管理職が企業にとって重要なのは言うまでもありません。
しかし、管理職不足に悩んでいる企業が多いのも事実であり、大きな課題となっています。
一体なぜ管理職が不足しているのでしょうか。また、管理職が不足するとどうなってしまうのでしょうか。
本記事では管理職不足の現状と解決法について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
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目次
管理職は現在不足しているのか
まず大前提として、管理職は不足しているのでしょうか。
パーソル総合研究所が2019年に発表した『中間管理職の就業負担に関する定量調査』によると、管理職本人の56.2%が「後任者の不在」という課題を抱えているそうです。
また、タナベコンサルティングが2022年に発表した『人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査』によると、特に不足していると感じる人材に関して「マネージャー(63.5%)」が最も多い結果となっています。
以上の2つの調査から見ても、管理職が不足している状況が続いていると言えるでしょう。
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管理職が不足している理由
管理職が不足している理由は以下の4つです。
- 管理職の業務が難しくなっているから
- 労働力人口が少なくなっているから
- 管理職人材を育成できていないから
- 管理職になりたい人が少ないから
それぞれ詳しく解説していきます。
理由①:管理職の業務が難しくなっているから
管理職が不足している理由として挙げられるのが、業務の複雑化です。
一般的に管理職は、組織やチームのマネジメント業務を行います。
一方で近年は、リモートワーク、働き方改革、テクノロジーの急激な発展により、やるべき仕事が多くなっているのです。
特に働き方改革に関しては、部下が残業しないように人材育成に力を入れる必要があり、そのしわ寄せが管理職に回っている現状があります。
管理職の業務内容が多岐に渡るようになったため、元々いる管理職だけでは仕事が回らなくなっているのです。
関連記事:管理職と一般社員の違いとは?管理職の定義や役割、必要な能力などと併せて徹底解説!
理由②:労働力人口が少なくなっているから
管理職不足の要因として、やはり人口構造の変化が挙げられます。
現在、少子高齢化が進んでいる真っ最中で、生産年齢人口そのものが減少傾向にあります。
また、総務省が2022年に発表した『労働力調査』を見ると、中間管理職の世代とも言える35〜44歳の労働力人口が9年間減少し続けています。
45歳以上の世代は増加傾向にあることから、中間管理職が高齢化し、その後任者(35歳〜44歳)がいないという構図が予想できます。
また、第二次ベビーブームで誕生した団塊ジュニア世代が定年退職を迎えるのが2035年あたりであることを考えると、状況はより厳しくなるでしょう。
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理由③:管理職人材を育成できていないから
管理職不足により、管理職人材が多忙な日々を送っているため、管理職人材を育成できていないのも理由として挙げられます。
また、シンプルに企業が管理職人材の育成に力を入れていないケースも考えられます。
よくあるのは、研修などの座学の場を用意せずに、優秀な社員にいきなり管理職をやらせることです。
プレイヤーとして優秀だからと言って、必ずしもマネジメントでも力を発揮できるわけではありません。
マネジメントはある程度体系化されているため、まずは座学で基本的なマネジメント論を学ぶのがベターだと言えます。
中間管理職の場合は、社長や役員に言われるがままになっているケースがあるので、経営層のマネジメントスタイルも変えていく必要があるかもしれません。
理由④:管理職になりたい人が少ないから
管理職が不足している理由として、管理職になりたい人が少ないことも挙げられます。
パーソル総合研究所が2022年に発表した『グローバル就業実態・成長意識調査』によると、世界18か国のうち、日本は「管理職になりたい人の割合」が最下位だったそうです。
