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ビジネスにおけるケイパビリティの持つ意味は、英語を直訳した「能力」のみにとどまりません。そのため「掴みどころがない言葉」だと感じているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
- 意味が抽象的でわからない
- 論文を呼んだがわからなかった
- 結局会社に取り入れるにはどうすればいい
本記事は、ケイパビリティに関する上記のお悩みを解決する記事となっています。ぜひご覧ください。
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ケイパビリティとは?
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ビジネスにおける「ケイパビリティ(capability)」とは、バリューチェーン全体にかかる能力のことです。
しかし、このように説明されてもピンとこない方も多いのではないでしょうか。
まずはケイパビリティの意味をもう少しわかりやすく説明するために、以下2つの切り口から説明します。
- ケイパビリティの意味と起源
- ケイパビリティの具体例
まずは意味と語源を確認します。
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ケイパビリティは英語で「capability」と書き、英単語そのものの意味は以下の通りです。
- 能力
- 才能
- 手腕
- 特製
- 伸びる素質
また、capabilityを細かく分類すると、以下のように分類できます。
- cap :掴む
- abie:できる
- lity:こと
したがってcapabilityとは「自身で掴むことができること」が大意です。
上記が転じて、ビジネスに使われるようになったのは、1990年のPrahalad and Hamel(プラハーダとハメル)、1992年のStalk、Evans、Shulman(ストークスとエヴァンスとシュルマン)の研究が深く関わっています。
それらの中では、ビジネスにおけるケイパビリティは「会社全体にかかる他社よりも際立っている戦略」と定義されました。
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参考:ダイナミック・ケイパビリティ論の課題と可能性 | 早稲田大学大学院商学研究科
つまり、ケイパビリティとは個人の能力ではなく、組織的な能力のことを指しているのです。
ケイパビリティの具体例
1992年のStalk、Evans、Shulmanの共同著書『戦略行動能力に基づく競争戦略』では、ケイパビリティのわかりやすい例として、アメリカの大規模スーパー「Kmart」と「Walmart」の例が挙げられています。
Kmartは1980年には店舗の大きさ、店舗数で明らかにWalmartを上回っていました。当時のWalmartはニッチな小売業者で、収益はKmartの1/2でした。そんなWalmartが1990年には、Kmartに対し税前利益に2倍の差をつけることになります。
たった10年の間に成長できたのは、Walmartがケイパビリティを活用したからだと本書で説明されています。
- ロジスティック機能のクロスドッキング化
- POSデータを衛星システムを用いて各ベンダーと共有
- 2,000台の会社所有トラック
- 各店舗毎にビデオ通話システムを完備
- 従業員持ち株制度
以上をまとめて本書ではケイパビリティと表現されています。
また、Walmartの施策は自社のみではありません。下請け業者には支払いサイトを短くすることで経営の助力をし、下請けをコストとして認識するのではなくパートナーとして歩みよりました。
したがって、パートナー企業とも緻密な連携が取れるようになり、Walmartは大きく成長したのです。
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参考:Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy | Harvard Business Review Home
ケイパビリティとコアコンピタンスは違う
ケイパビリティと非常によく似た言葉にコアコンピタンスがあります。
コアコンピタンスとは、GaryHamelとCKPrahaladによる『The Core Competence of the Corporation』で以下のように定義されています。
コアコンピタンス:各のテクノロジーと生産スキルの掛け合わせ
例えば、ソニーはその高い技術力と販売能力を活かして、ウォークマンやテレビ機器などさまざまなものを開発してきました。これは直接のテクノロジーを活かしているので、コアコンピタンスを活用したといえます。
一方で、ホンダはバイクエンジン技術を活かして芝刈り機、自動車などの新事業を拡大させました。確かにここでもコアコンピタンスは活用されているかもしれませんが、明らかにマーケティング能力などさまざまな要因が関わっています。
ホンダで活用されたのは純粋な技術力というよりかは、「バイクの売り方」というディーラー機能です。
ディーラー機能には以下があります。
- 販売方法
- 魅せ方
- マーチャンダイジング
また、他にも市場の分析、テストマーケティングなどさまざまな能力が必要です。
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したがって、コアコンピタンスは1つ1つのスキルであり、他の要素が組み合わさった全体を評価する場合にはケイパビリティがあると表現されます。
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ケイパビリティには以下2つがあります。
