マネジメントの方法にはいろいろありますが、最近ではITを主軸にした会社でも、さらに時代にあったマネジメント手法を開発する会社が現れ、初期のIT企業とは異なった「新しいマネジメント」とも呼ぶべき文化が注目されています。
そんな中、注目されているのが、企業コンサルタントのロバート・ブルース・ショーが書いた「EXTREME TEAMS (エクストリーム・チームズ)」と言う書籍。これは新しい企業のマネジメント・スタイルがどんなものかを研究した本です。
ここでは、ユニークなスタイルの「究極のチーム」を作り上げた7つの会社が紹介されています。非常に興味深いのでご紹介しましょう。
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目次
優秀な人を集めて良い環境で働かせればOKな時代はおしまい?
「究極のチーム」というと、世界中の一流大学から優秀な精鋭だけを集めて、お互い競争させ、切磋琢磨させれば良いのでは、と思うかもしれません。さらに良い給与を与えて、素晴らしい環境で働かせれば、と。
ところが、実際には、そうではないというのが本書が指摘することです。それどころか、競争だけをさせて、社内政治に奔走させると、倫理的に腐敗するなどの問題が起きると本書では指摘しています。
実際にこうしてダメになってしまった例としてフォルクス・ワーゲンをあげています。
究極のチームを作って失敗したVW(フォルクスワーゲン)の話
フォルクス・ワーゲンは厳しい社内環境で知られています。トップダウンで中間管理職には選択の自由のない企業文化なのです。
強気な売り上げ目標を突きつけられた社員が、燃費試験テストで不正を行い、排ガス量をごまかすソフトウエアをインストールしました。そのごまかしのために、史上最大の集団訴訟に発展してしまいます。
この原因の真犯人について、本書では「フォルクスワーゲンの企業文化にある」と明言しています。
また、本書はアマゾンの過酷な職場環境についても、かなり否定的な意見を紹介しています。アマゾンは利益を追求するあまり、倉庫に冷房をつけずに従業員を働かせ、これが問題になってしまっています。
そして、こうした、「旧態依然」とした会社に代わってここに登場するのはアリババ、ホールフーズ、エアビーアンドビー、パタゴニア、ピクサー、ネットフリックス、ザッポスといった有名企業です。
これら企業はどれもが比較的新しく、またスタイルはどこも独特です。どれ一つとして似通ってはいません。ただし、一つの共通点があります。少々意外なようですが、それは「企業の人間関係・信頼関係をより重視する」という方向なのです。
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マネージャーの仕事は「協力し合える人材をどう組み合わせるか」である
本書では、人間は社会的な動物であり、本能としてコミュニケーションを必要とすることが強調されています。そして会社というのは、家庭に次いで人が時間を過ごす場所です。ですので会社における「チーム」の役割は極めて重要であることが述べられています。
例えば、アメリカの食品業界で成功しつつある「ホールフーズ」も「フレンドリーな職場づくり」に力を入れているというのです。ただし、その「フレンドリーさは過酷な職場環境と表裏一体でもある」と。少し意外に思われるかもしれませんが、本書に出てくる会社はどこもかなりハードな仕事ぶりです。
そんななかで、リーダーに求められる役割で大事なことは、「会社の成長に必要なチームを揃えて、サポートしていくこと」と主張します。
相性ぴったりのチームを作るのは簡単ではありません。一人ひとりの出身や経歴、価値観、性格、それから働き方の癖や習慣など、様々な要因を考慮に入れる必要がある、というのです。
ところが難しいのは、優秀な人材を集めれば集めるほど、チームを統率するのが難しくなるという点です。
職場に信頼関係が重要である理由
例えば、映画「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」で知られるピクサー。並外れた成功で知られる会社でもありますが、アニメーション制作は過酷な仕事です。
なおかつ、優秀なクリエーターを集めて魅力的なストーリーを作らなければならないとなれば、そこをチームとしてまとめるのがいかに難しいかは想像できます。しかも映画制作はスパンの長い仕事で、ピクサーは途中で監督を交代させたことでも知られています。
ピクサーの場合は、映画製作という仕事上、お互いに、正直に、厳しいフィードバックを与えることがあるのだそうです。この厳しいフィードバックは「信頼関係」なしには成り立たないとピクサーの人々は話しています。
「CEOのエド・キャッスルは協力し合える人材を見つけることの重要性を指摘している。」[1]と書いています。それこそが、「個人では実現しえないものを生み出す」のだと。
また、著者はピクサー作品に関わってきた人にインタビューし、以下のような言葉を引き出しています。
「信頼が薄れ始めると、作品に悪影響が出ます。信頼感が失われているというサインはいろいろあって、たとえば会議に出なくなったりします。あるいは会議中にスマホをいじっている時間が長くなります。(中略)仕事はしていても、心は込もっていないのです。」[1]
これを読んで、思い当たる節がある方もいるでしょう。会社や人間関係に不信感があると、あっという間にやる気がなくなるーーそんな経験をした人は多いのではないでしょうか。
ピクサーCOOだったジョン・ラセターも、ピクサーの企業文化は深く結びついた人間関係がベースだといい、「ピクサーにいる人たちは、みんな私の親友だ」と話してます。
ただし、彼はこの書籍の刊行後の2018年、セクハラ問題でピクサーを去っていますので、親密になりすぎるのにも、限度があるかもしれません。
信頼関係がある職場・ない職場
信頼関係がなくなると、途端にやる気が失われるーーこれは私が勤務したいくつかの企業でも感じました。
マレーシアの外資系企業で働いていたときのこと。
仕事はハードで、給与は高くなく、従業員は厳しい制約の中、長時間働いていました。なかなか過酷な職場です。
ところが、チームの雰囲気は悪くないのです。上司と部下が皆でゲームをしたりピザを注文して音楽を楽しんだり、冗談を言ったりしながら仕事していました。
ユニークだな、と思ったのが、社員同士や上司・部下間で、毎日、握手やハグをする文化があることです。このスキンシップのおかげで信頼関係が生まれ、さらには仲間意識と助け合う雰囲気が活気がありました。
一方、社内に小さい「うそ」や「隠し事」があると、メンバーの士気は一気に下がります。
信頼関係が失われるからです。
例えば、部下に対して、情報を隠そうとする上司がいました。「お前はそんなこと知らなくていい。とにかくやれ。黙って期日までに実行しろ」と。すると、「信頼されていない」と感じたメンバーは、意欲を失ってしまうのです。
外資系企業でもさまざまなスタイルがあるということ。
マネジャーの仕事は、チームや社内の文化そのものを、デザインすることそのものだということです。
ピクサーの文化はちょっと特異かもしれませんが、「信頼」や「社内の人間関係」が大事であることは、他の企業の例にも出てきます。この本には他にも興味深い事例が紹介されていますので、マネジメント・スタイルの参考になります。
いろいろな方法があることがわかるので、一読をお勧めします。
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筆者:のもときょうこ
ライター・編集者。マレーシアマガジン編集長。現地で情報発信の仕事のほか、マレーシアでインバウンド(観光)やマーケティングなどの仕事に従事している。最新刊「日本人は「やめる練習」がたりてない (集英社新書)」発売中。
参照
[1]書籍「EXTREME TEAMS」ロバート・ブルース・ショー、上原裕美子(翻訳より)