長時間労働の原因の一つとして指摘されがちなのが「会議、打ち合わせ」です。「ムダ」と考える社員が多く、実際にムダ会議で年間15億円の損失を生むとの試算もあります。
会議自体がだめということではありませんが、会議が長引く理由が「PDCAサイクル」の空回りであるなら、少し考え方を変える必要があります。
そこで、最近注目されているのが「OODA(ウーダ)ループ」と呼ばれるフレームワークです。
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目次
ムダ会議が企業に与える経済的損失
パーソル総合研究所が、会議時間についてのこんな分析結果を公表しています[1]。
日本企業が年間に「社内会議、打ち合わせ」に費やす時間を調査したところ、
メンバー級 154.1 時間
係長級 301.2 時間
部長級 434.5 時間
で、部長級の会議時間を企業規模別にみると、
従業員規模500人未満の企業 313.1 時間
従業員規模1万人以上の企業 630.0 時間
というものでした。
このうち、「ムダだと思われている社内会議」に費やされている時間は参加者合計で
企業規模1500人の会社 9万1900時間(約46人分の年間労働時間に相当)
企業規模1万人の会社 66万9100時間(約332人分の年間労働時間に相当)
にのぼり、そこで費やされる年間の総人件費は
企業規模1500人の会社 2億830万円
企業規模1万人の会社 15億2740万円
という衝撃的な試算結果です。
人件費もそうですが、「ムダだと感じる会議」が従業員の長時間労働や、モチベーションの低下に繋がることは言うまでもありません。
また、この分析によれば、会議をムダにする要因は
「会議が終わっても何も決まっていない」
「終了時刻が伸びる」
「些細な議題で会議を開く」
多くの人が思っていることと同じでしょう。
また、費やされるのは会議時間だけではありません。
部下の仕事として多い、「ムダ会議のためのムダ資料作り」は「ムダな労力」「ムダな疲弊」ということになります。
そのために残業が発生しようものなら、もはや「働き方改革」にも逆行する仕事のあり方になってしまいます。
一方、同じ会議でも、
「所要時間に制限が設けられている」
「終了時、司会者が決定事項と次に行うことを明確にしている」
といった会議はあまりムダだと感じられてはいないようです。
日本企業では身内意識、仲間意識の強さからか、内容よりも「みんなで集まる」ことの方が重視されている向きがあります。
「定例」の会議はその典型的なもので、特に何もなくても集まって近況報告しましょう、というだけのものであることもしばしばです。
すると、「会議だから何かを報告せねば」と、瑣末なことまで掘り出してメモを作ったりする習慣がある人もいるでしょう。
数ある会議の中でも筆者がもっとも苦痛だったのが。「ランチミーティング」なるものです。
昼休みくらい外の空気を吸わせてくれ、弁当を配ればいいってもんじゃないだろう。
そもそも、なんで食事中まで見たくない上司の顔を見ながら、仕事の話をしなきゃいけないんだ…
頭の中はこんなことでいっぱいです。不条理しか感じませんでした。
当然、集中などできるはずがありません。
内容は単なる報告会で、特に自分が知っておかなければならないような項目もなさそうな上、こちらからも何も報告することはないのです。
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PDCAサイクルと会議
さて、経営やマネジメントにおいて、「PDCAサイクル」は基本メソッドになっています。
計画を立て、実行し、評価し、改善する。
これをしっかり回転させることを重視しているマネジメントも多いことでしょう。
実は、このPDCAが会議を長引かせる要因の一つなのです。
会議が長引きがちなのは、「Plan」に関わるときでしょう。
計画、というのは「作る」ものですから、単なる「報告作業」とは違います。
ここで、あまりにもきちんと決めようとする性質があったり、なんとなく「全員の意見」を聞かなければいけないような気がしたり、といった理由で、必要以上に会議に時間をかけてしまっている可能性があります。
そして、「皆の意見の出しっ放し、結論が出ない」。
なんとなく横並びを好む、下から上にはっきりものを言いづらい、日本独特のこのような風習が、ムダ会議に拍車をかけてしまいます。
「持ち帰り」が発生し、もう一度会議が開かれる、ということも少なくありません。
本来、PDCAとは「品質管理」のために導入されるようになったフレームワークです。
工場のライン作業効率などの改善が目的で、ルーティンワークをいかに効率化するかというものです。
すると、ワンサイクルが決算や予算、月々、といった単位ごとになりがちです。
「PDCAを回す」ことが目標になってしまい、会議という「作業」もルーティン化してしまうことがあるのです。
しかし、実際のビジネスの現場は、日々変化があり、日々何かが起き、環境そのものが変化するスパンも短くなっています。
会議室にいる間に、そして、長時間こもればこもるほど、物事が決まる時には、大きく環境が変化してしまているのが現代なのです。
日本企業はよく「井の中の蛙になりがち」と言われますが、その大きな原因がここにあると考えられます。
そこで最近、意思決定を早める「OODAループ」という言葉が日本でも使われるようになって参りました。
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OODAループとは
「OODA(ウーダ)ループ」とは、米海軍で生み出されたメソッドです。
最初に提唱されたのは朝鮮戦争の時ですが、その後湾岸戦争、イラク戦争で有効性が実証された戦略一般理論です。
「OODA」は「Observe(観察)」「Orient(情勢判断、方向づけ)」、「Decide(決断)」、「Act(実行)」、の頭文字をとったものです。
OODAループには、PDCAサイクルとの決定的な違いがいくつかあります。
