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100年を超えて生き続ける会社のシンプルで単純な理由とは

100年を超えて生き続ける会社のシンプルで単純な理由とは

世界最古の企業として知られる、大阪に本社を構える社寺建築の金剛組。
その創業は578年と言うので、実に1400年を超える歴史を誇ることになる。
1955年に法人化された会社は2005年にいったん精算されているものの、その事業や精神は時代に合わせ、今も生き続けている。[1]

金剛組とまでは言わなくとも、多くの経営者が望むのが企業の永続のはずだが、いったいどうすれば、そんな強靭な組織が作れるのだろうか。

近代で言えば、鉄道ビジネスを世界で初めて確立させた小林一三を参考にする経営者も多いかも知れない。
一三は明治40年(1907年)に三井銀行を退職すると、箕面有馬電気軌道(現、阪急宝塚線・箕面線)を創立。
そして鉄道路線を敷き沿線に住宅を開発し、以降、百貨店、東宝、宝塚歌劇団・・・と次々に、衣食住から娯楽まで全てを提供する、鉄道会社による多角経営のモデルを築く。[2]

交通網を中心として衣食住を提供するというビジネスモデルは今から見れば当たり前かもしれないが、このようなビジネスのあり方に世界で初めて着手した才能は非凡以外の何ものでもないだろう。
そして1945年、第二次世界大戦の敗戦後には戦災復興院総裁を務めるなど、荒れ果てた国土の戦後復興にも尽力した後、昭和32年(1957年)に84歳で他界した。
そんな阪急電鉄も、一三の創立から2020年で113年を数え、立派な「100年企業」の仲間入りを果たしている。
そして今も一三は、多くの企業経営者の尊敬を集め、その経営手腕の本質に学ぼうとする者は多い。

ではどうすれば、このような「100年企業」を育て、事業を永続させる組織や仕組みをつくることができるのだろうか。

近年、政府は「多様で柔軟な働き方」「ダイバーシティ」といった新しい価値観と働き方を推奨しています。
なかでもダイバーシティ経営は、
「女性をはじめとする多様な人材の活躍が、少子高齢化の中で人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応力を高め、日本経済の持続的成長に不可欠[1]」
と位置づけ、特に力を入れています。

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お客に酒を飲ませない飲み屋さんの話

小さいながらも会社を経営する筆者もそんなことに強い関心を持つ1人だが、なかなか自分なりに腑に落ちる答えは見つからない。
成功した経営者のセミナーの教訓や成功体験の著作は、参考になるようでいてどこか上辺に滑っている印象が拭えない。

そんな折、20年来親交がある経営者仲間に、大阪で風変わりなお店に連れて行ってもらったことがあった。
「80代のホステスさんがいるお店やけど、ビビらんといてな!」
居酒屋を出たその足で私をタクシーに押し込み、その社長は快活に笑う。
大阪ミナミの繁華街の一角で降りると、そのお店は明らかに場違いな昭和のネオンと外観が印象的な、キャバレーと言えば良いのかクラブと言えば良いのか。
平成初期に飲み屋デビューをした筆者には、ちょっと適切な表現が思い浮かばないお店だった。

(画像:筆者撮影)

そして席につくと、その社長は馴染みの女性を指名するが自己紹介でお聞きした年齢は40代。
おそらくもう少し上のはずだが、60代の社長にはその辺りは誤差なのかも知れない。
40代である筆者には、自称30代の女性が付いてお話をしてくれる。
メニューも決して上品とは言えないガッツリした食事系で、まるで居酒屋だ。

そして上機嫌の社長が水割りをリクエストすると、女性は、
「この一杯で終わりと、約束してくれますか?」
と、おかしなことを言い始めた。

「どうしてお酒を勧めないのですか?」
「だって、もうどこかでたくさん飲んでこられたのでしょ?もう若くないんだから、飲み過ぎは体に毒です。」
当たり前といえば当たり前の会話だが、不思議に思い、不躾を承知でストレートにお聞きすることにした。
「お客さんにたくさん飲んでもらったほうが給料は上がる仕組みではないのですか?」
「いえいえ、違いますよ!うちのお店は高級なお酒を入れてもらったとか、たくさん飲んでもらったとか、そんなことで給料はほとんど変わりません。それよりも、常連さんになって何度も来てくれることを評価してくれるんです。」
その会話を聞いていた社長が、横から口を挟む。
「この子の言ってることはホンマやで。証拠見せたげるから、一緒にトイレ行こう。トイレ手前の左側にある、ホステスさんの待合室をそっと覗いてみ。」
言われるままに席を立ちトイレに行くふりをして待合室を覗くと、そこはまるで町内会の寄り合い所であった。
机に上には雑多にジュースや食べ物が広げられ、お婆ちゃんと言っても良い年齢のホステスさんばかりが茶話会に花を咲かせている。
その光景をスナップショットにして誰かに見せても、まさかホステスさんの待合所だとは誰も思わないだろう。