- オーディナリーケイパビリティ
- ダイナミックケイパビリティ
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オーディナリーケイパビリティ
ケイパビリティでは、企業内に蓄積された技術を使用します。その際、既にある技術のみを利用して企業内のサプライチェーンの最適化をはかるのがオーディナリーケイパビリティです。
オーディナリーケイパビリティを高めることは重要ですが、CUVAの時代に生きる私たちにとって現状維持が最適とは限りません。
時代が変化する中で、今までの技術のみで新技術に対抗することはできないからです。
したがって、今後オーディナリーケイパビリティだけでは企業経営を推進することは難しいと想定されています。
ダイナミックケイパビリティ
企業の競争力を高めるために今後必要となるのが「多様に変化する環境に備えるために、企業内資産を変化、再構成する」ことで、これこそがダイナミックケイパビリティです。
ダイナミックケイパビリティはケイパビリティの特性上、企業内の技術やノウハウから新しく構築されるものであるため、模倣困難性が高い、つまり他社から真似されにくい手法です。
CUVAでは、破壊的イノベーションが続々生まれ、ベンチャー企業も競争力を高めていきます。
業歴と歴史が長い会社がこうしたベンチャー企業と競争をするためには、ダイナミックケイパビリティが必要不可欠と言われています。
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参考:企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化 | 経済産業省
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マネジメント能力とは?5つの仕事と必須能力を解説ケイパビリティに関連するRBVとSCP理論とは
経営者
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RBVとは
RBVとはB・ワーナーフェルトにより提唱された企業内部の経営資源に着目した考え方です。Resource-Based Viewの頭文字をとったもので、ここでの経営資源とはケイパビリティのことを指しています。
その後1991年にバーナーにより認知度を深めたRBVは「組織ケイパビリティ」を示しています。
これは「企業の競争力は会社内のリソースにある」という考え方で、後述するSCP理論とは補完的な立ち位置にあります。
SCP理論とは
SCP理論とは、Structure-Conduct-Performanceの略で、経済状況を先に見てから企業の立ち振る舞いを考える方法です。
マイケル・ポーターはこのSCP理論をもとにポジショニング戦略と呼ばれるものを考案しており、ケイパビリティとはまた違った考え方となっています。
マイケルポーターは以下をポジショニング戦略として打ち出しました。
- コスト・リーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
全てに共通するのは、会社が競争力を高めるためには、見える部分での他社との明確な違いが必要になるということです。
したがって、SCP理論もポジショニング戦略も、どちらも他社があって初めて戦略が決まるという意味ではケイパビリティ戦略とは異なります。
ただし、順序としてはポーターのポジショニング戦略が先で、その後にケイパビリティが生まれているので、双方に補完的な存在です。
企業経営においてはどちら片一方の戦略をとるのではなく、時代に合わせて双方を使い分けることが大切です。
ケイパビリティ戦略の立て方
経営者
ケイパビリティは以下の手順で戦略を立案します。
- 自社のケイパビリティを把握する
- ケイパビリティを利用したブランディングをする(採用/人事/広報)
- ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーに使用する
それぞれ手順を踏んでわかりやすく説明します。
自社のケイパビリティを把握する
まず、自社のケイパビリティを把握し、定義づけをしなければ何も始めることができません。
自社の強みとは何なのかを明確にし、言語化をすることが求められます。この際、他の企業が持っていない強みを訴求することでケイパビリティをうまく活用できるようになります。
自社の強みを発見するためには、後述するフレームワークを利用するのが最適です。
ケイパビリティを利用したブランディングをする(採用/人事/広報)
ケイパビリティの言語化ができたら、それを積極的にブランディングするフェーズに入ります。
ケイパビリティをブランドとして取り入れるためには、インナーマーケティングや社内広報で周知化をするだけでなく、採用などにも積極的に活用します。
すると、社外にもブランディングが広まり、自社だけのケイパビリティとして自然に認知されるようになります。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーに使用する
ケイパビリティを発見し、社内・社外に周知していくだけでは経営戦略の一部にしか役立ちません。
真の意味でケイパビリティを活用するためには、ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーを構築する必要があります。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーとは、ケイパビリティを実際の企業経営に活かすことをいいます。
例えば、自社のケイパビリティがバリューチェーンの最適化によるスピードだと気づけたならば、他社よりも早いスピードで高速でPDCAを回すことができます。
