2020/02/25

ワークシェアリングについて考えるかどうかが、採用活動の明暗を大きく分ける

「ワークシェアリング」が今注目されています。
文字通り、「一つの仕事を複数人でシェアする」ということで、多様な人材の雇用で労働力を確保することや長時間労働の解消などが目的です。

人手の確保もそうですが、これからの時代に向けては、生産量だけでなく「生産性の向上」を目指さなければなりません。
ここで一度、「ワークシェアリング」について考えてみると、現在の組織体質を変える良いきっかけになるでしょう。

 

労働時間と生産性の関係を知る

 

人手を増やしたいと考えるとき、まず「生産性」について考える必要があります。
多くの人手を投入したのに企業全体の生産性が上がらず、雇い入れた労働者にじゅうぶんな待遇ができないとなると、意味がなくなってしまいます。

日本企業は従来から、世界的にみて「生産性が低い」と言われています。下の図1は、労働者が1時間あたりに生み出す「付加価値」の国際比較です。


図2 2016年OECD諸国における1時間当たり労働生産性
(出典:「我が国における労働生産性をめぐる現状と課題」参議院常任委員会調査室・特別調査室)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20180601041.pdf p43

 

この「労働生産性」が高いほど、少ない人手や労働時間で多くの金額を稼いでいる、つまり企業として効率が良いということなのですが、日本の生産性はOECD平均より低く、かつG7の中では最下位という状況です。

一方で労働時間は、減少しつつはありますが、世界的に見れば高い水準にあります(図2)。

図2 1人当たり平均年間実労働時間(出典:「データブック 国際労働比較2019」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/documents/Databook2019.pdf p241

「日本人は働きすぎ」とよく言われますが、その傾向はさほど変わっていません。
近年では「過労死」という日本語が”karoshi”として英語になっているくらいです。

しかしどれだけ長時間働いても生産性が一向に上がらないようでは、従業員を増やしたところでじゅうぶな待遇はできません。

今、多くの企業が「人手を確保したい」と考えていることでしょう。

そして、正社員であれパートタイムであれせっかく人員を増やすのなら、現状を維持するためだけでなく、生産性の向上に向けた組織改革もしておきたいところです。

パートタイム労働法の改正で非正規労働者を雇い入れるコストも今後上昇しますし、目前に迫っている大きな問題をクリアするためにも重要なことです。

 

従業員数だけでない「生産性」のカラクリ

 

まず「生産力」「生産性」は、実は投入した人数や労働時間だけで決まるわけではないという事実があります。

生産性を決定づけているもう一つの要因は「資本装備率」です(図3)。

図3 人手不足と資本装備率の関係(出典:「令和元年度 年次経済財政報告」内閣府)
 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/pdf/p01032.pdf p74

「資本装備率」とは、従業者1人あたりの設備等の保有状況です。一般的に、資本装備率が高いほど機械化が進んでいることを示します。

上の図3を見ると、人手不足を感じている度合いの高い企業ほど資本装備率が低くなっているのがわかります。機械化が進んでいないために、必要以上に人手がかかっていると考えられます。

そして、機械化が大企業と中小企業の生産性に大きな差をつけています(図4)。

図4 労働生産性上昇率の要因分解(出典:2018年版「中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap5_web.pdf p279

2012年度から2016年度にかけての生産性上昇について、どの要因が大きかったかを示しているのが図4です。

オレンジの部分が「資本装備率」による生産性の増減です。製造業の中小企業では、資本装備率の低さ、つまり機械化の遅れが生産性の足を引っ張る要因になっています。

そして、黄色の「資本生産性」というのは、機械をどのくらい有効活用しているかを示します。非製造業の中小企業では、機械化が生産性向上につながったものの、効率的に利用できていないことが生産性を下げる要因になっている、ということです。

一方で大企業は合理的な機械化で相乗効果を上げているとも言えるでしょう。

 

「2020年問題」の到来

 

そして、このような現状を改善しなければならない理由がもう一つあります。
「2020年問題」として以前から指摘されているものです。

バブル期に大量採用されたいわゆる「団塊ジュニア」世代が50代を迎えるに当たって、従来の「日本型雇用」の弊害が一気に噴出すると言われています。

現在の年功序列型雇用では、勤続年数による社内での賃金格差が国際的に突出している状態にあります(図5)。

図5 勤続年数別賃金格差(出典:「データブック 国際労働比較2019」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/documents/Databook2019.pdf p208

