2019/11/28

噛み合わない部下には「アサーティブコミュニケーション」で対話しよう

「部下に指導しても伝わらない」
「指導したら逆切れされた」

このような悩みを抱える上司は多いのではないでしょうか。

仮に指導や指示を聞かない部下がいた場合、上司として圧力を加えたり、しつこく繰り返し伝えたりする方も、多いかも知れません。しかし、これらの方法で効果を上げることは少なく、結果的にお互い疲弊し、距離を取り、諦めてしまうパターンがほとんどです。

アサーティブコミュニケーションが部下の育成になぜ有効なのか、「採用困難な時代における上司の役割」「このコミュニケーション方法が有効である根拠」そして「活用事例」をご紹介します。

また最後に、使いこなすためのアクションプランを提示しますので是非活用してみて下さい。

 

「採用困難な時代における上司の役割」

 

少子高齢化により、日本の人口は確実に減少に向かいます。
その結果、都市部に近づくほど採用が困難になっており、人手が求められる多くのサービス業で人材確保に苦労しています。

有効求人倍率を見てみましょう。

2009年リーマンショック後の全国平均有効求人倍率は0.47でした。
一方で、2018年の全国平均有効求人倍率は1.61にまで高まっています。
総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」のデータを見る限り、ここ数年での求人倍率は急激に上昇しています[1]。

 その一方で総務省の人口推計(2018年10月時点)によると、生産年齢は長期的に減少しており、今後も低下することが予想されています[2]。

 これらの数字は、今後も人材不足が長く続く事を意味しています。またICTなどビジネス環境の変化で起業や副業のハードルが下がったことからも、優秀な人材を採用できる確率は厳しさを増しています。

つまり「社外から優秀な人材を選んで採用する」という方法は年を追うごとに厳しくることが予想されます。

しかし会社が発展するには優秀な人材が不可欠です。よって、既存の人材を優秀に育てることは会社とってさらに重要性を増していくことでしょう。

 

人材育成の難しさ

 

それでは、人材育成にはどのような体制があるでしょうか。

通常は、
1.マネジメントが組織として定める人材育成
2.上司が実務を通して行う部下の育成
の二つがあります。

多くの会社には、新人・中堅の育成プログラムや、人事考課制度を活用した育成の仕組みをがあります。しかし実際は、プログラム通りに育成できることはまずありません。

その理由の一端を、上司が部下を育成する際の「コミュニケーション」にみることができます。

皆さんが新人や中堅社員の頃を思い出してください。信頼できる上司と信頼できない上司の、どちらに指導されたいと思ったでしょうか。信頼できる上司からの言葉であれば、指導を受けても素直に受け取れたのではないでしょうか。

人の行動は常に合理的ではなく、感情からも大きな影響を受けています。
京都大学の阿部修准教授は人間の意思決定について、理性と感情のバランスが常に取れているわけではなく、「意思決定を司るのは理性と感情だが、両者の葛藤が意思決定を困難にさせる。」と講演しています[3]。

また2017年ノーベル経済学賞を受賞した、行動経済学のリチャード・セイラー氏は、人間は必ずしも合理的な行動をするとは限らない、という趣旨の主張をしています[4]。

人間は合理的な行動をする一方で、感情によっても行動するという非合理な一面があるのです。

つい目先の食欲で食べすぎてしまうことや、インターネットを見て時間を浪費してしまう等、誰しも経験していることは、合理性よりも感情を優先している典型的な例と言えます。
 この「人は感情で行動する」という理屈は、指導を受ける部下の心理にも当てはまります。
「部下に指導しても伝わらない」「指導したら逆切れされた」というのは、相手の感情を傷つけ反感を買っている可能性が高いでしょう。

