2022年11月にChatGPTが公開されて以来、官公庁や大手企業を中心に使用例が増えつつあります。ChatGPTの社内利用が進めば業務効率化や業務品質向上など、さまざまなメリットを得ることが可能です。
本記事では、会社でChatGPTを利用するメリットや具体的な利用シーン、ChatGPTを導入するときの注意点や行っておきたい準備について解説します。
目次
会社でChatGPTを利用するメリット
AIチャットサービスのChatGPTは、提供元のOpenAI社の利用規約を遵守する限り、社内で利用することが可能です。(※)会社でChatGPTを利用するメリットは3つあります。
- 業務の効率化が図れる
- 品質の向上につながる
- 新企画や新事業のヒントになる
業務効率化や業務品質向上の他、新企画や新事業のアイデア出しに困っている企業にもおすすめです。
業務の効率化が図れる
ChatGPTを社内利用すれば、業務効率化につながります。野村総合研究所が実施したアンケート調査によると、ChatGPTを使ったことがある人の88.7%が継続して利用したいと回答しました。(※)
また、継続して利用したいと回答した人のコメントを見ると、「仕事が効率化できる」「仕事の時間が短縮できる」といった意見が寄せられています。
ChatGPTは簡単な指示(プロンプト)を入力するだけで、自然で流暢な文章や完成されたプログラムコードを生成できるツールです。2023年3月にGPT-4がリリースされると、テキストでの指示だけでなく簡単な画像を使った指示も出せるようになりました。
ChatGPTを業務に取り入れれば、文章作成やコーディングなど手間のかかる作業を大幅に省力化できます。
※参考:野村総合研究所. 「日本のChatGPT利用動向(2023年4月時点)」
品質の向上につながる
ChatGPTを導入することで、業務品質の向上も期待できます。ChatGPTはインターネット上の膨大なテキストデータを学習しているため、幅広い分野やテーマに対して、精度の高い回答が可能です。
ChatGPTを業務アシスタントとして運用することで、簡単にクオリティの高いコンテンツを作成できます。
特にChatGPTの影響が顕著なのが、デジタル広告の制作です。デジタル広告大手は、キャッチコピーの生成などにChatGPTを活用し、バナー広告の品質や納品本数を大幅に改善しています。
また、顧客からの問い合わせ対応にChatGPTを利用することで、24時間対応が可能になったり素早く回答を提示できたりするため、サービス品質を高めることも可能です。
新企画や新事業のヒントになる
ChatGPTの導入メリットは、業務効率化や業務品質向上だけではありません。ChatGPTにさまざまなアイデアを出してもらい、新企画や新事業のヒントにすることもできます。
例えば新しい企画を考える場合、ChatGPTに企画のポイントや想定される課題を質問すれば、膨大な学習データに基づいた回答が得られます。普段からアイデアのブレーンストーミングを行っている人は、ChatGPTも使いながらアイデア出しをしてみましょう。
会社でChatGPTをどのように利用できる?
ChatGPTは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるAIを活用し、自然で流暢な文章を生成するツールです。そのため、文章の作成・添削・翻訳など、文章に関連した作業を得意としています。
会社でChatGPTを利用する場合、以下のようなシーンで活用してみましょう。
- 文章の作成
- 文章の添削
- 文章の翻訳
- 知らない用語の把握
- マニュアルの作成
- コードの作成・バグチェック
文章の作成
ChatGPTを利用すれば、ある程度まとまった長さの文章を自動で作成することが可能です。例えば、ビジネスメールの文章やプレゼンテーションの原稿、広告に使うキャッチコピーの候補など、さまざまな文章を作成できます。
特にビジネスメールなど定型的な言葉やフレーズが多い文章は、ChatGPTで作成することで仕事効率化につながります。ただし、クオリティの高い文章を作成するには、ChatGPTに入力するプロンプトの書き方に注意する必要があります。
思うような文章を生成できない方は、プロンプトの構成を見直してみましょう。以下の例は、ビジネスメールを作成するときのプロンプトの構成例です。
文章の内容
● 文章を書く人の立場
● 文章のおおまかな内容
● 文章のターゲットのペルソナ
文章のルール
● 冒頭文や書き始めの文章の指定
● 文章のトーンやマナー(口調、文体、表記方法の統一感)
● 依頼内容は箇条書きにする
依頼内容
● 用件:***
● 業務範囲:***
● 納期:*月*日
● 単価:***円
● 備考:***
文章の添削
ChatGPTは文章の添削も得意としています。添削したい文章をChatGPTに入力することで、以下のような校正作業が可能です。
- 文法ミスのチェック
- 誤字・脱字のチェック
- 漢字の閉じ・ひらきの統一
- 表記ゆれの統一
- より簡潔で分かりやすい表現の提案