自社がコンサルティング会社であるなら、他社よりもスピードのある提案とその改善力を企業戦略として売ることもケイパビリティ・ベースド・ストラテジーで可能になります。
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「年上の部下」をマネジメントする力が必須の能力になるケイパビリティを見つけるためのフレームワーク
専門家
- SWOT分析
- VRIOフレームワーク
SWOT分析
SWOT分析とは以下4つの頭文字をとったフレームワークです。
- Strength(強み)
- Weak(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
上記四つのマス目に分けて分析することで、自社のケイパビリティの発見に役立ちます。
プラス要因 | マイナス要因 | |
内部要因 | S | W |
外部要因 | O | T |
この際、感覚的に自社の要素を振り分けるのではなく、客観的なポイントで判断することで、より正確性が高まります。
実際に分析をする際は、外部要因が係るO、Tから判断するのが有用です。
VRIOフレームワーク
VRIOフレームワークを利用するためには、3C分析の理解は不可欠です。3C分析とは、以下3つの指標から自社を分析する方法です。
- Company:自社
- Customer:顧客
- Competition:競合
上記に対する影響は内部要因と外部要因がありますが、VRIO分析では自社の内部要因のみに絞って分析します。
VRIOの頭文字が示すのは以下の4つです。
- Value:価値
- Rarity:希少性
- Inimitability:模倣困難性
- Organaization:組織力
それぞれを分析することで、自社のコアコンピタンスを明言化することができます。
コアコンピタンスが判明すれば、ケイパビリティにもたどり着くことができます。
なお、VRIO分析では洗い出した自社の強みをそれぞれの指標(VRIO)を満たしているかを検討します。
全ての要素を含んでいる強みが見つかれば、結果的に他社の模倣困難性が高い組織力を見出すことができます。
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マネジメント能力を身に着けるためのベーススタンスとは?ケイパビリティを利用した企業例
ケイパビリティの概念を理解しても、実例を見なければ自社の活用方法はわかりません。
そこで、ケイパビリティを利用した企業例を以下3つ挙げて説明します。
- 星野リゾート
- 富士フィルム
- 三菱商事
星野リゾート
後述するITケイパビリティを活用した取組みで成功した例として、星野リゾートが挙げられます。星野リゾートは、ITを活用することで会社のコストを削減しました。
具体的には、情報処理システム費用の削減や、自社サーバーのシステム料金の削減です。
今まで外部委託していたIT部門を内部で育成、新規採用し、他の部門との連携をはかることで、ITケイパビリティを獲得できました。
コロナ化の不況をITケイパビリティを活用して乗り越えた良い例です。
富士フィルム
ダイナミックケイパビリティの例として必ず挙げられるのが富士フィルムです。1990年代にデジタルカメラが発明されてから、フィルムの主力事業だけでは会社の存続は難しいと言われていました。
危機感を感じた富士フィルムは、自社内の資源・技術・バリューチェーンを有効活用し、液晶保護のためのフィルムを製造しました。
結果、デジタルカメラに完全移行してからも富士フィルムは活躍を続け、今では自社の知見を医療分野にまで広げています。
三菱商事
自社のケイパビリティを他社のケイパビリティと掛け合わせる提携も進んでいます。
例えば、三菱商事は2019年にDバリューチェーンの新たな価値提供のためにNTTと業務提携をしました。
社会的な問題をデジタル技術で解決する新たな産業構造を作り出した意味では、非常に意味のある提携です。
デジタル分野におけるケイパビリティの相互活用は、今後も広まっていく可能性があります。
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専門家
ITケイパビリティとはなんですか
ケイパビリティの中でも特にITの知見を活かして企業を活性化できる能力を、ITケイパビリティと呼び、以下の2つに分解できます。
- ITを利用したインフラ整備
- 業務効率化
ITケイパビリティを得るためには企業全体でのITリテラシーやデータサイエンスの活用が必要です。
膨大なデータを取得し、活用する「Society5.0」の社会では、ITケイパビリティを獲得することが重要になります。
ケイパビリティ派とはなんのことですか
ケイパビリティ派とは、ポーターのポジショニング理論と、バーニーのケイパビリティの論争のうち、ケイパビリティを支持する方をいいます。
どちらが企業の競争優位に強い相関があるのかを示すために、2つの考え方は論争を巻き起こしていました。
ケイパビリティと貧困には関わりがありますか
ここでのケイパビリティとは、アマルティア・センが1980年に発表したケイパビリティ・アプローチのことです。
暮らしの質、社会の仕組みを解きあかす実践をケイパビリティ・アプローチと呼んでいます。
したがって、本記事の内容とは違ったケイパビリティの話です。
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本記事では、ケイパビリティの概念を具体例を挙げてわかりやすく解説しました。
今後はダイナミックケイパビリティを活用した経営方針が重要になります。
特に、VUCAの時代においては、ITケイパビリティも重要になります。したがって、自社でもフレームワークを活用し、まずはケイパビリティを発見することが大切です。
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