経営者
専門家
競合他社との差別化を実現する上で、「ポジショニング」は非常に効果的な方法です。
自社製品の立ち位置を明確にし、製品の魅力を強調させることができるため、しっかり理解し、効果的な戦略として実施できるとよいでしょう。
本記事では、ポジショニングの意味や目的、ポイントをわかりやすく解説します。
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ポジショニングとは
経営者
はじめにポジショニングの基本的な事項として、以下の切り口から、ポジショニングの意味や実行する目的を解説します。
- ポジショニングの意味
- ポジショニングの目的
ポジショニングの意味
ポジショニングとは、市場における自社および製品の立ち位置を明確にする行為、およびそれを顧客に伝えるための活動を指します。
競合他社が多数存在し、消費者の選択肢が複数ある状況では、自社製品を選んでもらうために自社の優位性を確立する必要があります。他社にはない魅力を明確にし、自社の確固たる地位を築くのです。
専門家
ポジショニングの目的
ポジショニングの目的としては、大きく以下の2点が挙げられます。
- 競合他社との差別化
- 自社のコンセプトやアイデンティティの確立
似たような商品が多数存在する市場では、消費者はより魅力を感じるものを選びます。つまり、特別な特徴がない商品は選ばれる可能性が低くなるのです。
他社と差別化を図るためには、自社のポジショニング戦略が欠かせません。
また自社のコンセプトやアイデンティティの確立においても、ポジショニングが有用です。
ただ他社と比較したときの魅力を強く引き出すだけではなく、自社の進むべき道を明確にする上でも役立ちます。
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ケイパビリティとは?意味と実例をわかりやすく解説ポジショニングはSTP分析のひとつ
ポジショニングはSTP分析にも使用される手法です。
STP分析という名称は以下の頭文字をとっています。
- S:セグメンテーション
- T:ターゲティング
- P:ポジショニング
まずは顧客のセグメントによるグループ分け、その後ターゲティング設定が求められ、ポジショニングにつながります。
専門家
ポジショニングで大切なポイント
ポジショニングの実施は必要不可欠とはいえ、やみくもに進めても効果を得られません。
まずは、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 現時点のポジションについて正確に把握
- 自社に合ったターゲティングを実施
- 魅力を感じられるような特徴や価値観の提示
- 顧客視点を忘れない
- 競合他社の調査や比較も必須
それぞれ具体的に解説します。
現時点のポジションについて正確に把握
まずは現時点でどのようなポジションにいるかの正確な把握が必要です。
すでにある程度のポジションが確立されている場合、既存のポジションとかけ離れたポジショニング戦略をとると、失敗する可能性が高くなります。詳しくは後述しますが、実際に自社ブランドに合わないポジショニング戦略で失敗した事例も存在します。
またポジションを把握する上で欠かせない過程が、先程紹介したSTP分析のSとTの完了です。現状のポジションは狙い通りの位置にあるか、今後どのように進めるのが最適であるかをこの段階で考えましょう。
自社に合ったターゲティングを実施
自社の魅力を最大限に活かすには、自社に合ったターゲティング、つまりどういった市場・消費者にむけて展開していくのかの検討・設定が重要です。
いくら市場規模が大きかったとしても、自社のコンセプトや進め方に合わなければ成功できません。したがって勝機が狙えそうなポジション選びだけでなく、自社の強みを活かせそうなターゲティングも慎重に行いましょう。
専門家
魅力を感じられるような特徴や価値観の提示
ポジショニングで他者との差別化・自社の確立をするためには、自社の特徴や価値観の提示を行います。とはいえ特徴なら何でも良いわけではありません。
最終的な目的は「顧客に選ばれる企業になること」です。したがって単に特徴を打ち出すだけでなく、それが顧客にとって魅力になり得るかどうかも検討しなければなりません。
ポジショニングを進める際は、自社に魅力を感じてもらえるような特徴および価値観の提示が大切です。
顧客視点を忘れない
経営者
ポジショニングの成功または失敗を決めるのは、自社ではなく市場の顧客です。
そして顧客に選んでもらうためには、顧客視点も持ち合わせて戦略を実行することが大切です。
顧客視点を持たずにいると、どうしても自社の都合や希望のみで戦略を立ててしまう傾向があります。しかし自社関係者と外部の顧客が持つ視点は全く別物です。
顧客視点を考慮せずにポジショニングを進めてしまうと、顧客が求めるものと自社のポジショニングとが大きく乖離してしまう恐れがあります。
