組織を成長させるためには、優秀なリーダーの存在が欠かせません。リーダーとしてチームをまとめ上げるだけでなく、リーダー自身が誰よりも早く成長することで、組織全体が活性化します。
しかし、リーダーシップを強化するためにどのようなスキルが必要なのか、具体的にイメージできていない企業が多いのではないでしょうか。
本記事では、組織を成長させるために必要な要素や、リーダーに求められる基本的な役割とスキル、リーダーとして成長するために必要なアクションについて詳しく解説します。
目次
組織を成長させるために必要な3つの要素
企業を取り巻く環境は、目まぐるしく変化します。先行きが予測できない時代を生き延び、組織を継続的に成長させていくには、優れたリーダーの存在が必要不可欠です。
リーダーといっても、カリスマ的な才能を持った特定の人物のことを指す訳ではありません。現代のリーダーシップ論によると、社員一人ひとりが自律し、全員がリーダーシップを持って主体性を発揮することが求められます。
その上で、チームの潤滑油として機能するミドルリーダーや、組織の未来を創造する次世代のトップ候補生を育てていくことが大切です。
この項目では、組織を成長させるために必要な要素の中から、代表的なものを3つ紹介します。
- 社員一人ひとりが自律する
- リーダーを育成する仕組みを作る(ミドルリーダーと次世代のトップ候補生)
- リーダー自身が成長する
社員一人ひとりが自律する
かつてのリーダーシップ論では、リーダーシップを発揮するのは指導者や統率者など、組織の長に当たる人物に限られていました。
しかし、現代のリーダーシップ論では、組織の特定の人物のみがリーダーシップを発揮するのではなく、社員一人ひとりが自律し、相互に影響を及ぼし合うことが大切だと考えています。シェアド・リーダーシップとして知られる理論です。
シェアド・リーダーシップを実現した組織は、チーム全員がリーダーとしての役割を共有しています。そのため、さまざまな視点から意見を出し合ったり、積極的に提案を行ったりして、組織が活性化するのが特長です。
また、自社を取り巻く環境に予期せぬ変化が起きた際も、一人ひとりの知見やアイデアを活かし、迅速に対処することができます。
シェアド・リーダーシップを実現し、社員一人ひとりの意思決定によって機能する組織を自律型組織と呼びます。自律型組織には、アジャイル組織、ティール組織、ホラクラシー組織など、さまざまな種類があるため、自社に合った組織形態を選びましょう。
自律型組織の種類 | 特長 |
アジャイル組織 | チームメンバーに裁量や権限を分散し、現場のスピード感を活かして意思決定を行う組織 |
ティール組織 | 管理職などの指示系統を設けず、組織全体が一つの生命体のように自律的に動く組織 |
ホラクラシー組織 | 社内に役職や階級を設けず、各チームがフラットに意思決定を行う組織 |
リーダーを育成する仕組みを作る
先述のとおりリーダーシップは特定の個人のものではなく、社員一人ひとりが発揮するのが望ましいです。
その中でも、組織全体を継続的に成長させていくには、チームの潤滑油になるミドルリーダー(管理職)、将来的に組織の中心となるトップ候補生(幹部候補)の2人のリーダーを育成する必要があります。
チームの潤滑油になるミドルリーダー
ミドルリーダーは、部門や部署、チームの決裁権を持つ管理職です。一般的な等級制度では、部長、課長、マネージャー、チームリーダーなどと呼ばれています。
ミドルリーダーは単にチームのマネジメントを行うだけでなく、リーダーシップを発揮し、チームの成長を促す大切な役割があります。ミドルリーダーの役割を一言で表現するなら、チームの潤滑油です。
上層部と現場の社員の間に立って、コミュニケーションを円滑化し、縦横の組織連携を生み出すのがミドルリーダーの役割です。
また、近年は組織のダイバーシティを意識し、多様な性や価値観、国籍の人材を取り入れる企業が増えてきました。特にメンバー間で言語が異なる場合は、意思疎通に齟齬が生じるため、チームの潤滑油となるミドルリーダーの役割が重要です。
社内研修や外部のリーダーシップ研修を定期的に受講するなど、ミドルリーダーを継続的に生み出す仕組みを作る必要があります。
組織の未来を創造する次世代のトップ候補生
次世代のトップ候補生とは、いわゆる若手の幹部候補のことで、将来は企業のトップマネジメント層を担う存在です。優秀なトップ候補生の存在は、企業の中長期的な成長に欠かせません。
