個人事業主や法人化した事業をお持ちの方が、支払う必要のある税金の1つが事業税です。事業税は個人事業税と法人事業税に分かれており、理解するのが難しいと感じる方も多いのはないでしょうか。
この記事では事業税についてわかりやすく解説していきますので、事業税について理解したいという方は是非最後まで記事をご覧下さい。
<<あわせて読みたい>>
決算期の変更手続きと注意点、メリット目次
事業税とは? わかりやすく解説
事業税とは国ではなく、各都道府県に納める地方税のことです。個人事業主や法人の所得や収入に応じて課せられ、地方税として各自治体の活動に使用されます。
事業税は地方税であるため、都道府県によって税率が異なるという点も理解しておきたいポイントの1つです。ご自身の詳しい事業税の納税金額を知りたいという方は、お住まいの都道府県のホームページ等をご確認ください。
また、事業税の納税に関して、特別な手続きを行う必要はありません。
事業税は所得税で確定申告を行っている場合、そのデータを元に各都道府県が税額を計算し、納税通知書を送付してきます。納税通知書が届いたら、期日までに事業税を支払いましょう。
事業税と事業所税の違いは?
事業税と混同されがちな税金の1つに「事業所税」がありますが、事業税と事業所税は異なります。
事業所税とは、東京都23区や人口30万人以上の都市、政令指定都市など、特定の地方公共団体において、一定規模以上の事業所を営む個人や法人に課せられる税金のことです。
事業床面積が1,000㎡を超える場合は1㎡につき年額600円、合計従業員数が100名を超える場合は従業者給与総額の0.25%を支払う必要があります。
上記の対象に当てはまらない場合、事業所税を支払う必要がないため、お住まいの市町村が事業所税の支払い対象の都市なのかを含め、確認しておきましょう。
個人事業税とは?
ここでは事業税の1つである「個人事業税」について解説します。
個人事業税とは、個人事業主の方が支払わなければならない事業税のことで、所得や特定の該当業種の事業を行っている方のみに課せられる税金です。事業に関連する「租税公課」に分類される税金であり、経費計上することができます。
個人事業税は前述の通り、確定申告をしていれば特別な申告は必要ありません。納付書が送られてきたら、口座振替やコンビニなどで支払いを行いましょう。
また、個人事業税のポイントは、個人事業主の方全員が納税対象ではないという点です。以下、個人事業税を支払う対象者について詳しく解説していきます。
個人事業税を支払う対象者について解説
個人事業税を支払う対象者は、個人事業主であり、所得が290万円以上かつ、個人事業税の該当業種を行っていることです。
所得とは売上から経費を引いた金額のことで、この金額が290万円を超えると個人事業税の納税義務が発生します。また、個人事業税には「事業主控除」があるという点も押さえておきたいポイントの1つです。
事業主控除とは、1年間事業を行った事業者に対して、一律290万円の個人事業税を控除するものとなっており、所得が290万円の方は控除額との合計が0となるため、個人事業税を支払う必要がなくなります。290万円を超えた所得に対して、個人事業税が課税されるという点は覚えておきましょう。
個人事業税に該当する業種
個人事業税は、すべての業種で支払いが必要という訳ではありません。課税対象となるのは法律で定められた70業種のみとなっており、業種によって税率が異なります。
最も高い税率は5%となっており、物品販売業や運送取扱業、料理店業などが該当します。その他、医業や弁理士業、コンサルタント業も税率5%となっており、70業種中60業種が最も高い税率を支払わなければなりません。その他の業種は畜産業や水産業等が4%、マッサージ業等で3%の税率がかかります。
法律で定められた70業種以外は、個人事業税を支払う必要がないため、ご自身の事業が該当するか分からない場合は、都道府県事務所に問い合わせてみましょう。
[参考:個人事業税┃東京都主税局]
個人事業税の計算方法
個人事業税は簡単に計算することができます。計算式は下記の通りです。
個人事業税=(所得額-290万円)×税率
290万円は個人事業税の事業主控除であり、税率に関しては業種によって3~5%と変動します。
個人事業税の計算をする際に注意したいポイントは、青色申告特別控除が適用されないという点です。青色申告控除とは、青色申告した方は、条件によって10万円または65万円の控除が受けらる制度のことです。
所得税や住民税における所得は、この青色申告控除の金額を引いた金額を所得額として納税します。
しかし、個人事業税は青色申告控除が適用されないため、所得税や住民税とは計算方法が若干異なるという点は理解しておきましょう。
個人事業税を支払う必要がないケース
個人事業税は、全ての人が払わなければならない税金という訳ではありません。
