ビジネスを取り巻く環境の複雑性が高まり、将来を見通すことができない「VUCAの時代」と呼ばれるようになってから時間が経ちますが、テクノロジーが進化するスピードや世界情勢など、依然として環境は急速に変化し続けています。
このような予測不可能なビジネス環境を乗り越えるには、時代に合わせた企業変革や意識改革が求められるでしょう。
本記事では変化を乗り切るために必要な企業変革・意識改革に関する基本的な知識から、変革に必要なチェンジマネジメントについて解説していきます。
目次
企業変革において重要なチェンジマネジメントとは
まずはじめに、企業変革において重要な概念である「チェンジマネジメント」について解説していきます。
チェンジマネジメントとは?
チェンジマネジメントとは、従業員の足並みを揃えて企業の在り方を変革するためのマネジメント手法です。
より具体的には、組織を成功に導いたり組織で成果をあげたりするための変革を、従業員一人ひとりがスムーズに受け入れることができるように準備し、環境を整えるためのアプローチとなります。
ここ数年の間に、インターネットやスマートフォンなど情報通信技術が発展したことにより、人々のコミュニケーション方法や購買行動、意思決定の仕方が大きく変化しました。
このような変化によりさまざまな産業が成長し、先進諸国の人々はこれまで以上に豊かな生活を手に入れたのです。
しかし、こうした産業の発展は熾烈な競争原理によって成立しているため、市場における企業同士の争いは激化しています。
企業が生き残り、業績を上げていくためには、環境の変化に合わせて組織の在り方を変革していくことが必要です。
企業変革には現状維持バイアスを乗り越える必要がある
しかし、企業の在り方そのものを変えていくことは、容易にできることではありません。
なぜなら、企業の在り方を変えるには経営層だけではなく、従業員にもビジョンや経営理念を浸透させて足並みをそろえる必要があるからです。
さらに、企業変革の実行を難しくしているのが従業員の間にある「現状維持バイアス」の存在です。現状維持バイアスとは、現在の状況から変化することを嫌い、現状を維持したくなってしまう心理現象のことです。
したがって企業変革を推し進める際は、こうした従業員の変化に対するストレスや負担を考慮しなければなりません。
そこで、効果的に企業変革を進める手段として用いられるのが「チェンジマネジメント」です。
関連記事:チェンジマネジメントとは?組織を変える8つのプロセスと事例を解説
企業変革においてチェンジマネジメントが注目される理由
チェンジマネジメントは、アメリカで1990年代にブームとなったBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を成功させるための方法がもとになっています。
なぜいま、このチェンジマネジメントが注目されているのでしょうか?
その理由は、ビジネス環境が変化するスピードが著しく速くなっているためです。
技術の進歩は私達の生活をより便利に、快適にしました。しかし、それと同時に市場環境も大きく変化しています。
プロダクト・ライフサイクルの短縮化
技術の発展によってスマートフォンやインターネット環境が普及したことにより、情報が普及するスピードが加速した結果、誰もが情報を発信でき、誰もが膨大な情報にアクセスできるようできようになりました。
その結果、消費者のニーズや購買消費行動が多様化したため、プロダクト・ライフサイクルが短くなりました。
そして、このような環境下で企業が業績を伸ばして生き残るためには、変化を続けるビジネス環境にしなやかに対応する力が不可欠になってきています。
しかし、人は現状維持バイアスによって変化を嫌うため、一方的な企業変革を断行してしまうと従業員からの反発を招いてしまい、企業にとってはリスクとなりかねません。
したがって、スムーズな企業変革を実現できるチェンジマネジメントが注目されているのです。
企業を変革に否定的な従業員チェンジマネジメントによって人材の流出を防ぐ
では、チェンジマネジメントではどのようにしてスムーズに組織変革を行い、成功させるのでしょうか?