若手の幹部候補は、リーダーシップを発揮するマネージャーと、優れた成果を残すハイパフォーマーの両面を兼ねた存在です。組織の未来を創造する人材を育てるため、早い段階からプレイングマネージャーとして抜擢し、リーダーとしての経験を積ませましょう。
リーダー自身が成長する
組織の成長はリーダーの成長なくしてはあり得ません。組織の力を大きく伸ばすには、リーダー自身がさまざまな経験を通じて成長し、他のメンバーの良き見本となる必要があります。
次節以降では、組織の重要な成長因子であるリーダーの育成のため、リーダーシップを構成する基本要素や、社員のリーダーシップを強化するために必要なスキル、リーダーとしての成長につながるアクションの例を紹介していきます。
リーダーシップの基本的な役割
組織の成長のため、優れたリーダーが必要といっても、具体的にどのような人物像をイメージすればよいのか分からない場合もあるでしょう。
リーダーシップの基本的な役割は、大きく5つに分けられます。
- 主体性
- 責任をとる姿勢
- 意思決定
- 社員をまとめる
- 動機付け
優れたリーダーは率先して行動するだけでなく、自らの行動の結果に責任を持つ誠実な存在でなければなりません。
また、企業の進むべき方向を指し示し、社員を一つに団結させていく存在でもあります。優れたリーダーを育成するに当たって、まずはリーダーシップを構成する基本要素を理解しましょう。
主体性
リーダーシップを構成する要素の一つは主体性です。主体性とは、リーダーが率先して行動したり、目標を設定したりして、他の社員の模範となることを指します。
優れたリーダーは、組織の理念やビジョンを深く理解し、他のメンバーに伝搬させていく存在でもあります。主体性を欠いた社員は、他の社員に影響を及ぼして組織を変えていくことができず、リーダーの役割を果たせません。
責任をとる姿勢
リーダーシップでは、率先して行動するだけでなく自らの行動の結果に責任を持つことも大切です。
自らの行動に責任を持たず、他のメンバーに責任を転嫁するようなリーダーは、周囲の信頼を得られません。自分自身の行動に責任をとる姿勢は、周囲から信頼されるリーダーになる上で欠かせない要素の一つです。
意思決定
リーダーシップの構成要素の一つは、迅速な意思決定です。優れたリーダーは、高い決断力や実行力を持っており、他のメンバーが迷ったときに目指すべき方向を示す役割があります。
また単にすばやく意思決定を行うだけでなく、目指すべき方向を噛み砕いて言語化し、周囲に分かりやすく伝える能力も必要です。特に将来のトップマネジメント層を担う若手の幹部候補は、意思決定に長けた人材である必要があります。
社員をまとめる
古くからリーダーシップに求められる役割が、社員を一つにまとめて団結させることです。そのためには、社員一人ひとりの人心を掌握するスキルや、やる気を引き出すモチベーターとしてのスキルが求められます。
支配型のリーダーシップのように指示を出したり罰を与えたりすることで社員をまとめる方法は、社員のモチベーションを下げるだけでなく離職率にも影響を及ぼします。
従業員を支援したり共に歩む姿勢をみせたりすることで、チームを一つの方向にまとめ上げることが必要です。
動機付け
動機付けは心理学の分野で使われる用語で、チームメンバーに刺激や動機を与え、やる気を引き出すことを指します。
リーダーシップの構成要素の中でも特に重要なもので、最近ではリーダー候補の採用時に、動機付けに関わる資格やスキルを持っているかを重視する企業も増えてきました。
動機付けには、外部からの刺激によってやる気を与える外発的動機付けと、内面のやる気を燃え上がらせる内発的動機付けの2種類があります。
動機付けの種類 | 具体例 |
外発的動機付け | 昇給、賞与、人事評価、賞罰、福利厚生、その他の金銭的なインセンティブ |
内発的動機付け | 成長意欲、仕事のやりがい、承認欲求、達成感、適度な競争など |
リーダーシップに期待されるのは、後者の内発的動機付けです。例えば、リーダーが社員一人ひとりに合った目標設定を行うことで、内面に隠れた向上心や成長意欲を刺激し、やる気を高められます。
そのためリーダーが動機付けを行う際は、チームの雰囲気を明るくする前向きな姿勢や、社員の話に耳を傾けて的確なフィードバックを行う傾聴力など、さまざまなスキルが求められます。
リーダーシップを強化するために必要なスキル
