「組織コミットメント」という言葉は1970年代のアメリカで研究が盛んになった概念です。日本でもさまざまな研究がなされてきました。そして、多くの実験や検証を通して、組織コミットメントが高いことと離職率は負の相関を示すことが証明されています。したがって、組織コミットメントを高めることが多くのHRM(人的資源管理)施策の目的となってきています。今回は正しい組織コミットメントの上げ方をご説明したいと思います。
目次
組織コミットメントとは
組織コミットメントに関する研究は多くありますが、今回はよく知られているジョン・マイヤーとナタリー・アレン の3次元モデルで説明しようと思います。(引用 東北大学 野津創太「日本企業における若年者の早期離職―組織コミットメント概念による増加要因の考察」高木 浩人 組織の心理的側面 組織コミットメント、 より)
組織コミットメントとは組織と個人との関係を表す概念で、アレンとマイヤーは、「情緒的コミットメント」「存続的コミットメント」「規範的コミットメント」の三つの概念で説明しています。
情緒的コミットメントとは、組織や組織が提供するサービスおよびプロダクトに対する愛着から生まれる「会社のために」「仲間のために」といった責任感です。
存続的コミットメントは、その組織で得られたものをこの先も継続的に得ることを有益だと感じることで湧き上がる「ここに居続けるべきだ」という感覚です。
そして、規範的コミットメントは、その組織に所属し、そのルールに従うことに有益性を認識できていることで強まる「迷惑をかけてはいけない」というルール順守に対する考えです。
アレンとマイヤーは、これを教育訓練に例えると、その訓練を受けることが昇進につながっているものであれば、組織はただの労働力として自分を見ているのではなく、個人として尊重されていると感じて情緒的コミットメントが上がると説き、その訓練で得られる能力がその組織でしか通用しないと感じると、「折角得たのに失ったら将来的な利益が減る」と思って継続的コミットメントは高まると言います。そして、「訓練にこれほどコストをかけてくれた、そのおかげで自分は昇進できた」と感謝の念を持つと、組織に対しての忠誠心が上がり規範的コミットメントが強まると示しています。
やってしまいがちな組織コミットメントの高め方
最近日本で行われているHRMの取り組みとしては、情緒的コミットメントを高めようとするものが多いように見えます。会社や同僚に対する愛着を高めるための社内コミュニケーションツールの導入や、ランチ会などの交流イベント、社員同士がそれぞれの貢献を褒めたたえるサンキューポイント、社長から社員へのお手紙など。
これらに共通する特徴は、成果を測定し難い一方、運用している側は社員からのポジティブな反応を受けやすいので容易に満足でき、批判も出にくく継続しやすいといったことです。しかし、成果測定ができないので、コストの垂れ流しになりやすいのも事実です。
存続的コミットメントの高め方としては終身雇用、社内昇進推奨が挙げられます。ストックオプションや企業年金などの福利厚生も存続的コミットメントを上げる施策と言えます。日本の雇用環境において、経済成長期ではこういった取り組みは豊富な財源もあり積極的にコスト投下できていましたが、国内の経済成長の鈍化、人材の流動化が進むなか、優先順は下がらざる得ない状況です。
規範的コミットメントは、社員研修という形で高めようとしていることが多いです。スパルタボート漕ぎ研修などの「気合を入れる系」からグループワークを通して学ばせる「意識を上げる系」など、組織の規範を改めて認識させるものがあります。効果測定はルールの順守率などで測れるはずですが、ほとんど検証されることはなく、多くの場合、研修してその瞬間は変わったがすぐに元に戻るといったことを繰り返しています。気合や意気込みなど主観の変化を重視するため、効果想定など事実ベースの検証が不必要だと思われがちなことと、管理する責任者の設定とチェック機能の仕組み化ができていないことが原因と考えられます。
組織コミットメントを高めるには
こういった施策を通じて組織コミットメントを上げると、従業員は組織における自分の存在意義を認識できるようになり、この会社で仕事を続けたいと感じ、規律を自ら順守するようになるのでしょうか。
落合博満さんは著書『采配』に、選手が監督を尊敬し、チームの一員としてよかったと思うのは、「リーグ優勝した時のレギュラーだけ」と書いています。真理を突いた分析だと思います。
結果を出せずレギュラー落ちしたメンバーの心境を察すれば理解できますよね。そうなると、組織コミットメントが高い状態の人というのは「チームが勝ち、その勝利に貢献しそれに対して十分な報酬を得ている人だけ」となるので、組織においては上位2割程度の人間に限られるという話にもなりかねません。
では、それ以外の組織コミットメントが低い人は、その組織での存在意義がないのか、簡単に辞めてよいのか、ルールを順守しなくていいのかというと話は全く違ってきます。
組織内で個人の存在意義を明確にするためには、上司が部下の役割及び責任範囲を明確に設定し、部下の成長を信じ常にややハードルが高い目標設定を行い、その達成を求め続けなければなりません。部下はつらくても常に上司から要求されることで存在意義を認識し、それを達成したときに存在意義の確定がなされ、より存在意義を高めたいという動機付けがなされます。
また、その組織に居続けたいと部下に思わせるためには、リーダーが組織を成長させることで活躍できるポジションを増やしていくこと、社会的に企業のプレゼンスが高まっていることを業績拡大によって示すことが必要です。
そして、ルールに関してはその組織にいる限りは誰もが当たり前に守っていなければならないものですので、本人がどう感じていようが、リーダーはそれを徹底して守らせなければなりません。
つまり、これらの「当たり前のリーダーとしての機能」が組織運営において十分機能した結果、組織コミットメントが高まるのです。
自らの力で糧を得られるようにしてあげることだけに力を入れる
上司として部下にやってあげられることは限られています。しかし、これまで見てきた点に鑑みれば、上司としての機能を全うすることが、部下の組織コミットメントを向上させることに直結していることが分かります。
上司として部下を成長させ、組織の一員として活躍できるようにしてあげる、つまり「自らの力で糧を得られるようにしてあげること」だけにまずは注力すべきなのです。そうすることで部下の組織コミットメントが強化され、離職防止、モチベーション向上につながっていきます。