主に下記のどちらかの条件に当てはまる方は、個人事業税の支払いは免除されます。
- 個人事業税を支払う対象70業種以外の人
- 対象業種を行っている場合でも所得が290万円に満たない人
また、上記2つの条件以外にも個人事業税を支払わなくてもよいケースもあり、この例外ケースを理解しておくことが重要です。
個人事業税を支払わなくてもよい条件は以下の通りです。
- 前3年の赤字の繰り越しがある場合
- その他繰越控除がある場合
それぞれ詳しく解説します。
前3年の赤字の繰り越しがある場合
個人事業税は所得税と同様に、事業の所得が赤字となった時には、翌年以降3年間「繰越控除」が可能です。
繰越控除とは、翌年以降に損失を繰り越して、翌年以降の利益から控除ができる制度を指します。個人事業主が繰越控除を行う場合には、青色申告をする必要があり、確定申告をしてない人には適用されません。
例えば、前年に200万円の赤字があり、今年の所得が450万円あったケースを考えてみましょう。
この場合、前年の赤字200万円と今年の所得450万円を足し、合計所得額が250万円となり、個人事業税の課税対象から外れることになります。
過去3年間に赤字があって、確定申告を行っている方は、繰越控除が利用できるか確認してみましょう。
その他繰越控除がある場合
個人事業税において、繰越控除が適用されるのは赤字があるケースだけではありません。災害などにより被害を被った場合と、「譲渡損失」に関しても繰越控除は適用されます。
地震や台風、火災など災害により、事業損失が出たという白色申告者は繰越控除が可能です。
譲渡損失の控除に関しては、土地や家屋などを除く、事業に直接関わる機械や装置、車両などのを譲渡した際に出た損失を控除できるというもので、翌年3年間繰越控除ができるようになります。こちらは青色申告者が対象となるため、注意しましょう。
事業において不慮の事態が起こった際には、繰越控除が適用されるのか確認することをおすすめします。
個人事業主が事業税以外に納める必要のある税金
個人事業主の方が、個人事業税以外にも納税しなければいけない税金が下記の3つです。
- 所得税
- 住民税
- 消費税
支払うべき税金の種類や計算方法を理解しておくことは、事業を行う上で欠かせません。また、納税金額が事前に判明していれば、事業運営も円滑に行うことができます。
それでは1つずつ解説していきます。
所得税
所得税は、1月1日から12月31日の間に発生した所得に対して課税される税金です。
所得税の計算は4段階に分かれており、まずは「収入-必要経費」の計算で所得を算出します。所得から所得控除を引いたものが「課税所得金額」となり、課税所得金額に税率を掛け算すると「納税額」が割り出せます。
納税額から「税額控除」を引けば所得税の計算は完了です。「所得税の計算は複雑」だと思っている方もいますが、計算式自体はシンプルなものになります。
また、所得税には累進課税制度が採用されており、所得が高くなれば支払う税金が増えるという点も理解しておきたいポイントです。個人事業主の方は、ある程度所得が増えた段階で、法人化することも視野に入れておきましょう。
住民税
住民税は、市町村や都道府県に対して支払う税金で、前年の所得に対して課税されます。住民税については個人事業税と同様に、確定申告を行っている方であれば市町村へデータが送られるため、個別で申告する必要はありません。
住民税は「所得割額+均等割額」で求めることができますが、自身で計算するのはかなり面倒です。したがって、「課税所得の約10%」が住民税の納税金額と理解しておくと良いでしょう。
住民税で注意しなければならないポイントは、前年度の所得に対して課税されるという点です。「前年の売上は好調だったが今年は不調だった」という場合でも、高い住民税を支払わなければならない可能性がある点は理解しておきましょう。
消費税
個人事業主が個人事業税以外に支払う必要のある税金3つ目は、消費税です。
消費税は以下の式で求められます。
(課税売上高×10%)-(課税仕入高×10%)
実は消費税の支払いを意識せずに活動している個人事業主は多数います。この理由としては、消費税を支払う対象が限られていることが挙げられます。
消費税を支払う対象は売上が1,000万円を超えていて、開業後3年が経過している事業主の方のみです。
また、売上が1,000万円を超えている方であれば、所得税などの納税面でメリットを考慮し、法人化させるケースが多く見られます。したがって、個人事業主の方は消費税を納税する機会が少なくなっているのです。
消費税を支払う対象に該当する方は、消費税及び地方消費税の確定申告書を提出しましょう。
<<あわせて読みたい>>
「働き方改革」が叫ばれる今こそ、副業やパラレルキャリア(複業)で可能性を最大限に活かせ法人事業税とは?