PDCAでつまずきがちな組織には、「Plan」の段階に問題があるように思います。
何か「大きなことを決めなければならない」という意識が働き、そのため、目標も「無難」なものが設定されてしまいがちです。
「皆の意見を聞いた」結果です。
かつ、慣れが出てしまうと、むしろ「これまでの延長線上としての計画」、あるいは少しの足し引きが加わる程度で終わってしまいます。
どれだけ高速回転しても、PDCAを回す数だけ会議が必要になり、会議のルーティン化に繋がります。
一方で、OODAループの起点は「観察する」「見る」ところから始まります。
この「見る」ことが、何よりも大切な要素です。
PDCAの「Plan」は、どちらかというと会議室で進める色合いが濃いと言えます。
一方でOODAループの「Observe」は、外で何が起きているのか、あるいは、個人で言えば社内での自分の立ち位置も含めて、「観察」することから始まるのです。
そして、「Orient(情勢判断、方向づけ)」に移ります。
これも、会議室でやる、というイメージはほとんどなく、また、「Plan」ほどきっちりとした計画という訳ではありません。
次に来るのが「Decide(決断)」です。
ここまでの3手順にあまり時間をかけず、すぐさま「Act(実行)」に移します。
これが1ループです。
「Check」といった項目を介さず、また次の「Observe(観察)」に戻します。
どういうことかというと、実行中、少しでも情勢が変わればすぐに「観察」に戻り、すぐに次の行動に結びつけるのです。
軍事行動に当てはめれば、OODAループは「勝つための戦略」です。
勝敗とは、以下のように分類できるでしょう。
「勝つ」:攻撃態勢を維持できる
「負ける」:実行条件を変更できなくなり、行動が止まってしまうこと
OODAループのもう一つの特徴として、「ショートカットが可能」というところがあります。
PDCAは計画ありきで一度は結果、結論のようなものを出さなければ次には進めません。
しかし、OODAループの考え方では、情勢の変化をすぐに行動、それも最新の分析を続けながら、という同時進行性もあります。
会議室にこもっている間に環境が変化してしまい対応不可になる、ということはありません。
冗長な「プラン立て」を必要としない上、OODAループは、回せば回すほど「経験」が個人の中に積み重なっていき、分析力が向上していきます。
どちらかというと、個人や現場単位での実行に向いているメソッドでしょう。
新しい「Plan」ができた頃には、もうそれは時代遅れになってしまうのが現代です。
個人も組織も、機動性を失うと、追いつくことすらできなくなるのです。
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共有すべきは何なのか
OODAループについては、「PDCAにとって変わる思考」と主張する人もいますが、それぞれ異なる性質を持つもので、どちらかだけで組織の維持ができるという結論づけは避けたほうが良いでしょう。
OODAは個人・現場レベルの意思決定方法、PDCAは組織の意思決定方法という見方もでき、使い分けることでその力を発揮します。
例えば、何かモノを売ろうと考えるとします。まず、Planとして売上目標などを設定することでしょう。
しかしここで、プラン作りに時間をかけすぎると、ライバル社から似たようなものを先に売り出されてしまう可能性があります。
そこで、プランを「ざっくりしたまま」まず各現場や個人のOODAを回転させます。
「まず動き」、必要に応じてプランに修正を加えながら、PDCAの次の手順である「Do」に移すのです。
売ってみなければ、売上の見通しは立ちません。
個人のOODAを複数回し、組織のPDCAサイクルに適宜反映していくのです。
「Check」についても同様です。
とりあえずやってみたらこうなった、この価格や売り方が「良さそうだ」「これでは見通しは悪そうだ」という程度で良いのです。
いまいちならば、PDCAの「Act(改善)」に「キャンペーンを打つ」といった新規の要素を付け加えます。
キャンペーンに効果があったなら、次の「Plan」にもっとうまいキャンペーンのやり方を盛り込みます。
「PDCA」のそれぞれのフェーズに、多数のOODAを盛り込む事で、PDCAそれぞれのフェーズににかかる時間も短縮されるでしょう。
日本人にありがちなのは、「見通しが悪くても根性でなんとかなるのではないか」「一度、一定の結論を出して再びみんなで話し合おう」という思考です。現代では「ムダ」なものと言えるでしょう。
指令本部に、全員がなんども集まる必要があるのか?と考えてみてください。
ともかく現場はOODAを可能な数回すことを考えれば良いのです。
部門代表だけの仕事は、個人のOODAから得た情報を把握し、分析することです。
異変が起きた時にすぐさま、組織のPDCAの要素を修正すべく会議室を使うのです。
こうすると、「机上の空論」ではないPDCAを回すことも可能になります。
この際、全体がバラバラにならないように共有すべきものは、一つに集約されます。
「理念」といったダイナミックなものです。
「手続き」といった瑣末なことに縛られず、理念に基づいて個人がOODAを回転させれば、バラバラになることもないし判断力も磨かれます。
逆に、「手続き」といったことで個人のOODAを止めてしまうような組織PDCAは、自ら歩みを止めてしまう行動と言えるでしょう。
「石橋を叩きすぎて割って」いては、ついていくどころか、追いつけなくなってしまいます。
「環境は毎日変わる」ことを意識した組織運営が求められています。
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[1]「『ムダな会議』による企業の損失は年間15億円」(パーソル総合研究所、2018年12月)
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201812130003.html