企業のマネジメントをしていくにあたり、リーダーシップのメリットや必要性を感じている管理職は世の中に多いでしょう。
とはいえ、いわゆる体育会系の精神論だけでは部下を引っ張っていくのは難しく、「今の時代に合ったリーダーシップの発揮の仕方がわからない…」と悩む声もよく聞かれます。
かつてリーダーの能力は、先天的に備わった資質とされていて「黙って俺についてこい!」のタイプが主流でした。
しかし近代のリーダー研究においては、リーダーシップは後天的に獲得できる技能とされており、場面や状況に応じて使いこなすのがスタンダードとなっています。
そこで今回の記事では、リーダーシップを高めるスキルや、類型別リーダーシップのメリットとデメリットを紹介し、現代型のリーダーが進むべき道筋を示したいと思います。
目次
リーダーとリーダーシップの違い
リーダーとは、メンバーを統率し方向性を決める「役割」のこと。
一方でリーダーシップは、組織を率いて目的を達成するための「能力」を意味します。
優れたリーダーシップをもった人材がリーダーとなるのが理想的ではありますが、実際は必ずしもリーダーにリーダーシップの能力があるとは限らず、逆に、リーダーシップを発揮する者が常にリーダーの役割を担っているとも限りません。
もしあなたがリーダーの役割を与えられたとき、リーダーシップの能力に自信がなくても大丈夫です。
継続的に学習すれば、今からでも十分に身につけられるでしょう。
リーダーシップを高めるスキル3選
リーダーシップは 才能ではなく技術です。とは言っても、企業のステージや組織のメンバーによって、とるべき戦略は変わります。
どんなシチュエーションにも動じなくていいように、次の3つのスキルはおさえておきましょう。
ビジョニング
あるべき未来像を、チーム全体で共有する活動がビジョニングです。
目標設定を明確に行い、チームが進むべき方向を示します。
ビジョニングを実行する手順は以下の通りです。
- 組織の成功や目標の達成をイメージする
- 実現のためのチーム像、リーダー像、メンバー像を書き出す
- 評価基準を定めて行動に取り入れ、日々の自己評価を繰り返す
- 組織にビジョンが浸透しているかも毎日のチェック項目にする
コミュニケーション
コミュニケーション力を上げると、メンバー間のやり取りは円滑になり、誤解やわだかまりを減らせます。
しかしながら、誰かに意見を伝えるときは、相手の気持ちに配慮しつつも論理的に話さなければいけません。
良好なコミュニケーションに役立つ手法は以下の3つです。
1.アンサーファースト
ビジネスの現場において「起承転結」は必要ありません。
まず結論から話せば、相手の理解はより早まります。
2.アンガーマネジメント
怒りを我慢することなく、また相手にぶつけることなく、上手くつき合うための技術です。
感情に振り回されない論理的な話し方を学ぶと、意見が受け入れられやすくなります。
3.アサーティブコミュニケーション
アサーティブとは「自己主張」の意味です。
一方的にならないよう相手を尊重したうえで、適切に自分の意見を言うのがアサーティブコミュニケーションです。
チームビルディング
メンバーの気持ちをひとつに束ねて、目標を達成するための組織を作るのがチームビルディングです。
ひとりひとりの能力や経験をチームに還元し、組織全体のパフォーマンスを最大化する狙いがあります。
チームビルディングに有効な施策は以下の3つです。
- レクリエーションで体験を共有する
- チームビルディング研修を受講する
- チームミーティングを定期的に行う
レヴィンのリーダーシップ3類型のメリット・デメリット
「社会心理学の父」と呼ばれる心理学者であるクルト・レヴィン。
彼の代表的な業績とされるのが、リーダーシップの3類型を比較した「アイオワ実験」です。
レヴィンは3つのグループを、それぞれ専制型・民主型・放任型のリーダーに任せ、様子を観察しました。
結果として、民主型リーダーシップが、作業の質、作業意欲、有効な行動の点において効果的であったとしています。
1939年におこなわれた古い研究ですが、現代にも通じるリーダーシップ論として、いまだに多くのリーダーたちが参考にしている分類法です。
以下にて、それぞれの特徴を解説します。
専制型リーダーシップ
専制型リーダーシップは、上官の命令に絶対服従の軍隊などで使われます。
リーダーが部下に意見を求めることはなく、独断で意思決定し指示を出すのが特徴です。
企業においては、緊急事態で時間がない時や、知識や経験の豊富なリーダーが能力の低いメンバーを率いる時などに向いています。
専制型リーダーシップのメリット
【メリット1】素早い意思決定ができる
リーダーの即断即決でメンバーが動くので、問題解決にスピード感のあるリーダーシップです。
新事業にも「鶴の一声」で参入でき、その後のピポッドもたやすくフットワークの軽い組織が作れます。
【メリット2】経験の浅いメンバーに適している
主体性のない未成熟なメンバーを統率できるリーダーシップです。
指示がないと何をしていいか分からない新人などに適しています。
専制型リーダーシップのデメリット
【デメリット1】人材育成ができない
全ての事柄をリーダーが決めていると、メンバーは「指示待ち人間」ばかりになってしまいます。
自主的に成長しようという考えが個人に生まれにくく、いつまでたっても人が育ちません。
【デメリット2】メンバーにストレスが溜まる
メンバー自身では何も決められないので、次第にストレスが溜まっていきます。