法人事業税とはその名の通り、法人に課せられる税金です。
事業を行う法人は、都道府県や市町村の道路など、行政のサービスを受けて事業を行っているケースが大半を占めています。法人事業税は、「このような公共サービスを利用する法人も必要な経費を分担すべき」という考えから成立しました。
法人事業税を課しているのは都道府県であり、個人事業税と同じように年間の所得に応じて税率が変動し、納付時に損金算入も可能となっています。
法人事業税は、法人の規模によって税率が細かく決まっているため、税率計算は個人事業税より複雑であるという点は理解しておきましょう。
法人事業税の納税義務者について解説
法人事業税は、原則としてすべての法人に納税義務があります。納税義務の対象となる代表的な法人は下記のとおりです。
- 株式会社
- 有限会社
- 医療法人
- 信用金庫
- 財団法人
- 学校法人
- 農業協同組合
事業を行っている方は、基本的に法人事業税の納税義務があると覚えておきましょう。
ただし例外として、法人事業税を支払わなくてもよいとされているのは公共事業に関わる公共団体です。地方公共団体や国立大学法人、国民金融公庫などがこの業種に該当します。
また、PTAや同窓会など収益事業を行っていない、人格のない社団も基本的には法人事業税を支払う必要はありません。しかし、収益を上げた場合は課税対象となるので、この点は覚えておく必要があります。
法人事業税は何に対して課せられる?
法人事業税が課せられる対象は、決算をもとに計算した所得です。資本金が1億円を超えるケースは例外ですが、原則として法人事業税の金額は特別の規定がない限り、この所得は法人税の事業年度の所得と一致することになります。
法人事業税の課税標準に関して言うと、電気供給事業やガス供給事業、損害保険事業を行う法人は、その法人の各事業年度の収入金額です。
前年の所得に対して事業税が課せられるという点は、個人事業税と同じ仕組みになっています。
法人事業税の納税方法
法人事業税は確定申告書を作成して、申告納税を行う必要があります。申告納税期限は原則会計期末から2ヶ月以内です。この期限を過ぎてしまうと、納付すべき事業税額の5%に相当する金額の不申告加算金を納入しなければならないため、申告を忘れないようにしましょう。
また、法人事業税は、事業年度が6ヶ月を超え、なおかつ前事業年度における法人税額が20万円を超える場合に関しては、中間申告も行わなければなりません。
法人事業税の計算方法
法人事業税額の計算方法はシンプルで、以下の通りです。
法人事業額=所得×法人事業税率
ここで注意しなければいけないのは、上記の計算が適用されるのは、資本金が1億円を下回る場合に限られるという点です。
資本金が1億円を超える企業に関しては、上記以外に外形標準課税を支払う必要があるため、より多くの法人事業税を納めることになります。
法人事業税の計算式自体は簡単ですが、法人事業税率は所得に応じて細かく分けられているため複雑です。法人事業税率に関しては各都道府県によって異なるため、詳しくはお住まいの地域のホームページなどでご確認ください。
法人事業税の税率に関して
法人事業税率に関して、税率の計算方法こそ都道府県によって異なりますが、税率の種類は共通です。
税率は以下のように3種類に分かれています。
- 軽減税率
- 標準税率
- 超過税率
資本金や所得に応じてどの税率になるのか決定します。また、超過税率が最も高い税率に分類されています。
東京都を例に考えると、超過税率となる対象の法人は、資本金の額または出資金額が1億円以上の法人もしくは、資本金や出資金が1億円以下で年所得額が2,500万円超または、年収入金額が2億円以上の企業です。
税率に関しては、変更となる場合もあるので、お住まいの都道府県の最新情報を仕入れることが重要になります。
外形標準課税対象法人とは