男性の場合、勤続年数30年を迎える頃には、勤続1~5年の若者に比べて1.7倍にのぼっています。
しかし2020年以降、「団塊ジュニア」がこの勤続年数に達していきます。このままでは、人件費が一気に膨れ上がってしまうのです。

近年、大企業が40代、50代の社員を対象に大規模なリストラを続けているのも、このような事情が背景にあると考えられます。勤続年数と生産性は必ずしも比例しないという判断を下し、実行に移したと言えます。

かつ、事態を深刻化するもう一つの要素として、「介護」の問題が存在します。
今後、団塊ジュニア世代は、同時に親の介護をしなければならない年齢にさしかかっていきます。

総務省の平成29年の調査によると、介護をしている人の数は「55歳~59歳」で最も多くなっています[1]。また、介護・看護のために1年以内(H28年10月~H29年9月)に前職を離職した人の数は9万9000人[2]にのぼっていて、その数は団塊世代の高齢化によって今後増えていくと見られます。

働き方が不安定になったり、離職のリスクも高まったりする世代なのです。

 

人員を増やす前に見直すべきこと

 

これらの背景を踏まえると、人員を増やすに当たっては、まず自社の現状の生産性を分析しておきたいところです。アルバイトやパートにしても、闇雲に採用すれば良いというわけではありません。
さて、主に正社員の「ワークシェアリング」について見ていきましょう。

日本でワークシェアリングを導入することには、大きく分けると3つの意味合いが考えられます。

1)緊急避難型:一部の従業員にかかっている過度な負荷を平坦化
2)中高年対策:中高年の人員活用、雇用確保
3)多様就業促進:育児との両立、パートタイム労働者の有効活用、多様な人材への門戸開放

そして、考えられるメリットやデメリットは以下のようなものでしょう。

<メリット>
・長時間労働の是正
・勤務時間の短縮による健康増進
・ワークライフバランスの改善によるモチベーションの向上

<デメリット>
・雇用人数増加による手当などのコスト上昇
・賃金変化を伴う場合、労使合意を形成できるか
・マネジメントの不安や生産性への疑問

これに関して、参考にしたいデータなどを見ていきましょう。

まず、総じて1人あたりの労働時間が短いほど生産性が高まるというのは、以前からひとつの傾向として捉えられています(図6)。

図6 労働時間と生産性の関係(出典:「令和元年度 年次経済財政報告」内閣府)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je17/pdf/p02023.pdf p114

上のグラフにプロットされているのはOECD各国の労働時間と生産性です。2015年時点で最も労働時間の短いドイツは、労働時間は日本の8割ほどですが、生産性では日本の水準を50%近く上回っています。
このように労働時間の短縮が生産性を上げる理由として、現在4つの要因が考えられています[3]。

①ワークライフバランスの改善で、モチベーションの向上、欠勤の減少につながる
②ワークライフバランス推進を企業がアピールすることで、優秀な人材が集まりやすくなる
③従業員の定着度が高まり、新規採用にかかるコストが低下する
④企業自身が、業務の効率化や業務分担などについて積極的に考えるようになる

というものです。

優秀な人に長く働き続けてもらうための秘訣とも言えるでしょう。
また、ワークライフバランスについて真剣に考えている企業は、正社員だけでなくパートタイム労働者にとっても魅力的です。特にパートタイムで働きたいと考えている人にとっては最重要ポイントです。

そして、先程挙げた「機械化」について言えば、まず機械化によって業務に必要な技術水準を下げることによって、幅広い人材が働きやすくなります。

非常にわかりやすい話として、厚生労働省が紹介している中小企業の生産性向上に関する好事例のひとつがあります[4]。

佐賀県の食品製造・販売会社の例ですが、この企業では大量のもやしを洗浄槽に投入する際、フォークリフトでの搬入を必要としていました。
そのため、フォークリフト免許を持つ特定の社員に業務負担が偏っていました。

ここに、もやしの栽培枠を反転できるリフターを新しい設備として投入したことにより、フォークリフトの免許がない従業員でも、もやしの投入作業ができるようになった、というものです。

「ボトルネック」という言葉が、マネジメントの世界でもよく使われます。
ボトルにどれだけたくさんの量の水が入っていても、ボトルの首の部分が細ければ外には出せないというものです。