その割合は、なんと19.8%とのこと。つまり5人に4人が「管理職になりたくない」ということになります。
マンパワーグループが2020年に発表した『今後、管理職になりたいか』の調査でも、8割超えの一般社員が「管理職になりたくない」と回答しており、やはり5人に4人は「管理職になりたくない」そうです。
マンパワーグループは管理職になりたくない理由についても調査しており、理由のトップは「責任の重い仕事はしたくない(51.2%)」というものでした。
ほかにも「報酬面でのメリットが少ない(40.4%)」「業務負荷が高い(40.4%)」などが理由として挙げられています。
以上のことから、管理職になりたい人が想像以上に少ないことがわかります。
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管理職不足で起こる5つの悪影響
管理職不足で起こる悪影響は以下の5つです。
- 管理職の負担が大きくなる
- パフォーマンスが低下する
- 部下の育成が進まない
- ビジョンを現場に共有できない
- 管理職不足の負のスパイラルに陥る
それぞれ詳しく解説していきます。
悪影響①:管理職の負担が大きくなる
管理職が不足すると、ますます管理職の負担が大きくなります。
一般的に管理職は労働基準法における「管理監督者」に該当することがあるため、良くも悪くも、自分自身で労働時間を決められる立場にあります。
そのため、負担が大きくなればなるほど残業が増えます。
しかも管理監督者には残業代支払いの義務がありません。
管理職になりたくない理由で「報酬面でのメリットが少ない」ことが挙げられていたのも納得です。
また、他の部署で管理職の欠員が出た場合に、1人の管理職が兼任するケースも見受けられます。
このようにして、管理職不足により、管理職の負担がどんどん大きくなってしまうのです。
悪影響②:パフォーマンスが低下する
管理職の負担が大きくなることで、組織全体のパフォーマンスが低下する恐れがあります。
管理職の負担が大きくなり、部下を適切にマネジメントできなくなることで、業務効率が落ちてしまうためです。
生産性が落ちてしまうと、売上で伸び悩んだり、トラブルが発生したりする可能性があります。
特に現代は、ただ仕事を回すだけでなく、付加価値を生み出すことが求められるため、部下を適切にマネジメントできないのは死活問題です。
悪影響③:部下の育成が進まない
管理職の負担が大きくなることで、部下の育成が進まなくなる可能性があります。
さまざまな業務に追われている管理職は、当然のことながら部下の育成に割く時間が減ります。
しかも人材育成は「緊急度の低いタスク」だと言えるので、どうしても後回しになってしまうのです。
しかし気づいた時には、部下が全然育成できておらず、結果的にパフォーマンスが低下し続ける状況が続いてしまうのです。
もちろん、管理職としての後継者が育っていないという状況にもつながります。
関連記事:人材育成の考え方とは?成功させる方法や事例を紹介!
悪影響④:ビジョンを現場に共有できない
管理職が不足すると、ビジョンを現場に共有できなくなる可能性があります。
中間管理職は「経営層と現場の橋渡しの役割」を担っており、経営層のビジョンを現場に上手く浸透させる必要があると言えます。
しかし管理職の負担が大きくなると、ビジョンを現場に共有するリソースが失われてしまいます。
その結果、従業員と組織がバラバラになり、どれだけ経営層が素晴らしいビジョンや事業計画を打ち出しても、全く成果が出ない状況になってしまうのです。
悪影響⑤:管理職不足の負のスパイラルに陥る
以上の4つの悪影響により「管理職不足の負のスパイラル」に陥る可能性があります。
このスパイラルは「管理職が不足する→管理職人材を育てることができない→管理職がもっと不足する」というジリ貧に陥る現象です。
打開するのはかなり難しいと考えられます。
そのため可能な限り、管理職不足のスパイラルに陥る前に、予防策を打っておきたいところです。
管理職不足に対処する方法5選
管理職不足に対処する方法は以下の5つです。
- 管理職を採用する
- 管理職の労働時間を把握する
- 長期的な視点で管理職人材を育成する
- DXに着手する
- 適切な権限委譲を推し進める
それぞれ詳しく解説していきます。
方法①:管理職を採用する
最もスピーディーな解決方法は、管理職人材を中途で採用することです。
