終身雇用という労働観が消失しつつある現代の労働市場において、離職する社員の増加は企業にとって頭の痛い問題です。
社員の離職は、優秀な人材の流出や業務負担の増加、採用・育成コストの増加など、企業にさまざまな問題を引き起こすでしょう。
本記事では、離職率が高まる原因について解説したうえで、離職を防ぐための対策についても提案していきます。
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目次
社員の離職につながる4つの原因
社員の離職につながる要因として、主に4つが挙げられます。
- 人間関係の問題
- 労働環境の問題
- 単調な職務内容
- 将来的なキャリアへの懸念
これらのうちの一つが離職の決定的な要因となることもあれば、複数の要因が重なって離職へとつながる場合もあります。
相次ぐ社員の離職に悩まされているのであれば、以上の4つが職場の中に存在していないか、注意深く観察する必要があります。
以下、4つの要因についてそれぞれ解説していきます。
1.人間関係の問題
人間関係の問題は、ビジネスシーンのみならず、人生のあらゆる場面において悩みの種となります。
職場においても、上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかずに居心地が悪くなったり、あるいはハラスメントによって強いストレスを感じて…というのは、会社を辞める要因として非常にポピュラーです。
企業は、社員同士のコミュニケーションの深化を促すこと、また、ハラスメントを明確に禁止するルールを設けて違反者には厳しく対処するなど、最大限の配慮と対策が求められます。
これにより、職場での人間関係のトラブルを未然に防ぐことが可能となるでしょう。
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2.労働環境の問題
労働環境が悪いと、社員の心身への負担が増大し、気持ちよく働けない状態となってしまいます。
労働環境を悪くする要因としては、例えば過労や長時間労働、サービス残業の存在、飲み会をはじめとしたイベントへの強制参加などのほか、設備面での問題もあるでしょう。
上記した労働環境上の問題は、社員の離職につながるのはもちろんのこと、今日ではSNSなどで拡散されることもあります。
そうなれば、企業のイメージを大きく減じたり、場合によっては労働基準監督署による処分など、社会的な制裁にもつながりかねません。
実際、社員が会社の評価を書き込む口コミサイトを見ると、上記したような問題がピックアップされていることが多いです。
やはり働く人の不満につながりやすいポイントだと言えるでしょう。
3.単調な職務内容
たとえ給与をはじめとした待遇が比較的好条件でも、職務内容自体が単調だと社員が不満を感じて離職してしまうことがあります。
この現象は昨今にはじまったことではなく、古くは1910年代のアメリカで創業した当初のフォード社(「T型フォード」などを産み出した、米国を代表する自動車メーカーのひとつ)においても問題視されていました。
やはり、長時間・長期間にわたる単調な作業は「飽き」を生じさせます。
特に、職務内容自体が単調なことに加えて、自己成長やスキルアップの機会が少ない場合、仕事への飽きに将来への不安が重なって、離職者が増える傾向があります。
企業側としては、仕事の中にローテーションを取り入れて、社員が長時間同じ業務を担当し続けるのを防いだり、所属部署やポジションを数年ごとに入れ替えることなどの工夫が必要でしょう。
飽きを防ぐと同時に単調さを解消して、働く意欲を維持させることができます。
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4.将来的なキャリアへの懸念
離職率が高まる要因の一つとして、「今は給料が安定していても、スキルが身につかないと将来性がなくなるかもしれない」といったキャリアパスの不明確さが挙げられます。
社員が目の前の仕事を通して成長を感じられず、さらに昇進の可能性も見えない場合、新しいチャンスを求めて他の企業へ移る可能性が高まります。
企業としては、仕事を通じた成長の可能性についてポジティブなイメージを示すと同時に、定期的な研修などを通じて、社員のキャリア形成を援助していく取り組みが欠かせません。
2.社員の離職を防ぐための対策