このもやし洗浄作業の例は、フォークリフト作業量の限界という①ボトルネックを解消して生産性を上げ、かつ、②免許がない人でも働ける現場を広げることにも成功しています。

次いで、「年功序列コスト」に関する取り組みについては、有効な手法がいくつか考えられます。

ひとつには、近年、昇進の要件として資格などを重視する企業も増えている、ということです。勤続年数や年齢を目に見える形で「生産性」に反映していく仕組み作りです。

そしてもうひとつが、日本ではあまりまだ例を見ないのですが「管理職のワークシェアリング」です。
「2020年問題」に対応する切り札になるかもしれません。

 

管理職をワークシェアするという手法

 

 

ワークシェアリング、多様な就業、というとどうしても「雇用される側」のことが浮かぶでしょう。

しかし、生産性の面から見ても、従業員を増やすに当たっても、管理職のワークシェアというのは、検討する価値のある考え方です。

これまでの社員に加えて、雇用人数を増やしていくと、その採用や管理に関わる業務量も当然増えていきます。
管理職については、働き方改革の影響もあり、長時間労働がさらに深刻化しています。

そこで、「管理職は1人でやらなければならないのか?」と考えてみましょう。

筆者は、大手放送局の報道局で長年勤務していました。
報道機関の組織構成は、規模の大小を問わず概ねこのようになっています。

部長ーデスクー現場記者

という縦線です。

この中で最も業務量が集中するのが「デスク」の仕事です。
日々の現場の指揮と、そこから上がってくる多くの原稿の処理をしながら、放送や紙面にどう反映するかを判断する一方、日頃の部下の仕事を見ながら人員配置なども考えなければなりません。

報道の仕事は24時間365日ですので、この仕事は部門ごとに1人というのでは不可能ですし、24時間の放送態勢にボトルネックを作るわけにはいきません。
そこで「複数人のデスク」によって、切れ目ない情報発信を可能にしています。

例えば2人でデスク業務を進める場合、

Aさん:月~水曜日勤務
Bさん:水~金曜日勤務

といった具合です。
2人が同時に出勤している曜日や時間を作り引き継ぎや話し合いを行うことで、業務を円滑に進めています。

出勤日の拘束時間は長くなりますが、「非番」状態になる日があることによって、家族との時間や、当番日にはできない個別の社員のケアに時間を充てることができる仕組みです。

「早番」「遅番」「非番」といった3人サイクルも可能です。「船頭多くして…」とならないような人材の組み合わせが求められますが、ひとつのあり方です。

実際、海外ではいくつか成功事例があるようで、女性管理職の登用にも繋がります。

人数補充も重要ですが、これら様々な手法で、まず現在いる社員での生産性を考えてみるのも良いでしょう。

 

「社内介護」のための増員であってはならない

 

先日、30歳前後の会社員たちと会話していて、このような指摘がありました。

「私たちは『社内介護』のために働いているような気がして、馬鹿馬鹿しく思うことがある」

というものです。

「社内介護」とはまた痛烈な言葉ですが、現状を言い当てているのも事実です。

自動的に昇給した大量の「おじさんたち」の高い人件費を払うために自分たちは働いているような気がしてならない、というのです。モチベーションが上がらない、あるいは会社の先行きに不安を感じる理由がこれです。
「年齢イコール生産性」だとは全く思っていないのです。

そして、現状維持のための増員にしても、非正規雇用に関して言えば、パートタイム労働法の改正により、正社員と同じようなコストがかかることを意識しなければなりません。「安く済む」ものではないのです。

ですから、まずは今の社内を点検し、ソフト・ハード共にどこまで生産性を改善できるかを計算して「どんな部分をどんな雇用形態の労働者に補ってもらいたいのか」を具体的に導き出しておく必要があるでしょう。
全てを大規模改革できる景況ではないことを考えると、具体化はなおさら必要です。

闇雲な人数の確保よりも、「生産性の向上」を念頭に置いた採用活動をできるかどうか、それが今後、企業の明暗を大きく分けることでしょう。

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[1 、2]「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf p5、p6
[3]「令和元年度 年次経済財政報告書」内閣府
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je17/pdf/p02023.pdf p114
[4]「生産性向上の事例集」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000484675.pdf p8