ただし、優秀な管理職人材を中途で採用する場合は、それなりの採用コストを覚悟する必要があります。
また、その管理職人材が必ずしも自社にマッチしているとは限りません。
例えば、典型的な大企業に所属していた管理職が、スピーディーな仕事が求められるスタートアップにマッチするかどうかは、何とも言えないところです。
管理職を採用する際は、自社のマネジメント業務にマッチするかどうかを見極めるようにしましょう。
方法②:管理職の労働時間を把握する
管理職は「管理監督者」の立場にあるため、多くの場合で労働時間管理の対象外になってしまいます。
このままだと、管理職の負担を可視化することができません。
そこで、現状を把握するためにも、まずは管理職の労働時間を把握することから始めてみるのはどうでしょうか。
現在、名ばかり管理職の問題もあり、管理職が自分自身の労働時間を管理できていない状況が続いている印象を受けます。
今一度、管理職の負担を可視化して、どのような解決策が求められるのかを検討した方がいいでしょう。
関連記事:管理職の労働時間に関する規定を総ざらい|管理方法や注意点も解説
方法③:長期的な視点で管理職人材を育成する
確実に効果が見込めるのは、管理職人材をあらかじめ育成しておくことです。
管理職候補を複数人用意しておけば、もしものことがあっても、早急に管理職人材を補給できます。
ただし、マネジメントスキルは一朝一夕で身につくものではありません。
それなりの時間が必要であることを覚悟しましょう。
短期的なアプローチと同時並行で人材育成に着手するのが良さそうです。
方法④:DXに着手する
管理職不足を解消したいのであれば、DXに着手して、業務プロセスを改善するのがいいでしょう。
一般的に「働き方改革」では労働時間の遵守がフォーカスされますが、ただ労働時間を守っているだけでは、生産性が高まりません。
業務プロセスにもメスを入れなければ、いつまで経っても生産性は向上せず、ただただ管理職の負担が増えるだけなのです。
DXに着手する際は、まず管理職とチームの業務を洗い出します。
そして、それらの業務の中でITツールで代替または効率化できそうなものをピックアップし、ITツールの導入を進めます。
この「業務の洗い出し」をせずに、ただITツールを導入してしまうのはよろしくありません。
効率化において必要なのは「引き算」の考え方です。
ここを間違えてしまうと、ITツールの導入によって余計な業務が増えてしまう可能性があります。
その典型的な例が、メールに追われる現象です。
しかし、やはり業務プロセスの効率化のためにはDXが欠かせません。
組織構造の見直しを視野に入れた本格的なDXを実施すべきフェーズが来ています。
方法⑤:適切な権限委譲を推し進める
管理職自身ができる取り組みとしては「権限委譲」が挙げられます。
業務に追われている管理職の大半は、部下を厳格に管理するマイクロマネジメントの手法を採用していると考えられます。
しかしこの方法だと、そもそも管理職の負担が大きいうえに、部下が主体性を発揮しづらくなり、結果的に管理職の負担がさらに増えてしまいます。
管理職は、自分の業務量が増えたときは、部下の能力を信頼して権限委譲を進める必要がありそうです。
権限委譲であれば、部下のパフォーマンスを引き出せたり、管理職候補を育成できたり、管理職自身の業務量が減少したりなど、多くのメリットがあります。
勇気を持って、権限を委譲してみてもいいのではないでしょうか。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 多くの従業員が「管理職が不足している」と感じている
- 日本人の5人に4人が「管理職になりたくない」と回答している
- 管理職が不足することでさまざまな悪影響が発生する
- 管理職不足を解消するには業務プロセスの改革に乗り出す必要がある
少子高齢化により生産年齢人口が減少している現代では、従業員のパフォーマンスを引き出せる管理職が求められています。
一方で、5人に4人が「管理職になりたくない」と回答していることから、管理職不足のスパイラルが既に日本社会を覆っていると考えていいでしょう。
この問題を解決するには、業務プロセスを徹底的に改革し、そもそもの業務量を減らしていく必要があると言えます。
また、企業が主体となって管理職人材を時間をかけて育成する必要もあるでしょう。