美容室業界は市場規模こそ安定していますが、毎年のように大量の新規参入があります。したがって、市場競争が激しく、生き残りをかけて厳しい闘いが繰り広げられているのです。このような市場環境のなか、新たに美容室を開業・経営するためには、万全の備えをしておく必要があります。
この記事では、「どれほどの開業資金が必要か」や「月々の経費はどれくらいかかるか」など基本的な疑問に対して解説していきます。さらに、美容室経営で失敗しないためのポイントについてもまとめているので、美容室の経営を考えている方はぜひご参考になさってください。
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目次
美容室業界の現状
厚生労働省の調査によれば、美容室の店舗数は、平成に入ってから増加傾向にあり、2018年には25万件を突破しました。全国のコンビニの数が5万8000店舗ですから、コンビニの5倍近い店舗数です。また、2018年度の美容室業界の市場規模は2兆1382億円で、市場規模は安定しています。
さらに2018年度、美容室は前年より3562店舗、増加しました。美容室業界の店舗数は増加傾向にあり、激しい競争が繰り広げられています。さらに、データによると、男女別では男性の利用者が増えており、特に若い男性の利用回数が増えているようです。
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美容室の開業に必要な資格とは?
美容室を開業するためには美容師免許が必要です。美容師免許は国家資格の1つで、厚生労働省指定の美容師専門学校を卒業することで免許を取得できます。
もし1人で美容室を営業するのであれば、美容師免許だけで問題ありません。しかし、自分以外のスタッフを雇うなら、「管理美容師免許」が必要です。
管理美容師の資格概要や取得条件、講習会について簡単に確認しておきましょう。
管理美容師とは
美容室において、衛生管理をするのが管理美容師の役割です。美容室ではハサミなどの刃物を使って髪を整え、パーマ液やカラーリング剤などの強い薬剤も使用します。このような美容室内でお客様の安全を守り、公衆衛生と衛生管理に関する知識と技能を持った美容師が管理美容師です。
管理美容師は、美容室内の衛生管理や環境整備を行う役割も担っており、自分も含めてスタッフが2人以上いる美容室では、管理美容師が必要になります。したがって、スタッフを雇って美容室を開業する場合、管理美容師免許の取得は必須です。
管理美容師免許の取得条件
管理美容師免許の取得条件は、下記の2つです。
- 美容師免許取得後、3年以上の実務経験があること
- 各都道府県が実施している講習会を修了していること
つまり、人を雇って美容室を開業するのであれば、この2つの条件をクリアする必要があります。
管理美容師の講習会
管理美容師免許を取得するための講習会は公衆衛生について4時間、美容室の衛生管理について14時間かかるため、トータルで18時間、3日間にわたって講習を受けます。講習は年に2回しか開催されないため、日程を早めに確認しておきましょう。
なお、管理美容師は1店舗につき1人必要になります。美容室を経営して、多店舗展開を目指すなら、店舗を展開するごとに管理美容師を雇わなければなりません。
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美容室の開業に必要な手続き
美容室に必要な免許が取得できたら、開業するために必要な手続きを済ませましょう。美容室の開業に必要な手続きは大きく分けて2つあり、1つは保健所で行い、もう1つは税務署で行います。
保健所で行う手続き
営業許可を出してもらうため、保健所に美容室開設届を提出します。保健所の許可を得るためには、作業室の面積や美容椅子1台あたりの広さなど、さまざまな規定をクリアしなければなりません。各自治体によって規定が異なる場合もあるので、アドバイスを受けながら内装や設計を進めましょう。
また、保健所は美容室の衛生面を審査し、従業員名簿や健康診断書の提出を求めてきます。すべての書類を提出すると1週間後に開設検査が行われ、この検査をクリアすると開業が可能です。
税務署で行う手続き
事業主として開業手続きを税務署に提出します。提出期限は事業開始から1ヶ月以内と定められているため、早めに出しておきましょう。
提出方法は税務署に直接提出するか、郵送するかを選べます。開業届を提出すると事業所得者として登録され、確定申告のときに税金面でメリットがある青色申告の利用が可能になります。
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美容室の開業資金はどれくらい必要?
