日本の職場の生産性の低さが問題視されています。
平成30年の総務省の「情報通信白書」によると、それは数字の上からも深刻です。
労働生産性について、我が国の国際的な位置づけをみてみると、OECD加盟35カ国の中では21位にあたり、米国を始めとするG7各国の中では最下位となっている(図表3-1-1-1)。
例えば、米国の労働生産性(122,986ドル)と比較すると、日本(81,777ドル)は概ね2/3程度の水準となっている。このように、海外の主要国と比較して日本の生産性は決して高いとは言えない水準である。[1]
原因の根本には、日本風の印鑑を使った意思決定システムや教育スタイルなど、複雑に絡み合った問題があるかもしれません。
そうはいっても、管理職は、現場である程度の生産性を上げる必要があります。
職場の生産性をあげるためにどういう人を採用し、どう働いてもらうように呼びかけるべきでしょうか。
目次
仕事が速い人と遅い人は「能力が違うわけではない」
どの企業にも、奇妙なほどに「仕事が速い人」と「仕事が遅い人」がいます。
両者がどう違うのかつぶさに観察してみると、面白いことが見えてきます。
元マイクロソフトでWindows95などの基本設計を担当したプログラマー中島聡さんは、
「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか。スピードは最強の武器である」
の中で、マイクロソフト社内でも仕事が早い人と遅い人が存在したと書いています。
そして当時のマイクロソフトの躍進の秘訣こそが、「時間術」だったというのです。
とくに仕事が早いアメリカ人を見ていると、こんな感じです。
彼らが私たちと決定的に違っているのは、朝が早いという点です。彼らは朝の7時に会社に来て、夕方の5時や6時に帰るという仕事のスタイルを持っています。[2]
ただ、ここにある意味、「日本風な慣習」が影響しているところもあります。
特に日本にはその傾向が大きいようです。
日本では夜遅くまで会社に残ることが美徳とされています。なぜならみんなの視線がある中で仕事を頑張っていれば高く評価されるからです。[3]
仕事が早いアメリカ人たちは、朝からきて、仕事を追えたら夕方に帰り、家族を大事にするのだそうです。もちろん海外の人にも「仕事をゆっくりやる」タイプの人はいるのですが、マイクロソフトで評価されるのは、前者のタイプでした。
仕事が遅い2つのタイプの人
一方で、仕事が遅い人には2タイプいるのだそうです。
ひとつが、仕事を納期通りにあげられず、いつも締め切りに間に合わないタイプの人。
彼らは長時間机に向かって何度も徹夜をして、体力ギリギリまで必死で働いています。起きている時間をすべて仕事に注ぎ込んでいるようです。提出物がいつもギリギリになってしまいます。催促すると「まだあともう少し時間をください」などと言って、結局締め切りには間に合いません。
もう1つが天才肌なのに、時間の使い方ができず、思いつきでいろいろと仕様を思いついて盛り込むため、全体の仕事にムラが出てくる人です。
いずれにしても、仕事が遅いと言われる人は決してサボっているわけではないのです。さらに彼らの能力がすごく低いかというと、決してそんなことはないそうで、中には大変優秀なプログラマーもいるのだそうです。
仕事が早い人は80%ぐらいの出来で提出する
では仕事が早い人は何をどうやっているのか。
中島聡さんは、仕事を早くするコツは「100点満点を目指さない」ことだと書いています。
まるでスマートフォンのアプリのように、バグがあるまま出荷し、それを後から合わせて直していく。ときには、時代に合わせて「正解」が変わることもあるといいます。つまり、すべての仕事はやり直しになるのです。
すべての仕事は必ずやり直しになります。ですから、70点でも80点でもいいから、まずは形にしてしまうことから始めましょう。スマホアプリが延々とアップデートを繰り返している理由を考えてみてください。100点の仕事など存在しないのです。それよりも最速で一旦形にしてしまってから、余った時間でゆっくりと100点を目指して改良を続けるのが正しいのではないでしょうか。[4]
Windows95はそういう理由から、3500個のバグを残したまま製品化されたそうです。
どんな仕事にも必ずミスがある
仕事が早い人に秘訣を聞いてみると、
「80パーセントくらいの出来で一旦出すようにしているんだ」
と話す方が多いようです。
この人たちは
「後の工程の人たちが自分の成果物を直すかもしれない」
という前提で動いています。
会社の仕事はチーム作業です。個人プレーならば「完璧」を目指して時間をかけられても、チームで後の工程があると、それはうまく回らない原因になってしまうのです。
例えば雑誌の編集部も同じです。
レイアウトが変わったり、広告の都合で大きく文字数を削らなければいけないことも出てきます。
決して最初の打ち合わせ通りに物事が進むとは限らないのです。そのため、後からの変更は常につきものです。
最初に「完璧なもの」を仕上げても、思惑通りに行かないことがほとんどです。
例えばアプリ開発者はバグがある状態で配信を開始し、後からアップデートを繰り返して直していきます。バグの数をゼロにすることは絶対にできず、最初から100パーセントのものは作れません。
仕事の速いプログラマーと遅いプログラマーの違いは、「完璧主義か否か」にありそうです。
完璧を求める人が会社でうまくいかない理由
完璧主義のメンバーがいると、仕事は突然停滞し、進まなくなります。
聞いてみると、「ミスがあったら大変だから」などと言って必死で細かいところを直そうとしています。
怒られたり直されたりすることを極端に恐れて、そのために提出できなくなってしまうのです。
もしかしたら、「ミスがあったら怒られる」という記憶が、学校時代の記憶と結びついているかもしれません。
そのため直されることを極端に嫌い、後からのクライアントからの変更にも頑強に反対したりして、揉め事の原因になります。
「自分があんなに必死まで締め切りまで頑張って作業して完璧にしたのに、それを直すなんてとてもじゃないけど我慢できない」
と言うのです。
こういう人に対しては、管理職の仕事の一つは彼らに安心感を与えることになるかもしれません。
トンネリングの罠
また、頑張りすぎるタイプの人は、「トンネリング」にも注意です。
徹夜したり、睡眠不足だったりして、余裕がなくなると、だんだん生産効率が落ちてきます。まるで暗闇のトンネルを行進しているようなこの状態を「トンネリング」と呼ぶそうです。
完璧主義の人は、極端に評価を恐れていることがあるので、この「トンネリング」にもはまりやすいのです。
中島さんも、「ギリギリまで仕事を引っ張るタイプの人」はトンネリングに陥りやすく、非常にマネジメントがしづらいと書いています。
もし、職場にこうしたタイプの「完璧主義」の人がいたら、管理職の側から、「八割の出来で出すように」声かけすることが必要になるかもしれません。
完璧主義を忘れて、「後からバグを直す感覚」で仕事をする。
こうすることで、ある程度生産性を上げることができるのです。
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参照
出典[1]総務省 情報通信白書https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd131110.html
[2]-[4]「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか。スピードは最強の武器である」中島聡
(文響社)
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