新型コロナウイルスによって、経済的に大きなダメージを受けた企業は少なくありません。
さらに働き方改革の推進や少子高齢化、生産年齢人口の減少によって、人手不足が深刻化しつつあります。
またビジネスのグローバル化によって、海外からは安くて質の良い商品やサービスが供給され、競争力に乏しい中小企業は困難な状況に陥っています。
このような状況から抜け出すためには、企業の成長が欠かせませんが、そのためには生産性向上が不可欠です。
しかし、「生産性向上=ただのコストカット」と捉えられることも少なくなく、適切に生産性向上の本質を理解していないケースは存外も多くなっています。
そこで本記事では、生産性向上の本質的な意味や、生産性向上につながる具体的な施策を解説していきます。
関連記事:業務効率を改善する10の方法 失敗しないためのポイントや生産性向上の違いを解説
目次
そもそも「生産性向上」とはどのような意味?
近年になって「生産性向上が喫緊の課題」といったような文脈で「生産性向上」という言葉をよく見聞きするようになりました。
しかし、なんとなくのイメージで「生産性向上」という言葉を捉えていませんか?
ここではまず、生産性向上の意味について見ていきましょう。
生産性向上とは
「生産性」とは「最小限の投資で最大限の成果を生み出すこと」を表す指標です。
したがって、何らかの施策を打つことで生み出せるアウトプット(生産量や付加価値、生産額)の割合を増やすか、導入するインプット(時間や資本金、労働力など)の量を減らすことによって、相対的に生産性を高める活動を「生産性向上」といいます。
経営資源が乏しい中小企業において生産性向上が重要な理由は、限られた経営資源のなかで少しでも多くのアウトプットを出さなければならないからです。
生産性向上と業務効率化の違い
生産性向上を考える際に混同されがちな言葉として「業務効率化」が挙げられますが、この2つは全く異なる言葉であるため注意しましょう。
業務効率化とは、業務におけるムダやムラを無くしたり減らすことで、業務の高速化や業務を処理できる量を増やすことを指しています。
従業員によるバラツキや業務において必要のないムダな動きを削減し、より効率的に業務を進めることが目的です。
そのため、業務効率化においてはコストカットにつながる行動や施策が重要視されます。
関連記事:生産性向上につながるオフィス環境とは?オフィスの重要性や生産性が低いオフィスの共通点を解説
生産性の種類
「生産性」と一言でいっても、生産性には種類があるため、「どの生産性を高めるのか」あるいは「どの生産性を高めたいのか」を明確にしておくことが重要です。
付加価値労働生産性
私たちは何気なく「付加価値」という言葉を使っていますが、その意味を正しく理解しているでしょうか?
付加価値とは、売上高(生産額)から材料費や機械の修繕費、外注加工費、動力費など外部購入費を差し引いたものです。粗利のようなイメージをすると良いかもしれません。
生産性向上においては、この付加価値を高めることが重要です。
付加価値を高めるには、
- 外注費の削減
- 人件費の削減
- 業務効率化
- 新商品の開発や新市場の開拓
などを実施することによって実現できます。
日本企業は正社員の業務を非正規社員にシフトして人件費を削減してきましたが、それでもまだ生産性は低いままです。
今後は業務プロセスの見直しや効率化などが求められるでしょう。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、生産するものの大きさや重さ、個数などといった物量を単位とするもので、下記の計算式で算出します。
物的労働生産性=生産量÷労働量(従業員数や労働時間)
一般的に生産物の価格は、物価の変動や技術の進歩などの要因で変わるので、金額ではなく物量を単位として生産性を測定することが必要です。
生産性向上によって期待できるメリット
では、企業の生産性を上げることでどのようなメリットが期待できるのでしょうか?
