ストレッチ目標とは、部下の成長やチームの生産性向上に繋がる目標のことです。
成果や利益の向上といったことだけでなく、人材育成の面から見ても有意義です。
本記事では、ストレッチ目標の意味や内容、設定時のポイントなどについてわかりやすく解説します。
実際の導入事例や疑問に感じやすいポイントについても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
ストレッチ目標とは?
ストレッチ目標とは、社員の能力に応じた適切な難易度の目標を指します。
簡単すぎず、かつ難しすぎず、頑張れば達成できると思われる程度の目標のことです。
手が届くと思われる位置よりも少し遠い位置に目標を定めることで、部下のモチベーションを刺激し、目標達成につなげやすいと考えられています。
英単語の「stretch(ストレッチ)」には「伸びをする」「引き伸ばす」といった意味があります。
ストレッチ目標は、多少背伸びをすれば達成できる難易度の目標というイメージから名付けられました。
ストレッチ目標はGoogleが取り入れていることでも有名なので、聞いたことがあるという方も多いでしょう。
適切な目標管理によって生産性を高めているGoogleの様子を見て、近年では日本の企業も次々とストレッチ目標を取り入れています。
関連記事:【わかりやすく】目標と目的の違いとは?目標設定の方法や目的を明確にする方法、注意点を解説
ストレッチ目標とチャレンジ目標の違い
ストレッチ目標と似た言葉として「チャレンジ目標」があります。
チャレンジ目標は、部下が最大限努力しても達成できるか分からない程度の目標のことです。
チャレンジ目標を設定して挑戦することで、部下の成長や生産性の向上、達成感の獲得が期待できます。
しかし、高すぎるチャレンジ目標は逆に部下のモチベーションを下げてしまう場合があります。
目標を達成できるかわからないことに対しての無力感を感じたり、達成できなかった際に大きな挫折感を味わったりする場合もあるでしょう。
ストレッチ目標のメリット
ストレッチ目標を適切に導入すれば、対象の部下はもちろん、チームや企業全体にも良い影響を与えます。
本項では、ストレッチ目標のメリットを3つのポイントから解説します。
達成すれば大きな成功体験に
ストレッチ目標は簡単すぎない難易度の目標であることから、部下自身が 達成によって成功体験となり、自信を高めることができます。
自信を持つことで、向上心が生まれたり、新たな目標に挑戦しやすくなったりなどのメリットが得られるでしょう。
目標の達成後も、成功や目標達成に向けて意識的になった経験が役立ち、今後の仕事に対する意識が高まることが期待できます。
また、多くの社員がそのようなマインドを持って仕事をすれば、社内が活気づくきっかけになります。
組織に良い空気感が生まれ、従業員満足度やモチベーションの向上、離職率の低下などにも役立つでしょう。
能力を最大限に引き出せる
努力しなければ達成できない難易度の目標に取り組む中で、部下は自らの能力を最大限に発揮しようと努力します。
結果として、部下の能力が高まりやすくなったり、新たな長所が見つかったりする可能性があります。
ストレッチ目標への取り組みを通じて社員が成長し、生産性が高まったと実感する企業も多くあります。
多くの社員が継続的にストレッチ目標に取り組めば、将来的に企業の競争力アップにも繋がるでしょう。
部下の自発的な成長につながる
少し難しい程度の難易度に目標を設定することで、部下は「どうしたら目標を達成できるか」と考え、行動します。
自ら考えて行動することは、自発的に成長するきっかけとなることでしょう。
ストレッチ目標を通じて、部下が自発的に考え成長する組織文化を醸成することも可能です。
部下1人1人の成長が組織力の向上につながり、企業全体の利益の向上を目指すことも可能です。
また、中にはストレッチ目標の設定を通じて、保守的な企業文化から挑戦的な企業文化へと変革ができたという実例も存在します。
ストレッチ目標を適切に利用すれば「挑戦することを許してもらえる」「変化や失敗を恐れなくて大丈夫」といったメッセージを部下に伝えることも可能です。
部下が成長に対して意欲的になり、成長スピードが高まる メリットもあります。
関連記事:社員の成長意欲をかき立てる秘訣とは?実践的な対策を解説!
