パナソニックといえば何をイメージしますか?
- 「テレビや冷蔵庫、洗濯機などの白物家電」
- 「経営の神様、松下幸之助が創業した企業」
- 「女優の綾瀬はるかさんがCMに出ている」
など、パナソニックに対して抱くイメージは人それぞれだと思います。
しかし、ここではあなたの知らないパナソニックの一面をご紹介します。
その一面とは、社会インフラを支える産業用電池、車載用電池等を展開する「電池メーカー」としてのパナソニックです。
特にEV(電気自動車)電池メーカーとしてのパナソニックは、世界で存在感が増しつつあります。
本記事では、パナソニックのEV電池事業や、新開発したEV電池に関する基本的な知識などを解説していきます。
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目次
EV向け新型大容量電池を和歌山で量産へ テスラに供給
パナソニックの梅田博和CFO(最高財務責任者)は、2022年2月2日に開かれた決算説明会で、電気自動車(EV)向けの新型大容量電池「4680」を量産するための設備を、800億円前後を投じて和歌山工場に構築すると発表しました。
梅田CFOは「4680」について、アメリカの電気自動車メーカー「テスラ」から「非常に強い要請を受けている」と語り、テスラへの優先的な供給をするとしています。
パナソニックはすでにテスラの要求を満たす水準の試作品を完成させており、今後は量産化の検証に入ります。
新型EV向け電池「4680」とは
パナソニックが新たに開発したEV向け大容量電池の「4680」とは、どのようなものなのでしょうか?
「4680」は、直径46ミリメートル、長さ80ミリメートルの円筒形リチウムイオン電池です。従来の電池と比較して直径が2倍以上も大きく、EVの走行距離を大きく伸ばせると期待されています。
パナソニックは、従来品よりも大型化することによって1本当たりの電池容量を5倍に向上させつつ、車体に組み込む際の工数を減らすことを可能にしました。
パナソニックの津賀一宏社長は2021年3月、ブルームバーグのインタビューに応じ、「4680」の最も大きな魅力を「低コスト」だと語っています。
また、すでにテスラ以外の自動車メーカーからも声がかかっているため、量産化が軌道に乗ればテスラ以外の企業にも供給していくといいます。
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新型EV電池のポイント
なぜ、テスラはパナソニックの新型電池を「強く要望」するのでしょうか?
その秘密は「世界最長水準の走行距離」にあります。
EVは1回の充電で走れる距離がまだまだ短い
現在、EVの市場は急速に拡大しており、今後も世界の自動車販売に占めるEVの比率は急速に増えると考えられています。
しかし、現段階ではEVの普及はそれほど進んでいません。
その理由は、値段が高いこと、充電インフラが整っていないことなどさまざまありますが、1回の充電で走れる距離がまだそこまで長くないというのも大きな理由です。
世界初の量産型EVとして、累計販売台数が50万代を超える日産リーフの航続距離はおよそ320kmです。
一方でガソリン車は1回の満タン給油で平均600km以上走ることができ、なかには1,500km走行可能な車もあるため、ガソリン車と比較するとどうしても見劣りしてしまいます。
パナソニック製新型電池のスゴさ
EVの大きな課題の一つ「走行距離の短さ」はまさに電池性能の問題です。
今回パナソニックが新型EV電池「4680」の量産化に成功すれば、この状況は大きく変わる可能性があります。なぜなら、「4680」は走行距離を2割ほど長くすることができ、重量あたりで世界最長水準となるからです。
テスラには優先的に供給されるため、テスラの高級セダン「モデルS」に採用されるとなれば、1回の充電で走れる距離は現在の650kmから750kmに伸びることになり、容量あたりのコストも10%から20%ほど下がるとされています。
低コストが実現できた理由
津賀一宏社長は「4680」の最も大きな魅力として「低コスト」を挙げましたが、どのようにして低コストを実現したのでしょうか?