「どや、凄いやろ。ここは最高齢で80代のホステスさんもいるんやで。」
「素直に凄いですね、でも女性がいるってことは、お客さんがいるってことですよね。どういう仕組なのですか?」
「あ、それ私が解説します!」
席に戻り会話を再開すると、先程の女性が説明役を買って出る。
「あの人たちのお客さんは、皆さん80歳とか90歳のおじいちゃんで、30代、40代の働き盛りの頃から、店の常連なんです!」
「え、本当ですか?」
「本当ですよ。ウチはお昼からやってるんでお昼に来店されることが多いから、夜は暇そうにしてはるけど。だから私たち、お客さんの健康や体を第一に考えるんです。」
「凄いですね・・・そんなお店、一生通い続けますよ。」
「でしょ、でも私たちにも良いことがあるんですよ?」
「なんでしょう」
「私たちも無理にお酒に付き合うことを求められませんし、無理に売上を建てることも求められません。
だから女の子の中には、厳しいノルマを求められるお店で疲れて、ウチにくる人も多いんです。」
「なるほど・・・。でも、夜は遅いのでは?」
「ウチは、夜11時で完全閉店です。1分も延長しません。女の子も全員、必ず会社の責任で帰らせて貰えます!」

何もかもが常識はずれだ。
しかし顧客本位であり、従業員を大事にする会社でもある。
だからこそ、このキャバレー(?)は、戦後間もなくから70年以上にも渡り、愛されてきたのかと、目からウロコが落ちる思いだった。

イノベーションの本当の意味とは

世界最高の投資家として、おそらく多くの人が1番に名前を上げるのはウォーレン・バフェットではないだろうか。
30年以上に渡り世界長者番付のトップ10に入り続け、89歳の今も、その影響力は非常に大きい。
そしてそのバフェットをして、ビジネスの世界で最も危険な考え方を問われた際に、シンプルに次のように表現をしている。
「Everybody else is doing it(他の誰もがやっている)」

いわく、ビジネスの世界では競合他社がやっていることは安心の証ではなくリスクでしかないと。
なぜなら他者を模倣する時、経営者は自分の意志を失っているからだと。
そして、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものです」
とまで言っている。[3]

また、ドラッカーの言葉を借りるまでもなく、企業の本質的な目的は顧客の創造に尽きる。
そしてそのために必要なものは、間違いなくマーケティングとイノベーションであることも、論をまたない。
しかし何をもってしてマーケティングであるのか、イノベーションであるのか。
具体的な実践の段階になって経営者を悩ませる考え方ではあるが、結局のところ先の飲み屋さんのように、「顧客が求めるもの」に純粋であれば、自ずから答えは出るのではないだろうか。
イノベーションとは決して、革命的な考え方や卓越した行動力の結果にのみ、生まれるものではない。
同業他社のやっていることなどに気を取られず、顧客の内なる要求にのみ耳を傾け続けた先にこそ、正解はあるはずだ。

最後にもう一つ、日本が誇る100年企業、「グンゼ株式会社」についてもお話したい。
グンゼはもともと「郡是」という漢字を充てて、1896年(明治29年)に「郡是製絲株式会社」として設立された。
郡是とは、例えば国のあり方を示す言葉を「国是」というように、その創業の地である何鹿郡(いかるがぐん:現京都府綾部市)を良くしたいという想いから付けられた、非常にローカルな願いから生まれた会社だった。
元々は、農閑期に地元の農家の人に蚕を育ててもらい、そこから糸を取り販売をする製糸会社に過ぎなかったが、やがて原材料の販売だけではエンドユーザーの役に立てないと考え、自ら肌着や下着などの製造に乗り出す。
さらにそれら製品が売れるようになると、包装資材であるプラスティックも自社で満足のいくクオリティのものを追求するようになり、やがて電子部品の製造や、非繊維分野へも進出をして、成功を重ねていく。
しかしその拡大の根本にあるものは全て、既存事業の延長線上で
「より顧客に満足をしてもらうには、どうすればよいか」
という切なる思いであった。
この、細々とした製糸会社から最先端の技術を扱うハイテクメーカーになるまでの軌跡は今も、グンゼの創業の地である綾部市に所在するグンゼ博物苑で、堪能することができる。
筆者も何度も足を運んだが、「企業とはどのようにして顧客満足に支えられ進化していくものか」。
その理想形が見えるようであり、毎回新しい発見が在るのでお勧めだ。ぜひ一度、足を運んでみてはどうだろうか。

なお余談だが、グンゼは先述の通り製糸会社から始まった会社だが、製糸事業からは1987年に、完全に撤退している。
イノベーションとは新しいことを産み出すことだけではなく、必要ではなくなった何かを大胆に捨てていく勇気であるのかもしれない。

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参照
[1]国立国会図書館「レファレンス協同データベース」
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000148743
[2]公益財団法人 阪急文化財団「小林一三について」
http://www.hankyu-bunka.or.jp/about/itsuo/
[3]ウォーレンバフェット「成功の名語録」より

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