企業の経営陣は、社内外のさまざまな情報をもとに経営方針や戦略を決めなければなりません。このため、環境の変化に敏感で、危機意識を持っていることが多いです。
しかし、現場の従業員はどうでしょうか。必ずしも経営陣と同じ考えやビジョンを持っているとは限りません。
むしろ、企業の変革に対して否定的な考えを持っている人が多いケースもあります。
現場と経営陣の考え方にギャップがあるままでは企業変革は失敗してしまうでしょう。
例えば、コストカットのために人員を削減するとします。
この時、もし人員を削減する目的や理由、その施策を行ったことでどのような効果が期待できるのかといった点を説明しなければ、どうなるでしょうか?
従業員は施策の理由や目的がわからないため、反発や不信感を招いてトラブルにつながりかねません。
これ企業変革を皮切りに、重要な役職に就いている優秀な従業員が流出してしまう可能性があります。
人材の流出を防ぐためにもチェンジマネジメントが注目されているのです。
BPRとは
先程、「チェンジマネジメントはBPRを成功させるための方法がもとになっている」と解説しました。
それでは、このBPRとは何なのでしょうか?
BPRとは「Business Process Re-engineering」の頭文字をとった言葉で、現在の社内の業務内容やフロー、組織の構造などの抜本的な改革を意味しています。
(参考:民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査丨研究三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
関連記事:ジョン・コッターの『企業変革力』まとめ【組織変革を成功に導こう】
企業を変革する8段階のプロセスとは
それでは、企業を変革するために行うチェンジマネジメントの具体的な手法を見ていきましょう。
ここでは、ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授の著書『企業変革力』の中にある、企業が変革するために取り組むべき「8段階のプロセス」に沿って解説します。
8段階のプロセスは下記のようになっています。
- 企業変革の必要性を共有する
- 変革を推し進めるチームの発足
- 変革のビジョンや理念の設定
- ビジョンを従業員全員に浸透させる
- 従業員一人ひとりの行動の変革を促
- 短期目標の達成による変革の実感
- さらに変革を推し進める
- 変革の定着と継続的な改善
それでは一つずつ解説していきます。
第1段階:企業変革の必要性を共有する
8段階あるプロセスのうち、まずはじめにやるべきことは「企業変革の必要性を共有すること」です。
そのためには、現在自社が抱えている危機や改善しなければならない緊急性を明らかにする必要があります。市場と競合の調査や分析を行い、自社の強み・弱み、発展の機会を洗い出すようにしましょう。
従業員が現状維持バイアスによって変化に抵抗するのは、自社の危機を認識していなかったり、企業の行く末に対して他人事だったりするからです。
今すぐ変革をしなければならないと理解してもらうためにも、何度もその必要性を伝えなければなりません。
第2段階:変革を推し進めるチームの発足
企業内で「変革しなければならない」という意識が高まったら、次は企業変革を力強く推し進めるチームを発足します。
チームのメンバーに選ぶのは下記のようなさまざまな力を持つ、優秀な人物にしましょう。
- 人脈が多い
- 信頼されている
- 権限を持っている
- 評判が良い
- スキルを持っている
優秀な人材によるチームで企業変革を推し進めることで、周囲の理解を得ながらも効率的な企業変革を目指せるのです。
第3段階:変革のビジョンや理念の設定
チームを結成したら、具体的な変革のビジョンや理念を設定します。
ジョン・コッター教授によると、変革のビジョンは「将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明したもの」だといいます。
従業員はただお金のために働くわけではありません。「社会にどのような形で貢献できるのか?」や「仕事を通してどのように成長できるのか?」といった点も重視しています。
したがって、企業を変革した後にどのようなビジョンがあるのかで、企業変革に対する従業員のモチベーションも変わってくるのです。
コッター教授は、ビジョンには下記の6つの要素が必要であるとしています。
- 可視化できる
- メリットがある
- 実現可能である
- 方向性を示す
- 柔軟性がある
