突然ですが、このようなことを感じてはいませんか?
- 「競争力があるライバル企業に負けてしまいそうだ」
- 「経営資源が乏しくても勝てる方法はないのだろうか」
- 「市場で1位になるにはどうすればいいのか」
これらの疑問に答えを出してくれるのが、「ランチェスター戦略」です。
本記事では、ランチェスター戦略について基本的な知識から、弱者が強者に勝つための方法を解説していきます。
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ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略は日本発祥の戦略論で、販売競争で生き残るために用いられており、世界的にも使われています。「強者の立場」と「弱者の立場」に分けて、各々が勝てる方法を分析することを目的としています。
例えばソフトバンクは今では日本を代表する大企業ですが、創業して間もない頃はビジネスにおいては弱者でした。しかし、このランチェスター戦略を駆使した結果、現在のようなリーダー企業となっています。
マーケティング論はいくつもの種類がありますが、なかでも経営資源に乏しい中小企業やフリーランサーなど、つまり「弱者」にこそメリットが大きい点が特徴です。
ランチェスター戦略の前は「ランチェスターの法則」だった
ランチェスター戦略は今でこそビジネスで勝つための戦略として用いられていますが、もともとは「ランチェスターの法則」として戦争で用いられていた軍事戦略でした。
この「ランチェスター」とは、第一次世界大戦の時代にイギリスのフレデリック・W・ランチェスターという人物の名前のことです。フレデリック氏は当時、エンジニアであり戦闘機の開発をしていたため、どのような戦闘機が成果をあげやすいのか、戦闘時の損害状況を分析しており、これがランチェスターの法則が生まれるきっかけとなりました。
ランチェスターの法則の結論は「戦闘力は、兵士と戦車や戦闘機などの武器の質や数で決定する」というものです。その後はアメリカで第二次世界大戦中に、バーナード・クープマン氏(コロンビア大学の数学教授)が軍事戦略として発展させ、戦争で勝つための戦略として活用したのです。
そして、物が売れなくなってきた時代の日本で、「どのようにして競争を勝ち残るか」を探るなか、マーケティングの専門家だったる田岡信夫氏がランチェスターの法則をわかりやすく体系化し、マーケティングの理論として発展していきました。
また、この法則は「第一法則」と「第二法則」の2つに分けられるため、それぞれ1つずつ解説していきます。
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ランチェスター戦略には第一と第二と2つの法則があります。
第一法則は「弱者の戦略」とも言われており、戦闘力が相手と変わらないのであれば、兵士の数が多い者が勝利するというものです。したがって、弱者は正々堂々と真正面から戦っても勝てるはずがない、ということになります。
式にすると「武器の効率(武器の質や性能)×兵士の数=戦闘力」となります。例えば、兵士一人一人が戦う一騎打ちとなるケースでは、武器の質や性能が相手と同じであれば、結局兵士の人数で勝負が決まるということです。こちらに銃を持つ兵士が30人いたとしても、相手側に同じ性能の銃を持つ兵士が40人いれば、こちらの兵士は全滅して相手側は兵士を10人残して勝利することになります。
この状況で勝利するためにはどうすればよいのでしょうか? このままでは、全面戦争をしてもこちらが負けます。しかし、なんらかの方法を使って相手の兵士を20人と20人に分けさせて、どちらか一方に30人をぶつければこちらが10人残して勝つことができるのです。
これは兵士の数を従業員の数や経営資源に置き換えて考えると、経営資源に乏しい中小企業が用いるべき戦略となります。つまり、競争力が低い中小企業は、経営資源が豊富な大手企業と正面衝突しても勝てないため、大手企業のガードが薄いところに一点集中して攻めるべきなのです。
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第二法則は、一人で何人もの兵士と戦うなど、広い範囲での戦いが前提となる法則であるため、戦う相手が多い際に有効となります。
先程の第一法則が弱者の法則であれば、こちらは「強者の法則」となり、大企業がいくつもの中小企業を相手にする際にこの第二法則を用いることで、勝率をあげられます。式にすると「武器の効率や性能×兵士の数の2乗=戦闘力」となり、第一法則とは異なって兵士の数が「2乗」となっている点がポイントです。
