東京・大阪にも熱い視線が? 市場獲得に向けて国際競争が激化するワーケーションのメリットとデメリット

投稿日:2021/03/18

好きな所で好きな時に働きたい。そう願う労働者は少なくないでしょう。
思いがけずコロナ禍がテレワークを浸透させました。
一度、テレワークを体験したら、もう元に戻れないという人もいます。

現在ではさらにその進化型ともいえるワーケーションが注目を集めています。
自宅を飛び出して、リゾート地を勤務場所に選ぶ。そこに長期滞在して、ときには家族とも休暇を楽しむ。休暇中にも一定時間、働く。
ワーケーションは仕事と休暇を両立させる働き方です。
導入した企業には優秀な人材が集まるとも聞きますが、羨ましいと思う人も多いでしょう。
ワーケーションをめぐっては、国内、海外ともにさまざまなステイクホルダーが多様な取り組みをし、市場獲得に向けての国際競争が既に始まっています。

 

 ワーケーションとは

 

まず、ワーケーションとはどのような働き方か押さえておきましょう(表1)。

表1 テレワークを組み込んださまざまな働き方


出典:[1] トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」 p.2
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf

表中の“N/A”は、「該当なし」あるいは「利用できない」ことを表します。

表1からもわかるように、ワーケーションとは、以下のような働き方です。

  • 概要:観光地等に滞在をしながらの勤務
  • 主目的:業務や家族サービスのために環境を変える
  • 行先選定の理由:ストレス解消、効率性の向上
  • プライオリティ:業務〇、観光△

 

国内の最新動向

 

ワーケーションをめぐる国内の動きはスピード感を増しています。

 

~取り込みを狙う観光地~

コロナ禍で観光地は大打撃を受けています。
日本政府観光局によると、2021年1月の訪日外国人旅行者数は46,500人で、前年同月比 -98.3%減という落ち込みぶりを示しています [2]。

こうした状況の中、ホテル・旅館の倒産(負債1千万円以上の法的整理)は、2020年1年間で118件、前年の66件から78.8%の大幅増となりました(表2)。
これは、東日本大震災後の2011年(129件)、リーマンショック後の2008年(123件)に次いで、この15年で3番目に多い水準です [3]。

表2 ホテル・旅館経営業者の倒産件数


出典:[3]観光経済新聞(2021)「20年のホテル・旅館倒産、前年比79%の大幅増」
https://www.kankokeizai.com/20%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%BB%E6%97%85%E9%A4%A8%E5%80%92%E7%94%A3%E3%80%81%E5%89%8D%E5%B9%B4%E6%AF%9479%EF%BC%85%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%B9%85%E5%A2%97/

ホテル・旅館業者はこうした状況を打開するための方策のひとつとして、ワーケーションの取り込みに向けて動いています [4]。
特に温泉地では、ワーケーション用に旅館内を改装したり、大型プロジェクタやプリンタなどを設置して、Wi―Fi設備を強化したり、アウトドア業者と組んでレジャープランを計画するなど、さまざまな取り組みをしています。

 

~自治体・国の動き~

民間だけでなく、地方自治体の動きも加速しています[4]、[5]。
テレワークセンターをオープンさせ、利用者にはレンタカー代を補助するみなかみ町。
ふるさと納税の返礼品にワーケーション宿泊プランを加えた奥州市。
ワーケーションで宿泊施設を利用する企業や個人事業主に支援金を提供する長野県。
以上はほんの一例です。
環境省も2020年からワーケーションを推進する事業を行っています(図1)。

図1 環境省「 国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」事業


出典:[6]環境省(2020)「 国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」
https://www.env.go.jp/guide/budget/r02/r0204-hos-gaiyo/003.pdf

この事業は、34の国立公園等のキャンプ場、および全国80か所の国民保養温泉地の旅館・ホテルでワーケーションを展開し、自然の中でクリエイティブに仕事を行うとともに、家族も安心して自然を満喫することを目指しています。

コロナ禍でテレワークが定着しつつあることに加え、感染リスクの低いキャンプなどアウトドアへの
関心が高まっていることから、ワーケーションの機運が高まっていると国も分析し、戦略を練っているのです。

 

~企業の動き~

コロナ禍以前から、ワーケーションに取り組んでいる企業もあります。
ユニリーバ・ジャパンは、2019年7月から、社員がワーケーションを積極的に活用できるよう、ワーケーション「地域 de WAA」を導入しました [7]。

これは、同社が自治体と連携し、その地域の施設を「コWAAキングスペース」(コワーキングスペース)としてユニリーバ社員が無料で利用できるというものです(図2)。

図2 ユニリーバ・ジャパン ワーケーション「地域 de WAA」のイメージ


出典::7 ユニリーバ・ジャパン(2019)「ユニリーバ・ジャパン、「地域 de WAA」を導入」
https://www.unilever.co.jp/news/press-releases/2019/unilever-japan-introduces-regional-de-waa.html

社員は、現地で地域のイベントやアクティビティに参加することができ、さらに自治体が指定する地域課題解決に関わる活動に参加することによって、提携する宿泊施設の宿泊費が無料または割引になります。

同社はこれに先立つ2016年に、働く場所・時間を社員が自由に選べる「WAA」を導入しました。導入後、多くの社員がこの制度を活用した結果、以下のような効果があったといいます。

  • 生産性が上がった:75%
  • 新しい働き方が始まってから生活が良くなった:67%
  • 幸福度が上がった:33%

こうした経験から、働く場所の選択肢をさらに広げたのが、「地域 de WAA」で、2019年7月17日時点で、北海道から九州まで6市・町と連携しています。
この取り組みの目的は、社員1人ひとりの幸福感の向上と、地域に根差した新しいイノベーションの創出によって新たなビジネスモデルを産み出していくことです。

