新型コロナウイルス感染症拡大下で、医療や保育・介護、あるいは生活用品の販売や流通にあたる、いわゆる「エッセンシャルワーク」の重要性は誰の目にも明らかとなりました。
エッセンシャルワークに従事する人々は、エッセンシャルワーカーと呼ばれます。
エッセンシャルワーカーは、人の生命や健康、成長や幸福に関わる重要な仕事であり、専門性も必要とされます。
しかし、エッセンシャルワーク、特に対人的な「ケア」を行う仕事は賃金水準が低く、そのため人手不足になりがちであり、それゆえ過重で長時間の働き方になってしまうケースが多いのが実情です。
この記事では、エッセンシャルワーカーの言葉の意味から、その待遇についてまで、わかりやすく解説していきます。
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目次
エッセンシャルワーカーは「私たちの生活に必要不可欠な仕事の従事者」のこと
英語で「必要不可欠な」を意味する「essential」と、「労働者」を意味する「worker」を組み合わせたエッセンシャルワーカー(essential worker)。
医療従事者をはじめとして、ライフライン維持のために働く人々、つまり私たちの生活に必要不可欠な仕事の従事者のことを言います。
エッセンシャルワーカーには患者の治療にあたる医療従事者を含むものの、定義や対象はさまざまであることがほとんどです。
とはいえ、日本だけでなく世界的に「生活を維持し営み続けるために必要な労働に携わる人々」という部分は共通の要素と言えます。
世界No.1求人検索エンジンである「Indeed (インディード)」を運営するインディードジャパンは、『エッセンシャルワーカー』の仕事動向を調査し公表しています。(ここでのエッセンシャルワーカーの定義は上と同様)
小売・販売…「スーパーマーケット」「コンビニ」「ドラッグストア」
物流… 「配達・デリバリー」「トラックドライバー」「倉庫」
医療・福祉…「看護」「薬剤師」「介護」
および農業に関する仕事をエッセンシャルワーカーとして調査対象とし、調査対象期間は、2019年1月1日〜2020年5月12日です。
この調査から、「介護」「看護」「薬剤師」「ドラッグストア」は求人割合が2020年4月以降上昇している一方で、「仕事検索割合」については、「介護」「薬剤師」は前年を下回っていました。
この調査から、「医療・福祉分野においては人手不足の状況が広がっている」と指摘しています。
エッセンシャルワーカーはコロナでその存在が認知された職業
新型コロナウイルスの世界的な流行によって、エッセンシャルワークが社会を維持するために欠かせないものであると認知されると共に、それに従事するエッセンシャルワーカーも注目を集めるようになりました。
デジタル化が進み、様々な仕事がリモートで可能になってもなお、どうしても物理的に対応しなくてはならない業務が存在し、それは社会活動をしていく上で不可欠(エッセンシャル)な仕事なのです。
どうしても物理的に対応しなくてはならない仕事に従事する人という意味では、「エッセンシャルワーカー」はオンライン上で従事する「リモートワーカー」と対をなす言葉ともいえるでしょう。
エッセンシャルワーカーとリモートワーカーという区分は、かつてはブルーカラーとホワイトカラーと呼ばれていたものに対応します。
ブルーカラーは、主に製造業・建設業・鉱業・農業・林業・漁業などの業種の生産現場で、生産工程・現場作業に「直接」従事する労働者を指す言葉です。
技能系や作業系の職種一般に従事する労働者を意味していて、肉体労働を特徴としています。
一方、ホワイトカラーは、事務系の職種一般、つまり企業の管理部門で企画あるいは管理業務などの事務労働に従事する労働者を指す言葉です。
知的ないし技術・開発的労働や事務系、企画・営業・販売系の職に就いている者のことを言います。
ホワイトカラーは、オフィスで仕事をしている職員や事務員が、白い襟のワイシャツと背広を着用しているのが多いことが、その語源です。
ブルーカラーと比較すると賃金水準は高い傾向にあり、生産に直接的に関わることのない非現業的な職種に携わっている人のことを言います。
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エッセンシャルワーカーの代表的な職業例
すでに説明したように、エッセンシャルワーカーの定義は様々です。ここからは、エッセンシャルワーカーの代表的な職業例について紹介していきます。
医療従事者
