リーダーシップ理論はメンバーのモチベーションを高めたり、チームを成功に導いたりするために役立ちます。多くのリーダーシップ理論が存在しているため、チームで業務を進めるにあたって役立つ考え方への理解を深めておきましょう。
本記事では、リーダーシップ理論の変遷や近年注目されている考え方について紹介します。
目次
リーダーシップ理論とは?
リーダーシップ理論とは、組織やチームのメンバーを率いて目標を達成するために必要な能力や考え方を模索する理論です。
細かい位置づけや定義は論者によって異なり、さまざまなリーダーシップ理論が存在しています。リーダーシップ理論は時代によって変化するものでもあり、今後も新しい考え方や視点が登場してくるでしょう。
また、リーダーシップという言葉にも明確な定義はありません。一般的には、指導力や統率力などと訳されますが、具体的な意味や求められる能力は、論者や時代によって異なります。
ここでは例として、ピーター・ドラッカーによるリーダーシップの定義を見ていきましょう。
マネジメントの父・ドラッカーによるリーダーシップの定義
オーストリアの経営学者であるピーター・ドラッカーは、有名なリーダーシップ論者の一人です。ドラッカーは、リーダーシップを発揮するために必要なものはカリスマ性ではなく、人格を高めることであると述べています。
つまり、リーダーシップは先天的なスキルではなく、訓練や実践を重ねることで後天的に身につくものであると、ドラッカーは考えているのです。
具体的には、リーダーシップは仕事・責任・信頼であると述べています。それぞれの考え方は以下のとおりです。
リーダーシップは仕事
ドラッカーは、リーダーシップは仕事であると位置づけています。チームの目標を定める、物事の優先順位を決める、メンバーのモチベーションを維持するといった具体的な仕事を行うことこそが、リーダーシップを発揮することであると定義しているのです。
またカリスマ性や先天的なスキルはリーダーシップとは関係ないと、ドラッカーは述べています。
リーダーシップという言葉を聞くと、カリスマ的な経営者をイメージしがちですが、具体的な行動を起こすことで誰でもリーダーシップを発揮できるのです。
リーダーシップは責任
ドラッカーによると、責任を取ることもリーダーシップの重要な要素の一つです。リーダーシップは、地位や役職、特権ではありません。
リーダーに求められるのは、メンバーに指示を出したり、行動をサポートしたりしながら問題が起きたときや失敗したときは自ら責任を引き受けることであると、ドラッカーは説いています。
失敗を部下のせいにするような上司には、誰もついていきたいと思いません。メンバーが安心して力を発揮できるような環境を作ることは、リーダーの役割の一つと言えるでしょう。
リーダーシップは信頼
リーダーには、メンバーから信頼されることも求められます。信頼において重要なのは強制的に従わせるのではなく、メンバー自身の意思でリーダーについていきたいと思ってもらうことです。
信頼は、リーダーに対して単純に好意を持つことや、常に意見に同意することではありません。リーダーの行動や言動に確信を持ち、チームのために自ら行動を起こすことが信頼であると、ドラッカーは述べています。
難しいことではありますが、リーダーとしての仕事をこなし、責任を引き受けることで、少しずつメンバーからの信頼を得られるでしょう。
またリーダーシップの目的や重要性、種類については「リーダーシップとは?定義や種類、必要な9つのスキルについて徹底解説」で詳しく解説しています。リーダーシップについて詳しく知りたいという方はぜひチェックしてみてください。
リーダーシップ理論の変遷
リーダーシップ理論は、昔から多くの有識者によって論じられてきました。リーダーに関する研究の歴史も長く、紀元前には既に始まっていたとも言われています。
1900年頃からは、ビジネスにおけるリーダーシップの重要性が指摘されるようになり、主にアメリカで本格的な研究が始まりました。
その後、リーダーに関する多くの研究が行われ、現代のリーダーシップ理論につながっています。ここからは、過去のリーダーシップ理論について見ていきましょう。
1940年代までのリーダーシップ理論
まずは1940年代以前のリーダーシップ理論について解説します。この時代のリーダーシップ理論がその後の研究の基礎となっています。
リーダーシップ特性理論
リーダーシップ特性理論は、1900年代から1940年代まで主流だった理論です。この理論の基礎となったのは、トーマス・カーライルが発表したリーダーシップ偉人説です。
トーマス・カーライルは、他者より優れた資質を持つ偉人こそがリーダーになると主張し、リーダーシップ特性理論が生まれる基礎となりました。