 

 海外の最新動向

 

海外に目を拡げると、ワーケーション用のビザを発行するなど、国際社会に向けた戦略的な取り組みが進んでいることがわかります。
ここでは、海外の最新動向をみていきます。

 

~ワーケーション推進の背景~

ワーケーションを推進する背景として、コロナ禍で浸透したテレワークをアフターコロナでも続けたいという社員が多いことが挙げられます(図3)。

図3  アフターコロナにおける在宅勤務に対する意向


出典:[1 ]トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」 p.8
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf

EU27か国では、アフターコロナでも在宅勤務を「毎日」および「週に数回」希望する人が合わせて44%に上っています。

次にアメリカの状況をみてみましょう(図4)。

図4 有給休暇を活用した旅行ができない理由(左)とワーケーションに対する意向(右)


出典:[1]トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」 p.13
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf

アメリカでは、有給休暇を活用した旅行の阻害要因は、職場に起因するものが多い一方、有給休暇を取得してワーケーションを希望する割合は、希望しない割合を上回っています。
このことから、有給休暇の取得を促進する手段として、ワーケーションへの期待が高まっています *1:p.13。

 

~デスティネーションとしての対応~

こうした状況から、様々な国が、デスティネーション(供給側)として、ワーケーション関連のビザを発行し、ワーケーション市場の獲得を目指しています(図5)

図5 ワーケーション関連のビザを発行している国々


出典:[1]トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」 p.19
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf

 

~事例:エストニアのデジタルノマドビザ~

エストニアは、人口わずか130万人の北欧の国です。
着々とデジタル化を進めるエストニアは、2020年にノマドリモートワーカーを対象とした「デジタルノマドビザ」を導入しました[8]。
デジタルノマドとは、就労の場所を自由に選びながらインターネットを利用して業務を遂行する新しい働き方です。
ビザの発給は段階的に開始され、年間1,800人のビザ発給を想定しています。

この法案が可決されたことで、場所に関係なく遂行できる何かしらの仕事がある外国人であれば、エストニアで短期または長期滞在許可に基づいて生活できるようになりました。
こうした取り組みは、電子国家としてのエストニアのイメージ強化、経済危機からの回復、電子ソリューションの輸出など、国力強化を目指すものです。

 

~東京・大阪もデスティネーションに?~

では、日本にはワーケーションのデスティネーションとしてのポテンシャルがどの程度あるのでしょうか。

例えば、現在ワーケーションを推進している白馬村では、コロナ感染が広がる前から、外国人の長期滞在者から「仕事ができる場所がほしい」という希望が寄せられていました[4]。

こうしたリゾート地だけでなく、大都市もポテンシャルを秘めています。

図6 アジアにおける人気ブレジャー・デスティネーションランキング


出典:[1]トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」 p.24
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf

図6は、アジアのブレジャー・デスティネーションとして人気がある都市のランキングです。
アジアの34都市の中で、東京は第1位、大阪は第8位にランクインしています。

冒頭の表1でみたように、ブレジャーとは、「出張を個人でのレジャーのために延長」することですが、そのような場所として評価が高いということは、ワーケーションのデスティネーションとしてもポテンシャルが高いとみていいでしょう。

 

 おわりに

 

以上みてきたように、ワーケーションは自由度が高い新たな働き方として、企業が優秀な人材を呼び込むための人材戦略的な側面があります。
また、デスティネーションとして、ワーケーションを取り込み、経済効果を狙うという側面もあります。
後者では、市場獲得に向けての国際競争が既に始まっています。
ワーケーションを利用しやすい環境を整えることができれば、日本も新たなインバウンド獲得に向けて大きなチャンスをつかむことができるはずです。

コロナ禍で普及したテレワークがさらに発展したワーケーションは、企業にとっても国にとっても、大きなポテンシャルを秘めた働き方だといえるでしょう。

参照
[1]トラベルボイス株式会社(2021)「トラベルボイス調査レポート ワーケーションの海外動向調査
2021 ~働き方✕旅行という新たな市場、分類考察から海外事例まで~」
https://www.travelvoice.jp/download/pdf/TVJ_ResearchReport202101.pdf
[2]日本政府観光局(2021)「2021年 訪日外客数(総数)」
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf
[3]観光経済新聞(2021)「20年のホテル・旅館倒産、前年比79%の大幅増」
https://www.kankokeizai.com/20%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%BB%E6%97%85%E9%A4%A8%E5%80%92%E7%94%A3%E3%80%81%E5%89%8D%E5%B9%B4%E6%AF%9479%EF%BC%85%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%B9%85%E5%A2%97/
[4]読売新聞オンライン(2021)「個人用に客室改装・テレワーク設備…ワーケーション取り込み狙う観光地」(2021年1月27日)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210127-OYT1T50120/
[5]読売新聞オンライン(2021)「返礼品で温泉ワーケーション…テレワーク環境ばっちり」(2021年1月14日)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210113-OYT1T50252/
[6]環境省(2020)「 国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」
https://www.env.go.jp/guide/budget/r02/r0204-hos-gaiyo/003.pdf
[7]ユニリーバ・ジャパン(2019)「ユニリーバ・ジャパン、「地域 de WAA」を導入」(2019年7月18日)
https://www.unilever.co.jp/news/press-releases/2019/unilever-japan-introduces-regional-de-waa.html
[8]JETRO(2020)「ビジネス短信 「デジタルノマドビザ」の発給の要件を盛り込んだ外国人法の改正案を可決(エストニア)」(2020年6月8日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/06/98399bac3cb986c7.html

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