生産性向上によって得られるメリットを大きく分けると、4つ。
- ワークライフバランスの向上
- 企業競争力の強化
- コストカット
- 人手不足への対応
それでは1つずつ解説していきます。
関連記事:生産性向上を実現する方法とは?必要性や向上しない企業の共通点を解説
ワークライフバランスの向上
これまでの日本企業の問題点として、長時間労働が挙げられています。
長時間労働を改善するために働き方改革が推し進められていますが、これにより今まで長時間労働によってこなしてきたのと同じ仕事量を、短い時間で終わらせなければならなくなりました。
例えば、今までは10時間かけて生み出したアウトプットを8時間で生み出せることができれば、生産性が大幅に向上します。
この結果、生産性向上に伴って長時間労働も是正され、ワークライフバランスが向上します。
企業競争力の強化
ライバル企業に負けず、企業が存続し続けるためには企業競争力の強化が不可欠です。
そして、企業競争力の強化には生産性向上が有効であるため、中小企業こそ生産性向上に努めなければなりません。
仮に自社がライバル企業よりも規模が小さな会社だとしても、重要なのは生産性であり、高い生産性を維持できていれば負けることはないでしょう。
また、詳しくは後述しますが日本企業の生産性は世界的に見て低い水準にあるため、ビジネスのグローバル化が進むなかで日本企業がプレゼンスを発揮するためにも、生産性向上は必要不可欠です。
コストカット
生産性向上とコストカットはコインの表と裏のような関係かもしれません。
なぜなら、生産性向上が実現すれば、アウトプットの量を変えずにインプットするリソースの量を減らせるからです。
固定費や原材料費などを減らすことができれば、コスト削減ができます。例えば、これまで長時間労働によって生じていた残業代を支払わずに済み、ムダな出費を減らせます。
こうして浮いた費用をイノベーションの創出や新規事業への投資、労働環境の改善などに回せるようになるでしょう。
人手不足への対応
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2021年7月)」によると、正社員が不足している企業は40.7%であり、2020年5月以降上昇傾向にあります。
業種別では見ると「建設」では57.5%と最も高くなっています。
このように、新型コロナウイルスが収束しつつある昨今において、経済活動が活発になりはじめて再び人手が必要になり始めているため、人手不足に陥る企業が少なくありません。また、今後は生産年齢人口が減少するため本格的な人手不足となることが予想されています。
人手不足が深刻化するなかで、少ない人手でどれだけ生産性を向上させられるかが、今後の企業活動においては鍵となるでしょう。
(参考:人手不足に対する企業の動向調査(2021年7月)丨帝国データバンク)
関連記事:生産性とは?意味と定義、計算方法までをわかりやすく解説
日本において生産性向上が重要な理由
上記のように生産性向上によっていくつかのメリットが期待できますが、生産性向上の重要性が認識され始めたのには、下記のような背景があります。
- 世界的に見ても低い日本企業の生産性
- 生産年齢人口の減少
- 国際競争力の低下
それでは1つずつ解説していきます。
世界的に見ても低い日本企業の生産性
公益財団法人日本生産性本部による「労働生産性の国際比較2020」によると、日本の時間あたりの労働生産性は47.9ドル(およそ4,800円)で、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国のなかで21位という低水準でした。
また、就業者一人当たり労働生産性も81.183ドル(およそ824万円)で、OECD加盟37カ国のなかで26位です。
日本企業の生産性が低い理由としては「製品やサービスに求められる品質の水準が高すぎる」ということが挙げられます。
日本の製品やサービスのクオリティは世界トップレベルですが、裏を返すと「お金にならないことにお金や時間をかけすぎている」ということになるのです。
(参考:労働生産性の国際比較2020丨公益財団法人日本生産性本部)
生産年齢人口の減少
ここまで何度か触れていますが、日本の労働生産人口は減少の一途をたどっています。「労働生産人口」とは15歳以上65歳未満の人口のことで、1990年代をピークに減少し続けており、今後も増加する見込みがありません。
労働生産人口の減少によって、農業や製造業、サービス業などありとあらゆる業界において労働力の確保が困難な状態に陥ることが予想されています。
実際、労働力の確保ができずに倒産してしまう「人手不足倒産」も増えています。
外国人労働者を受け入れることで労働力を補おうとしていますが、これに伴い日本企業も生産性向上を目指さなければなりません。
(参考:期待される労働市場の底上げ丨総務省)
国際競争力の低下
2021年6月にスイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界競争力ランキング2021」では、64カ国のなかで日本は31位でした。
前回の調査では34位で1997年以降最低の順位を記録していました。今回は前回よりも少しだけ順位は上がりましたが、それでも依然として停滞しています。
さらに国際競争ランキング(WEF)では、2019年の日本の競争力は30位となり、10年間で17位から30位に低下しています。さらに、ビジネス効率性においては4年連続で低下し続けているのです。
このように、日本の国際競争力は低水準で停滞していたり、年々低下し続けているため、このままでは世界の企業に負けてしまうのは目に見えています。だからこそ、生産性向上が急務となっています。
(参考:World Competitiveness Ranking丨IMD)
