退職には、自己都合退職(自己都合の退職)と会社都合退職があります。退職は、従業員にとって人生の大きな出来事であるとともに、企業にとっても生産性に直結する重要な問題です。それぞれの退職方法の違いをしっかりと把握しておきましょう。
本記事では、自己都合退職と会社都合退職の違いや、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
自己都合の退職と会社都合の退職の違いとは?
退職には、自己都合退職と会社都合退職の2種類があります。経営者や人事担当者であれば、業務で耳にする機会も多いかもしれません。
退職の種類は退職理由により、失業給付が支給されるまでの期間や給付期間などが異なります。それぞれの基本的な内容は以下のとおりです。
自己都合の退職とは?
自己都合退職とは、従業員本人が申し出ることで雇用関係が終了する退職のことをいいます。
退職理由は、結婚・出産・子育て・介護・引越し・転職・労働環境への不満など、さまざまです。基本的に、従業員自ら申し出た退職については、自己都合退職扱いとなります。
会社都合の退職とは?
会社都合退職とは、会社側の都合により退職を余儀なくさせられた場合を指します。主な理由は以下のとおりです。(※)
- 倒産(破産・民事再生・会社更生など)
- 事業所の廃止
- 経営不振による人員削減
- 通勤困難(事業所の移転により通勤が困難になった)
- 解雇
- 賃金の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が2カ月以上となったことによる離職
- 支払われていた賃金が85%未満に低下したことによる離職
- 上司や同僚などからの著しい冷遇や嫌がらせを受けたことによる離職
※参考:ハローワーク インターネットサービス. 「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
自己都合の退職と会社都合の退職はどのように決まる?
退職理由が自己都合なのか会社都合なのか、最終的な決定を行うのはハローワークです。まずは企業側が、自己都合退職もしくは会社都合退職と記載した離職証明書をハローワークに提出します。
ハローワークより発行された離職票に記載された退職理由が実際の退職理由と異なる場合、退職者はハローワークに異議申し立てを行うことができます。
異議申し立てがなされると、ハローワークは企業に対し意見を求めてくるので、離職理由の根拠を裏付ける資料を準備するなどして正当な理由を主張しましょう。
自己都合の退職のメリット・デメリット
結婚や出産など、自身の都合により退職する自己都合退職についてのメリット・デメリットを紹介します。
自己都合の退職のメリット
いつでも退職できることは、自己都合退職のメリットです。雇用期間の定めがない場合、民法や労働基準法によって従業員の退職する自由が認められています。いつでも雇用の解約の申し入れをすることができ、2週間経過することで退職できます。(※)
ただし、退職について就業規則に規定がある場合、原則として就業規則が優先されるため注意しましょう。
企業側としては、退職理由が労働環境への不満だった場合、環境の改善を図ることも大切です。公正な人事評価制度の見直し、福利厚生施設を充実させる、社内のコミュニケーションを高める活動を推進するなど、労働環境を改善することを意識しましょう。
労働環境を改善することで、優秀な人材の流出を防ぎ、生産性の向上とともに企業の業績も安定していくでしょう。従業員の働きがいや働きやすさも増し、仕事へのモチベーションアップにもつながります。
※参考:厚生労働省. 「知って役立つ労働法(第5章仕事を辞めるとき、辞めさせられるとき)」P57
自己都合の退職のデメリット
自己都合退職のデメリットは、失業給付(基本手当)が給付されるまで、待機期間7日に加えて給付制限期間として2カ月かかることです。
5年間のうち3回目の離職からは、給付制限期間が3カ月に延びます。また、給付日数は雇用保険の加入期間によって異なりますが、90~150日となります。(※)
企業にとって優秀な人材だったとしても、退職を無理に引き留めることはできません。就業規則に定められた期間で、業務の引継ぎを確実に行い、新たな人材確保、人員の配置などを速やかに検討しましょう。
※参考:ハローワーク インターネットサービス. 「よくあるご質問(雇用保険について)」
会社都合の退職のメリット・デメリット
倒産や人員整理など、会社側の都合により退職扱いとなる会社都合退職についてのメリット・デメリットを紹介します。
会社都合の退職のメリット
会社の都合により退職となった場合のメリットは、最短で待機期間後の7日で失業給付を受けられることです。自己都合退職のように自身の意思で退職したわけではないため、給付制限期間はありません。
また、雇用保険の加入期間によって異なるものの、給付日数は自己都合退職の場合よりも長く、最長330日(障害者などの就職困難者の場合は最長360日)です。(※)
企業側のメリットは、社内での指示に従わないなどの問題が多い従業員へ退職を勧めたり、経営計画の見直しによる人員整理を行ったりできることです。
それでも、退職には従業員の意思表示が必要となるので、企業側から従業員に対して一方的に解雇することはできません。従業員の退職への同意や退職届の提出などの行為が必要となります。
※参考:ハローワーク インターネットサービス. 「よくあるご質問(雇用保険について)」
会社都合の退職のデメリット
助成金の対象から外れてしまう可能性があることは、会社都合退職の大きなデメリットです。
トライアル雇用助成金や労働移動支援助成金など、企業がさまざまな助成金を受けている場合、会社都合退職者が一定数以上になると助成金を受けるための条件を満たさなくなる恐れがあります。助成金を受けていない場合は、特に問題はありません。
解雇予告手当金を支払わなければならない場合があることも、デメリットの一つです。企業側として合理的な理由があったとしても、解雇は従業員の生活に大きな影響を及ぼします。
企業側が解雇しようとする場合、従業員に対し、離職日の30日以上前に解雇予告義務があります。もし、解雇予告ができない場合、解雇予告手当を支払わなければなりません。(※)
退職金についても注意しましょう。満額支払われると思っていたのに減額された、退職金の支払いがなかったという場合、従業員から訴えられてしまうケースもあります。裁判になると、企業としての社会的信用が低下することもあるため誠実な対応が必要です。
※参考:厚生労働省. 「知って役立つ労働法(第5章仕事を辞めるとき、辞めさせられるとき)」P58
政府は自己都合退職の失業給付の受け取り開始の短縮化を検討
2023年6月6日、第19回新しい資本主義実現会議が開かれました。会議の中で、『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』に失業給付の受給の見直しなどを盛り込んだ改訂案がまとめられました。(※1)
また、2023年6月16日に開催された第20回新しい資本主義実現会議では、『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』の改訂案が出された他、経済財政運営と改革の基本方針2023の案などについて話し合われています。(※2)
退職すると失業給付の受給が可能です。しかし、自己都合退職の場合は失業給付の受給まで2〜3カ月の給付制限があるなど、最短7日で受給できる会社都合退職の場合と扱いが異なります。
一定の条件を満たした自己都合退職では、失業給付の受給要件を緩和し、会社都合退職の場合と同じ扱いとするよう検討されています。
※こちらは2023年6月19日時点の情報です。
(※1)参考:内閣官房. 「新しい資本主義実現会議(第19回)」
(※2)参考:内閣官房. 「経済財政諮問会議(令和5年第9回)・新しい資本主義実現会議(第20回)」
自己都合退職と会社都合退職の違いをしっかりと理解しておこう!
今回は、自己都合退職と会社都合退職の違いや、それぞれのメリット・デメリットについて紹介しました。
自己都合退職と会社都合退職では、失業給付を受け取るまでの期間や手続きに違いがあるため、退職を検討している人はもちろん、手続きを担当する人事や経営者の方々もしっかりと理解しておきましょう。