社員のリーダーシップを強化するために必要なスキルは、大きく分けて以下の3つです。
- 行動の選択力
- 2つのパワー(ポジションパワーとヒューマンパワー)
- コミュニケーション力
行動の選択力、ポジションパワーとヒューマンパワー、コミュニケーション力などのスキルは、リーダーシップを構成する主体性、意思決定、動機づけなどの要素と関連しています。優れたリーダーに求められるスキルを知り、自社のリーダーシップ研修に活かしましょう。
行動の選択力
優れたリーダーになるためには、まず主体性を養う必要があります。主体性を高めるために、リーダーの必須スキルの一つである行動の選択力を鍛えましょう。
行動の選択力とは、外部からの刺激にただ反応するのではなく、自分の頭で考えて選択し、その結果の責任をとる力です。
有名な動物実験にパブロフの犬があります。ソビエト連邦の生理学者、イワン・パブロフは、犬にエサを与えるときに必ずベルを鳴らし、どのような反応をするかを観察しました。
何度かエサを与えていると、犬はエサの有無にかかわらず、ベルの音を聞いただけで唾液を分泌するようになります。この自動的な反応のことを条件反射と呼びます。
行動の選択力は、パブロフの犬の条件反射とは対極の位置にあるスキルです。条件反射の状態に陥った社員は、外部の刺激に対して自動的に反応し、言われたとおりにしか仕事をしません。
条件反射の状態を脱却し、刺激を受けたときにまず自分の頭で考えて、主体的に選択するのがリーダーシップです。「指示された仕事しかしていない」「指示されなければ何もしていない」などの自覚がある場合は、普段の行動を見直してみましょう。
2つのパワー
リーダーシップを構成する要素として、社員をまとめる、動機付けの2点を挙げました。この2つの要素を強化するのに役立つのが、ポジションパワー、ヒューマンパワー(パーソナルパワー)の2つのパワーです。
ポジションパワー
ポジションパワー(Position Power)は、社員をまとめる際に役立つパワーの一つで、組織における職位や権限、肩書きに由来する力です。
ポジションパワーは、その人の能力や人間性にかかわらず、組織内で一定の立場があれば誰でも行使できます。一方、左遷や降格、異動などによって立場が失われると、ポジションパワーの効力もなくなってしまいます。
ヒューマンパワー(パーソナルパワー)
ヒューマンパワー(Human Power)は、パーソナルパワー(Personal Power)とも呼ばれ、個人の立場にかかわらず発揮される力です。
例えば、相手の気持ちを推察する共感力や、会話を通じて理解を深め合う対話力など、人間としての魅力に長けた社員はヒューマンパワーを発揮します。
ヒューマンパワーは、社員のやる気やモチベーションを引き出す動機付けにも活用できる力です。
ポジションパワーを行使して無理やり人を動かしても、チームの結束は高まりません。優れたリーダーは、ポジションパワーとヒューマンパワーを巧みに組み合わせ、社員一人ひとりが力を発揮できるようなチームを構築しています。
コミュニケーション力
リーダーシップの強化に必要なスキルとして、コミュニケーション力も挙げられます。コミュニケーション力はビジネスパーソンの必須スキルの一つですが、リーダーシップにおいては、迅速な意思決定を行う上で重要な役割を果たします。
リーダーは他のメンバーに目的やゴールを提示し、進むべき方向を示す存在です。しかし、リーダーの語った言葉が、常に相手に伝わるとは限りません。
言葉は偏見や思い込みによって、受け取り方が変わってしまうことがあります。そのため、リーダーは相手に合わせて言葉を選び、自分の考えを分かりやすく伝える能力が求められます。
自分のコミュニケーション能力を分析するときに役立つのが、ジョハリの窓(Johari Window)と呼ばれるフレームワークです。
開放の窓 | ● 他人が知っている自己
● 大きいほどオープンに会話できており、他人から信頼されやすい |
秘密の窓 | ● 他人が知らない自己
● 大きいほど隠し事が多く、ありのままの自分を見せられていない |
盲点の窓 | ● 他人に指摘され、初めて知った自己
● 大きいほど対人関係におけるリスクが大きく、コミュニケーションエラーを起こしやすい |
未知の窓 | ● 自分も他人も知らない自己
● 自己理解を深め、未知の窓を開放することで成長につながる |
普段の自分を4つの窓に当てはめて分析し、他人とのコミュニケーションの取り方を見直してみましょう。
