COVID-19のパンデミックは社会・経済にかつてない混乱を招き、さらに生活だけでなく働き方も変化を強いられています。
そして、この混乱が新入社員や若手社員の就業意識に大きな変化をもたらしているという調査結果が次々と公表されています。
この変化をしっかり捉えれば若者の定着率を上げられる一方、変化に気づかなければこれまで以上に若手の流出に耐えられなくなる可能性があります。
良い人材を確保できるかどうかが、企業の明暗をはっきりと分ける時期とも言えるでしょう。
本記事では、コロナがもたらした若手のキャリア意識の変化と経営者が知っておきたいことを解説していきます。
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目次
パンデミックがもたらした就社意識の変化
ラーニングエージェンシー(旧トーマツイノベーション)が2020年の新入社員3,128名を対象に行った調査では、新入社員の就業意識が変化しつつある結果が出ています。
「今の会社で働き続けたい」という新入社員の割合が5年ぶりに増え、6割近くに達しているのです(図1)。
図1 今の会社での勤続意向(出所:「新入社員のキャリアに対する意識調査」ラーニングエージェンシー)
https://www.learningagency.co.jp/topics/20200428_2
これまでは、短期で最初の会社を辞め転職してしまう若者が多いという印象がありました。
しかしCOVID-19の影響による経済の混乱、多くの企業が業績予想を下方修正するなど企業活動の先行き不透明といった状況が続いています。
このような状況下で
「社会人生活が在宅勤務からスタートし、社会人らしさを感じられない」
「新入社員研修後から自宅待機となり、いつまで続くか不安」
と感じる新入社員が増えたため、せっかく就職できたからには長くいたい、という心理に繋がっているようです。
ただ、どのような会社でも、とどまりたいと思われているわけではありません。
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若手が留まりたいと思う会社の特徴
デロイトトーマツの「ミレニアル世代」「Z世代」に関する調査結果を見てみましょう。
ミレニアル世代(1983年~1994年生まれ)、Z世代(1995~2003年生まれ)は、COVID-19の拡大以降、雇用主を下のように評価しているのです(図2)。
図2 ミレニアル・Z世代の雇用主の評価(出所:「デロイト ミレニアル年次調査2020」デロイトトーマツ)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200706.html
パンデミックから従業員を守る行動を取り、それが若手から評価されている雇用主は全体の半数ほどです。
そして、ほぼ同数の若者が
「雇用主の対応によって、長期的にこの会社にとどまりたいと考えるようになった」
と回答しています。
これまでに取ってきた対応が若手の就社継続以降にそのまま反映されている形です。
ただ、ポジティブな評価を受けている雇用主が半数止まりというのは、見方によってはあまり歓迎できない結果でもあるでしょう。
これまでの自社の対応に自信がないという雇用主は、今からでも従業員目線に立って考え直す必要があります。
この傾向は変わらない
ニューノーマルとしてこの環境は長く続きます。
雇用主にとっても初めての経験で若干の混乱があった企業は多いことでしょう。
しかしここから抜け出し、若者の支持を得られるかどうかは大きな分かれ道になります。
逆に言えば、しっかりとした対応を取っている企業に、そうでない企業から人材が流出するリスクもあるということです。
また同時に、もともと就職や転職先を決める条件として「会社の将来性」を重視する世代でもあります。
現在の混乱の中で、会社としてどのように将来を考えているのかを明確にし、新しい働き方に対して柔軟、かつビジネスモデルの変革に積極的な企業は若手に安心感を与えられることになると言えます。
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新入社員が求める上司像と管理職が考える上司像にズレ
コロナ禍で、新入社員が理想とする職場や上司の特徴も変化しているようです。
リクルートマネジメントソリューションズの調査では、新入社員が理想とする職場の特徴は「お互いに助け合う」という項目の伸びが著しく、調査開始以来過去最高になっています(図3)。
図3 新入社員が理想とする職場の特徴
(出所:「2020年新入社員意識調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000313/