美容室の開業資金の主な内訳は下記の4つです。
- 物件取得費
- 内装費
- 設備費
- 運転資金
15坪の店舗でどれほどの費用がかかるかをシミュレーションしながら解説するので、美容室を開業するときの大まかな目安になるでしょう。
物件取得費
美容室を開業するのに必ず必要になる費用が物件取得費です。物件取得費はテナントの条件によって異なりますが、1ヶ月分の家賃、敷金、礼金、仲介手数料に加えて、家賃の6~10ヶ月分の保証金がかかる場合がほとんどです。合計すると家賃の1年分が初期費用として必要になります。
たとえば、15坪で家賃が20万円の物件の場合、初期費用にかかる金額は240万円です。この中に保証金や仲介手数料も含まれます。
内装費
物件取得費とともに、必要な費用で大きな割合を占めるのが内装工事費です。内装費用はどれほどのグレードにするかで大きく変わりますが、1坪あたり20万円を見込んでおきましょう。
高級な内装にすれば1坪50万円を超えることもありますが、15坪の物件の場合、内装には300万円が必要です。ただし、居抜き物件を利用すれば内装費を安く済ませることもできます。
設備費
美容室には美容椅子やシャンプー台、スチーマーなどの設備が必要です。美容椅子は1台10~20万円ほど、シャンプー台は50~100万円ほどかかります。設備費は機材の台数によって大きく変わりますが、15坪程度の物件で150~200万円はかかると見込んでおきましょう。
物件取得費、内装費、設備費を合計すると15坪の店舗で740万円になります。その他にも材料費や消耗品の購入が必要です。
運転資金
黒字に転換する前に廃業するリスクを減らせるため、運転資金は多ければ多いほど安定した経営ができます。統計によれば、9割の美容室が最初の1年間は赤字なので、1年分の固定費を払えるくらいの運転資金を用意しておくことが理想的です。
それが難しい場合は、最低でも3ヶ月から半年分は運転資金を用意しましょう。
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美容室の経費はどれくらい?
美容室の経営にかかる経費は、
- 家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 広告費
- 人件費
- 材料費
- 雑誌
などが含まれます。
もっとも高い経費は家賃で、都内であれば安くても20坪20万円程度はかかります。水道光熱費は合計すると1店舗につき5万円ほどで、広告費はどこの美容室も5~10万円ほどは使っているようです。
人件費は1人につき1ヶ月25~30万円程度を見込んでおきましょう。その他にも保険や交通費、道具代、雑費など細かな経費が発生します。美容室を経営するなら、経費がどの程度かかるか、事前にしっかりとシミュレーションしておくことが重要です。
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美容室経営者の年収はどれくらい?
スタッフを雇わずに1人で美容室を切り盛りしているなら、月商は約100万円あればよい方だとされます。月商100万円から各種経費を差し引くと経営者の月収は45万円程度で、年収にして約550万円になります。ここから各種税金を支払うので手取りは約8割と考えましょう。
スタッフを雇ったり、多店舗展開をするのであれば年収はさらに上がります。美容室経営は小さくはじめて、上手くいったら大きくしていくのが堅実な方法です。
美容室経営で失敗しやすい5つのポイント
美容室経営で失敗しやすいポイントは下記の5つです。
- 運転資金が足りない
- 経営知識が身についていない
- 宣伝広告に力を入れていない
- 多店舗展開で人材が分散する
- 技術力ばかりでマネジメントが疎か
それでは1つずつ解説していきます。
運転資金が足りない
美容室を経営しようとする多くの人が、理想の美容室を作ろうと多額の資金を投じます。設備の購入や内装工事などに資金をつぎ込んだ結果、運転資金が少なくなり、お店を維持できなくなるケースが多く見られます。
美容室は開業から1年以内に6割、3年以内に9割が廃業しており、これらの大半は軌道に乗せるまで運転資金が持たなかったせいです。開業してからの1年間は9割の美容室が赤字を計上するため、1年分の運転資金をしっかりと確保しておきましょう。
経営知識が身についていない
美容室の経営が行き詰まる理由の一つは、経営者の知識が不十分であることです。現場で働く美容師と、マネジメントをする経営者では、必要とされる知識が異なります。したがって、経営者としての知識やスキルを学ぶには、美容師時代から売り上げや経費、人材育成などの知識を蓄えておくことが重要です。
自身に経営者としての知識が足りない場合、コンサルタントに依頼する方法も検討しましょう。
宣伝広告に力を入れていない
美容室を開業するとき、知名度はゼロからスタートになります。誰も知らなければ、お客様も来店しようがありません。よい営業をしていれば、自然とお客様が集まるという考え方は捨てましょう。
さらに、開業するときに宣伝広告に使う費用を残しておくことも重要です。
多店舗展開で人材が分散する
美容室経営が上手くいき、多店舗展開を視野にいれることは素晴らしいことです。しかし、多店舗展開によって優秀な人材が分散し、グループ全体の売り上げが落ち込んでしまうケースが散見されます。