前章で記載した離職の各要因に対してどういった対策を取るべきか、それぞれ提案していきます。
- 社員間のコミュニケーション改善の取り組み
- 労働環境の改善
- 職務内容の多様化
- 教育・研修制度の充実
- 社内文化の改善
以下、ひとつずつ解説していきます。
1.社員間のコミュニケーション改善の取り組み
従業員同士のコミュニケーションが密であること、そしてそこにハラスメントなどが存在しないことは、よい職場環境の条件のひとつです。
そのため、企業がこういった環境を整えることは、離職防止につながる対策として効果的と言えます。
職場のコミュニケーションを改善するための具体的な方法として、まずは「上司・部下面談」の実施を検討しましょう。
上司や管理職が部下の忌憚のない意見を聞いたり、個人的な悩みや要望をヒアリングします。
たとえ部下の意見や要望を実現するのが難しかったとしても「自分の気持ちを打ち明けることができた」と思うだけで満足できる場合も多いのです。
面談の機会を設けることは、こうした「ガス抜き」にもなり、離職防止に効果を発揮します。
また、社員の離職に直結するハラスメントの防止についての対応は欠かせません。
ハラスメントは、それを受ける本人だけでなく、周囲の社員にも悪影響を及ぼします。
ハラスメント防止研修の実施や社内通報制度の設置を通じ、ハラスメントの発生を限りなくゼロにしていきましょう。
2.労働環境の改善
労働時間の短縮や柔軟な働き方の導入、福利厚生の充実などが効果的です。
まずは社員の労働時間が曖昧にならないよう、「タイムカード」や「(パソコンなどで打刻する)労働時間管理システム」を導入します。
これにより、労働時間を正確に把握することが可能になり、サービス残業の発生も抑えられるでしょう。
次に、残業に関する明確なルールや上限を設定し、従業員に周知徹底させます。
企業によっては、残業を事前申告制にしているところもあるので、そういった制度を導入するのも効果的です。
また、飲み会を断りにくい雰囲気が職場にあると、業務外に付き合わされることで社員の疲弊が蓄積されます。
嫌々ながら参加させられる社員にとってはパワハラとなり、告発される可能性もあるので、「職場内での飲み会は有志のみとする事」を徹底する必要があります。
3.職務内容の多様化
職務内容の多様化やローテーション制度の導入によって、従業員が業務に飽きてしまうことを防ぎます。
また、いろいろなポジションの仕事を経験することで新しいスキルを身につける機会が増えることで、やりがいも感じられるでしょう。
離職を防ぐ以外にも、さまざまな視点を養わせてジェネラリストとして成長させることにもつながります。
4.教育・研修制度の充実
従業員のスキルアップや知識の向上を図るために、教育や研修制度を充実させることが求められます。
職場の先輩社員を講師とした研修や、外部講師を招いたセミナーなどを実施するとよいでしょう。
これにより、従業員の成長を促し、社員にとって「この会社に長くいることでキャリアが発展していく」という感覚を持たせることができます。
会社に長く在籍することにメリットを感じさせることが、そのまま離職率の低下につながるのです。
5.社内文化の改善
役職による分け隔てなく協力しあう、オープンな文化を職場に醸成させることも、離職率の低下に効果的です。
研修などを通じてオープンな職場環境の大切さを発信していきましょう。
くわえて、人事評価上でも部下や後輩の業務を積極的にサポートしている社員を高く評価するための評価項目を設けます。
まとめ
社員の離職につながる原因は、良質でない労働環境や職務内容の単調さといった「目の前の仕事への不満」に加えて、スキルが身につかないことや成長を実感できないなど、将来的な不安が原因となることも挙げられます。
いわば、短期の不満と長期の不安の複合要因によって離職につながってしまうのが実態です。
多くの企業は「目の前の不満」への対策ばかりにフォーカスしがちですが、社員の将来的な不安を解消させることも課題として認識する必要があります。
短期的な離職原因への対策にあたる「社員間のコミュニケーション改善」や「労働環境の改善」、「社内文化の改善」のほか、長期的な不安を解消するための「教育研修」も不可欠です。
また、「職務内容の多様化」は社員たちの目の前の不満と長期的不安の両方の解消に関わってくるので、離職対策として重視していきましょう。