ChatGPTのテキストボックスは、一度に入力できる文字数の制限があります。長い文章を添削したい場合は、文章を複数に分けて入力して文章の終わりまでレスポンスを待ってもらう必要があります。
例えば、以下の方法がおすすめです。
- 文章の終わりにと入力するまで、回答しないように指示を出す
- 文章の終わりにと入力するまで、と返事するように指示を出す
文章の翻訳
ChatGPTは英語や日本語だけでなく、多言語に対応したAIチャットサービスです。そのため、「以下の英語の文章を日本語に翻訳してください」といった指示を出し、ChatGPTに文章を翻訳してもらうこともできます。
注意点としては、英文契約書の翻訳など、正確さが求められる作業にはあまり向いていないことです。意味がつかめない文章を翻訳したり、英語の資料をかいつまんで要約したりと、業務のアシスタントとして活用しましょう。
知らない用語の把握
ChatGPTは知らない用語の把握にも活用できます。知らない用語が出てきたら、ChatGPTに質問してみましょう。辞書を引くよりも簡単に言葉の意味を把握できます。
また検索エンジンと違って、複数のWebサイトから必要な情報を取捨選択する手間がかかりません。
ChatGPT | 1つの質問に対して1つの回答テキストを生成する |
検索エンジン | 1つの質問(検索キーワード)に対して複数の検索結果を表示する ※Googleの“I’m feeling lucky”のように、トップの検索結果のみ表示する機能もある |
そのため特定の言葉の意味を知りたい場合は、検索エンジンよりもChatGPTの方が便利なケースがあります。
ただ、ChatGPTは膨大な学習データから言葉の使われ方を推測しているだけで、人間のように言葉の意味を理解している訳ではありません。ChatGPTの説明に間違いが含まれる場合もあるため、ChatGPTの情報をそのまま鵜呑みにしないように注意しましょう。
マニュアルの作成
ChatGPTを業務マニュアルの作成に使うことも可能です。自社のフォーマットに沿ったマニュアルを作成したい場合、プロンプトで制約条件を設定する必要があります。
制約条件
● 各章のタイトルは【】を使用する
● 手順の説明をする場合は番号(ノンブル)を振る
● 文体はですます調(口語体)を使用する
● 一人称は弊社、二人称は***様とする
作成したマニュアルを素案として、加筆・調整を繰り返しながらブラッシュアップしましょう。
コードの作成・バグチェック
コードの作成やバグチェックもできます。ChatGPTは、C、C++、C#、Java、Python、Ruby、JavaScript、Go言語やR言語など、さまざまなプログラミング言語を学習しています。
プロンプトで指示を出すことで、ChatGPTにプログラムコードを生成してもらうことも可能です。
既存のコードのバグチェックもChatGPTの得意分野の一つです。「以下のプログラムコードの問題点を教えてください」と指示を出すだけで、コードのバグを見つけてくれます。
「修正したコードを教えてください」と指示を出すと、改良された(可能性が高い)コードを生成することも可能です。
会社でChatGPTを利用する際の注意点
大手企業を中心に、ChatGPTの業務活用に取り組む会社が増えてきました。
OpenAI社を支援するマイクロソフト社が、2023年3月にWord、Excel、PowerPointなどをChatGPTに対応させると発表したこともあり(※)、今後も企業の利用事例はどんどん増えていくと予想されています。
しかし、現状のChatGPTにはまだまだ課題もあります。そのため、会社でChatGPTを利用する際は以下の7点に注意し、潜在的なリスクに対処しましょう。
- 情報漏洩につながる可能性がある
- データの偏りがある可能性がある
- 情報が正しいか確認する手間がかかる
- 著作権の問題がある
- 倫理的に不適切な表現をしてしまう恐れがある
- 従業員がChatGPTに依存するリスクがある
- サポート体制が不足している
※参考:Microsoft. 「Introducing Microsoft 365 Copilot – your copilot for work」
1. 情報漏洩につながる可能性がある
ChatGPTに入力した情報は、モデル改善の学習に利用される場合があるため個人や会社に関わる情報を入力すると、他の利用者に公開される可能性があります。重大な情報漏洩につながる可能性があるので、注意が必要です
なお、サードパーティ製のアプリを使用するなど、ChatGPTのAPIを経由して入力された情報は、ChatGPTの学習に利用されません。ただしAPIを利用する場合、入力した文字数に応じた料金がかかります。
機密性の高い情報や、多くの人の目に触れると困る情報はChatGPTに入力しないとルールを決めて、従業員に注意を促しましょう。
2. データの偏りがある可能性がある
ChatGPTの学習ソースは、インターネット上に公開されたテキストデータです。ChatGPTは大手メディアが公開した記事や、オンラインで読める論文などを学習しています。