たとえリーダーが間違っていても、意見することは許されず、不満を募らせる結果となります。
【デメリット3】長期的な生産性が上がらない
時間がたつにつれメンバーの仕事に対する習熟度は上がっていきますが、かりに新しいアイデアがあったとしてもリーダーに提案はできません。
そのため組織が硬直化し、しだいに生産性はダウンしていきます。
民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップは、もっとも優れたリーダーシップと言われています。
リーダーは、メンバーに指示すると同時に意見も聞き入れます。結果と同じくらい過程を大事にするリーダーシップです。
民主型リーダーシップのメリット
【メリット1】チームの人間関係が良くなる
リーダーがメンバーの意見を聞き入れると、お互いの信頼関係を築きやすくなります。
メンバー同士の意見交換も活発になり、関係性が良くなります。目標に向かうプロセスにおいて、しだいにチームの結束力は強くなっていくでしょう。
【メリット2】メンバーが成長しやすい
自分の意見が組織に反映されると、メンバーの自主性は高まり戦力として成長します。
目標の達成や課題の解決を「自分ごと」として考えられるようになり、業務に取り組む姿勢が変わります。
【メリット3】新しいアイデアが生まれやすい
様々なバックグラウンドを持つメンバーが積極的に意見を出し合う組織では、アイデア同士の化学反応が期待できます。
多角的な視点で事業の提案や改善点の指摘ができ、マンネリ化とは無縁です。
民主型リーダーシップのデメリット
【デメリット1】緊急事態に対応できない
メンバーの話し合いを大切にするだけに、緊急事態の決断には向きません。
即座に判断して行動しなければならない状況では、じっくり議論している暇がないからです。
【デメリット2】成果が出るまで時間がかかる
メンバー個人の考えや価値観は、一律ではありません。それらを束ねて一致団結させるのは時間がかかります。
特に、チーム結成当初において互いに様子をうかがいあう状況下では、物事がなかなか前に進まないもどかしさを感じるでしょう。
【デメリット3】リーダーの人間性が問われる
リーダーが一目置かれる人格者でないと、メンバーがバラバラの方向を向いてまとまらない危険性があります。
客観的な視座を持ちつつも、メンバーの意見に寄り添うリーダーが求められます。
放任型リーダーシップ
放任型リーダーシップは、リーダーが意思決定に関与しません。
そのため、メンバーの役割分担が曖昧になり、チームの士気が下がりやすい傾向にあります。
放任型リーダーシップのメリット
【メリット1】メンバーに危機感が生まれる
危機感の強いメンバーが、使命感をもって業務に取り組むことがあります。
各自が有能であれば、チーム全体として大きな成果を上げられます。
【メリット2】個性を重んじる業種で効果的
アパレル業界のバイヤー、エンタメ業界のクリエーターなど、オリジナルな発想が重視される職種では、メンバーがのびのびと業務に没頭できます。
【メリット3】革新的な取り組みが生まれやすい
規制が少なく自由な空気が醸成されるため、独創的なアイデアが飛び出し、社内にイノベーションを起こしやすくなります。
放任型リーダーシップのデメリット
【デメリット1】チームにまとまりがなくなる
メンバー各々が自分で決断し行動するため、チームの目指す方向に一貫性がなくなり、効率の低下を招きます。
明確な指示がないことで、メンバー間の誤解も生じやすくなるでしょう。
【デメリット2】リーダーの役割が不明瞭になる
メンバーの個人プレーを認めると、リーダーの立場が曖昧になります。
結果として、権限と責任の所在が分かりにくくなり現場は混乱します。
【デメリット3】生産性が低下する
業務の監視や進捗の管理が少なくなり、組織として非効率な部分が増えていきます。
レヴィンの研究では、3つのリーダーシップのうち「もっとも生産性が低い」とされています。
レヴィンのリーダーシップ考察
各リーダーシップごとにメリット・デメリットはありますが、レヴィンは最終的に、民主型リーダーシップがもっとも優れていると結論づけました。
そして、印象的な言葉を残しています。
「専制から民主制への変化は民主制から専制への変化よりも幾らか時間がかかるように思われた。専制主義は個人に押しつけられるが民主主義は学習せねばならないのである」
引用:『社会的葛藤の解決―グループ・ダイナミックス論文集 (1954年)』 (クルト・レヴィン訳:末永現代社会科学叢書)p108
つまり、民主型リーダーシップで生産性を上げるためには、リーダー自身の学ぶ姿勢が欠かせません。
粘り強く学習をし続けてこそチームは変革でき、メンバーの成長を促せるのです。
リーダーシップの外部研修を受けるメリット
リーダーシップを育むための外部研修は、数多く用意されています。
その対象者は幅広く、管理職から次世代のリーダー候補まで様々です。
もし自社のリソースだけでリーダーシップを養うのが難しいと感じたら、社外の機関に依頼してみるのもひとつです。
まとめ
生まれつきの才能だけで組織を引っ張っていくワンパターンなリーダーでは、もはや多様な価値観を持つメンバーに対応できません。
VUCA時代ともいわれ、かつてないほど変化のスピードが速いのが現代です。
そのような時代の理想のリーダー像とは、学びの姿勢を忘れず複数の選択肢をもって組織を束ねられる、しなやかで向上心のある人物と言えるでしょう。