この特性理論の中では、リーダーはカリスマ性のような先天的なスキルを持っていることが前提とされています。そして、リーダーになる人が共通して持っているスキルや特性を抽出して、分析することが試みられました。
リーダーの資質として注目されたのは、学識や創造力といった知性、協調性や社交性といった行動力、メンバーに信頼される力などです。
リーダーシップ特性理論は、リーダーに求められる資質を抽出する上では役立ちましたが、分析内容が抽象的であったことや、リーダーに共通する普遍的な特性は見つからなかったことから、少しずつ衰退していきました。
リーダーシップは先天的なものではなく誰でも習得できるスキルであるという新しい仮説も生まれ、リーダーシップ理論の研究は次の段階へと進んでいきます。
1940~1960年代までのリーダーシップ理論
1940〜1960年代までのリーダーシップ理論は、それまでとは異なる視点で展開していきました。代表的なものは、PM理論とリーダーシップ行動理論です。以下、それぞれの理論について詳しく見ていきましょう。
PM理論
PM理論は、1960年代を代表するリーダーシップ理論の一つです。PM理論は社会学者である三隅二不二によって1966年に提唱されたもので、チームを発展させる機能について考察することからスタートしました。
この理論の大きな特徴は、リーダーシップを目的達成機能(P:Performance)と集団維持機能(M:Maintenance)の2つに分けて考えることです。
目的達成機能は、チームの目標を決めることや、計画を立てて部下へ適切な指示を出すことなどを意味します。集団維持機能とは、チーム内の人間関係を構築し、良好に保つ能力です。
PM理論では、リーダーの特徴をPM型・Pm型・pM型・pm型の4つに分けています。その中でも理想的とされたのは、目的達成機能(P)と集団維持機能(M)の両方が大きいPM型のリーダーです。
目的を達成するスキルと人間関係を構築する能力を兼ね備えており、チームの発展に貢献できるリーダーであると定義されました。
一方でpm型のリーダーは、行動力やマネジメント力が欠如しており、存在意義が低いとされています。PM理論は、リーダーシップを分かりやすく定義した理論として、日本国内でも多くの企業で取り入れられるようになりました。
リーダーシップ行動理論
1940年代に登場したリーダーシップ行動理論は、結果を出す人の行動パターンに注目した理論です。最初に紹介したリーダーシップ特性理論とは異なり、抽象的な資質ではなく、具体的な行動に着目したことが大きな特徴でしょう。
リーダーシップ行動理論では、優れたリーダーが持つスキルではなく、優れたリーダーが起こす行動を抽出して分析しました。良い結果につながる行動を把握して真似をすることで、他の人のリーダーシップを引き出すことも考えられていたのです。
この行動理論の登場により、リーダーシップ理論はより実用的なものへと進化しました。
リーダーシップ行動理論は今でもさまざまな場面で活用されていますが、常に役立つというわけではありません。リーダーシップ行動理論は、リーダーの行動にのみ着目しているためです。
現実のビジネスシーンでは、リーダーの行動はクライアントとの関係性や社内の状況といった外的要因の影響を受けます。
さまざまな状況に適応する能力や外的要因との関係についても研究が必要だと考えられるようになり、リーダーシップ理論は新しい方向へと展開していきます。
1960~1980年代までのリーダーシップ理論
1960〜1980年代のリーダーシップ理論は、リーダーの資質や行動にとどまらず、より広い範囲を扱うようになりました。代表的な理論は、リーダーシップ状況適応理論やフィドラー理論です。どのような理論なのか詳しく見ていきましょう。
リーダーシップ状況適応理論
リーダーシップ状況適応理論は、1960年代後半に発展しました。この理論の大きな特徴は、全ての状況に対応できるような特性やスキルは存在しないという考えです。
過去の特性理論や行動理論では、リーダーの優れた特性や行動にばかり着目していましたが、リーダーシップ状況適応理論においては外的要因との関係性が重視されました。
部下の人数や能力、与えられている権限や課題の難易度などの外的要因によって、リーダーが選択する行動や最終的な結果は異なります。
特定の状況においてはリーダーの資質や行動によって優れた結果を得られても、別の状況では同じ結果につながるとは限りません。リーダーシップ状況適応理論においては、リーダーは状況に合わせて取るべき行動を変えることが大切であるとされています。
フィドラー理論
フィドラー理論は、アメリカのリーダーシップ研究者であるフレッド・エドワード・フィドラーによって提唱された理論です。フィドラーはLPC尺度という指標を用いて、リーダーの行動と外的要因の相関性を明らかにしようと試みました。