(参考:WEF国際競争力ランキングにおける日本の国際競争力丨内閣府)
関連記事:タイムマネジメントは生産性向上に効果的!メリットや方法、注意点などを解説
生産性向上を実現させるための方法
上記で見たように、日本がいかに難しい局面に立たされているかがご理解いただけたでしょうか。
そこで、日本企業がこれから生産性向上を実現するための方法をご紹介します。
- 現状の把握と分析
- 業務の「見える化」
- 業務のムダを削減する
- 従業員のスキルアップ
- 従業員のモチベーションの維持・向上
それでは1つずつ解説していきます。
現状の把握と分析
まず、はじめに行うべきことは、自社の現状を把握して分析することです。現時点で自社の生産性がどれほどのものか把握しなければ、改善のしようがありません。
このとき、1人で行うには限界があるため現場で動く従業員への聞き取りを行うべきです。経営陣や管理者からは見えないところで余計なコストがかかっているかもしれません。
業務の「見える化」
次に、業務の「見える化」を行います。アンケートやヒアリング、マニュアル整備などを実施して業務の工程や成果・コストといった情報を見える化することで、3つの効果が期待できます。
1つ目は、情報共有によって従業員の意識が変わることです。例えば、製造現場で、原材料や営業利益、人件費といったプロセスごとのコストを見える化することで、従業員のコストに対する意識を高めることができます。
2つ目は、コミュニケーションロスの削減による業務効率化です。必要な情報がひと目で分かるように工夫しておけば、情報の伝達ミスを回避でき、結果的にムダをなくせます。
そして3つ目は、課題の特定です。業務の工程を見える化して分析すれば、ボトルネックになっている工程やムダや重複がある工程など、改善できる部分を特定できます。
業務のムダを削減する
従業員が当たり前のようにやっている業務について、「なぜその業務を行っているのか?」をひとつひとつ解説できるでしょうか? もし、なぜやっているかわからない業務があれば、それはムダな業務かもしれません。
何も考えずにムダな業務を行っている可能性も高く、ムダな作業は従業員のモチベーション低下にもつながります。
しかし、業務のムダを見つけるには1人では難しい場合もあるため、可能であればプロジェクトチームをつくって業務改善にあたるのが理想的です。
従業員のスキルアップ
生産性向上には従業員一人ひとりのスキルアップを図ることも効果的です。一人ひとりの作業スピードが速くなったり作業量が増えれば、生産性向上につながります。
このためにも、従業員のスキルアップにつながる社内勉強会などの施策や取り組みを行ったり、専門資格取得への手当などインセンティブを与えるのも良いでしょう。
従業員のモチベーションの維持・向上
どれだけ優れた従業員でも常に高い生産性を保てるわけではありません。
業務によっては「これは自分がやることではない」や「おもしろくない」といったように、モチベーションが上がらないときもあるでしょう。
このような場合、作業スピードが低下したりケアレスミスが増えるなど、生産性に大きく影響するため、モチベーションの低下は生産性向上を阻害する要因となります。
したがって、従業員のモチベーションに気を配ることは生産性向上において有効な手段です。
関連記事:ワークシェアリングとは?多様な人材の雇用で生産性を向上するための考え方を徹底解説!
生産性向上のための取り組みで注意するべきポイント
生産性向上のための取り組みは十分に検討したうえで計画的に進めていくべきです。
そうでなければ逆効果になってしまう可能性もあります。そうならないために、生産性向上を進める際には下記のポイントに注意しましょう。
- マルチタスクの推進
- 現場を無視した施策
- 個人の生産性向上の追求
それでは1つずつ解説していきます。
マルチタスクの推進
生産性向上のために一人の従業員がいくつもの業務をこなす「マルチタスク」を推進する企業が少なくありません。確かに、労働者数というインプットを減らせるため、生産性向上につながりそうですよね。
しかし、マルチタスクは生産性を大きく損ねることが、いくつもの科学的研究によって明らかになっているため、マルチタスクの推進は行うべきではありません。
現場を無視した施策
経営陣が現場の動きを無視した施策を打ち出すと、現場の従業員のモチベーションが下がってしまいます。
現在の業務をこなすだけで精一杯であるにも関わらず、現場を無視した新たな方針を決められても、現場には受け入れられないことがあります。
したがって、現場から施策の提案がなされるのが理想的ですが、それが難しい場合は経営陣が現場の意見を聞き取って施策に反映させることが重要です。
個人の生産性向上の追求
個人の業務スピードやこなせる業務量を増やすことで、生産性向上につなげられます。
しかし、生産性向上はあくまで組織全体で考える必要があり、個人の生産性向上を追求しすぎると組織より自分を優先してしまい、返って組織全体の生産性が下がることがあります。
このような事態に陥らないようにするためにも、管理者が適切にマネジメントをしなければなりません。
関連記事:「仕事ができるふりをする人」が周りの生産性を下げる【対処法あり】
まとめ
ここまで生産性向上の重要性やメリット、方法などを見てきました。
働き方改革の推進による長時間労働の是正や、新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワークの普及によって、働き方が大きく変わる昨今。
従来から問題視されている日本の労働生産性の低さがさらに深刻化しないように、労働生産性の向上が急務となっています。
まずは現状の把握と分析を行うことから始めてみてはいかがでしょうか。
関連記事:人件費削減の本質とは?メリットとデメリット、失敗しないための注意点や方法を解説