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会社は制服を制定すべき?ユニフォームが持つ不思議な力に注目してみよう

会社は制服を制定すべき?ユニフォームが持つ不思議な力に注目してみよう

自衛隊や海上保安庁など、「制服がかっこいい」と言われる職業は多い。
近年では、制服に身を包んだイケメン男子を追いかける「制服フェチ」という言葉まで生まれるなど、「制服が持つ力」にはどこか、言葉にできない魅力があると考えて良さそうだ。

しかしこの「制服」という考え方。
どんな状況でも同じものを着用する、という意味では、必ずしも機能的とは言えないだろう。
機能性どころか、
「下着は白」
「セーターはOKだがカーディガンはNG」
など、根拠がよくわからない服装規定へと形を変え、「ブラック校則」という名前とともにネガティブに考える人も多いのが実情だ。
ダイバーシティという言葉を持ち出すまでもなく、多様な価値観、多様な生き方を尊重する大きな流れの中で、「画一的な制服を着るという文化」は、やや劣勢と言えるかも知れない。

ではそもそも「制服」とは、いつ、何を目的に生まれたのだろうか。

制服の起源には諸説あるが、日本において最初に記録が残る制服は西暦669年、壬申の乱まで遡る。[1] 壬申の乱において、自軍の兵士に目印となる「赤い印」を付けさせたことが、確認される最古の制服とされる。
そしてここでの制服は、
「敵味方の識別」
「役割の明確化」
などの「ツール」として、大いに力を発揮した。

その後、明治12年(1879年)に日本初の「学生服」が学習院大学に制定されるなど、日本の近代化に伴って警官、水兵、官吏、郵便夫などの制服が制定されるに至った。
つまり「社会の組織化」の過程において、制服が持つ力は大きな役割を果たしたということだ。


画像:国税庁「明治期の間税職員」
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/shiryou/library/11/03.htm

そして令和の時代。
企業経営者は「制服」を、どのように捉えるべきだろうか。
従業員に画一的な制服の着用を求める文化は、時代に即したものであり続けるのだろうか。

 

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制服に対する考え方の違い

 

話は変わるが、今から100年以上前の1904年。日本は隣国ロシアと開戦し「日露戦争」が始まる。
この戦争では、日露双方とも凄惨な消耗戦を繰り広げることになるが、最終的には1905年、「世界三大海戦」の一つに数えられる日本海海戦で日本が勝利を収めたことで終結した。
そしてこの戦争には、「制服」をめぐる一つのエピソードがある。

時は1905年5月27日のこと。
日露両国の国運を決するであろう海戦を控えた朝、それぞれの指揮官は、今から始まる大海戦に備え、一つの指示を出した。
ロシア側の総指揮官・ロジェストウェンスキー提督は
「本日、日本側と会敵し決戦になるであろう」
と訓示し、激戦になることを予期して制服は汚れても良い、もっとも使い古したものを着用するよう指示。そして普段と変わらぬ時間を過ごし、戦いの時を待てと命じた。
これはこれでひとつの合理的な考え方であり、なんら落ち度を感じるものではない。

一方で日本側の連合艦隊司令長官・東郷平八郎はその時を予期し、全将兵に対して風呂に入って身を清め、その後に真新しいおろし立ての「制服」を支給し、着用するよう命じた。
いわば、今から始まる特別な時を意識させて、「非日常」を末端にまで感じさせるものだ。
疫学的観点から、「傷ついた将兵の感染症予防」という目的もあったようだが、いずれにせよおろし立て特有の匂いがする制服に袖を通した時、将兵がどのような心境になったのか想像に難くない。
おそらく「死装束」に正装し、国運を担うという覚悟とも相まって、多いに士気が高まったのではないだろうか。
そして結果として、この日本海海戦では日本側が歴史に残る一方的な勝利を収めた。

もちろん、「制服」に対する考え方の違いが戦いの帰趨を左右したなどという大胆な仮説を論じるつもりはない。
指揮官の能力や作戦の巧拙、戦場の条件など、様々な要素がもたらした結果であることは間違いないが、その中の「将兵の士気」という一つの要素にフォーカスするとどうだろう。
制服に対する考え方の違いは、注目に値すべき「意志決定の違いの一つ」と言えるのではないだろうか。
つまり、制服を「ただの作業着」と考えるのか、それとも自分たちのアイデンティティそのものであると考えるのかの違いだ。

 

ブランディングとしての制服の力

 

であれば制服とは、「ブランディングの道具」として機能させるのが、本来在るべき姿なのではないだろうか。

1980年代の小学生を夢中にさせたロボットアニメの代表作「機動戦士ガンダム」には、赤く彩った専用機で次々に相手を撃破する敵役のキャラクターが存在した。
当時その人気は沸騰し、主人公の敵役でありながら、プラモデルは一番に売り切れ、令和の今でも根強いファンの支持を受け続けている。


画像:外務省在シアトル日本国総領事館「総領事の見聞録第31回」
https://www.seattle.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000636.html

そしてこの「シャア専用機」が赤色であったことには実は理由があり、日本では古来、朱色こそが武勇の証とされていた。
有名どころでいえば、甲斐武田氏の重臣で「赤備え」で勇名を馳せた飯富虎昌が挙げられる。
戦国の時代、甲冑や旗指し物を朱色に染める染料の「辰砂」は高級品であったため、多くの数を揃えることはできなかった。
裏を返せば、朱色という極めて目立つ色で身を飾ることができた集団は、それだけで選びぬかれた精鋭集団であったということだ。

戦場で、目立つ集団が弱卒であれば自軍の士気はたちまち崩壊する。
逆に、目立つ集団が次々に敵を撃破すれば、自軍の士気は大いに上がるだろう。
そのため「辰砂」で染めた朱色の集団は、敵からは恐れられ、味方からは尊敬の念を集めるなど、憧れの対象となった。
後にこの「赤備え」は、徳川四天王にも数えられる井伊直政に受け継がれ、「井伊の赤備え」として大いに有名を馳せ、家康の天下統一に貢献した。

そして、現代の制服事情についてだ。
企業において、漫然と「あったほうが良いから」というような理由で制服を制定しても、従業員から喜ばれることはまずないだろう。
その一方で、制服そのものがブランディングされているとすればどうだろうか。
有名デザイナーの作品だとか、とびきりオシャレなフォルムだとかいう意味ではない。
その制服を着ることそのものを、誇りと感じる会社を目指すという意味だ。

ハンバーガーチェーン大手のマクドナルドでは、アルバイトや社員、役職によって制服の色が細かく規定されている。
また帝国ホテルのシェフは、勤続年数や役職によって帽子の高さが決められている。
自衛隊では幹部、下士官など階級章や帽子、制服などに細かい規定を設け、服装そのものに誇りを感じることができる様々な仕組みがある。


画像:海上自衛隊呉地方隊「総監着任式」
https://www.mod.go.jp/msdf/kure/info/gallery/soukan.html

このように、「ブランディングツール」として機能させる仕組みが備わっているのであれば、制服は「ただの作業着」という存在に留まることはないのではないだろうか。

組織の一員として力を発揮したい-。
自分に期待されている役割は何であるのか、明確にし与えてほしい-。
そんな思いに応えるわかりやすいツールとして機能させれば、制服が持つ不思議な力は令和の今も、まだまだ活用できる余地があるのかも知れない。

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[1]国立国会図書館 レファレンス事例詳細
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000182132

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