部下の立場で考えて下さい。

上司から「仕事の出来ていない点だけ」を指摘された場合、次のような感情や言い分を考えるのではないでしょうか。

・上司は自分のミスしか見ていない。

・他の同僚だって同じようなミスをしている。なぜ自分だけ言われるのか。
・上司に言ってもどうせ分からない。

残念ながら人は言葉でしか想いを伝えられません。

そして言葉は、その「伝え方」によって感情のフィルターを超えることが出来ないのです。

感情のフィルターを超えるには、相手の感情に配慮したコミュニケーションを使うことが最も有効であり、その方法こそアサーティブコミュニケーションです。

 

アサーティブコミュニケーションの活用ポイント

 

 アサーティブコミュニケーションとは、「相手を尊重しながら自己主張を行う」コミュニケショーンスキルです。

特徴

・相手の気持ちを受け止め理解する。
・自分の意見もはっきりと主張する。
・対話を通して納得できる結論に導く。

人間関係が上手く行かないのは、意思疎通の問題であることが少なくありません。そこで意思疎通を改善するため、このようなスキルが重要になるのです。

また、このスキルはビジネスにおいても有効なのですが、部下育成に使う場合は「相手の気持ちを受け止め理解する」という点に特に注意する必要があります。上記で述べた通り、人は感情で動くという一面があります。
さらに、部下に対しては上下関係が存在するため、特に「相手の感情を受け止める・相手の感情を傷つけない」ということを意識しないと、その後の話が成立しなくなるのです。

そして、この考え方を使いこなすために知っておくべき理論が2つあります。

  • Youメッセージ、Iメッセージ

もし貴方が上司から次の1と2の指摘を受けたとすれば、どちらを好意的に受け取るでしょうか。

1 「あなたのミスによってお客様から苦情を受けた。どうする?」
2 「お客様からの苦情を受けたが、どう挽回するか一緒に考えて欲しい」

同じ内容でも、伝え方によって受ける印象が全く違うのではないでしょうか。
1は「Youメッセージ」と言われる伝え方で、言葉の裏には「貴方に問題がある」という批難が込められています。その反面2は「Iメッセージ」と言われる伝え方であり、「上司が困っている」という想いが込められています。ポイントは、相手を批難せずに自分の想いを話していることです。
相手からの批難を感じると、人は瞬間的に心を閉じます。逆に、相手が自分を責めてこないと分かれば、落ち着いて話を聞くことが出来るのです。Iメッセージを使うことで、相手に話が伝わりやすくなります。

〇ABC理論
アメリカの臨床心理学者アルバート・エリスが提唱した論理療法の概念です。
人は出来事によって幸福や不幸になると考えがちですが、実は出来事が原因ではなく解釈によって幸福にも不幸にもなるというものです。「(A)出来事が起こる⇒(B)出来事を解釈する⇒(C)結果が出る」という過程において、「(B)出来事の解釈」によって結果が違うのです。

(例)自動車を運転していた時に、違反切符を切られた

1「みんな違反しているのに自分だけ違反切符を切られて嫌な気分」

2「違反切符のおかげで、運転を見直し事故を起こさずに済んだ」
同じ出来事でも①と②の解釈によって結果は全く違います。

 部下への指導も同様です。上司が部下を叱った場合、「自分の成長のために叱ってくれた」と伝われば、部下の意欲を引き出すことが出来るでしょう。

 

アサーティブコミュニケーションの導入事例

 

最後に、筆者の体験した事例から、アサーティブコミュニケーションで部下の仕事ぶりが改善された指導例を提示します。

この対象となる部下は、情熱を持って仕事はするものの、周囲への協調性が少なく独善的に行動するタイプです。言い訳も上手いため、教育係から指導しても改善が見られず、周囲の同僚からも浮いていました。
しかし独善的な行動が目に余り始め、本腰を入れて指導に入ったというケースです。