- 伝わりやすい
第4段階:ビジョンを従業員全員に浸透させる
企業変革のビジョンを定めたら、そのビジョンを従業員一人ひとりに周知し、社内全域に浸透させていきます。
毎回同じ手法で伝えたり、大きな会議で一度だけ発表するのではなく、さまざまなチャネルを用いて継続的に伝え続けることが重要です。
例えば、社内広報誌の発行や説明会の開催、ビジョンを説明するための個別説明会を開くこともできるでしょう。
変革推進チームはビジョンを達成するために、また、他の従業員の模範となるためにも率先してビジョン実現に向けた活動を行うことが求められます。
第5段階:従業員一人ひとりの行動の変革を促す
企業変革はビジョンを掲げるだけで達成されることはありません。企業を支える従業員一人ひとりの意識、そして実際の行動が変わることで企業変革は成し遂げられるのです。
したがって、従業員がビジョン達成を目指した行動をとれるように、阻害要因の排除や環境の整備を行いましょう。
せっかく従業員に企業変革の意識が芽生えたとしても、従来のシステムや構造が従業員の自発的な行動を阻害してしまっては意味がありません。
第6段階:短期目標の達成による変革の実感
企業変革は一朝一夕で実現するものではないため、長期的な視点で地道な取り組みを継続する必要があります。
しかし、あまりに長期的な計画の場合、変革が進んでいるのかどうか、または変革がうまくいっているのかどうかといった実感が沸かず、モチベーションの低下につながります。
そこで、短期間で成果が出る目標を掲げて、変革が進んでいることを可視化するようにしましょう。
第7段階:さらに変革を推し進める
第6段階で短期目標を達成したことで勢いが増したら、さらに変革を推し進めていきましょう。
企業変革がここまで進めば、従業員も変革の必要性や重要性を肌で実感できているはずなので、組織の構造やシステム、制度や整備を大きく変えても異論や反発が起きにくくなっています。
第8段階:変革の定着と継続的な改善
企業変革の推進、変革ビジョンの実現によって新たに誕生した組織の在り方や、変革の実績を従業員と共有し、企業文化として変革が定着することが最後の段階です。
ここで従業員が「企業変革は成功した」と感じることができれば、変革へのモチベーションが上がり、より良い変革につなげられるでしょう。
また、次の変革のためにも、新たな手法や培ったノウハウを社内で共有する仕組みづくりも重要です。
関連記事:企業変革力とは?ジョン・P.コッター ハーバード大学名誉教授(組織行動論)
企業変革やチェンジマネジメントに求められる人材
企業変革やチェンジマネジメントを成功させるためには、下記のような優秀な人材が求められます。
ここでは、「第2段階:変革を推し進めるチームの発足」で紹介した人材とは別に、以下に企業変革やチェンジマネジメントに求められる代表的な人材を解説していきます。
- 経営リーダーやミドルリーダー
- 様々なスキルやキャリアを持つ人材
それでは一つずつ解説していきます。
経営リーダーやミドルリーダー
企業を変革させるためには、強いリーダーシップを持った経営者が必要になります。
ただし、経営者だけでは不十分です。
実際には、経営層の意思を現場に落とし込み、現場からの声や実感を経営層に届ける橋渡し役となるミドルリーダーが求められます。
したがって、企業を変革する力を持つ幹部候補や経営リーダー候補を早い段階で抜擢し、育成しておくことが重要です。
経済産業省の公式サイトからは「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」が公開されているため、参考にしてみてはいかがでしょうか。
様々なスキルやキャリアを持つ人材
企業変革には、様々なスキルやキャリアを持つ人材も必要になります。
こうした人材を確保するには、柔軟な報酬体系や充実した福利厚生を取り入れることが効果的です。
また、個々の考え方やキャリアデザインに対応して、様々なキャリア機会を提供することも有効といえるでしょう。
多様なニーズに最適化した人材の登用制度などを併用して整えていくことが求められます。
まとめ
ここまで企業を変革するために必要な「8段階のプロセス」や、チェンジマネジメントの重要性や必要性をみてきました。
加速度的に変化するビジネス環境に対して何も対応をしなければ、環境の変化についていけずに生き残ることが難しくなります。
だからこそ、企業は常に変革し続けて古い経営体制を脱却しなければなりません。
また下記の記事では、企業変革に成功した事例を紹介しているので、合わせてご覧ください。