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ウェルビーイングという言葉を聞いたことはあるでしょうか。
SDGsの項目にも取り上げられたウェルビーイングですが、その詳細はよくわからないという方も多いのではないでしょう。
本記事では、ウェルビーイングを詳しく解説します。
「ウェルビーイングがわからない」「企業がウェルビーイングを実施する理由がわからない」という方におすすめの記事となっていますので、ぜひご一読ください。
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ウェルビーイングとは
まずは、ウェルビーイングの意味について以下の要素から詳しく見てみましょう。
- ウェルビーイングの語源
- WHOで規定されている健康とウェルビーイング
- ウェルビーイングとウェルフェアとの違い
それぞれ詳しく解説します。
ウェルビーイングの語源、意味
ウェルビーイング(well-being)を日本語に直訳すると「良い状態が続くこと」になります。端的に日本語では「幸せ」と表現されますが、ビジネス分野で使われるウェルビーイングは直訳に近い意味で使われています。
専門家
WHOで規定されている健康とウェルビーイング
ウェルビーイングがビジネス用語として扱われるようになったのは、1946年に61か国で調印された、世界保健機関憲章がきっかけです。
日本は1951年に取り入れましたが、世界保健機関憲章ではウェルビーイングが以下のように説明されています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
Governments have a responsibility for the health of their peoples which can be fulfilled only by the provision of adequate health and social measures.
上記をそれぞれ日本語に直すと以下のようになります。
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
各国政府には自国民の健康に対する責任があり、その責任を果たすためには、十分な健康対策と社会的施策を行わなければなりません。
引用
上記からWHOではウェルビーイングを「健康」として定義していることがわかります。内容としては、身体的にも精神的にも社会的にも満たされた状態を「健康=welbeing」と呼んでいることから、英語の直訳の「良い状態であること」と同様の意味だとわかります。
なお、英語の本文では現在進行形が利用されていることに注目しましょう。進行形は継続性や反復性を意味します。したがって、ウェルビーイングとHappinessとは意味が異なります。
専門家
ウェルビーイングとウェルフェアとの違い
ウェルビーイングと似た言葉にはウェルフェア(welfare)があります。ウェルフェアは直訳すると「福祉」を意味します。
ウェルビーイングはあくまでも最終的な目的であり、ウェルフェアは手段でしかありません。
したがって、両者の意味は大きく異なります。
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仕事における「代案なき反対者」の取り扱い方について。ウェルビーイングの構成要素
ウェルビーイングを実現するための要素には以下があります。
- 仕事の充実
- 人間関係の幸福
- 経済的な幸福
- 身体的な幸福
- 地域社会の幸福
これらは、後述するGALLUP社が説明するウェルビーイングの構成要素です。上記はウェルビーイングを達成するために不可欠な要素だとGALLUP社は説明しています。
それぞれわかりやすく解説します。
仕事の充実
ウェルビーイングを達成するためには仕事の充実が欠かせません。健康的な生活をするためには、仕事が必要になるからです。
また、失業は精神的負担が大きいため、仕事が安定的にある状態でないとウェルビーイングは実現できません。
人間関係の幸福
人間関係は仕事の充実にも直結する要素です。職場に分かり合える社員がいることは、仕事のモチベーションアップにも繋がります。
また、人と関わることが幸福にも繋がるとGALLUP社は説明しています。
経済的な幸福
経済的な幸福は普通に生きていくために欠かせません。何かをしたいと思った時にお金がない状態では幸せは実現できないからです。
また、最低限の健康的な生活をするためにも不可欠な要素です。
身体的な幸福
適度な運動をすることは幸福には欠かせません。運動をすることで、深い睡眠を得ることができます。
どれほどのストレスを抱えていようとも、一度寝れば状態はよくなるとGALLUP社は説明しています。
地域社会の幸福
人や地域に貢献することは結果的に幸福度を高めることに繋がります。
自己承認欲求を満たす上でも、地域社会に貢献し社会全体を幸福にすることは良い影響を与えます。
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ストレスチェック義務化とは?社員のメンタルヘルス管理で知っておきたいこと『まとめ』2021年度の世界幸福度調査
国連が発表する世界幸福度調査によれば、日本の2021年度の幸福度ランキングは149か国中56位とまだまだ高い順位ではありません。
それでは世界幸福度調査の順位はどのように決まっているのでしょうか。