医療従事者は、患者に健康管理サービスとサポートを提供する仕事です。厚生労働省は医療従事者の範囲を、以下の資格所有者と定めています。
- 「医師」
- 「歯科医師」
- 「薬剤師」
- 「保健師」
- 「助産師」
- 「看護師」
- 「准看護師」
- 「歯科衛生士」
- 「診療放射線技師」
- 「歯科技工士」
- 「臨床検査技師」
- 「衛生検査技師」
- 「理学療法士」
- 「作業療法士」
- 「視能訓練士」
- 「臨床工学技士」
- 「義肢士」
- 「救急救命士」
- 「言語聴覚士」
- 「管理栄養士(栄養士)」
スーパーの店員
スーパーの店員は、私達が日々生活していく上で必ず必要となる衣食住に関わるサービスを提供する仕事を担っています。
コンビニエンスストア、ドラッグストア、薬局の店員なども含まれます。
私達が日々生活していく上で必ず必要となる衣食住に関わるサービスは、実際に多くの顧客と接する機会があり、感染リスクが生じます。
教員
教員は、社会人生活、高等学校、職場への準備のために生徒を指導する専門教育者です。
多くの場合、授業計画を作成・実施し、生徒の進歩を評価し、時には課外活動の監督も行います。
教員は教室で、またはビデオ会議や教育用ソフトウェアなどの遠隔学習プログラムを通じて生徒を指導し、試験を実施するのが仕事です。
保育士
保育士は、小さな子どもの世話をするサービスを提供するのが仕事の職業です。
新型コロナ禍であっても、社会を支える基盤のひとつとして保育所等には継続要請がなされ、衛生材の確保もままならないなか、感染予防対策に気を配りながらの保育サービスを提供してきました。
さらに、地域で感染が急激に広がる危機的な状況下でも子育てをしている看護師・医師等の子どもを受け入れ続けるなど、社会維持と生命を守る人たちのためにもサービス提供を行っています。
保育サービスの提供は、他の職業に従事する人々を支える欠かせないエッセンシャルワーカーなのです。
介護士
介護士は、感染対策を徹底した上で、食事・排せつ・入浴のサポートなど、入居者が安心して生活するために必要な支援を行っています。
新型コロナの感染対策として「3密を避ける」ことは当然ですが、介護の仕事では人との接触が必ず発生します。
重症化リスクの高い高齢者の方も多く、さらには自分自身が感染するリスク、相手を感染させてしまうリスクも伴うエッセンシャルワーカーです。
バスの運転手
バスの運転手は、スクールバス、貸切バス、市営バスなどを運転し、人々を目的地まで運びます。
他のエッセンシャルワーカーを仕事場まで運ぶという意味でも、非常に重要なエッセンシャルワーカーだと言えるでしょう。
トラック運転手
トラックドライバーは、貨物の積荷を目的地まで輸送する仕事です。
食品、繊維、燃料などの商品を倉庫や小売店まで運ぶため、長距離を移動することが多く、企業はその商品を顧客に販売することになります。
また、コロナウイルス感染拡大の影響で通販利用も増え、商品輸送の需要はより拡大しました。
トラック運転手になるには、商業運転免許証(CDL)に加えて、CDL教育およびトレーニングが必要となるなど、専門性の高い職業です。
ゴミ収集員
ごみ収集員は、私たちの生活で必ず発生するゴミを収集するのが仕事の職業です。
人間が生命活動を続けるうえでゴミは絶対に出るので、どんな環境であっても必要となる、私たちの生活を影で支える欠かせないエッセンシャルワーカーなのです。
整備士
整備士も私たちの生活に欠かせないエッセンシャルワーカーです。
私たちは生活の利便性を高めるために様々な技術を利用しています。
たとえば、電気・水道・ガスのような社会インフラをはじめ、車やバイクなどは、私たちの生活を支える大切な技術です。
こうした技術をスムーズに利用できるようにするのが整備士の役割です。
整備士がいなければ、私たちは便利な生活を享受することはできないのです。
銀行員
銀行員も社会に欠かせない大切なエッセンシャルワークに従事する人々です。
銀行員がいなければ私たちの生活に必要となる現金を利用することができません。
お金そのものが社会生活に欠かせない社会のインフラである以上、それに関する職業も私たちの生活には欠かせないのです。
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エッセンシャルワーカーが直面するリスク
エッセンシャルワーカーの多くは勤務先に行かないと仕事が成り立ちません。そのため、コロナ禍においては、感染のリスクが高いと言えます。
以下では、エッセンシャルワーカーが直面するリスクについて説明します。