顧客視点を忘れず、自社と顧客、両者のバランスを上手くとる必要があります。
競合他社の調査や比較も必須
ポジショニングでは競合他社の調査や比較も必須です。
すでに強みを発揮している企業と目指すポジションがかぶる場合はうまくいきません。
差別化の難易度が高く、よほど強い自社の魅力がなければ、市場で地位を確立できず埋もれてしまうリスクがあります。
逆に競合他社が存在しないポジションなら、優位性を発揮できる可能性が高いです。
ポジショニング戦略を上手く進めるため、競合他社の調査や比較をし、より有利と考えられるポジションを選びましょう。
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経営者
ポジショニング戦略に関わらず、マーケティング戦略を成功させるには、正しい方法や順番での実施が欠かせません。
ポジショニングの手順は以下の通りです。
- ポジショニングにおける軸を設定
- 競合他社の立ち位置を確認
- 自社が狙えるポジションを選択
それぞれ解説します。
ポジショニングにおける軸を設定
ポジショニング戦略を実施する際は、まずは自社の「軸」の設定を行います。
軸とは自社の優位性や特徴などを基にした、市場で強くアプローチするポイントです。
自社のポジショニング軸を決定する際は、以下のようなジャンルから2つを選択するのが一般的です。
- 価格帯
- 世界観:高級感・伝統・ストーリー性
- 特徴:商品やサービスの種類・スピード・機能性
- ターゲット層:性別・年齢層・趣味・職業など
- 手軽さ:容易に使える:専門知識が必要:特殊性が高いなど
競合他社の立ち位置を確認
自社の軸となるポイントを絞り込んだとしても、そこからすぐに狙うポジションを決定づけるのは危険です。市場における競合他社の立ち位置を確認し、その上で自社が狙えるポジションを選びましょう。
競合他社の立ち位置確認では、最初の段階で決定した2本の軸を使います。
例えば衣料品店で「高級感」と「種類」を軸とした場合、以下のポジションが選択肢として挙がります。
- 高級感強・種類多:幅広い商品を展開する高級店
- 高級感強・種類少:特定の商品に特化する高級店
- 高級感低・種類多:幅広い商品を展開するカジュアル店
- 高級感低・種類少:特定の商品に特化するカジュアル店
競合となり得るさまざまな企業を各ポジションに当てはめてみることで、競合他社の立ち位置を明確に理解し、自社が狙うべきポジション、賞賛のあるポジションを探っていきましょう。
自社が狙えるポジションを選択
設定した軸を使い競合他社の立ち位置を明確にしたら、自社が狙えるポジションを改めて検討します。すでに強みを発揮している企業のいるポジションは狙うのが難しいため、空いているポジションから選択するのが理想です。
とはいえ、競合他社が存在しないとしても、自社の強みが発揮できないポジションでは成功できるとは言い難いでしょう。先ほど挙げた例で言えば、自社が特定の分野に特化した衣料品店の場合、「種類数多」のポジションはコンセプトに合いません。
単に競合他社がいないという視点だけでなく、そもそも自社の強みを活かせるかも重要なポイントです。
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戦略展開を進める際には、具体的な成功事例を確認するとイメージしやすくなります。
本記事ではポジショニング成功事例として、以下の4つの事例を紹介します。
- レッドブル
- ポカリスエット
- シーブリーズ
- スターバックス
それぞれの会社・製品の特徴や、実際に取ったポジショニングについて解説します。
レッドブル
レッドブルはオーストリアのレッドブル社が販売しているエナジードリンクです。
日本には2005年に参入し、エナジードリンク市場で高いシェアを獲得しています。
栄養ドリンク自体はすでに多く存在していたものの、かつては中高年、それも疲れがひどい人が飲むイメージが強い商品でした。
しかしレッドブルは疲労回復ではなく、「エネルギーを高める」商品としてポジショニングを進めます。
これにより疲労時だけでなく、元気を出したい時にも適したドリンクとして地位を確立しました。
スポーツスポンサーやクラブイベントの展開など、商品のエネルギッシュなイメージを強めるプロモーション戦略も行っています。
ポカリスエット
ポカリスエットは大塚製薬が製造・販売している清涼飲料水です。
販売当初は「スポーツ飲料」の市場がメインでしたが、競合他社が登場しスポーツ飲料市場が飽和化したため、新たなポジショニングが必要となったのです。
そんななかポカリスエットは、「健康に良い清涼飲料水」というポジショニングを実施。スポーツ時だけでなく、体調不良時の水分補給にも効果的なイメージを確立させました。
