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汎用性の高い組織マネジメント手法の一つとして、目標管理制度が広く流布しています。
さまざまな企業が人事評価の一部として導入している一方で、その正しい運用方法について知っている人は多くありません。
本来の意図と乖離した方法で運用してしまうと、思わぬデメリットが生じてしまうケースもあります。そこで、本記事では目標管理制度の概要と一連の流れの解説、さらにはポイントやツールを紹介します。
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目標管理とは
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目標管理とは組織全体の目標と個人目標を連動させ、各社員に自主管理させることによって組織全体の目標を達成する手法です。闇雲に業務を行うのではなく、社員が自律的、意欲的に業務を行っていくことで、組織の生産性を上げていくことに効果的とされています。
この手法はマネジメントで脚光を浴びた経営思想家ピーター・ドラッガーが提唱した「目標による管理(Management by Objectives : MBO)」に基づいた制度です。
目標管理の概要
この目標管理制度には以下3つがあります。
- 課題達成型
- 組織活性型
- 人事評価型
課題達成型は組織の目標を第一に考え、それに応じた個人目標を設定するトップダウン方式です。組織活性型は個人に目標を自主的に設定する方式で、日本においては最もオーソドックスな目標管理制度です。
人事評価型は、目標達成と業務評価を並行しながら個人能力を向上させる手法で、人事評価手法の一つに数えられます。
目標管理の歴史
1954年にゼネラル・エレクトリック社の顧問をしていたドラッカーが執筆した『現代の経営』の中で提唱したのが目標管理制度でした。
その後1950年代にはアメリカ企業から急速に制度が広まり、日本へはバブル崩壊後の1990年代に導入され始めました。年功序列だった日本企業が成果主義へと舵を切った時期でもあり、給与年棒制や目標管理制度に則した評価制度の導入が推奨されました。
目標管理制度導入後は現場で弊害が出ましたが、プロセス面も評価項目に組み込むなどし、社員の納得度を高める評価制度に改変してきました。
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ノルマのようにトップダウンによって一方的に業務が与えられるのではなく、個人で考えて目標を設定し、目標達成に向けて主体的な活動をサポートできるのが目標管理制度の特徴です。
よくノルマ管理ツールと誤認識されますが、人材育成にも効果的な手法です。目標設定の際には上司からの承認が必要ですが、基本的にはボトムアップの形式をとります。そんな目標管理制度を導入することへの3つのメリットを解説します。
- 人事評価がしやすい
- 社員のモチベーション向上に寄与する
- 能力開発や人材育成に繋げやすい
それぞれ詳しく解説します。
人事評価がしやすい
目標管理制度のメリットは目標に対してのプロセス、進捗、結果が可視化され、公正な人事評価がしやすいことです。
目標管理制度を導入することで、目標と結果が明確になっていることから評価査定がしやすくなり、また評価に対し管理者と従業員双方の納得が得やすくなります。
「評価が良かったのは目標を達成したから、悪くなったのは目標未達だから」という明確な評価基準が設けられるという理由から、多くの企業で人事評価と目標管理制度をセットで導入するパターンが増えています。
社員のモチベーション向上に寄与する
冒頭で解説したとおり、目標管理においては個人目標と組織目標を連動させる考えのもと行っていきます。個人目標を達成することは組織全体の目標達成に寄与するのです。
当然ながら個人が掲げた目標を達成すると、その分会社の業績に寄与するので周囲から称賛を受けます。上司からの評価も上がることで満足感もあり、結果として社員のモチベーション向上にもつながります。
能力開発や人材育成に繋げやすい
個人目標は、個人のレベルより少し高い目標を立てることが理想的です。少し目標を高めに設定することで、各々が目標を達成するために、必要な知識やスキルを自ら習得しようと努力します。
また自然と社員の人材育成、能力開発が行われ、個々のスキルアップも期待できます。組織全員がこのような活気的に業務を遂行することで、結果として組織全体のスキルアップが可能となるのです。
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目標管理制度(MBO)のデメリット
目標管理制度にはメリットだけでなくデメリットも存在します。
もちろん、正しく運用をすれば効果は得られますが、デメリットも知っておくことで、目標管理制度を導入するか否かを検討する際の指針にもなるでしょう。
