会社員をしていると一度は「職制を通して〜」といった言い回しを耳にしたことがあるかと思います。
これまでの経験から「管理職を通して〜」という意図をくみ取ることはできますが、いざ部下や後輩に「職制と管理職」の違いを説明するとなると、意外に難しいのではないでしょうか。
内部統制を強化しようとする企業が増えつつあるなか、組織における各人の地位や役割を把握しておく姿勢は大切です。
今回の記事では、職制、管理職のほか職位と役職、管理監督者と役員など、混同して使われやすい用語の本来の意味や、その違いも併せてご紹介いたします。
目次
職制と管理職の違い
企業活動の現場において、職制と管理職はほぼ同じ意味合いで使われています。
「職制を通じて〜」を「管理職を通じて〜」と言い換えたところで大きな違いはありません。
たとえば、他部署の社員に何かお願いをした時に「職制を通してください」と言われたら、まずは該当部署の管理職に話を通すことになります。
つまりは、いったん情報を集約すべきポジションの人を介してから、依頼して欲しいということなのです。
職制のもう一つの意味
厳密に言うと職制は、単に管理職を指し示す言葉ではありません。
職場での役割分担を定めた制度を指す場合もあります。
例えば、このような使用例も挙げられます。
「多くの会社において総合職とは、企画、営業、開発、管理など業務全般に関わり、転居を伴う転勤もありうる職制です」
ただ、職制がこのような使われ方をする事例は稀で、管理職と同等の意味合いで使用されるケースがほとんどと思っておいて良いでしょう。
職制と職位の違い
職制がおもに管理職を表すのに対し、職位は地位やその地位それぞれの業務内容を意味します。
職位を定めることで、上下関係がはっきりとし意思決定や意思伝達がスムーズに行えるようになるのです。
ほかにも、評価制度の合理化や対外的なやり取りの効率化など、職位を設定するメリットは多くあります。
以下が、日本企業の代表的な職位です。
主任
一般的に業務を行う最小単位は係です。
係のなかでプロジェクトごとに作られた小グループのリーダーが主任です。
係長
課のなかにある係のトップが係長です。
係の業務遂行における責任者であり、管理職の一歩手前のポジションとして一般社員が目標にしやすい職位です。
課長
係と部の間に位置する職位です。
多くの組織では課長以上が管理職とみなされ、マネージャーとして期待されます。
現場のまとめ役として動くほか、時にプレーヤーとして業務をこなす場合もあります。
次長
部長を補佐する職位として、現場の管理や業務の調整を行います。
部門管理者である部長の次席にあたるため、次長とされています。
部長
部門全体を統括する職位です。
経営層をサポートする立場にあり、経営資源をバランス良く配分するための意思決定を行います。
監査役
経営層の職務に不正がないかを監査する職位です。
企業のガバナンスやコンプライアンスが適正であるかを調査し、不適切であった場合には是正する役目があります。
常務
より上位となる専務とともに、社長を補佐する職位です。
より現場に近い役員として、取締役会に参加します。
社長、専務に次ぐナンバー3の立ち位置から、経営の意思決定や従業員の監督にあたります。
専務
副社長のいない企業においては、実質的にナンバー2となる職位です。
経営戦略の策定など社長のサポートが業務の中心であり、社長不在の際は代理を務めることもあります。
社長
企業のトップにあたる職位です。
経営方針の決定、資金調達の計画、新規ビジネスへの参入など、全社の舵取り役として重要な判断を行います。
会長をナンバー1とする企業もありますが、一般的に会長職は社長を退いたあとに就任するパターンがほとんどです。
職位と役職の違い
職位と役職は、同じ使われ方をすることがよくあります。
どちらも社内での立場を表現する言葉ですが、職位は業務内容も含めたポジションを表しています。
つまり職位とは、単に序列を言い表しているのではなく、その業務や責任をも内包した用語と言えます。
一方で、役職とは組織における地位を示しています。
職位が全ての職務を網羅しているのに対し、役職は管理職のみに使われることが多いのが特徴です。
もし役職を設置しなければ、責任の所在が不明瞭になり、業務は円滑に進まなくなるでしょう。
管理職の範囲は
管理職は、その職務に応じて様々な決裁権を持ちます。
組織の目標達成のため部下を指揮・管理する権限が与えられているかわりに、結果に対する責任がともなう職務です。
一般的には本部長、部長、次長など課長以上を指すことが多いのですが、法律で定義されているわけではなく、主任や係長までを管理職としている企業もなかにはあります。
とはいえ管理職の権限や責任は、あくまで一定の部門や業務に限定されており、基本的にはより上位の職務である役員の決定に基づき仕事を行うのが通常です。
関連記事:係長は管理職?主任・課長との違いや、3つの役割、仕事内容を紹介
管理職と管理監督者の違い
管理職と混同されやすい職務のひとつが管理監督者です。
管理監督者は労務管理において経営者に近い権利を与えられています。
そのため、自身の労働時間を自身で決めることができ、それに伴い、休日出勤や時間外労働の割増賃金は支払われません。
残業代は発生しませんが、労働基準法によって管理監督者には上位の役職者としてそれ相応の待遇も義務づけられています。
一方で、管理職はあくまで就業規則で定められた職務であり、必ずしも管理監督者とは一致しておらず、その権限や責任は企業により異なります。
関連記事:名ばかり管理職とは?管理監督者との判断基準や防ぐ方法、問題点、違法性を解説
管理職と役員の違い
管理職と役員には、明確な違いがあります。
企業に雇用されている管理職は、労働基準法上の労働者に当たりますが、役員は株主から経営を委任された使用者です。
厳密に言うと会社法で役員とされているのは、取締役、会計参与、監査役の三役のみ。
もう少し広い意味では専務、常務、取締役、執行役員も含まれますが、これらの設置はあくまで任意のため、法律上の役員とはみなされません。
なお実態としては、執行役員以上が役員、本部長以下は管理職とする企業が多いようです。
まとめ
職制や管理職など企業における地位や職務を表す言葉は多くあり、その実態も各企業により違いがあるのが現状です。
たしかにスモールスタートのベンチャー企業であれば、ひとりひとりの職位をあえて明確にせずとも、成果をベースにした評価制度で十分に機能するでしょう。
しかし、企業が成長しある程度の規模になると、個人の成果のみを評価するシステムでは、各自がスタンドプレーに終始し全体としての生産性が上がりません。
職位がはっきりしなければ、役割の違いも曖昧になります。
また、事業規模の拡大後もフラットな組織のままだと、トップの意思決定を隅々まで行き届かせるのが困難になります。
さらには、もし経営層が違法な行為を行っていたとしても、なかなか気づくことができないでしょう。
各企業の成長段階に応じたピラミッド型の組織は、生産性の向上や透明性のある経営を可能にします。
職制や管理職を適切に設置することで、強い内部統制を手に入れることができるのです。