健康的な清涼飲料水が当時ブルーオーシャンだったことに加え、製薬会社という強みも活かした、まさにポジショニング戦略の成功事例です。
シーブリーズ
シーブリーズは資生堂が展開するボディケアブランドです。
かつては20代~30代といった若い男性をターゲットとし、海や夏などのイメージを打ち出していました。
しかしブランドの高齢化などの理由により、時代遅れなイメージとともに次第に衰退していきます。
ブランドの衰退に伴い撤退するケースも多いですが、資生堂はポジショニングの変更を行いました。
ターゲットを女子高生に設定し、日常シーンで手軽に使える商品としてプロモーション戦略を行ったのです。
ポジショニングの変更は見事成功し、低迷期の8倍という売上を実現します。
参考:実例から学ぶマーケティング概論(第3回)|PRESIDENT Online
スターバックス
スターバックスは世界規模でコーヒーチェーン店を展開する企業です。
スターバックスは「サードプレイス」という戦略を展開し、市場における高いシェア率を占めています。単にコーヒーを飲むためだけのカフェではなく、洗練された雰囲気や居心地の良さなどを打ち出しました。
家でも職場でもない、自分らしさを大切にできる場所をコンセプトにしたのです。
価格設定は競合他社よりやや高めですが、価格に見合っていると思わせるだけの場所を提供しています。
ポジショニング・ブランド戦略は成功し、価格ではない部分で十分に強みを発揮しています。
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専門家
ポジショニング戦略は必ずしも上手くいくとは限りません。
失敗事例も多く、中には有名企業も含まれます。
今回はポジショニングの失敗事例として以下の2社を取り上げました。
- 大塚家具
- ファーストリテイリング
それぞれ詳しく解説します。
大塚家具
大塚家具は家具の販売事業を行う会社です。
一時は大きな利益も出していましたが、その後業績が悪化する事態に陥りました。
業績が悪化した要因として、ポジショニングの失敗が挙げられます。
もともと大塚家具はやや高めの価格帯ながらも、それに見合う機能性や耐久性を備えた商品展開で、店舗で買い物をする際には担当者が付き、詳細な説明を行うという、きめ細やかなサービスも提供していました。
このようにラグジュアリーなイメージでしたが、カジュアル路線も進めようとした結果、ラグジュアリーとカジュアルは両立せず、ポジショニング失敗という結果になってしまいました。
この時のポジショニング失敗が、業績悪化の大きな原因と考えられます。
ファーストリテイリング
ファーストリテイリングはユニクロやGUなどのカジュアルブランドを中心に展開する企業です。
ファストファッション業界で高いシェアを獲得しており、現在ではポジショニングの成功事例と考えられます。
そんなファーストリテイリングはかつて別の事業でポジショニング失敗、撤退を余儀なくされました。それが「野菜の通信販売事業」です。
ファーストリテイリングは2002年10月に野菜の通信販売をはじめました。
衣料品事業において確立していた「安さ」と「質の良さ」を、野菜事業でも実現しようとします。
しかし供給の不安定さや在庫管理の難しさなどにより、打ち出したポジショニングは実現できず、大きな赤字を出した後に撤退してしまいました。
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ポジショニングは最初に軸の設定や狙う位置を明確にし、目的に向かって戦略を進めていきます。
しかし失敗事例のように上手くいかないケースや、当初は成功しても市場変化により衰退してしまう恐れがあります。
もしポジショニングが上手くいかなければ、戦略の変更や撤退も必要です。
いくらお金を投入し時間を費やしても、誤った方向に進み続けては成果につながりません。
成功事例として紹介したポカリスエットやシーブリーズは、当初のポジションを変更して再び成功した例です。
計画に沿った一貫性のある行動も大切ですが、上手くいかない場合には方向転換も必要です。それらの決断を正しく下すためにも、正しい手順とポイントをしっかり押さえておくことが非常に重要なのです。
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競合他社が多数存在する市場において、埋もれることなく自社を選んでもらうためにはポジショニングが欠かせません。
ポジショニングの成功には、そもそもの自社・他社の現状のポジションを含む市場の理解が必要不可欠であり、それらを踏まえて、正しい手順で進めなければなりません。
また、実施に当たっては他社の事例について押さえるのも効果的です。
成功事例だけでなく失敗事例に関する知識も、戦略を上手く進める際に役立つでしょう。
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