【失敗したパターン】
指導すると決めたものの、上司に対しても言い訳をすることは分かっていました。
そこで綿密に周囲からヒアリングを行い、実際の問題点を記録に残し、言い訳が出来ない状況まで固め、面談の場を設けました。
理論武装で相手の逃げ道を塞ぎ、本人が反省する状況を作ろうとしたのです。
しかし、指導の結果は失敗でした。
この部下は「自分が周囲から疎まれている。自分だけこのような扱いを受け、とても不愉快」と受け止め、逆切れを起こしました。その後も反省するよう指導しましたが、此方の意図は伝わらず平行線をたどります。最後に言葉では反省の弁があったものの納得していないことは明らかでした。
さらにその後、「仕事に自信が無くなった」と数日間の欠勤がありました。完全に失敗です。

【成功したパターン】
前回の失敗から、アサーティブコミュニケーションを取り入れ、相手の感情を徹底的に尊重して、改めて面談を進めました。
指導項目については、本人がなぜそうしたのかを聞く一方で、上司として感じている問題を説明しました。そして言葉の選択も慎重に行い、
「あなたの今の発言を聞いた限り、私はこう感じる」
「私の意図はあなたを攻撃する事ではなく、今回の問題点をどう改善するか一緒に考える事」と繰り返し伝えました。
その結果、この部下は気持ちを不安定にすることなく、何が問題だったのかを理解することが出来ました。本人からは「そのような意図であれば分かりました」という発言があり、少しずつ独善的な行動が軽減し始めたのです。

この事例のポイントは次に集約されます。

・部下を尊重し、的を絞って真摯に対応する。(アサーティブコミュニケーション)
・部下の感情を傷つけないよう、自分の意見を述べる(Iメッセージの活用)
・部下の受け取り方を意識して言葉を選ぶ(ABC理論)

失敗例と成功例、共に指導した内容は同じです。しかし、伝え方を工夫することで全く違う結果に至りました。 この結果は一例ですが、アサーティブコミュニケーションは部下の指導にとても有効なコミュニケーション技法と言えます。

 

総括 部下へ指導する際のスタンス

 

 ここで改めて上司の役割を振り返ります。

まず、これから先は「良い人材」を簡単に雇用することは難しくなるでしょう。そのため、優秀な人材は自分たちの手で育てていくことが大切になります。そして部下の育成は、上司からのコミュニケーション次第で伸び幅が違います。

次に、部下へ接する際のスタンスです。
アサーティブコミュニケーションはとても良いスキルですが、「上司の姿勢」が伴わないと効果が得られません。行うべきアクションプランは、以下の2つに集約するすることができそうです。
①部下を顧客として尊重する。

部下を下に見ると、上司に甘えが生じてしまいます。横柄な態度や上から目線で話すことは、部下の反感を買ってしまい、指導の本意が伝わらなくなってしまいます。
お客様を相手にするよう、丁寧に傾聴・共感を行い指導の本意を伝えてください。

②部下の表情を観る。
上司の発言を部下がどう受け取っているのか、部下からの「分かりました」という言葉では判別できません。人は考えている事が表情に出ます。部下の表情を観ることで、自分の話に納得しているのか、理解が出来ていないのか、腑に落ちたのかを探ることができます。
指導は、部下に腹落ちしてこそ指導なのです。

 アサーティブコミュニケーションは、相手を尊重しながら自己主張を行うスキルです。今回は部下への指導という一面での活用をご紹介しましたが、仕事やプライベートなど日常生活全般でとても有効なスキルであることは間違いありません。
 信頼の構築や対話においても強力なスキルであり、使えば使うほど効果を実感出来るでしょう。是非意識して活用してみて下さい。

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参照
[1]独立行政法人労働政策研究・研修機構「図1 完全失業率、有効求人倍率」
 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0301.html
[2]総務省「人口減少の現状」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd101100.html
[3]「東京で学ぶ 京大の知」シリーズ15 こころの未来
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/social/events_news/office/syogai/news/2014/140604_1.html
[4]リチャード・セイラーへ突撃取材!人生で合理的な選択は「楽しさ」
https://forbesjapan.com/articles/detail/24630