ストレッチ目標のデメリット
ストレッチ目標を導入する前に、デメリットについても押さえておきましょう。
上司と部下の認識がずれてモチベーション低下につながる
ストレッチ目標は、難易度の設定が大きなポイントになります。
高すぎる目標を設定すれば「こんなことできるわけがない」と感じ、部下のモチベーションが低下してしまうでしょう。
その反面、低すぎる目標であると感じれば「自分の能力が低く見積もられているのだろうか」などの不満を与えてしまいかねません。
また、成長にも繋がらないでしょう。
ストレッチ目標を設定する際は部下と話し合う場を設け、その内容や意図などについて確認しましょう。
目標は成長のために取り組むものであるということを、お互いに認識している状態であることが理想です。
パワハラになる可能性
ストレッチ目標の難易度を間違えて、高すぎる目標を与えてしまえば、部下へ過度な負担を与える可能性があります。
ストレスを感じてパフォーマンスが下がるなど、目標の設定が逆効果になるケースもあります。
そのような状態に部下が大きなストレスを感じれば、最悪の場合、パワハラと言われてしまうこともあるかもしれません。
特に、優秀で期待している部下であるほど「早く成長してもらいたい」という思いが働き、無理難題を押し付けてしまうことがあります。
部下のストレス耐性や能力を見極め、慎重にストレッチ目標を設定するようにしましょう。
ストレッチ目標の設定ポイント
ストレッチ目標を通じて部下や組織に良い影響を与えるためには、どのような点を意識して目標を決定すればいいのでしょうか。
押さえておきたいポイントを2つ解説します。
長期的に達成できる目標を設定する
ストレッチ目標は、努力しなければ達成できない程度の目標であることから、ある程度の長さの期間を要することが一般的です。
長期的に目標に取り組むことによって、従業員の達成感や自信を高めやすいメリットがあります。
途中で中だるみしないよう、期間に応じて中間目標を設定するなどの工夫を行なうのも効果的でしょう。
アフターフォローを欠かさない
目標設定した後も、定期的に達成度合いを確認し、必要に応じてアフターフォローを行いましょう。
上司と共に達成度合いをチェックすることで、部下が新たな気付きを得たり、引き続き頑張ろうというモチベーションを得たりすることにつながります。
なお、部下が自ら考え行動する機会を奪わないためにも、目標達成のプロセスに介入しすぎるのは良くありません。
自主的に考えてもらうことを重視し、アドバイスはほどほどにしておくことが大切です。
ストレッチ目標設定の注意点
ストレッチ目標を設定する上で気をつけたい注意点を2つ解説します。
不可能な目標設定をしない
難易度が高く部下に負荷がかかりすぎる目標や、達成に現実味のない目標を設定することは避けましょう。
適切な難易度の目標を設定するためには、部下の能力をよく把握しておくことが欠かせません。
部下と会話する機会を設けたり、現場に顔を出したりすることで、日頃から部下の様子を見ておくことが大切です。
部下の能力についての理解を深めるためには、以下をはじめとする方法が有効です。
- 作業にかかる時間を把握する
- 上司から声をかけることにより、部下の性格を把握する
- 課題や日報などを通じ、問題解決能力を把握する
このような方法を通じて部下の能力を把握し、適切な難易度の目標設定を行うよう心がけましょう。
目標設定した後放置しない
目標設定した後も、メールや書類などによって定期的に部下から報告を受けるようにしましょう。
部下が適度な緊張感を保つことができ、目標達成に向けて意識的になれたりするような仕組みを整えることが大切です。
必要に応じて話し合いの機会を設け、アドバイスや励ましを通じてストレッチ目標の達成を目指します。
上司側としても、達成度合いを確認することで気づきを得られることもあります。
「思ったよりも進み具合がいいから、次回は難易度を上げよう」など、次回に生かせるヒントを得られることもあるでしょう。
また、部下の人数が多かったり、テレワークで離れた場所にいたりして、各自の進捗状況を把握しにくいという場合もあるかもしれません。
その場合は、目標の提出や確認・評価などを一括して行えるツールを導入するといった対策が有効です。
関連記事:目標管理とは?メリットとデメリット、取り入れる際のポイントやツールも紹介
ストレッチ目標の導入企業
ストレッチ目標はあらゆる企業に導入され、モチベーションの向上や企業の成長などに貢献しています。ストレッチ目標を導入している企業の事例について見ていきましょう。