- どのような判断基準なのか
- 世界幸福度ランキングの順位
- 日本が抱えている問題 「自由度」「寛大さ」
それぞれ詳しく解説します。
どのような判断基準なのか
まず気になる判断基準ですが、GALLUP社は幸福度ランキングの説明変数(要因)を以下の6つに分けてランキングをつけています。
- 一人当たり国内総生産(GDP)
- 社会保障制度などの社会的支援
- 健康寿命
- 人生の自由度
- 他者への寛容さ
- 国への信頼度
こうした説明変数を取るのは、経済環境だけでは幸福は測れないことが明らかになったからです。
世界幸福度調査では上記の6つの項目が最低になる仮想の国をディストピアと定義し、ディストピアとどれほどの点数差があるかで順位づけをしています。
世界幸福度ランキングの順位
2021年の世界幸福度ランキングによれば、順位は以下のようになっています。
- フィンランド
- デンマーク
- スイス
- アイスランド
- オランダ
- ノルウェー
- スウェーデン
- ルクセンブルグ
- ニュージーランド
- オーストリア
上位国の特徴として「社会保障制度などの社会的支援」が十分にあることが挙げられます。「ゆりかごから墓場まで」という言葉の通り、フィンランドなどの北欧国は手厚い福祉制度が有名で、「育児休暇制度」「高い保育制度」などが挙げられます。
また、フィンランドの公的教育にはフィンランド全体のGDPの約6.7%(2000年調べ)を使用しており、教育費用に占める公的支出の割合は96.0%とほぼ家庭から支出する費用はありません。
こうした社会保障の充実の背景から、上位国には北欧がランクインしています。
日本が抱えている問題 :「自由度」「寛大さ」
先ほど触れたように、日本の世界幸福度調査の順位は2021年には56位と高くはありません。順位が上がらないのは「自由度」「寛大さ」が問題だと言われています。
欧米諸国と比べるとまだ休暇を取りづらいという声は多く、労働の自由度が低いのが日本の課題です。
実際、独立行政法人の労働政策研究・研修機構が5,738社に実施した2020年の調査によれば、年休の計画的付与制度の導入をしている企業の割合は42.8%とまだ低く、十分とはいえません。
ただし、以下のような結果も出ています。
労働者調査において、3年前と比べての年次有給休暇の取りやすさに対する認識では、「取りやすくなった」(「かなり取りやすくなった」「やや取りやすくなった」の合計)は52.1%と半数を占め、「どちらともいえない」が35.9%であり、「取りにくくなった」(「かなり取りにくくなった」「やや取りにくくなった」の合計)は3.7%と少数である。
したがって、今後休暇を取得する社員が増えれば世界幸福度調査の数値は伸びそうです。
また、寛大さは社会貢献に起因しています。寄付やボランティアがこうした社会貢献の数値に関わりますが、日本では十分に寄付やボランティアが浸透していません。
専門家
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メンタルコントロールとマネジメントのやり方を解説GALLUP社の幸福度調査
ウェルビーイングに関わりのある調査として、GALLUP社の「Global Emotions調査」が挙げられます。
本調査では「人間の感情」に焦点が当てられています。
Global Emotions調査で焦点となるのは「肯定的な経験」と「否定的な経験」という2つの説明変数です。
■POSITIVE EXPERIENCE
- 昨日はよく休めたか
- 尊厳をもって扱われたか
- たくさん笑ったか
- 関心があることを学んだか
- 楽しく行動できたか
■NEGATIVE EXPERIENCE
- 肉体的な苦痛を感じたか
- 心配して過ごしたか
- 悲しみを感じて過ごしたか
- ストレスを感じて過ごしたか
- 怒りを感じて過ごしたか
上記の2つの経験から世界の感情の調査が実施されています。
本調査によれば、アメリカの悲しみのスコアはコロナ禍で上昇したと言われており、コロナの影響で人々の感情は変化したと言えそうです。
参考:Gallup2020 Global Emotion Report | GALLUP
なぜウェルビーイングが注目されているのか
日本経済新聞社は、日本版Well-being Initiativeを始動させるなど、今社会の中でウェルビーイングへの注目が集まっています。
こうしたウェルビーイングの注目の背景には以下5つの要因が関係しています。
- 多様性を認める社会の実現
- SDGsにgood health and wel-beingの項目があるから
- ニューノーマルへの対応
- 労働力の減少
- Society5.0で描き出される理想の社会に必須
それぞれ詳しく解説します。
多様性を認める社会の実現
多様性を認める社会の実現のためにウェルビーイングの充実が必要です。企業側もウェルビーイングの理解を深め、従業員の多様性の寛容に努めなければ、社員が離れていってしまいます。
多様性を実現することで初めて社会のさらなる進歩が見込まれます。
SDGsにgood health and wel-beingの項目があるから
SDGsとは「持続可能な開発」と日本語で訳されますが、国際社会が目指すべき共通の目標として国が定めているものです。
SDGsの項目の3つ目には、「全ての人の健康的な生活を確保する」という目標があります。
世界では5歳で命を落とす子供が620万人もいます。
