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オーナー社長と、その社員の間の、深い溝。

オーナー社長と、その社員の間の、深い溝。

かつて、私は「同じ人間だし、社長と社員たち、腹を割って話せばわかりあえるのでは」と思っていました。

しかし、それは単なる願望であり、現実的には分かり合えない事のほうが圧倒的に多かったのです。

「分かり合えた」と思っても、それは一時的、表面的であることがほとんどです。
一体なぜなのでしょう。

 

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私の知っている会社に、あるIT技術者派遣の会社がありました。
仮にY社とします。

Y社の社長は、私の見る限り「比較的、社員の話をよく聞く社長」でした。

側近の取締役や部長たちの意見はもちろん、現場の課長クラス、一般社員の意見に至るまで、ごり押しはほとんどなく、「聞く」という姿勢を見せていたことで、皆からそれなりに慕われていた経営者でした。

ある日のこと、経営会議で、課長の一人から意見が出ました。
く、「有休をきちんと消化できていない人がいるので、うちでもちゃんと有休を取らせたらどうか」と。

当時は過労の問題がクローズアップされ、「有休をとらせること」は世の中全体の趨勢であり、優良企業はこぞって有休を消化するように、奨励していたからです。

「優良企業」であることを公言していた社長も、その流れは知っており、結局「検討しよう」と会議の席上でいいました。

ところがそのあと。
社長は、一人の取締役と私との三人になったときに、言いました。

「課長もまだまだ分かってないなあ。」

私はすぐに話がのみ込めず、聞き返しました。
「……と言いますと?」

「皆に有休をとらせるように言ったことですよ。」

私は社長が「検討します」という発言をしたことをポジティブに捉えていたので「課長さんは喜んでましたね。」と言いました。

ところが社長の表情は渋いままでした。

「何か気になったことでもありますか?」

「……いや、今の時期に有休をとらせようっていうのがね……。今期もそんなに楽観視できない。そんな時に課長からああいう発言が出てしまうのがね……」

私は驚きました。
社長はてっきり、有休を取得することを歓迎していたと思っていたからです。

ところが、社長が考えていたのはほぼ逆のことでした。
「今の時期に有休の話を持ち出すのは、課長としてどうかと思う」という話だったのです。

確かに今、有休をとらせるのは時期が悪い、と思うのは、分からなくはありません。
私は、確認のために聞きました。
「別の時期に取ってほしかった、ということでしょうか。」

ところが社長は驚くことを言いました。
「そもそも、管理職だったら、有休を奨励しようなんて言えないはずですけどね。」

つまり社長は「課長は経営サイドだろう、経営サイドの人間が、なんで有休を推奨しようなんて言い出したんだ」と、怒っていたのです。

私は驚きました。
経営者の感覚は、ここまで社員と違うのか、と。

社長は最後に言いました。
「課長なら、会社の利益のことに最優先で興味を持ってもらわないと。」

社長は表立っては有給取得に対して反対しませんでした。
それはコンプライアンス上、問題があることを知っていたからです。

しかし、内心では「有給取得」が会社の利益を圧迫することに憤っていたのです。

怖い話です。

 

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ただ、実は、こうしたことは特に珍しいことではありません。

経営者、とくに雇われ経営者ではない、オーナー経営者の感性は、一般社員の感覚とはかなりずれていることが多いと考えたほうが良いのです。

例えば会社のお金に対する考え方。

私は、会社の金と、自分の金をあまり区別しない経営者を数多く見ました。

会社の金で高級車や私的な趣味、例えば絵画などを買っていた経営者たち。
お気に入りのホステスに会社から金を出していた経営者たち。

あるいは社員の給与に対する考え方も、しばしば違います。

彼らは多くの場合、社員に出す給与を「自分の懐から出している」と思っています。
ですから、彼らに対して、労働の対価として給与を払っている、というよりは、「生活の面倒を見てやっている」と考えていることも多いのです。

だから、面倒見がよい一方で、過剰に社員の私生活に干渉することもある。
ある会社では、「休日に、社長の引っ越しを手伝わされましたよ(笑)」という社員の方もいました。

そして、根本的には世の中には「資本家」と「労働者」という階級があるということを強く意識しており、利害は対立している、と考える傾向にあります。

もちろん、彼らは決してバカではありませんから、そういったことは普段、社員に見せません。
接しやすく、オープンで「社員の話を聞く姿勢」を積極的に見せるオーナー社長も少なくないのです。

しかし、多くの場合決算書の詳細は秘匿し、経理は身内にやらせます。

お金は信頼できる人に、というのが建前ではありますが、一方で役員報酬や交際費を社員に見せたくない、というケースも数多くあるのです。

でも一方で、彼らはそれらを「当然の権利」だと思っています。
なぜなら、オーナーだからです。
オーナーは、法律の範囲であれば、会社の金を使うのは自由、と彼らは考えています。

これは、「会社は株主だけではなく、社員のものでもある、私物化はもってのほか」という、多くのサラリーマンの感覚とだいぶ異なっているのではないでしょうか。

 

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上の経営者ような考え方が正しいかどうか、当然議論はあるでしょう。
が、ここではその是非は問いません。

そんなことよりもよほど重要かつ有用なのは、事実として、オーナー社長と一般社員の考え方は、「ずれている」と認識することです。

オーナー社長と、その社員の間には、決して埋まらない、深い溝がある。

私はこうしたずれの大きさから、コンサルタントをやっていたころ、オーナー社長には極めて慎重に接するようになりました。

表面的な柔和さは、彼らがサラリーマンと「相互理解可能」を意味しません。
非常に付き合いやすい人である一方、労働者は搾取の対象であるとひそかに考えている人も少なくありません。

したがって、オーナー企業においては、社長とそれ以外の人たちは、基本的に分かり合えない、という前提で動いたほうが安全です。

ただ、中には「うちの社長は違うよ」という方もいるでしょう。
実際、「若手の社長」「サラリーマンを経験したことのある社長」は、労働者に一定の理解を示してくれることも多いです。

ただ、若い時には「労働者側」の考え方が強かった2代目社長が、社長に就任してしばらくたつと、社員たちとずれが大きくなっていくところを、私は何度も見ています。

それは、社員に裏切られたり、会社の運転資金が不足して大きな個人補償を抱えたり、あるいはお金を持ちすぎてしまったりして、周りの扱いが変わってしまったことなどから始まります。

それは、仕方のないことでもありますが、いずれにせよ、彼らと一般社員は、責任とリスク、そしてライフイベントが違いすぎて、徐々に世界観にずれが生じてくるのです。

誤解のなきよう、繰り返しますが
上に当てはまらない、オーナー社長も存在します。

社会のために。
社員のために。
企業の財務を透明に。

でも、デフォルトでは「違う考え方を持った人々」と認識したほうが、後々のトラブルは少なくて済みます。

実際、中小のオーナー企業では、
「なんでうちの社長は、あんなに勝手なんだ」とか
「社長の考えていることがさっぱり分からない」とか、
「社長がまた、頓珍漢なことを言い出した」とか
オーナー企業の社長の人格にまつわる話はつきません。

そんな時、ただ「うちの社長はおかしい」と愚痴るのではなく、
「社長の立場だったら、利害をどのように考えるか」を想像してみて下さい。

立場の大きな違いから生じる考え方の違いに想像を巡らせることは、誰でもできます。

それができるだけで、ほとんどの人は、オーナー企業の社長との人間関係のトラブルを劇的に減らせることでしょう。

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