また、本来目標管理制度は組織マネジメントに必要なツールです。しかし、運用方法によっては、人事評価の判断材料としてのみ用いられ、平凡なノルマ管理になる可能性もあります。
- 管理職の仕事量が増える
- 目標設定が建前化する
- 時代の流れに柔軟に対応できない
それぞれ詳しく解説します。
管理職の仕事量が増える
目標管理制度は、管理者の仕事が増えるデメリットがあります。個々の社員は目標達成に向けて計画、行動しますが、それを管理する管理職は社員に対して評価やフィードバックを行う必要があります。
管理対象となる社員が増えると、必然的に管理業務が増え負担も大きくなります。評価するにもしっかりと社員を観察しなければならず、フィードバックする際も社員のモチベーションを保つような言動で行うなど気を使わなければならず、精神的な負担も大きくなります。
目標設定が建前化する
社員がその目標を達成する意欲が無いにもかかわらず目標を強いられる場合、目標設定が建前化し、上司や組織の機嫌取りのための目標になる可能性があります。
個人の目標設定は社員が主体的に設定するのが基本ですが、建前化してしまうとその社員にとってはただのノルマに成り下がります。
ケースとして、故意に低い目標設定にし、安易に達成することで人事評価を得ようと企む社員も出てくる恐れがあります。そのため、個人目標を設定する場合には、しっかりと社員とのコミュニケーションをとり、目標設定を誤らないように管理者は注意を払う必要があります。
時代の流れに柔軟に対応できない
時々刻々と変化する社会情勢の中では、当初掲げた企業の方針を修正しなければならないこともあります。
そういった組織全体の目標が修正された場合には、もちろん連動させた個人目標も修正していかなければなりません。
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目標管理制度の概要やメリット、デメリットを解説したところで、次に目標管理制を行う流れについて解説します。
目標管理制度は正しい手順に沿って行うことが重要です。
- 組織の全体目標を決定し現場に共有する
- 社員の個人目標を設定する
- 上司が個人目標の進捗を確認しながらメンテナンスを行う
- 上司が評価を下し部下へのフィードバックとアフターフォローを行う
ただし、目標管理制度はあくまで組織のマネジメントツールでしかありません。臨機応変に対応策をとっていく必要があります。
STEP1 組織の全体目標を決定し現場に共有する
まずは、組織全体の目標を現場社員に共有することから始まります。
次のステップである個人目標の設定の際も、この全体目標を軸に考え、組織に貢献できるようにします。そのため、経営陣が先陣を切って組織全体の目標を考えなければなりません。
その後、管理職へと共有し、その流れで現場社員へと共有します。管理職は組織全体の目標の意図や内容を伝達し、個人目標の基準にしてもらう旨を伝えます。その際、間違った情報や意図を伝えないように注意することが大切です。
STEP2 社員の個人目標を設定する
社員への組織の全体目標の共有が終わった段階で、次は個人目標を設定してもらいます。
その際、設定する個人目標が具体的かつ定量的なのかをチェックしましょう。
また、実現不可能な目標や簡単すぎる目標は、社員の意欲を損なう可能性があるため、目標の妥当性も確認しましょう。そして、目標達成するための具体的な行動量や期日などを一緒に決め、部下が目標達成しやすいような環境づくりをしましょう。
STEP3 上司が個人目標の進捗を確認しながらメンテナンスを行う
社員の個人目標が決まったら、上司はその目標の進捗を確認しながらメンテナンスを行っていかなければなりません。
そのまま放置というのが最も無責任な上司の行動です。例えば、部下の進捗を確認し、個人目標の達成が難しい場合は下方修正を行うこともあります。また、部下のモチベーションもしっかり把握しながら、必要であれば精神的なサポートも必要となってくるので、部下との面談を定期的に行う必要があります。
STEP4 上司が評価を下し部下へのフィードバックとアフターフォローを行う
年度末に入り、評価を決定する時期になると上司が評価を下し、部下に結果の説明も含めたフィードバックを行います。
この際上司は、客観的に部下の業績を評価し、丁寧に評価結果の説明を行わなければなりません。また、フィードバックを行った後は、必ずアフターフォローを行います。
評価が良い場合には、来年度もモチベーションを維持できるよう激励の言葉をかけるなどし、反対に評価が悪かった場合には、部下に対して労いの言葉をかけることでモチベーションを向上させましょう。
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経営者
目標管理制度を導入する上で押さえるべきポイントは以下4つです。
- 実現可能かつ具体的な目標を立てる