今後世界をより良い方向へ進め、こうした世界福祉への国民の理解を深めるためには、その雇用者である企業の協力が不可欠です。
こうした背景から、日本政府や企業のウェルビーイングへの取り組みは活発化しています。
ニューノーマルへの対応
企業はいま、ニューノーマルへの対応も求められています。新型コロナウイルスによる影響により、日本企業も今までの働き方からの変革が必要になりました。
今後も個人が自律的に自らの働き方を考えることは重要視されていくことでしょう。
つまり、従業員も自信をセルフプロデュースをし、より良いウェルビーイングを考えなければいけない時代になったとも言えます。
労働力の減少
今後少子高齢化により労働力がさらに減少することが喫緊の問題となっています。したがって、結婚後退職した女性を再雇用して労働力人口を下支えする試みは今後必要になります。
その際、女性が戻りやすい職場づくりのためには、企業のウェルビーイングへの取り組みが欠かせません。
Society5.0で描き出される理想の社会に必須
Society5.0とはイノベーション白書を文部科学省がまとめたものです。Society5.0への具体的な構想として、「先の見えない不安に対して、持続可能な強靭性を備えることで国民の安心と安全を保持するとともに、国民ひとりひとりがウェルビーイングを達成できる社会」があります。
つまり、日本政府が掲げる今後のビジョンの中にもウェルビーイング項目は含まれるということです。
専門家
参考:6. SDGs、Society5.0と都市OS | 内閣府
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仕事をしない人の特徴や対処法、気持ちの切り替え方を紹介!日本的ウェルビーイングの多様性
GALLUP社の幸福度調査を例に出し、ウェルビーイングの構成要素を先に説明しましたが、必ずしも世界のウェルビーイングが日本にも適合するとは限りません。
株式会社ウェルビーイングテクノロジーは、世界的なウェルビーイングと日本的ウェルビーイングは異なる面もあると説明しています。
例えばアメリカ的ウェルビーイングが自由や平等の精神を大切にするのは、その背景に過去アメリカが独立をした歴史があるからです。
同様に考えると、島国で周囲との同調や調和で生きてきた日本人にとってのウェルビーイングとは、「さまざまな状況に対応できる」ことがウェルビーイングと言えるかもしれません。
また、自身がどこに住んでいるかによってもウェルビーイングは変化します。
例えば、都市部によってはお金があることが必須になりますが、地方ではお金のあることよりも自然の豊かさの軸の方が大切になります。
このように考えると、必ずしもGALLUP社の提唱するウェルビーイングの説明変数は正しいとはいえず、より個人にフォーカスしたウェルビーイングが日本では求められていることになります。
参考:WELL-BEING | 株式会社ウェルビーイングテクノロジー
企業におけるウェルビーイングのメリット
それでは企業がウェルビーイングを実施するメリットはどこにあるのでしょうか?
以下3つが挙げられます。
- 健康経営につながる
- 離職率の低下につながる
- エンゲージメントの増加につながる
健康経営につながる
まずは企業がウェルビーイングを実施することで、企業の健康経営に繋がります。
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考えることです。
従業員の健康への投資は結果として企業の業績にも相関性があります。
従業員がウェルビーイングを実施することで、従業員のモチベーションは高まり会社への貢献意欲も上がる可能性があります。
離職率の低下につながる
健康経営とも近い意味ですが、ウェルビーイングの推進をすることで離職率の低下に繋がるかもしれません。
離職率が高まる原因は、社員の現状への不満です。現状に不満があるからこそ、転職や退職をする社員が発生します。
ウェルビーイングを企業側が促すことで、従業員の満足度は向上し、離職の予防となる可能性があります。
エンゲージメントの増加につながる
従業員のエンゲージメントの増加につながるのもウェルビーイングのメリットです。ウェルビーイングを実施することで、革新的なイノベーションが生まれる可能性があります。
以上のように、ウェルビーイングは社会福祉的な観点だけではなく、経営的な視点から見てもメリットが多いです。
ウェルビーイングを実施している企業:楽天
楽天ではニューノーマルにむけたウェルビーイングへの試みとして、コレクティブ・ウェルビーイングを掲げています。
楽天グループでは、個人、組織、社会の3つからウェルビーイングを実践しており、福利厚生、エンゲージメント調査でこの繋がりを調査しています。
楽天で提唱されるコレクティブ・ウェルビーイングとは、持続的な強いチームの作成のためには、「仲間」「時間」「空間」の余白が必要だという考え方です。
これを楽天グループでは「三間」と表現していますが、それぞれの仕事の間には雑談や休憩などの時間を挟むことが重要だと説明し、一部の事業部ではそうした試みを進めています。
まとめ
本記事では、ウェルビーイングをわかりやすく解説しました。
今後は個人がウェルビーイングを追い求めるだけでなく、企業がウェルビーイングを推進することが重要になります。
まだ自社でウェルビーイングが推進されていないのであれば、ぜひ導入を検討してみてください。
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