美容室はモノを売る商売ではなく、サービスや技術を売る商売です。そのサービスや技術は美容師に依存しているため、稼ぎ頭のトップスタイリストが他店に移ってしまえば、お客様がその店に通う理由がなくなります。多店舗展開をするなら、人材育成にしっかりと力を入れなければなりません。
技術力ばかりでマネジメントが疎か
「自分は技術力や提案力があるので独立できるはず」と信じて開業した美容室が赤字になるケースは多くあります。技術力の高い美容室にお客様が集まるのは確かですが、技術力だけでは美容室は立ち行きません。
集客や宣伝広告、採算管理、SNSやホームページの運用などさまざまなマネジメントが必要になります。さらに、スタッフを雇っているなら、人材育成や教育も求められます。10年以上継続できる美容室は全体の5%とされ、その5%に入るためにも、マネジメントをして効率的な経営を心がけましょう。
美容室経営を成功させる9つのポイント
美容室経営を成功させるポイントが下記の9つです。
- 客単価を上げる
- 物品販売に力を注ぐ
- リピート率を高める
- 開業準備で「なんとなく」を明確化する
- 経営者としてのスキルを磨く
- 経営する美容室のニーズにあったターゲティング
- 安易に支店を増やさない
- サービスの質の向上
- スタッフが働きやすい環境作り
それでは1つずつ解説していきます。
客単価を上げる
美容室の客単価は8000円ほどなので、1ヶ月に100名のお客様が来店する美容室なら月商はおよそ80万円です。しかし、この2倍の160万円を目指すには様々な制約があります。1人の美容師が受け持つ人数が増えますし、営業時間を延ばす必要がでてくる可能性があります。
しかし、客単価を上げれば無理なく売り上げも上げられます。美容師の技術力に応じた指名料の設定や、プラスアルファでお客様が注文したくなる施術などのアイディアを考えておきましょう。
物品販売に力を注ぐ
美容室のシャンプーやリンス、トリートメントなどのアイテムの販売がうまくいけば、売り上げをあげられます。来店時のアンケートや施術中の話題のなかで、自然な形で売り込めることができればベストです。
物品販売は、大きな手間をかけずに売り上げをあげる方法の1つなので、さまざまなアイディアや工夫をしてみましょう。
リピート率を高める
リピート率を高めると売り上げアップに大きく貢献します。
リピート率が高ければ新規顧客獲得に大きな力を入れる必要がなくなります。リピートのお客様は一定周期で通うことが多く、安定した売り上げを計算できるため、経営の安定のためにはリピート獲得が何より重要です。
開業準備で「なんとなく」を明確化する
「なんとなくよさそうな立地」「なんとなくこういうコンセプトがいいと思う」といった「なんとなく」を開業までに具体化していきましょう。美容室経営の成否は立地にかかっています。どのようなニーズに応えて、どのような客層をターゲットにするのかによって、選ぶべき立地も変わります。
応えるニーズやコンセプトの明確化、地域性の分析などやるべきことは多々あるため、開業準備の段階で「なんとなく」を具体化し、事業に落とし込んでいかなければなりません。
経営者としてのスキルを磨く
美容室の経営者の仕事は下記のように多岐にわたります。
- サービスメニュー、料金の設定
- スタッフの指導
- 人材育成
- 求人募集
- 経理や資金繰り
- 顧客管理
- 集客
このような仕事を円滑にこなすためにも、常に経営者としてのスキルを磨き続けましょう。
経営する美容室のニーズにあったターゲティング
どのような事業でも、ニーズがあってはじめて事業は成り立ちます。美容室も例外ではありません。経営する美容室の立地にはどのような地域性があり、どのようなお客様がいるのか適切に分析する必要があります。さらに、そのなかでどのような客層をターゲットにして営業活動、集客活動を行っていくのかを決めましょう。
SNSやホームページでの訴求方法も、世代や性別によって異なるため、これらのターゲティングは宣伝広告にも応用できます。
安易に支店を増やさない
2号店や3号店の出店は慎重に検討しましょう。たしかに、1号店で得たノウハウを他店舗で活用できれば、売り上げが伸びる可能性は十分にあります。
しかし、支店を増やすことは「固定費および経費の増大」や「人材の分散」を引き起こします。オープンする支店の立地が1号店と同じであればよいのですが、まったく同じ条件ということはないため、美容室経営では安易に支店を増やすことは控えましょう。
サービスの質の向上
美容室の経営でもっとも重要な点はサービスの質の向上でしょう。したがって、サービスが1人よがりになっていないかどうかをチェックするべきです。たとえば、お客様に施術後にアンケートを行い、サービスがどのように受け止められているか確認することをおすすめします。
スタッフが働きやすい環境作り
他店への人材の流出を防ぎ、教育コストをカットするためにもスタッフが継続して働きやすい環境作りをするべきです。スタッフにとって働きやすい環境は、サービスの向上につながります。さらに、スタッフの入れ替わりが減ることで、教育コストが安く済みます。
スタッフが働きやすい環境作りにおいて、経営者はどのようなことができるでしょうか? その一例として、キャンペーンに合わせてインセンティブを発生させ、スタッフのモチベーション向上を図ることや、福利厚生を充実させることなどが挙げられます。
1人美容室が増えている理由とは?
