病院の経営が健全な状態にあることは、患者に対して安心な医療を行うためには欠かせません。しかし近年、赤字に陥ってしまう病院が少なくありません。
新型コロナウイルスが流行する前までは、国内で赤字経営をしている病院はおよそ40%ほどでした。しかしコロナ禍の影響で、この数字が2020年には63.6%にも上昇してしまいました。
もともと病院の経営が困難になってきているなかで、新型コロナウイルスによりさらに環境が悪化したのです。
本記事では、病院の経営において直面している現状や、赤字経営になってしまう要因、黒字経営にするためのポイントなどを解説していきます。
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日本の病院経営が困難な時代とは?直面している現状を解説
日本の病院経営の現状を紹介する前に、まずは日本の医療機関がどのように区分されているかを簡単に解説します。
日本では、医療機関は医療行為を行う一般診療所と病院、歯科診療をする歯科病院に大きく分けられています。診療所と病院は病床数によって分けられており、19床以下の場合は「診療所」となり、20床以上ある場合は「病院」となります。
2019年では「病院」の数は8,300施設で、「一般診療所」は102,616施設もあり、日本の医療機関の半分以上は一般診療所となっています。また、病院の数は年々減り続けているのに対し、一般診療所は増え続けています。
なぜ、病院は減っているのに一般診療所は増え続けているのでしょうか? その理由も合わせて解説していきます。
日本の病院数は減り続けている
病院は人が元気に暮らしていくためには、欠かせない存在です。少子高齢化が世界で最も進んでいる日本においては、その存在意義は非常に大きいといえます。しかし、その病院の存続が危ぶまれていることはご存知でしょうか?
日本では病院経営が年々困難な時代へと移り変わっています。規模が小さい病院ならまだしも、ある程度の規模の病院となるとさらに経営は厳しいでしょう。
実際、厚生労働省が行った「医療施設(動態)調査」では、2000年には9,266施設あった病院が、2020年には8,243施設に減少していることが明らかになっています。20年間でおよそ11%も減っているのです。
しかし、その一方で「令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 」によると、病床が19床以下の一般診療所は増加に転じています。2018年には102,105施設だったのが、2019年には102,516施設と一般診療所は511施設も増えています。
減り続ける有床診療所、増え続ける無床診療所
病院の施設数は年々減る一方ですが、一般診療所は増え続けるのが近年の顕著な特徴です。その秘密は「無床診療所の増加」にあります。厚生労働省の調査報告をよく見てみると、一般診療所のなかで増えているのは「無床診療所」のみです。
一般診療所の「有床診療所」の減少は留まるところを知らず、2018年には6,934施設あった有床診療所は、2019年には290施設も減少。およそ10年間で4割も減っており、このままのペースで減り続けると、2022年4月末には有床診療所の数は5,000台にまで落ち込むと予想されています。
対して、無床診療所は2018年には95,171施設だったのが、2019年には95,972施設へと増え、801施設の増加です。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?
原因は大きく分けて2つです。まず1つ目の原因が「診療報酬の低さ」にあります。有床診療所では診療報酬が低く、赤字から抜け出せず黒字化させることが困難であるため、無床診療所に転換するケースが増えているのです。
日本医師会総合政策研究機構が調査した結果では、医薬品や人件費といったコストにより、患者が一人入院すると1日に1,866円の赤字になるとされています。
そして、もう一つの原因が「後継者不足」です。日本では高齢化が進んでいますが、その波は医師にも及び、有床診療所の院長の40%が70歳以上となっています。これにより、親子間の継承がうまくいかなかったり、跡継ぎがいなかったりするため仕方なく診療所を閉じるケースも増えています。
入院患者数は減り続け、外来患者数も低水準のまま
続いて、「日本医療法人協会」と「日本病院会」、「全日本病院協会」の3つの団体による2021年6月3日付けの調査報告「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第4四半期)」を見ていきましょう。
4,410施設の病院を対象とした調査の結果、前年同期と比べて入院患者数の減少が明らかになっています。外来患者数に関しては増加が見られますが、前年ではすでに患者数の減少が続いていたため、その水準は低いようです。
参考:新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第4四半期)│一般社団法人日本医療法人協会
参考:令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 │厚生労働省
参考:医療施設動態調査 2020年9月│厚生労働省
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以前までは国内で赤字経営をしている病院は約40%ほどでしたが、年々上昇傾向にあり、高水準にありました。40%前後でも十分に厳しい数字と言えますが、近年ではこの数字がさらに跳ね上がっています。
独立行政法人福祉医療機構が調査した「2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)」という報告によると、2019年度は赤字経営をしている病院の割合は43.4%と高い水準でしたが、2020年度にはさらに上がり、63.6%になっているのです。
この数字を見るだけでも、現在、病院を経営する環境がどれだけ厳しいものであるかがわかるのではないでしょうか?
1年でここまで大きく赤字経営をしている病院が増えた理由は、新型コロナウイルスです。コロナ患者の受け入れを積極的にすることが求められている間は、この状況が続くことが考えられます。さらに、コロナの感染状況に応じてさらに赤字経営の病院が増加することが懸念されています。
参考:2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)│独立行政法人福祉医療機構
赤字経営の病院になってしまう原因とは?