リーダーとして成長するために行うべき4つのアクション
リーダーとして成長するには、リーダーシップの強化につながる4つのアクションを意識的に行うことが大切です。
- 自ら行動し経験を蓄積する
- 新しい環境に出てみる
- 古い習慣に囚われず挑戦する
- 学びの機会や時間を作る
良いリーダーになるためには、受け身にならず率先して行動する姿勢が大切です。また、コンフォートゾーン(刺激やストレスが乏しく、居心地のよい場所)を抜け出し、新たな学びの機会や時間を自らつくり出す必要があります。
リーダーとしての成長は、やがて組織全体の成長につながります。日々の行動パターンを振り返り、リーダーシップを構成する基本要素の強化に取り組みましょう。
1. 自ら行動し経験を積む
リーダーとして成長するため、まずは他のメンバーに先駆けて行動する習慣を付け、さまざまな経験を蓄積しましょう。リーダーシップに欠かせない主体性を養うことができるだけでなく、ビジネスパーソンとして必要なさまざまなスキルを身に付けられます。
人材育成の分野でよく知られているのが、7:2:1の法則です。7:2:1の法則とは、ビジネスパーソンとして成長する上で、7割が経験、2割が上司や先輩といった他者の指導、1割が研修を始めとしたトレーニングによるものだと考える法則です。
7:2:1の法則に基づくと、成長する上でもっとも重要な要因は、仕事上の経験であることが分かります。
ミドルリーダーや次世代のトップ候補生を育てる際も、なるべく多くの経験を積めるよう、さまざまな機会を与えましょう。
2. 新しい環境に出てみる
受け身にならず、自分から新しい環境に出てみることも大切です。心理学の用語で、慣れ親しんだ環境のことをコンフォートゾーン(Comfort Zone)と呼びます。
コンフォートゾーンの内部は刺激やプレッシャーが少なく、居心地が良いという特長があります。しかし、いつまでもコンフォートゾーンの中にいると、リーダーとしての大きな成長は望めません。
コンフォートゾーンの対極にあるのが、ラーニングゾーン(学びの領域)です。ラーニングゾーンは、コンフォートゾーンよりも居心地が良くありませんが、未知の経験やハイレベルな経験を通じて、自分を大きく成長させることができます。
優れたリーダーになるためには、若い世代のうちからコンフォートゾーンを飛び出し、ラーニングゾーンでさまざまな学びを得ることが大切です。本人の意向を確認した上で、配置転換や人事異動を出すのも一つの刺激になるでしょう。
3. 古い習慣に囚われない
リーダーシップを強化するには古い習慣に囚われず、自由な思考を身に付ける必要があります。古い習慣やしきたりに縛られず新たなものの見方を受け入れ、組織内にイノベーションを起こす存在でなければなりません。
例えば、長い期間受け入れられてきた業務プロセスがあったとして、それが本当に必要なものか疑ってみましょう。
古い習慣に囚われず挑戦することで、業務プロセスの合理化や、新しい技術を用いたデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現など、組織改革のきっかけとなります。
4. 学びの機会や時間を作る
前項では、ビジネスパーソンとして成長する上で、経験が占める割合が7割だと説明しました。しかし、優れたリーダーとなるには、社内研修や外部講師を招いたリーダーシップ研修の時間を作ることも大切です。
会社が主導して学びの時間を設けたり、従業員へ勉強に対する補助金制度を作ったりするのも良いでしょう。
組織を成長させるためにリーダーシップを強化しよう
優秀なリーダーの存在がなければ、組織は成長できません。リーダーとは、必ずしも組織の指導者や統率者のことを指すのではなく、主体性、責任をとる姿勢、意思決定、社員のまとめ役、動機付けの5つの役割を担う存在を意味します。
特定の社員のみがリーダーの役割を担うのではなく、社員一人ひとりが自律し、リーダーシップを発揮できる組織が理想的です。
リーダーシップを強化するためには、自らの行動を主体的に選択する力や、周囲と円滑な関係を築くコミュニケーション力、社員の動機づけに必要なポジションパワーとヒューマンパワーの2つの力が必要です。
古い習慣に囚われず、新しい環境で積極的に経験を積むことで、リーダーとして日々成長することができるでしょう。
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