「働き方改革関連法」が中小企業においても施行され、残業の上限が月45時間に定められました。
また、成果主義を導入する大企業も増加しつつあり、それに伴って従来の賃金体系が崩壊していくと予測されます。
この時期に、あらためて残業のあり方をみつめ直してみましょう。
拠り所にするのは、主に厚生労働省による調査の結果です。
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目次
時間外労働には上司の意向が影響?
時間外労働のあり方には、上司の意向が同調圧力のきっかけとなって、従業員に影響している可能性があります。
労働者は仕事の成果と残業の関係をどう捉えているのでしょうか(図1)。
図1 仕事の成果に関する労働者の考え
出典:[1] 厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」 p.135
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
図中の一番、左のブルーの部分が、
A:残業を含めて可能な限り時間を費やし、最大の成果を目指すべきだ
右から2番目のライラックの部分が、
B:限られた時間の中で効率良く、一定の成果を目指すべき
を表しています。
この図をみると、Bと「どちらかといえばB」を合わせると、80.6%に上ります。
一方、労働者が考える「上司の考え方」では、その割合は70.8%、「職場の雰囲気」では65%となっています。
つまり、どちらも労働者自身の考えよりもA:「残業を含めて可能な限り時間を費やし、最大の成果を目指すべきだ」寄りであると考える労働者が多いということです。
次に、これに関連するグラフをみてみましょう。
以下の図2は、会社への貢献に関する考え方です。
図2 仕事の成果に関する労働者の考え
出典:[2] 厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」 p.136
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
このグラフでは、一番、左のブルーの部分が、
A:正社員である以上、仕事以外の時間を犠牲にしてもできる限り会社に貢献すべきだ
右から2番目のライラックの部分が、
B:正社員であっても、仕事以外の時間はしっかり確保し、一定の範囲で会社に貢献すべきだ
です。
この図も、労働者自身はB寄りの割合が75.5%なのに対して、上司は57.3%、職場の雰囲気は57.8%となっています。
つまり、どちらも労働者自身の考えよりもA:「正社員である以上、仕事以外の時間を犠牲にしてもできる限り会社に貢献すべきだ」寄りであると考える労働者が多いということです。
以上のことから、労働者自身の考えと、労働者が考える上司の考えや職場の雰囲気との間にギャップがあることがわかります。
このことをさらに裏付けるデータがあります。
以下の図3は、1日の労働時間別に、「上司は残業についてどのようなことを考えているか」を労働者がどう想定しているのかを表しています。
図3 一日の労働時間別 「上司が抱いている残業をしている人のイメージ(労働者による想定)」
出典:[2] 厚生労働省「我が国における時間外労働の現状 」 p.19
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000136357.pdf
この図をみると、労働時間が長い人ほど、上司が残業をしている人に対して「頑張っている人」、「責任感が強 い人」などのポジティブなイメージを持っていると考えている傾向が強いことがわかります。
一方、労働時間が短い人ほど、上司が残業をしている人に対して「仕事が遅い人」、「残業代を稼ぎたい人」などのネガティブなイメージを持っていると考えている傾向が強いことが見てとれます。
このことから、労働者が考える上司の評価態度が、労働時間の長短に影響していることが窺えます。
こうした状況では、労働者は自分自身は残業したくなくても、上司の意向や職場の雰囲気を気にして残業する可能性があります。
残業をなくしたいと考えているのなら、こうした齟齬がないように、上司がその意向を部下に周知することが必要です。
労働時間の国際比較
では、日本は国際的にみて、労働時間が長いのでしょうか。
以下の図4は各国の年平均労働時間を、図5は長時間労働者の構成比(週当たり)を表しています。
図4 年平均労働時間(2014年) 図5 長時間労働者の週当たり構成比(2014年)
出典:[2] 厚生労働省「我が国における時間外労働の現状」 p.2
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000136357.pdf
図4をみると、日本はヨーロッパ諸国と比べて年平均労働時間が長いことがわかります。
図5からは、残業が週40時間以上の構成割合、特に週49時間以上働いている労働者の割合が高いことが見てとれます。
ただし、前述のように、「働き方改革関連法」が施行されたことから、今後、残業時間は減少するとみられます。
時間外労働と生産性の関連性
残業をするのは、所定時間内では仕事が終わらないからです。
では、長時間労働によって生産性はアップするのでしょうか。
以下の図6は、生産性の高さに対する認識を、残業時間短縮の有無別に表したものです。
図6 労働生産性の高さに関する認識(時間外労働時間の短縮の有無別)
出典:[2]厚生労働省「我が国における時間外労働の現状」 p.21
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000136357.pdf
この図から、残業時間を短縮した企業は、削減しなかった同業他社に比べて、生産性が高いと回答した割合が8.6%高いことがわかります。
このことは、国際的な客観資料によっても証明されています。