そのため、いわゆる知識人や言論人が発信した情報が主な学習ソースとなっており、データの偏りがある可能性が高いことが指摘されています。
また、日本語の学習データよりも英語の学習データの方が多いため、地域ごとの価値観や考え方の違いを考慮することが大切です。
3. 情報が正しいか確認する手間がかかる
ChatGPTはインターネットの情報から知見を得ているため、虚偽の情報が含まれるリスクがあります。ChatGPTは、あくまでも膨大な学習データを元にして、統計的に可能性が高い回答を出力するツールです。
ChatGPT自体に情報の真偽を判断する能力はありません。また、ChatGPTの学習データは最新の情報が反映されていない可能性もあります。
こうした理由から、ChatGPTで得た情報は鵜呑みにするのではなく、必ずファクトチェックを行うようにしましょう。
4. 著作権の問題がある
ChatGPTが学習に利用したテキストデータには、他人の著作物が含まれている場合があります。そのため、ChatGPTが生成したコンテンツをそのまま公開すると、他人の著作権侵害につながるリスクがあります。
またChatGPTが自動生成した文章が、意図せず他人の著作物と似てしまう場合もあるかもしれません。
そのためChatGPTが生成したコンテンツを利用する際は、コピペチェックツールなどで類似しているものがないか必ず確認しましょう。
また、BingのAI Chatのように、データの引用元が明記されて情報ソースの確認が容易なAIチャットサービスを利用する方法もあります。
5. 倫理的に不適切な表現をしてしまう恐れがある
ChatGPTにはフィルター機能があり、倫理に反する質問や犯罪行為を助長する質問には回答できないようになっています。
しかし特殊なプロンプトを入力し、ChatGPTに想定外の回答をさせるプロンプトインジェクションという手法が見つかるなど、ChatGPTのフィルターは完全ではありません。
ChatGPTはAIであって、人間のように倫理的な判断をすることができません。従業員がChatGPTで生成したコンテンツをそのまま利用すると、倫理的に不適切な表現が含まれており、大きな問題となる可能性があります。
6. 従業員がChatGPTに依存するリスクがある
ChatGPTは非常に便利なツールです。すでに紹介したとおり、ビジネスメールの作成、英語の資料の翻訳、プログラムコードの生成など、さまざまな用途で役立ちます。
そのため、従業員がChatGPTに頼りすぎてしまうと、自分の頭で考える機会が減り、思考力や創造性が低下するリスクがあります。
7. サポート体制が不足している
ChatGPTは、OpenAI社がリリースしたオープンソースのAIです。そのため、企業が有償で提供しているサービスと違って、サポート体制があまり充実していません。
OpenAI社への問い合わせ方法は以下の2点です。
- ChatGPTのヘルプセンターへチャットで問い合わせる(チャットボット/有人チャット)
- OpenAI社にメール(support@openai.com)で直接問い合わせる
チャットボットや有人チャットで問い合わせを行っても解決できなかった場合は、メールで直接問い合わせることも可能です。
会社がChatGPTを利用する際に行うべきこと
会社でChatGPTを導入することが決まったら、以下の準備が必要になります。
- 利用規約を確認する
- 利用ガイドラインを作成し、従業員に周知する
- ChatGPTで作成されたものの確認を必須にする
- DLPを利用して情報漏洩を防止する
それぞれの手順について、一つずつ詳しく見ていきましょう。
利用規約を確認する
OpenAI社は、ChatGPTの利用規約(Usage policies)を定めています。(※)
ChatGPTの商用利用は可能ですが、以下の規約に違反した場合はサービス利用が制限されます(一部抜粋)。
- 違法行為
- 児童性的虐待の資料、または児童を搾取したり傷つけたりするコンテンツ
- 憎悪、嫌がらせ、または暴力的なコンテンツの生成
- マルウェアの生成
- 身体的危害を及ぼす危険性の高い行為
- 経済的な損害を与える恐れのある行為
- 詐欺的または欺瞞的(ぎまんてき)な活動
- アダルトコンテンツ、アダルト業界、出会い系アプリなど
- 政治的なキャンペーンやロビー活動
- 人のプライバシーを侵害する行為
- 無許可の法律行為に従事すること、または有資格者が情報を確認することなく、法的アドバイスを提供すること
- 有資格者が情報を確認することなく、財務上のアドバイスを提供すること
- 健康状態や治療方法について指示を提供すること
ChatGPTの業務活用を検討している方は、導入前に利用規約に目を通しましょう。
利用ガイドラインを作成し、従業員に周知する
OpenAI社の利用規約に基づいて、従業員向けの利用ガイドラインを作成しましょう。前述のとおり、ChatGPTに個人や会社に関わる情報を入力すると、情報漏洩につながるリスクがあります。