「4680」では、従来品よりも体積を増やすことによって、正極・負極の活物質の割合を高め、コストが高いアルミニウム合金の使用量を相対的に減らせます。さらに、タブレス構造によって集電体とタブを接合する溶接工程を省くことが可能です。
この結果、電池のコストを14%減らせるとテスラは見積もっています。
円筒形の理由
パナソニックの新型EV電池「4680」は円筒形電池であり、普段私たちが使用している乾電池と似たような形をしています。
しかし、一般的にEVに使用されるリチウムイオン電池は四角い形状やパウチに封入するタイプが主流です。
「4680」のように円筒形の小さな電池の場合、大量に搭載するため緻密な制御が困難で、大手自動車メーカーではテスラ以外は採用していません。
さらに、円筒形電池はバッテリーパックとして詰め込む際に、どうしてもムダなスペースができてしまいます。
それでも円筒形電池を採用する理由は、バッテリーそのもののエネルギー密度を高くすることができ、放熱性などでも利点があるからだと考えられています。
しかし、EVシフトが進めばEV市場におけるテスラの優位性は失われていく可能性があるため、円筒家電池の欠点をカバーできるバッテリーをテスラは望んでいるはずです。
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基本構造を変革したパナソニックはEVの波に乗れるか
新型EV電池の開発と量産によってEVの波に乗るパナソニックですが、近年のこうした動きはパナソニックが自社の基本構造を変革することに関係していると考えられます。
パナソニックの津賀一宏社長は、「事業の競争力の強化には『専鋭化』が不可欠である」として、スピード感のある環境変化への対応や事業競争力の強化を目的に、グループの基本構造を大きく変革することを明かしています。
そして、2022年4月から持株会社制に移行し、社名は「パナソニックホールディングス」に変更され、各事業会社を分社化して完全小会社化されることになっています。
- オートモーティブ事業
- スマートライフネットワーク(AVC)事業
- ハウジング事業
- 現場プロセス事業
- デバイス事業
- エナジー事業
これらの事業部門は複数の事業会社に継承され、エナジー社では従来のカンパニー制でオートモティブ社やインダストリーソリューションズ(IS)社に散らばっていた電池事業を一つにまとめあげて、2022年4月に「パナソニック エナジー社」が発足される予定です。
エナジー社の事業
エナジー社の主要生産拠点は国内に8ヶ所、海外に12ヶ所で合計20ヶ所あります。従業員は国内に4,500人、海外に1万5,500人の合計2万人となります。
エナジー社の事業は、下記のようになっています。
事業 | 内容 |
エナジーデバイス事業部 | ニッケル水素電池や乾電池、リチウム一次電池などを扱う |
モビリティエナジー事業部 | テスラ向けを中心とした車載用円筒形リチウムイオン電池の展開 |
エナジーソリューション事業 | 小型リチウムイオン電池と蓄電システムや蓄電モジュールなどの組電池を手掛ける |
売上高の半分以上はモビリティエナジー事業部の車載向け電池で占められており、残りはエナジーデバイス事業部とエナジーソリューション事業部によるものとなっています。
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パナソニックが目指す「コバルトフリー電池」
大容量の新型EV電池を開発し、現在はその量産を目指しているパナソニックですが、さらにその先を見据え、「コバルトを使わない高容量電池」の投入を目指しています。なぜでしょうか。
将来的に不足することが予想されるコバルト
パナソニックがコバルトフリーを目指す理由は、将来的にコバルトの需要が高まることが予想されているためです。
EVに使用されるリチウムイオン電池には、一般的にコバルトが用いられています。
今後はEVがどんどん普及していき、それに伴ってリチウムイオン電池も大量に製造されるため、多くのコバルトが必要になります。しかし、コバルトの世界の合計埋蔵量は710万トンほどです。
一方で、2025年にはEVやその他の用途も含めて25万トンのコバルトの需要が予想されており、その需要がそこから横ばいになったとしても30年以内にすべて使い切ってしまう計算になります。
このような背景があるため、コバルトは供給が安定しない状態が続いており、価格も高騰しているのです。その結果、世界各国でコバルトを使わないバッテリーの開発競争が激化しています。
ESGやSDGsの視点からもコバルトフリーを目指す
さらに、世界のコバルトの半分以上を算出しているコンゴ民主共和国では、貧しい人々が特別な訓練を受けることなく簡素な道具を用いて穴を掘っているケースが少なくありません。
その結果、頻繁に崩落事故が起きて犠牲になる人が出たり、子どもが1日200円ほどで長時間働かされたりするという状況に陥っています。
つまり、低価格で安定的に調達することが難しいからという点に加えて、ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の視点からもコバルトフリーを目指す動きが活発化しているのです。
新型コロナウイルスの感染拡大以降は、ESG評価の高い企業に投資が集まる傾向にあるため、資金の安定調達のためにもコバルトフリーは重要な課題となってきています。
まとめ
ここまでパナソニックの新型EV電池についてみてきました。
EVの要ともいえるバッテリーは、今後もEV市場が拡大するにつれて需要も増していくでしょう。
その時、パナソニックがEV電池メーカーとして活躍していることを期待しています。