LPC尺度は心理テストのようなもので、リーダーを対象として実施されました。部下は、親切・不親切、誠実・不誠実といった項目ごとにリーダーを評価して採点します。
合計点数によってリーダーの資質を評価しつつ、与えられた権限や仕事量などの外的要因も考慮します。
フィドラーは、リーダーが部下に信頼されている、仕事が分かりやすく構造化されている、部下をコントロールできる権限が与えられている、という3つの条件が整っているほど、リーダーシップを発揮しやすいと結論づけました。
1980年代以降のリーダーシップ理論
1980年頃には、新しい考え方としてコンセプト理論が登場します。コンセプト理論は、リーダーシップ状況適応理論をベースとして発展しました。ここでは、コンセプト理論の概要を確認しておきましょう。
コンセプト理論
コンセプト理論は、過去のリーダーシップ理論をより具体的なビジネスシーンに落とし込んだ理論です。主にリーダーシップ状況適応理論の考え方を継承しており、「どのような状況でも良い結果を出せるリーダー特性はない」と考えることがベースになっています。
コンセプト理論においては、組織形態やメンバー構成など、さまざまなシチュエーションを想定しながら、状況ごとに適切なリーダーシップについて議論されました。
結果として、行動力と指導力でチームを引っ張るカリスマ型リーダーシップや、人間関係の構築やメンバーのモチベーション維持を重視するEQ型リーダーシップなどが挙げられました。
ただし、リーダーシップの型に明確な優劣があるわけではありません。コンセプト理論では、どの型が良い結果を導くかは状況によって異なるとしています。
近年注目のリーダーシップ理論5選
近年において注目されているリーダーシップ理論としては、オーセンティックリーダーシップ、サーバントリーダーシップ、シェアドリーダーシップなどが挙げられます。それぞれの理論について詳しく見ていきましょう。
オーセンティックリーダーシップ
オーセンティックリーダーシップとは、倫理観を大切にしながら、自分自身の価値観や思想に沿って指導力や行動力を発揮することです。オーセンティックリーダーシップにおいては、自分らしさを発揮することが重要視されています。
ただし、自分勝手に行動したり部下に命令したりすることとは異なるため、注意しなければなりません。自分の考えに忠実に動きつつ、人間関係や企業倫理について考えることも大切です。自発的に学び、自分から行動して部下をリードするなども求められます。
サーバントリーダーシップ
サーバントリーダーシップとは、部下に奉仕することによってチームを引っ張るという考え方です。リーダーと聞くと、部下を指導したり指示を出したりをイメージすることが多いですが、この理論では部下に奉仕して、働きやすい環境を構築することを重視します。
なお部下の主体性を大切に育て、自主的な行動を促すことが大きなポイントです。サーバントリーダーシップをうまく発揮すれば、部下に逐一指示を出さなくても自発的に行動できるようなチームへと成長できるでしょう。
シェアドリーダーシップ
シェアドリーダーシップとは、特定のリーダーだけではなく、各チームメンバーがリーダーシップを発揮することです。リーダーという役割を共有しながら課題を解決する考え方と言えます。
不確実で複雑な社会状況の中、一人のリーダーだけで適切な判断をすることは簡単ではありません。
シェアドリーダーシップの考え方を取り入れ、メンバー全員がリーダーとしての意識を持つことで、さまざまな視点から物事を検討でき、柔軟で迅速な意思決定ができるようになるのです。
変革型リーダーシップ
変革型リーダーシップとは、経営方針を抜本的に見直したり、チームメンバーに強く働きかけたりして、大きな変革を推し進めることです。社会の変化が激しい時代において、特に必要とされるリーダーシップと言えます。
ただし無理に改革を起こすわけではなく、メンバーのマインドに影響を与え、自発的な行動を促さなければなりません。変革型のリーダーには、強いカリスマ性や行動力が求められます。
レベル5・リーダーシップ
レベル5・リーダーシップは、個人としての謙虚さと、プロフェッショナルとしての意思の強さを併せ持つリーダーこそが良い結果を出すという考え方です。第5水準のリーダーシップとも呼ばれます。
レベル5・リーダーシップを発揮することで、会社が長期的に成長できるだけではなく、有能な後継者を選抜できます。
リーダーシップ理論を理解してチームを成功へと導こう
本記事ではさまざまなリーダーシップ理論を紹介しました。過去から現在までの理論を参考にしながら、状況に応じて適切なリーダーシップを発揮してチームを成功に導きましょう。
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