そして、職場生活への不安として「先輩・同僚とうまくやっていけるか」という回答が増えているのに対し、「やりたい仕事ができるか」は、去年に比べて大きくポイントを下げているという結果です(図4)。
図3 仕事・職場への不安(出所:「2020年新入社員意識調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000313/
リモート研修や出社機会が少ないという新入社員が孤独を募らせていることもあるでしょう。
実際、出社頻度が増えた時にうまくやっていけるかという不安が大きいと考えられます。
「やりたい仕事」「私生活とのバランス」よりも、いまはとにかく安心できる人間関係を構築したい、という本音もありそうです。
そして、理想の上司像について、上司との間にズレが生じています(図4)。
図4 求める上司像・新入社員と管理職の違い
(出所:「管理職と新入社員の意識比較調査」ラーニングエージェンシー)
https://www.learningagency.co.jp/topics/20200619_2
管理職が目指す上司像は「リーダーシップのある上司」です。
働き方が変わり、その中で指揮を取っていくことの難しさを実感していることの表れとも言えるでしょう。
しかし新入社員の意識とは大きなズレがあります。新入社員の半数は「優しく指導する上司」を理想として描いています。
なかなか対面できないというもどかしさがあり、いざ会ってみた時に怖かったら嫌だというのは納得もできるところです。
いま現在も、自分の不安を上司に聞いてほしい、という思いもあるでしょう。
そして注目したいのは、「プライベートのことも相談に乗る上司」を理想とする新入社員の割合が案外多いことです。
これまでであれば「プライベートでまで上司と関わりたくない」という意見が目立っていたように感じられますが、これも孤独や社会への不安を反映したものでしょう。
また、管理職と新入社員の感覚にズレがあるものとして、意外な項目があります。
「身につけてほしい・身につけたいスキル」です(図5)。
図5 スキルに関する新入社員と管理職の認識
(出所:「管理職と新入社員の意識比較調査」ラーニングエージェンシー)
https://www.learningagency.co.jp/topics/20200619_2
管理職が求めるのは「タイムマネジメント」。
新入社員は「パソコンスキル」がトップで、かつ意識のズレの大きさが目立ちます。
デジタルネイティブがパソコンスキルとはどういうことか、と感じるかもしれません。
しかし、確かに、新入社員はデジタルネイティブでスマホやタブレットなどを使いこなす一方、ビジネスソフトの使い方は知らない、という事実があります。
Word、Excel、PowerPointなどの使い方には慣れていない、というものです。
現在、リモート研修やリモートワークの内容に困っているという企業は、こうしたソフトの使い方の学習を取り入れると良いかもしれません。
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「聞き役に回る」ことの徹底で丁寧な繋がりを
上司に期待することに関しては、リクルートでの調査結果もあり、こちらも「リーダーシップ」を求める傾向は弱まっています(図6)。
図4 上司に期待すること(出所:「2020年新入社員意識調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000313/
特に新入社員の場合、本来なら今頃は研修で同期と仲良くなり、また社会人として色々なことが初めての経験になりワクワクしているはずです。
それが出鼻を挫かれるどころか、不安しかないような状況に置かれています。
また筆者が個人的に指摘したいのは、SNS疲れについてです。
暗いニュースばかりが流れてくる上、ユーザー同士の攻撃的な応酬が続く今の状況は、ある程度社会経験を積んでいても閉塞感を覚えるのではないでしょうか。
そこに加えて「会社に属している」という実感がないという若者も多いことでしょう。
いまは研修というよりも新入社員や若手の不安を取り除くことを最優先事項に考えて、悩みを吐き出す場所として上司が機能する必要がありそうです。
上司ですら経験のないような状況ですので、例年と同様に考えるわけにはいきません。
仕事を教えるのはそれからでも良いでしょう。
どこかに帰属しているという安心感がなければ、何も手に付かないという可能性すらあります。
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