません。
クレドの導入手順
クレドの導入手順は以下の通りです。
- プロジェクトチームを作る
- 目的・スケジュールを決める
- 経営陣・従業員にヒアリングする
- 文章化してカードを配布する
- ステークホルダーに共有する
それぞれ詳しく解説していきます。
手順①:プロジェクトチームを作る
クレドを導入する際は、まずプロジェクトチームを作りましょう。
ただしプロジェクトチームと言っても、チームメンバー全員がクレド導入にフルコミットする必要はありません。
クレド導入における責任者を1人だけ決めて、あとは各部門・各組織からメンバーを選ぶのが良いでしょう。
クレドは利益に直結するものではなく、企業風土を変革するための手段の1つにすぎません。少数精鋭でチームを構築しましょう。
手順②:目的・スケジュールを決める
チームを作ったあとは、クレドを導入する目的とスケジュールを決定します。
クレドを導入する目的は先述したような「モチベーション向上」「人材育成」などがありますが、それぞれの目的でアプローチがかなり変わってきます。
早い段階で目的を決めておくのが良いでしょう。
スケジュールに関しては、いつまでにクレドを導入すべきかの締め切りを作ったあとに、そこから逆算する流れで決定していきます。
どんなプロジェクトでも、適切な締め切りを設けられるかどうかが鍵を握ります。
リーダーが責任を持って、計画を決定していきましょう。
手順③:経営陣・従業員にヒアリングする
クレドを作成する前に、経営陣・従業員にヒアリングします。
まず経営陣に対しては「どのような行動を従業員に求めるか」をヒアリングしましょう。
これは、経営理念とのズレを無くすためです。
そして、実際にクレドを元に仕事を進めるのは現場の従業員なので、現場からの意見もアンケートで収集します。
この2つのデータを元に、プロジェクトチームはクレドを決定していきます。
手順④:文章化してカードを配布する
経営陣・従業員からヒアリングした後は、クレドを文章化し、場合によってはカード形式で従業員に配布します。
クレドを文章化する際は、可能な限り、短い言葉で簡単な表現を用いるようにしましょう。
社内規則や契約書のような堅苦しい文章はNGです。
また、クレドを従業員に共有する際は、紙媒体のカードにして配布するのがいいでしょう。
近年、IDカードを首からぶら下げさせるケースが増えていますが、そのカードホルダーの中にクレドを記載したカードを収納するようにするのです。
そうすれば、自然とクレドが目に入るようになり、行動方針が習慣化します。
手順⑤:ステークホルダーに共有する
クレドは、社内の従業員だけでなく、取引先、顧客、株主などのステークホルダーにも共有しましょう。
この際、必ずしもカードで配布する必要はなく、まずはホームページで公開するのが良さそうです。
また、接待室や会議室でクレドを掲示するのもいいかもしれません。
クレドをステークホルダーに共有することで、ブランディングが促進され、従業員の意識もより強いものになるでしょう。
クレドを導入する際にありがちな3つの失敗例
クレドを導入する際にありがちな失敗例として以下の3つが挙げられます。
- トップダウンでクレドを作成してしまう
- クレドが行動に落とし込まれない
- クレドの目的と成果が共有されない
それぞれ詳しく解説していきます。
失敗例①:トップダウンでクレドを作成してしまう
クレドを導入する際にありがちな失敗例として、トップダウンでクレドを作成してしまうことが挙げられます。
基本的に、クレドは従業員のためにあるものなので、トップダウンで作成してしまっては意味がありません。
それどころか、企業が一方的に価値観を押し付けてしまうことで従業員の反発にも繋がってしまいます。
現場の従業員の意見を抽出しながら、クレドを作成するのがいいでしょう。
失敗例②:クレドが行動に落とし込まれない
クレドが行動に落とし込まれないのも、ありがちな失敗例です。
クレドが行動に落とし込まれない理由として考えられるのは2つです。
1つめの理由としては、クレドを導入する目的が曖昧になっていることが挙げられます。
何のためにクレドを導入するのかを明確に決めなかったために、クレドそのものが曖昧になり、形骸化してしまうケースです。
もう1つの理由としては、クレドが社内にしっかり共有されていないことが挙げられます。