最近、1人美容室が増えていることをご存知でしょうか?
独立を果たした美容室の9割が3年以内に廃業しています。失敗するパターンや理由は上述してきたとおりですが、なかでも、人件費が大きいことが理由の1つです。1人美容室が増えている理由はここにあります。人件費は自分だけで済むうえに、管理美容師免許も必要ありません。
1人美容室なら狭い立地でも十分に営業でき、開業資金も少なくて済みます。スタッフを雇って人間関係を気にする必要もありませんし、原価以外はすべて利益になるのです。
1人美容室を開業する4つのメリット
1人美容室を開業するメリットは下記の4つです。
- 開業資金が少なくて済む
- 人間関係が気楽
- 利益率が高い
- 他人がいない快適な空間の提供
それでは1つずつ解説していきます。
開業資金が少なくて済む
1人美容室を経営する大きなメリットの1つは「開業資金が少なくて済む」ことです。規模の大きな美容室を経営するには、広い立地に多くの設備、大人数のお客様をさばくためのスタッフがいなくてはなりません。このような条件を揃えるには、膨大な開業資金が必要です。
しかし、1人美容室ならシャンプー台が1つに、作業スペースが2つあれば事足りるうえに、小さな部屋でも開業できるため、物件取得費も非常に安く抑えられます。したがって、スモールスタートを切れるので、リスクも小さく開業できるのです。
人間関係が気楽
1人美容室では人間関係が気楽です。人間関係によるトラブルも少ないため、モチベーションも保ちやすいでしょう。
また、1人美容室ではすべての業務を1人でこなすことになります。シャンプーからブローまですべて担当するため、お客様と信頼関係を築きやすいのです。さらに、他のスタッフのことを気にする必要もありません。これは経営者だけでなく、お客様にしても同様で、自分の気に入った美容師にだけ担当してもらえます。
利益率が高い
利益率が低ければいくら売り上げても、純利益は微々たるものにしかなりません。その点、1人美容室はとても利益率の高い事業です。
立地が狭くても営業できるため、家賃が低く抑えられます。さらに、人件費も必要ないため、利益率が高く、小回りが利くのが1人美容室の経営です。
他人がいない快適な空間の提供
1人美容室はお客様とマンツーマンの空間を構築できます。相性さえよければ信頼関係を築くことも難しくありません。他の人がいない空間での接客はお客様の心を和らげ、悩み相談などを引き出せるチャンスです。他人がいない贅沢で快適な空間を、お客様に提供できるのは1人美容室の大きなメリットになります。
まとめ 美容室経営をするのであれば、万全の準備を
美容室は競争の激しい業界です。だからこそ、美容室経営をするのであれば、万全の準備をしましょう。くわえて、スモールスタートが切れる1人美容室の経営も、選択肢として検討することがおすすめです。
スモールスタートはリスクが小さく、軌道に乗れば高い利益率が見込めます。また、小さくはじめて大きく育てることも夢ではありません。美容室の経営は技術ももちろん大切ですが、多くの経営者が直面する課題はマネジメントです。したがって、経営者としてのスキルを磨く必要があるでしょう。
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