まず、各国の労働時間の推移をみましょう(図7)。
図7 各国の労働時間の推移
出典:[1]厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」 p.144
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
この図から、日本(黒線)の労働時間は長期的にみて減少がみられ、現在はアメリカ(赤線)より短く、イギリス(青線)よりやや長い程度になっています。
一方、ドイツ・フランスは1970年代はアメリカやイギリスと大差がなかったにもかかわらず、その後、急速に労働時間が減少し、現在はアメリカ、日本、イギリスとは大分、差がついています。
次に、これらの国々の労働時間と労働生産性を比較してみましょう(図8)。
図8 労働時間と労働生産性の国際比較(1990年~2013年)
出典:[1] 厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」 p.144
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
図8をみると、労働時間が短い国ほど労働生産性が高くなる傾向を把握することができます。
労働時間と労働生産性に関するある研究では、長時間労働はストレスや過労のために生産性を低める可能性があり、労働時間の削減が労働生産性向上に効果があることが指摘されています *1:p.144。
労働時間に関する労働者の意識
では、労働者は労働時間に関してどのような意識をもっているのでしょうか(図9)。
図9 労働時間の増減希望
出典:[1]厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」 p.129
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
労働時間の増減に関する回答では、「現状のままで良い」が約55%を占めていますが、「あと少し減らしたい」と 「もっと減らしたい」を合わせると、36.2%を占めることから、労働時間を減らしたい労働者が一定数いることがわかります。
さらに、労働時間は転職の理由になるというデータがあります(図10)。
図10 若年正社員(15~34歳)の転職しようと思う理由(複数回答)
出典:[2] 厚生労働省「我が国における時間外労働の現状」 p.20
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000136357.pdf
この図は、定年前に現在の会社から転職したいと思っている若年正社員の転職理由を表しています。
最も高い割合を占めるのは、「賃金の条件がよい会社にかわりたい」で44.6%、次いで 「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」が40.6%です。
このように、労働時間は転職理由にもなる、重要な問題です。
これからの賃金体制
最後に、経団連が行った調査結果をみましょう。
この調査は、経団連が経団連会員企業などの労務担当役員などを対象に、1969年から毎年実施しているものです。
以下の図11は今後、基本給の構成要素として、最も重視したいと考えている事項です。
図11 今後、基本給の構成要素でウエートを最も高めたい項目(非管理職)
出典:[3] 一般社団法人 日本経済団体連合(2020)「2019年人事・労務に関する トップ・マネジメント調査結果 」(2020 年1月21日) p.14
http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/005.pdf
この図をみると、最も高い割合を占めているのは「業績・成果給」で、今後、給与体制が大きく変化する可能性がみられます。
残業でのがんばりを評価しない
以上、さまざまなデータをみることによって、以下のようなことが把握できました。
まず、残業時間を削減することによって、生産性がアップすることが証明されています。
次に、現在、成果主義を導入する流れが加速していることから、それに適合した給与体制に変化していくことが予想されます。
また、労働者も労働時間の短縮を望んでいます。
それでも労働者が残業をするのは、上司がそれを望んでいて、それが職場の雰囲気にも反映されていると、労働者が考えているからだということも窺えました。
つまり、労働者は職場の同調圧力を感じている可能性があります。
リーダーはこうした状況を理解し、リーダーが部下の残業を望んでいないことを周知し、時間を効率的に使うべきです。
時間を効率的に使うことができれば、節約できた時間を使って修正を行い、仕事の精度を上げることもできます。
効率的かつ精度の高い仕事ができるかどうか、それはリーダーの力量にかかっています。
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参照
[1]厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析―労働生産性と雇用・労働問題への対応― 第3章 より効率的な働き方の実現に向けて>第3節 働き方の改善による労働者 企業双方の好循環に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1-3.pdf
[2]厚生労働省「我が国における時間外労働の現状」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000136357.pdf
[3]一般社団法人 日本経済団体連合会(2020)「2019年人事・労務に関する トップ・マネジメント調査結果 」(2020 年1月21日)
http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/005.pdf