感染のリスク
エッセンシャルワーカーは人々の生活や社会システムの基盤を支えているため、新型コロナウイルスが流行している最中であっても仕事を止めることは難しく、勤務先に出向いて人と接触することを避けられません。
中には医師や看護師のように、新型コロナに直接向き合うことが求められる人々もいます。
そのためエッセンシャルワーカーは、特にコロナ禍にあっては感染リスクと隣り合わせの職種であり、彼らが安心して働ける環境作りが求められています。
感情労働により精神の疲弊
エッセンシャルワークは、ときに感情をコントロールしながら職務を行わなければならない、感情労働が求められる仕事です。
感情労働とは、相手(=顧客)に特定の精神状態を創り出すために、自分の感情を誘発したり、逆に抑圧したりすることを職務にする、精神と感情の協調作業を基調とする労働のことを言います。
良い意味でも悪い意味でも、エッセンシャルワーカーは自分の感情に関わらず、相手に接しなければなりません。
感情をコントロールしなければいけないシーンが多いことで、ストレスを感じやすくなります。
少子高齢化:人材不足による連勤
少子高齢化による労働人口全体の減少に伴い、エッセンシャルワーカーにおいても人手不足が懸念されています。
エッセンシャルワーカーの待遇や賃金、福利厚生、メンタルヘルスなどの改善は、社会全体の課題です。
エッセンシャルワーカーの仕事は、AI(人工知能)やロボティクスなどによって代替されにくく、中長期的にはこの領域に多くの労働力が流入していくことも予想されています。
エッセンシャルワーカーを呼び込むための取組
エッセンシャルワーカーは社会に不可欠な存在であるにもかかわらず、様々なリスクに晒されており、また、十分な待遇が与えられていないこともあって、常に人手不足の状態です。
そのため、エッセンシャルワーカーに従事する人を増やそうという施策が進められています。
エッセンシャルワーカーへ復職を促す
新型コロナウイルスの流行によって医療体制の逼迫が問題となっています。
その中でも看護職確保が課題となっており、現在は看護師として働いていない人がスムーズに復職できるような施策が進められています。
たとえば、公益社団法人日本看護協会は、新型コロナウイルス感染症対策における潜在看護職の復職支援を行っており、実際に多くの看護師が復職してコロナ禍に立ちむかっています。
新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金
医療機関の医療従事者や職員のようなエッセンシャルワーカーは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止・収束に向けてウイルスに立ち向かい、感染すると重症化するリスクが高い患者との接触を伴いながら、継続して診療等を行っています。
医療機関でのクラスターの発生状況も踏まえ、相当程度心身に負担がかかる中、強い使命感を持って業務に従事している各都道府県の人々に対し、慰労金として最大20万円を給付する新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業が実行されました。
エッセンシャルワーカーへの特別優待
その他、エッセンシャルワーカーに特別優待を行う取組も民間で行われています。
たとえば、旅行サイトを運営する「じゃらん」では、エッセンシャルワークに従事する人のみが予約できる旅行プランを提供しています。
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違和感:エッセンシャルワーカーは果たしてそのリスクにあう待遇を受けているのか
エッセンシャルワーカーは、社会機能を維持するために不可欠な存在であるにもかかわらず、その待遇は決して恵まれているものではありません。
そしてそれは、社会構造によって生じている問題でもあります。
構造的な問題であるからこそ様々な施策が打たれているものの、根本的な問題はいまだ解決されていません。
ここでは、エッセンシャルワーカーの待遇について具体的に説明していきます。
ドライバーの過酷な状況
新型コロナウイルスの流行が始まった頃、一部地域での感染が報告されているという状態が起きました。
それらの地域間を移動する長距離ドライバーや運送会社のドライバーがウイルスを媒介するのではないかといった見方から、無理解や差別、偏見といった人権問題が発生しました。
これに加えて、トラックの運送ドライバーの労働環境は現状決して恵まれたものではありません。