また、ChatGPTの使いすぎは、従業員の生産性を低下させる可能性があります。ChatGPTの利用ガイドラインを会社で策定し、周知徹底することで誤った使い方を減らすことが可能です。
ChatGPTで作成されたものの確認を必須にする
ChatGPTで生成したコンテンツをそのまま公開するのは危険です。
- 古い情報や間違った情報が含まれる可能性がある
- 倫理的に不適切な表現が含まれる可能性がある
- 著作権に問題のあるコンテンツが含まれる可能性がある
ChatGPTを業務に利用する場合は、生成したコンテンツを人がチェックする仕組みを設けましょう。
DLPを利用して情報漏洩を防止する
ChatGPTによる情報漏洩の防止策として期待されるのが、DLP(データ損失防止)と呼ばれるソリューションです。DLPを導入すれば、従業員がChatGPTに入力するテキストを監視することができます。
不適切な内容が含まれていた場合はデータ送信をブロックできるため、情報漏洩を未然に防ぐことが可能です。
官公庁におけるChatGPT活用事例・検討事例
ここでは、官公庁や地方自治体が公開している情報を元にして、ChatGPTの活用事例や活用検討事例をいくつか紹介します。ChatGPTの社内利用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
農林水産省
農林水産省は、マニュアルなどの一部文書の整備にChatGPTを利用しています。(※)数千ページのマニュアルをChatGPTで改訂し、作業負担を減らすのが狙いです。
野村農林水産大臣の答弁では、秘密情報が流出するリスクを想定し、すでに公表している文書の整備以外の目的でChatGPTを使用する予定はないとしています。
東京都
東京都は2023年4月の会見で、ChatGPTに関連したプロジェクトチームを立ち上げ、利用上のルールを検討していることを発表しました(※)
例えば、市庁舎でのルーティンワークなどにAIを利用することを検討しているようです。
※参考:東京都. 「小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和5年4月21日)」
神奈川県横須賀市
神奈川県横須賀市は、2023年4月にChatGPTの全庁的な実証実験をスタートしました。(※)この取り組みは全国の自治体で初となります。
神奈川県横須賀市の取り組みの特徴は、普段利用しているチャットツールとChatGPTを連携させ、文章作成や文章の要約、誤字脱字のチェック、アイデア創出などに活用する点です。
実証実験から広く職員の意見を募り、さらに利用範囲を拡大していくことを想定しているようです。
情報漏洩の観点から、ChatGPTに入力した情報が学習データに使われないような方式で運用し、機密情報や個人情報は取り扱わないように利用ルールを策定しています。
※参考:神奈川県横須賀市. 「自治体初!横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を開始(2023年4月18日)」
長野県
長野県は会議支援ツールとChatGPTを組み合わせ、議事録要約、あいさつ文(案)作成、文書テンプレート、ブレーンストーミング、Excel関数の作成などを行うサービスを運用しています。(※)
入力された情報はChatGPTの学習データに使われない方式となっている他、以下の利用ルールを策定しているようです。
- 個人情報、機密性の高い情報は取り扱わない
- 事実調査ツールとしては利用しない、ファクトチェックを実施する
- 生成AIサービスを利用して資料を作成した場合、庁内の意思決定過程においては、その旨を明記する
- 著作権、商標権侵害に注意し、サービス利用規約を適宜確認する
※参考:長野県. 「ChatGPTを始めとする生成AIサービスの利活用について」
宮崎県都城市
宮崎県都城市は「都城市DXチャレンジプロジェクト」を発表し、ChatGPTを市政に活用するプラットフォームづくりに取り組んでいます。(※)自治体が民間企業と協力し、プラットフォーム開発を行うケースは全国初です。
プラットフォームの検証後、他の自治体への横展開も想定されており、新たなビジネスモデルとして期待されています。
※参考:宮崎県都城市. 「都城市でChatGPTに係る行政利用調査研究事業を開始!」
会社でもChatGPTは利用可能! 正しい使い方で業務効率化を図ろう
AIチャットサービスのChatGPTは、会社でも利用することが可能です。例えば、文章の作成・添削・文章の翻訳、知らない用語の把握、マニュアルの作成、プログラムコードの作成やバグチェックなど、さまざまな作業にChatGPTを利用できます。
ChatGPTの導入が決まったらOpenAI社の利用規約を確認し、従業員向けのルールを用意します。また情報セキュリティ対策のため、DLPをはじめとしたデータ保護ソリューションの導入を検討するのもおすすめです。
ChatGPTは、正しく使えば業務効率化・業務品質向上の心強い味方になります。本記事で取り上げた導入事例を参考にして、自社に合った運用を行いましょう。