したがって、兵士の数が多ければ多いほど有利に戦いを進められます。例えば、兵士が800人の国と、900人の国が戦ったとしましす。
この場合、たったの100人の差しかないと感じますが、第二法則では800人が640,000(800の2乗)となり、900人が810,000(900の2乗)となるためその差は、170,000にもなるのです。これにより、900人の国は√170,000=412人の兵士を温存して勝てることになります。
イメージとしてはこの2つの法則は、第一法則は「一騎打ちの戦い」となり、第二法則は「近代的な武器を用いる集団の戦い」となるでしょう。
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ランチェスター戦略における重要な3つの要点が下記の3つです。
- 一点集中主義
- 「足元(そっか)の敵攻撃」の原則
- ナンバーワン(No.1)主義
それでは1つずつ解説していきます。
一点集中主義
経営資源で大企業に劣る中小企業は、大企業に対して体力勝負をしても勝てる見込みはありません。したがって、中小企業が大企業に勝つためには、顧客やエリアなど攻めるべきポイントを1つだけに絞って集中的に攻め続けることが重要です。
このような考え方を「一点集中主義」といいます。
例えば、3つの市場があるとすると、この3つの市場すべてで戦おうとしてはいけません。なぜなら、経営資源が3つの市場に分散してしまい、どれも戦闘力で大企業に及ばなくなってしまうため、まず勝てないからです。
しかし、3つのうち1つの市場だけに絞って戦うことで、自社がもつ経営資源の全てを注ぎ込むことができるため、大企業の戦闘力を上回ることができます。この結果、その市場においては大企業に勝てる、という戦略です。
とはいえ、長期的に1つの市場でばかり戦い続けることは、実際は困難であるとする指摘もあります。したがって、一点集中戦略だけに頼り続けるのではなく、これをきっかけとして少しずつ範囲を広げることも重要です。自社とライバルの状態をよく分析して、最適な戦略を選びましょう。
「足元(そっか)の敵攻撃」の原則
市場シェアにおいて、自社のひとつ下に位置するライバル企業のことを「足元にいる敵」として、この敵を攻撃するという戦略を「足元(そっか)の敵攻撃の原則」といいます。
自分よりも競争力や資本力がある強い相手と戦っても、勝てるかどうかは不明なうえ、何より体力を消耗してしまいます。また、存在する全部のライバル企業を相手にしていても、リソースの分散につながり、有利に戦うことはできないでしょう。
それならば、明らかに自分よりも弱い「足元の敵」だけを狙って、勝利を掴むほうが効率がいいはずです。自社のひとつ下にいる企業を狙うことで、ライバル企業の顧客は減り、自社のシェアは拡大できるため効率的に戦えます。
ナンバーワン(No.1)主義
ランチェスター戦略において最も基本的なことは、とにかく「ナンバーワン(No.1)を目指す」ということです。それも、No.2との差が小さければ意味がなく、かなり大きな差を開いてNo.1になるということが重要になります。したがって、自社のポジションがNo.2だとしてもそれは「弱者」という認識をします。
とはいえ、あらゆる市場でNo.1になることは不可能であるため、1つでもいいから何かしらの市場で、2位とは大幅な差をつけて1位を目指すことが大切です。これがランチェスター戦略の最も重要なポイントとなります。
なぜなら、圧倒的な差を開いてNo.1になれば、No.2以下の企業は戦おうとすらしてこなくなるからです。もし、「あと少しでNo.1の座を奪える」というような状況であれば、戦いを仕掛けてきますが、圧倒的なトップになることでその気すら起こさせずに自社の収益性をあげられます。
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「No.1主義」でも解説しましたが、ランチェスター戦略において重要なことは、No.1になることです。
繰り返しになりますが、No.1になることが重要な理由は下記のようなメリットがあるからです。
- 顧客が選ぶときに、自社がその市場において第一の選択肢となる可能性が高まる
- レビューやネットの書き込みで認知が広まりやすい
- ブランド価値が上がり信頼されるため価格競争に発展しにくい
これらのメリットは、どのような企業においても常日頃どうすれば達成できるのかを考えていることではないでしょうか。No.1になれば、これらが実現するだけではなく、会社の成長にもつながるはずです。
No.1になるのは難しい?