物流の増加によりドライバーの拘束時間は増加しているのにも関わらず、賃金問題や長時間労働に伴う健康状態の管理など改善されていない課題が多くあります。
特に長時間労働に関しては、単純に荷物の量が多いだけではなく荷物を受け取る側の不在による再配達が大きく影響しています。
家族を巻き込んだ差別も発生している
新型コロナウイルス感染症に関連して、エッセンシャルワーカーに対する偏見や差別を始めとする様々な人権問題が発生しています。
「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が2021年3月から5月にかけて複数回にわたってまとめた「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、医療機関や高齢者福祉施設等で大規模な施設内感染事例が発生しました。
それにより医療・福祉従事者等に対する偏見や差別が広り、さらにそうした影響が家族にも及んでいることが言及されています。
また、物流など社会機能の維持に必要とされる職業に従事する人々に対しても同様の事例が見られるとされています。
差別や偏見、嫌がらせが広がると医療従事者やエッセンシャルワーカーの離職が増える可能性があります。
必要不可欠な仕事ほど賃金が低い現状
エッセンシャルワーカーの多くは非正規労働者で、低賃金・長時間労働を強いられていることが指摘されています。
政府が設置した新型コロナウイルス感染症対策分科会の「緊急提言」でも、エッセンシャルワーカーの多くが女性で「待遇面や働く環境面が厳しい状況にある」ことや「テレワーク導入が困難な職業である」ことを指摘しています。
エッセンシャルワーカーに含まれている介護士や保育士の給与の低さは以前から問題になっており、モノを自宅まで運んでくれる配達員や物流センターの従業員、スーパーで働く店員にいたっては最低賃金で働くバイトやパートも多いです。
特に日本では「訪問介護員の83.9%が女性職員(平成29年度介護労働実態調査)」「看護師は9割以上が女性(厚生労働省調べ)」で、働く女性の多くが厳しい労働環境に置かれているのが現状です。
現在進められている過度な残業を抑制して労働時間を削減し、同一労働同一賃金によって待遇差を是正していくといった一連の働き方改革の考え方は、エッセンシャルワーカーの待遇改善にもつながるものです。今後の改善が求められています。
エッセンシャルワーカーへ私たちができること:差別をなくす
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、陽性者のみならず、医療従事者をはじめ社会機能の維持に必要な事業を支えているエッセンシャルワーカーの方々や、そのご家族などに対する差別的取扱いや言動が全国的に発生しています。
その多くは日常のなかで無自覚になされる言動ですが、それによってエッセンシャルワーカーの方々が生活の維持に必要なサービスを享受できない、店舗利用を拒否されたといった実害が生じています。
退職に追い込まれたなど、彼らの人生に大きく影響を及ぼした事例も発生しています。
こういった職業とコロナウイルスに関わる差別は、受診をためらわせ、あるいは陽性者が正確に行動履歴を申告せず、感染を再拡大させてしまう恐れがあります。
また、エッセンシャルワーカーの方々の業務にも支障をきたし、感染症への万全な対応ができなくなることも懸念されます。
今後、私たちは新型コロナウイルスについて正しく理解し、正しく恐れ、正しく対策を行わなければなりません。
エッセンシャルワーカーに対する差別や偏見は、新型コロナウイルスに対する無理解から生じているのです。
こうした状況を改善すべく、新型コロナウイルス感染症に関する偏見や差別を防止するための規定(新型インフルエンザ等対策特別措置法等を一部改正する法律 令和3年2月13日施行)も設けられています。
まとめ
新型コロナウイルスの世界的な流行は、エッセンシャルワーカーの重要性を再認識させるきっかけとなりました。
これがきっかけとなって、エッセンシャルワーカーという仕事に従事する人々が置かれている現状にも目が向くようになっています。
エッセンシャルワーカーはこれまで社会の維持に不可欠な役割を担ってきたにもかかわらず、不遇な扱いを受けてきたのです。
その不遇な扱いは現在政府の働きかけもあって改善の兆しが見えつつあります。
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