外形標準課税対象法人とは、資本金が1億円以上の法人のことを指します。
外形標準課税される法人は所得以外にも、事業所の床面積や従業員数、資本金等、外から客観的に判断できる要素も税率判定に使われる点がポイントです。
法人事業税に関しては、各事業年度の収益分配額と、単年度の損益を合算した付加価値に対して課税される付加価値割と、各事業年度の資本金に応じて課税される資本割が、所得金額に応じて課税される所得割に加算されます。
資本金が1億円を超える法人の方は、かなり細かい法人事業税の計算が必要なため、税理士等の専門家にアドバイスを求めるようにしましょう。
法人事業税以外に法人が納める必要がある税金
法人に関して、法人事業税以外にも納めなければならない税金が、下記の4つです。
- 法人税
- 法人住民税
- その他国税
- その他地方税
それでは1つずつ解説していきます。
法人税
法人税とは、法人が事業活動を通じて得た各事業年度の所得にかかる税金のことで、納税先は国となります。
法人税で課税される所得とは、会社の利益ではなく、益金から損金を引いたものです。益金と損金は会計上の収益と費用をベースに、法人税の税法に従って細かい計算をして算出します。
法人税は、個人事業主が支払う所得税に近い印象を受ける方もいますが、税率に大きな違いがあります。所得税は累進課税であるのに対して、法人税の税率は固定されているのです。
資本金が1億円以下の場合は、年間所得800万円以下であれば15%、年間所得800万円以上であれば23.4%です。
どれだけ利益が出ても法人税が一定である点は、所得が多い人ほど有利になります。
法人住民税
法人住民税は法人税、法人事業税とともに法人三税と呼ばれています。法人のある自治体に納税するもので、意味合いとしては個人が支払う住民税をイメージすると分かりやすいでしょう。
法人住民税は法人税割と均等割によって構成され、計算で算出するには、法人税額や地方自治体によって異なる税率などを理解することが必要です。
法人住民税の注意点としては、法人が赤字でも、法人住民税は支払わなければいけないという点にあります。法人税や法人事業税は、赤字の際には納税する必要がないので、この違いは理解しておきましょう。
その他国税
法人は、法人三税以外にも様々な税金を納める義務があります。法人が支払う必要がある国税の中で代表的なものが以下の3つです。
- 消費税
- 印紙税
- 源泉所得税
消費税においては、税金を負担するのは商品やサービスを購入した消費者ですが、法人は消費税を消費者に請求し、お金を預かっている状態になります。したがって、事業者が消費者の代わりに国へ税金を納める義務があるのです。
印紙税は領収書や契約書などの文章にかかる税金で、源泉所得税は役員や社員の給与、外部委託した業者への報酬に対してかかる税金となります。
その他地方税
その他地方税の代表的なものは以下の3つです。
- 固定資産税
- 償却資産税
- 都市計画税
この3つに関しては土地や建物、機械等を導入している法人が課税対象となっています。このなかで注意しておきたい税が、固定資産税と償却資産税の2つです。
この2つは企業が減価償却をする際に関わってくるものです。減価償却の際にも税金が発生するという点は知っておきたいポイントです。
まとめ 事業税について正しく理解しよう
この記事では事業税に関して、個人事業税と法人事業税に分けて解説しました。
事業税とは国に納める税金ではなく、各地方自治体へ納める税金です。事業税は個人事業主と法人に納税義務があり、各地方自治体により税率などの違いがあるため、詳しい税率などを知りたい場合は、お住まいの地域のホームページなどを確認するようにしましょう。
この記事が、事業税に関して知りたいという方の参考になれば幸いです。
<<あわせて読みたい>>
事業売却のメリットとは?株式売却との違いから売却相場、手続きまでを徹底解説