Googleは目標管理におけるフレームワークである「OKR」と呼ばれる仕組みを取り入れていることで有名です。
OKRでは、目指すべき目標と、どの程度達成したかを判断する「成果指標」に分けて目標管理する手法です。
また、Googleは以下のポイントを重視してストレッチ目標を設定することを大切にしています。
- 具体的である
- 客観的である
- 達成する価値がある
- 達成できる確率が50%程度である
達成できる確率が50%ほどの目標を設定することで、社員の能力が引き出され、結果として企業の成長に繋がります。
関連記事:OKRとは?Googleやメルカリも採用している目標の設定方法や成功への道筋
Chatwork
Chatworkは従来、社員の目標の達成度合いを人事評価に反映させる仕組みを採用していました。
しかし、達成を重視するあまり挑戦的な目標を設定しにくくなってしまい、社内で問題視されていました。
それを踏まえ、目標の達成度合いを人事評価に反映させない仕組みに変更。
近年では、社員が目標達成に向けて意欲的に挑戦するようになり、企業文化も前向きなものに変化したと言います。
メルカリ
メルカリもストレッチ目標を導入している企業の1つです。
Googleと同様に、OKRの手法で目標を管理しています。
また、目標設定後は3ヶ月ごとに目標の見直しと評価を行います。
さらに1週間ごとにチームのメンバーと進み具合や障害となる事項の共有をするミーティングを行うようにしており、これにより目標達成を念頭において仕事ができ、モチベーションを保つことに繋がります。
Sansan
クラウド型の名刺管理サービスなどを提供する企業であるSansanも、OKRを使って社員の目標を管理しています。
「Googleなどの大企業がOKRで結果を出している」という話を聞き、代表がOKRの仕組みを取り入れました。
Sansanでは、3ヶ月に1回のサイクルを基準に目標管理します。
日常的な進捗管理は各チームがそれぞれのタイミングで行い、各社員の目標の達成度合いをこまめに把握します。
3ヶ月後、全社員が集まる集会で目標を振り返る仕組みが特徴的です。
また、目標の設定や取り組みを促す中で、社員の納得感を大切にしてると言います。
目標の設定に違和感を覚える社員がいる場合には、設定する意味や狙いを伝えていくことで、同じ方向を向いて取り組めるように促します。
Gamewith
ゲーム配信や攻略に関する情報発信などの事業を行うGamewithは、ストレッチ制度を導入する際、あらゆる人事データをクラウド化し、社員に共有しました。
その数値は全社で閲覧できるため、目標管理における透明性があります。
社員はその数値を見て、自分が求められている点や足りない点について把握できます。
ストレッチ目標に関するFAQ
ストレッチ目標の導入の際によくある疑問をFAQ形式で解説します。
Q.ストレッチ目標の難易度はどのように設定したらいいのか?
難易度の設定については、企業の担当者についても考えが異なりますが、多くの場合は目標を達成する可能性が50〜70%となるように設定することが一般的です。
70%であれば、10人のチームのうち7人が目標を達成する難易度であることを指します。
Q.より良いストレッチ目標を設定するためには?
ストレッチ目標は、設定の仕方を間違えれば、部下に負担のかかる無茶な目標になりかねません。
例えば、市場の状況を無視して毎回「前年度比○%」といった目標を定める企業があります。
前年度の数値だけではなく、市場の大きさやシェア率などを含めて目標を定めるのが望ましいでしょう。
また、目標達成には企業や上司の要望だけではなく「顧客や世間に良い影響を与えるものであるか」といった視点も忘れないようにすることが大切です。
Q.定めたストレッチ目標はどのように管理すべきか?
部下が少なければ、Excelやスプレッドシートで目標管理してもいいでしょう。
しかし、達成度合いの共有や定期的な振り返りなどを行う中で、使いにくさを感じ、次第に目標管理に負担を感じることも少なくありません。
近年は、さまざまな企業が目標管理ツールを開発・提供しています。
多くのツールはクラウド型で、お互いの状況が見えにくいテレワークでも進捗状況を把握できるメリットがあります。
効率的に目標管理を行うために、そのようなツールの導入を検討してもいいでしょう。
まとめ:ストレッチ目標とは
ストレッチ目標は、社員の目標意識を引き上げるうえで有用な手法です。
その一方、目標が評価と一致しないことがあるなど、目標達成により手に入る報酬が不明確なこともあります。
自社にストレッチ目標が適しているかしっかりと検討したうえで、導入について検討するようにしましょう。