クレドは、1度だけの共有では意味がありません。
カードを配布して常にクレドが目に入るようにするなど、様々な工夫を用いることで、ようやくクレドが普及します。
クレドは、作って終わりではありません。作った後のアフターフォローの方が重要なのです。
失敗例③:クレドの目的と成果が共有されない
クレドの目的と成果がしっかり共有されていないのも、ありがちな失敗例です。
「クレドを導入する」と言っても、その目的が社内で共有されていないのであれば、従業員にとっては「何のために?」「どういった行動を求められている?」と分からないままです。
また、クレドを導入したことによって生まれた成果を共有することも非常に大切なことです。
クレドを導入するメリットがあるかどうかを測定することで、企業風土を改革する際の貴重なヒントを得られる可能性があります。
クレドを導入する際は、目的と成果をしっかり共有するようにしましょう。
クレドの導入事例5選
ここではクレドの導入事例を解説していきます。
事例①:ジョンソン・エンド・ジョンソン
クレドで最も有名な企業事例は、世界トップのヘルスケア製品メーカーであるジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo(我が信条)」です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは1943年からクレドを導入しており、企業が守るべき4つの責任の優先順位を以下の通りにしています。
- 第一の責任はすべての顧客に対して
- 第二の責任は世界中で共に働くすべての従業員に対して
- 第三の責任は全世界の共同社会に対して
- 最後の責任は会社の株主に対して
世界最大規模のヘルスケア製品メーカーの社会的責任を十分に感じさせるクレドだと言えます。
事例②:リッツ・カールトン
世界中でホテルを経営しているリッツ・カールトンは6つの企業理念のうちの1つとして「クレド」を挙げています。
リッツ・カールトンは企業理念の時点でかなり具体的な設定となっており、クレドはそれをさらに実践的にしたものです。
リッツ・カールトンのクレドには「大切な使命」「最高のパーソナル・サービスと施設」と明示されており、スタッフのホスピタリティが伝わってくるものになっています。
事例③:小田急電鉄
小田急電鉄の特急列車・ロマンスカーには「ロマンスカークレド」と呼ばれる行動指針があります。
小田急電鉄は「想いが強い人だけで作ってもしょうがない」という考えから、年齢も役職もバラバラなメンバーでチームを作ったそうです。
さらに、クレドで有名な企業に実際に赴くフィールドワークも実施しました。
これらの甲斐もあり、現在は、マニュアルに囚われない接客対応がロマンスカー内で普及するようになったそうです。
事例④:楽天グループ
楽天グループは企業としての在り方を「楽天主義」という形で価値観・行動指針を定義づけています。
楽天主義は「ブランドコンセプト」と「成功のコンセプト」の2つに分かれており、そこに具体的な行動が記載されているのです。
特に有名なのは「GET THINGS DONE」で「様々な手段を駆使してでも物事を達成すべき」というように行動指針が明確に記載されています。
事例⑤:BASE
ECサイトのプラットフォームを手掛けるBASEもクレドを提示しています。
BASEのクレドはとにかく簡単なのが特徴で、以下の3つだけとなっています。
- Be Hopeful
- Move Fast
- Speak Openly
このようにBASEの行動指針は単純明快なので、従業員に対してすぐに共有できると思われます。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- クレドは企業における信条・行動指針を明確にしたもの
- クレドを作成することで従業員のモチベーションが高まる可能性がある
- クレドを導入する際は、モチベーションが様々なメンバーでチームを作った方がいい
クレドは、企業の行動指針を明確にする道具の1つです。
そしてクレドを作成する際は、モチベーションが高い従業員だけでなく、様々な年齢・役職の人を交えてチームを作るのがいいでしょう。
クレドは基本的に、全員に共有しなければなりません。様々な背景を持つ従業員がクレド導入に参画することで、より確実にプロジェクトを成功させることができるでしょう。