経営者は従業員の給与をどのように決めているのでしょうか?給与設定に悩んでいる経営者も多いと思います。
この辺りはかなりシビアな問題で、給与を高く設定すれば経営を圧迫し、低く設定すれば従業員満足度が下がってしまう。特に従業員のモチベーションはかなり重要な要素です。
しかし、そこに一つのソリューションがあります。それが「労働分配率」という方法に則って給与を決めるという方法です。
今回の記事では労働分配率の計算法や活用法について解説をしていきます。
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目次
労働分配率とは?
労働分配率とは、付加価値全体における人件費の割合になります。
労働分配率を理解するために重要になってくるキーワードは「付加価値」と「人件費」の二つです。
付加価値とは
まず最初に結論を言ってしまうと、労働分配率は、
労働分配率=人件費÷付加価値×100
で求めることができます。要するに企業が生み出した「付加価値」全体のうち、人件費がどれほどの割合を占めているかという指標です。
付加価値とは文字通り「企業が生み出した価値」であり、売上高から外部費用を引いたものになります。企業は現状のリソースから新しい価値を作らなければ、利益を創出することができません。そうした企業努力によった生み出された価値を付加価値と呼ぶのです。
例えば100円で商品を仕入れ、それを150円で販売した場合、売上は150円ですが、付加価値は50円になります。これを繰り返していくことによって利益をあげ、従業員に還元することによって「会社が回る」のです。
人件費
人件費は従業員に関わる費用を指します。給与や賞与はもちろんのこと、社会保険の会社負担分なども含まれます。福利厚生や退職金なども含まれるため、目に見える給与よりも大きな額を負担しなければなりません。
人件費の例を下記に箇条書きにします。
・給与
・賞与
・賞与引当金繰入額
・退職金
・退職年金掛金
・福利厚生費
・役員報酬
・法定福利費
・教育費
ざっと見ただけでもその種類は多岐に渡っていて、人件費というものも一筋縄ではいかないことがお分かりいただけると思います。
労働分配率の計算例
労働分配率は先ほども確認したように、付加価値全体における人件費の割合になります。
公式だけでは分かりづらいもしれないので、具体例を上げつつ計算をしていきましょう。
例えばとある商店が従業員一人を雇用している場合を考えてみましょう。その人の給与は300万円で、福利厚生費が50万円だとします。その商店の付加価値は1000万円だとします。この場合の労働分配率は、
労働分配率(%)=350万(給与+福利厚生費)÷1000万(付加価値)×100
という上記の計算式により、35%と割り出すことができます。労働分配率が35%ということは、「この商店は付加価値の35%を従業員に還元している」と見ることができます。
労働分配率の平均は業種によってまったく違い、業界の中でもかなりばらつきのある指標ですので、一概に適正値を決めることはできません。これに関しては次の章で詳述いたします。
ともかく労働者にとっては、労働分配率が高いほうが、利益を多く還元してもらえるので得になります。逆に経営者の視点で見ると、労働分配率が高いと「人件費により経営を圧迫される」ため、その分損になってしまいます。
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労働分配率の目安
次に見ていきたいのは労働分配率の目安についてです。労働分配が低い時、高い時それぞれどうすればいいのかということも合わせて考えていきます。
労働分配率は業種により異なる
先ほども触れたように、労働分配率は業種により異なります。業種によって平均給与が違うのと同じような話で、労働分配率もまた業種によって異なりますし、業種の中でも差異の激しい指標になります。
例えば不動産業などは、人件費以外にも大きなコストがかかるため、労働分配率は低めになります。逆に飲食店など人間が主体となるビジネスモデルは、労働分配率が高くなる傾向にあります。
労働分配率が低い時に考えたいこと
労働分配率が低いとはどういうことかというと、「付加価値に対する人件費の割合が低い」ということですから、企業的にはリソースを上手く回せている状態です。
しかしながら従業員にとっては「低く給与を抑えられている状態」ですので、そのあたりをしっかりと考慮する必要が出てきます。従業員のモチベーションはパフォーマンスに現れ、そして会社の利益にも直結する重要な要素です。
経営側と従業員側の意識の「乖離」は、よくあることです。まずは匿名のアンケートを取るなど、従業員の意識調査をして様子を見つつ、必要であれば給与などの見直しをしていく必要があるでしょう。
労働分配率が高い時に考えたいこと
労働分配率が高いということは、「付加価値における人件費の割合が高い」ということです。利益をしっかりと還元できているという意味では聞こえは良いですが、その分経営が圧迫されている状態です。
労働分配率が高い時に考えたいことは、キャッシュフローを見直し、会社がしっかりと存続できるかどうかということです。会社が続かなければそもそも従業員に給与を支払うことができません。倒産してしまっては元も子もないので、そのあたりをしっかりと精査する必要があります。
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労働分配率と労働生産性の関係
先ほど見てきたように労働分配率が低い場合、給与もまた低いことが多く、従業員満足が得られないというデメリットがあります。そこで重要になってくるのが「人件費を上げる」ということですが、そう簡単に上げられるものでもありません。
そこで重要になってくるのが労働生産性です。
労働生産性とは、「従業員一人がどれだけの利益を生み出したか」という指標です。つまりかかった人件費の何倍の利益を生み出しているかという数値になります。
計算式は、
労働生産性(%)=付加価値÷人件費×100
となり、先ほどとは真逆の式になります。
例えば月30万円の従業員が生み出す利益が月30万円の場合、これ以上給与を上げることはできません。しかし労働生産性を上げ、月40万円の利益を生み出すことができるようになれば、彼の人件費を上げることができます。
このように労働生産性にフォーカスすることによって人件費を増やすことができるのです。
まとめ 労働分配率から経営を見直そう
労働分配率を知ることは、経営を見直すということに繋がっていきます。経営を見直すことができれば、従業員とより良い関係を構築することができ、安定した経営をすることができるようになります。
労働分配率を定期的にチェックし、「低い場合はどうすれば良いのか」「高い場合はどうすれば良いのか」というシミュレーションを徹底することで、経営基盤をより強固なものにできます。「労働分配率」という簡単から経営を見直し、よりよい経営を目指してみてください。
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参照
中小企業研修協会「労働分配率とは何か」
https://www.first-kessan.com/category/1329922.html
経済産業省「2019年経済産業省企業活動基本調査(2018年度実績)の結果(速報)を取りまとめました」
https://www.meti.go.jp/press/2019/01/20200130003/20200130003.html