病院は公的な側面も存在するため、経済合理性の追求だけを全面に押し出して経営することは難しいでしょう。
とはいえ、この厳しい環境のなか、医療機関がこれからも生き残るためには利益を確保しなければなりません。病院は慈善事業ではなく、あくまでも営利事業の一環です。
したがって、財務デュー・デリジェンスや病院のエリアに関する情報など、細かくマーケティング分析をして、各々の病院に最適な施策を実践し、これを継続的に行っていかなければなりません。
経費や病床利用率など、損益に関する点はいくつも存在しますが、ここでは特に赤字の原因となりがちなポイントを解説していきます。
赤字経営の病院になってしまう原因が下記の2つです。
- 人件費の比率が高い
- 新型コロナウイルスによる赤字転落
それでは1つずつ解説していきます。
人件費の比率が高い
売上高に占める人件費の比率が高ければ高いほど、赤字経営に陥りやすくなります。
厚生労働省の「病院経営管理指標に関する調査研究結果」によると、一般病院における人件費比率は50%以上となっており、特に100~199床の場合は56.1%、50~99床だと55.5%と、どちらもより高い水準です。
また、株式会社川原経営総合センターの「みんなに話したくなる! はじめて学ぶ 病院経営のしくみ」によると、人件費比率が60~70%を超える病院は経営が危ないと指摘しています。その理由は下記のように経費の比率がおおよそ決まっているからです。
- 医薬品日:20%前後
- 給食等各種委託費:6%前後
- 設備関係日、その他諸経費:17%前後
これらを合算すると43%となり、残り57%となるため、このあたりが人件費の上限となります。また、精神科病院や療養病床の病院となると、医薬品を用いた医療より、作業療法士や理学療法士などによる医療が大切になるため、その分だけ医薬品費が減り、人件費の比率が多くなります。
人件費が60%を超えると「経営が危うい」、70%が「限界」とされており、病院によっては限界が65%となることもあるでしょう。
また、2008年の赤字経営の病院では人件費比率が54.7%で、黒字経営の病院では51.8%となっており、実際に赤字経営病院のほうがおよそ3%、人件費率が高くなっています。
参考:みんなに話したくなる! はじめて学ぶ 病院経営のしくみ
新型コロナウイルスによる赤字転落
また、近年では新型コロナウイルスによる影響が大きくなっています。
コロナの流行により、国内の病院のうち2/3が赤字になってしまいました。なかでも、新規感染者が多い東京都においては、新型コロナウイルスに感染した患者の入院を受け入れた病院の90%が赤字に転落しました。
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公的な側面もある病院において、経営効率の追求による赤字脱出は難しいかもしれません。しかし、そのような病院でも赤字から黒字経営に転換するためにできることはあります。それは、経費の無駄を徹底的に探り、少しでもいいから減らしていくことです。
病院を黒字経営にするために必要な経費削減のポイントが下記の2つです。
- コストの実態を探る
- 経費に無駄がないか探る
それでは1つずつ解説していきます。
コストの実態を探る
病院経営においてはさまざまなコストがかかりますが、自身の病院においてどのようなコストがかかっているかを把握できているでしょうか?
経費のコントロールをするのであれば、コストカットを真っ先にイメージするかもしれません。しかし、病院ごとに利益構造も異なるため、まずは自身の病院の利益構造を把握しコストの実際を把握することが求められます。
そのうえで、コストを下記の5つに分類して、コストの分析を進めましょう。
- 人件費
- ランニングコスト
- 広告費や教育費などの戦略経費
- 金利
- 減価償却費
一度に大きなコストカットをするよりも、どのような経費がかかっているかを認識してから、病院を黒字経営にするという考えのもと、少しずつ経費削減をしていきましょう。
経費に無駄がないか探る
続いて、経費に無駄がないかを探っていきますが、上記で解説した「金利」や「減価償却費」は直ちに削減することは難しいため、「人件費」と「ランニングコスト」、「戦略経費」を筆頭に探っていきましょう。
まず、人件費ですが、マンパワーの不足により人手を増やした結果、人件費の比率が高くなってしまい、結果的に赤字経営に陥るパターンは多く見られます。しかし、現在働いている人に払うお金を減らすことはできないため、採用コストなどに無駄が生じていないかチェックしておきましょう。
人手を増やしてもすぐに辞めてしまう場合、採用時にミスマッチが生じている可能性があります。ミスマッチの原因は、採用時に開示する情報が足りないことなどが挙げられます。
したがって、病院の方針や、どのような人材を求めているのかなどを明確にすることが大切です。その人材にマッチする人だけに応募してもらえるようになれば、応募してくる人数は減少しますが、採用後にすぐに辞めるということは避けられるでしょう。
その結果、採用にかかるコストを削減できます。
これからの病院経営に求められることとは?
以上のことを踏まえて、これからの病院の経営に求められることは、まず病院があるエリアに最適な体制を整えていくことです。
これからの人口減少や医療の需要は地域による差が激しくなってきます。したがって、重要なことは自身の病院がある地域において、病院がどのようなポジションにあるのかを第三者視点で評価することです。
多くの地域では人口が減少していくエリアにあるため、今後の需要がどのように変化していくのかを考えて、迅速な対応が求められます。このとき、コストカットや無駄を無くすことで、収益を少しでも確保しておくことが大切です。
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さまざまな要因が複雑に絡み合うことで、病院は経営が赤字になってしまいます。しかし、必ず何かしらの原因があり、その原因を見定めることが、黒字経営の実現において重要です。
現在は新型コロナウイルスによる影響が大きいですが、これ以外にも赤字の要因となっていることがないか、改めて見直すべきでしょう。そのうえで、どのような施策を実行していくかを決めなければなりません。
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