- 全体目標と個人目標を関連付ける
- 社員の自主性を尊重する
- 成果だけでなく過程も評価する
それぞれ詳しく解説します。
実現可能かつ具体的な目標を立てる
設定する目標は、本人のスキルや努力を鑑みたうえで、実現可能な範囲で立てることがポイントです。
本人の能力であれば容易に達成できる目標は、目標達成時の達成感も低く、成長の伸び代も僅かです。反対に、能力を過信するあまり高い目標設定をしてしまうと、かえって「達成できなかった」という経験がモチベーションを損ねます。
目標を設定する際に最も効果的な目標は、「努力すれば達成できる目標」です。数値化でき視認性のある目標設定が理想です。
全体目標と個人目標を関連付ける
組織の一員である以上、個人目標は全体目標と関連付けた目標にすることで、社員としても、「組織の中で役目を果たしている」という認識ができ、自尊心を維持できます。
これは非常に重要なことで、仮に組織の中で無価値な存在だと感じてしまうと、業務が散漫になり目標達成が非常に難しい精神状態になってしまう危険性があります。社員が見当外れな個人目標を立てると、そういった状態に陥ってしまう可能性があるので、全体目標をしっかり理解し、それと関連した個人目標を設定することが条件です。
社員の自主性を尊重する
全体目標と関連付けることに留意したうえで、個人目標は社員の自主性を尊重し、あくまで自ら目標を決めることがポイントです。
自ら設定した目標を課すことで、自律的に努力し、大きな成長を遂げる可能性があります。
社員にノルマや目標を押し付けるのではなく、本人が望む姿を実現できるような目標を、自らが決定することで、組織を活性化できるでしょう。
成果だけでなく過程も評価する
社員の中には下された評価に悩む人もいます。目標管理制度はどうしても客観的な数値だけが提示されるため、その理由が分からない社員もいます。そういった場合にはしっかりとフィードバックを行い、その理由を説明する義務があります。
またフィードバックの際も、部下が「次も頑張ろう」と思えるようなフィードバックをすることが大切です。上司が親身になることで、部下との信頼関係が構築され、より意欲的に業務を行ってくれるでしょう。
目標管理ツール
目標管理ツールの中には、人事評価と連携させた機能を搭載しているサービスもあります。目標管理と人事評価を効率的に連動させることで、業務の改善が見込めるというメリットがあるからです。
こうしたツールを活用することで、目標管理と併せて人材育成や人事評価などの仕組みを構築することもでき、さらには人事評価情報の一元管理や、能力、経験等を可視化することにも活用できます。今回は目標管理ツールの中から以下3つを紹介します。
- Resily
- HRBrain
- banto
Resily
Resilyは目標管理と人事評価のマッチングだけでなく、組織目標とのつながりを共有するためのインフラも整っています。
例えば、マップ機能、毎日の行動計画管理、目標などを一元管理し、マネジメントの効率化を図る機能があります。組織目標を個人目標まで落とし込むことができ、取り組むべき業務が明確になるため、高い目標達成率を実現できます。
OKR(Objective and Key Result)を目標管理のフレームワークとして採用しており、組織目標から逆算して個人目標を設定することも可能です。
HRBrain
HRBrainは、各種目標と人事評価のプロセスを一元管理しスキルを可視化できます。主に人事で生じる各種課題を戦略的に解決することがHRBrainの特徴です。例えば、人員配置の最適化やポテンシャル人材の把握分析、1on1ミーティングの運用サポートといったサービスを展開しており、目標管理シートと1on1ミーティングを掛け合わせることで、効率的なフィードバックがオンライン上で可能となっています。
banto
bantoは、メッセージアプリのSlackと連携して進捗管理ができることが特徴です。
Slack内のbotの質問に答えていくだけで自動的にbantoの各種管理画面に反映されるので、進捗管理のムラが少なくなります。また、botの質問はカスタマイズできるため、社員や環境に合った質問作成ができます。
その他、目標に対するフィードバックや、仲間を称賛する機能もあるので、コミュニケーションを活性化させることができます。
まとめ
目標管理制度は、正しく理解し運用することによって初めて効果を発揮します。ただノルマを課して社員を管理するのではなく、目標達成をするための自律的な行動を通じて、社員自身が成長していく仕組みこそが目標管理制度です。
目標管理制度への理解を深め、現場において正しく運用できるようにしましょう。また、管理職の人は、社員の個人目標の設定をできるだけフォローし、評価の際にはしっかりフィードバックするように心がけていきましょう。
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