ここまで何度も「1位を目指すことが重要だ!」と強調してきましたが、「それはわかってるけど、簡単に実現できることではない」と考える方も少なくありません。
確かに、大手企業がNo.1に君臨している市場において、経営資源が少ない中小企業や零細企業がその座を奪おうと考えるのであれば、簡単ではないどころか非現実的です。第二法則では「武器の効率や性能×兵士の数の2乗=戦闘力」となるため、広い市場は従業員数や資本力で大幅に勝る大企業の独壇場となるのです。
しかし、ランチェスター戦略の「No.1主義」は、なにもGoogleやAmazonと戦えと言っているのではありません。重要なことは「どのような市場でもいいから1位になること」です。つまり、大手が見向きもしないような極小の市場においてNo.1の座につくことを目指すのです。
この「小さな王者」になれる市場を少しずつ増やしていくことが、強者に踏み潰されずに弱者が生き残るための「弱者の戦略」であり、ランチェスター戦略で欠かせないポイントになります。
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ビジネスにおける弱者である中小企業が強者に勝利するための具体的な方法が下記の2つです。
- No.1になるために市場を細かく分ける
- 本質的な差別化をする
それでは1つずつ解説していきます。
No.1になるために市場を細かく分ける
弱者が戦う際は、局地戦を心がけましょう。
ランチェスター戦略ではNo.1になることが重要であり、1位になれる市場で戦うことが求められます。しかし、そのためには具体的にどのようにすればよいのでしょうか?
その答えは、「セグメンテーション」です。セグメンテーションは「区分」という意味であり、マーケティングの世界では市場の顧客をいろいろな切り口で細かく分けることを指しています。
現代は消費者の価値観やニーズが多様化していることもあるため、以前までは大きかった市場が細分化されていることもあります。したがって、中小企業にとっては今こそ大企業の牙城を崩すチャンスと捉えることもできるのです。
本質的な差別化をする
続いて、弱者が勝利するためにはライバル企業の製品やサービスと差別化を図ることです。しかし、差別化の本質的な意味を理解していなければ、差別化をしても何も変わらない可能性があります。
例えば、独自に開発したテクノロジーを盛り込んだ新製品を開発したとしても、その差異が消費者にとって魅力的なものでなければ意味がありません。機能や品質面で消費者にとって魅力的な差別化をすることで、ブランド価値を向上させることができてこそ、本質的な差別化となります。
また、機能や品質面での差別化が難しくても、購入後のアフターケアや流通面で差別化を図ることも可能です。このように一口に差別化戦略といっても、さまざまな切り口があるため、自社に最適な戦略を検討することが大切です。
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本記事ではランチェスター戦略の基本的な内容から、中小企業が大企業に勝つための戦略を解説しました。
ランチェスター戦略は、これまでさまざまな企業が利用してきているため、成功事例が多く存在します。いくつもの事例を参考にできるので、自社の戦略を立案する際もイメージしやすいことがメリットとなります。
また、このようなメリットがある一方で、デメリットがないことがランチェスター戦略の特徴です。一つ注意するべき点があるとすれば、自社が「強者」となるのか、「弱者」となるのかを見誤らないことでしょう。
この点を間違えてしまうと、弱者が強者の視点で戦略をとったり、強者が弱者の視点で戦うことになるため、見当外れな結果になってしまいます。
したがって、適切な判断をもとにランチェスター戦略を活用していきましょう。
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