2020/08/06

社長は現場に降りてはいけない エンパワーメントを意識し健全な企業の成長を目指そう

昨今、コロナを含むさまざまな環境の変化が、企業や労働者に影響を与えつつあります。
なかでも、人口減少による仕事の担い手不足は、近い将来、回避が難しい深刻な問題となるでしょう。

日本は少子高齢社会を迎えました。
そして「少子化」という言葉が頻繁に使われるようになったのは、1990年代にさかのぼります。
少子社会の現状や課題について、「1992年度の国民生活白書」で触れられたことがきっかけとなり、社会問題として関心を集めるようになりました[1]。

人口減少に伴う労働環境の変化を踏まえ、働き方改革やDXの実現など、政府主導でさまざまな取り組みが行われています。
しかし、企業の積極的な努力なくしては、これらの課題は乗り越えられません。

今後の企業にとって、「付加価値の創出」は重要なキーワードとなります。
図1は、企業規模別の労働分配率の推移です。
労働分配率は、企業が生み出した付加価値額のうち、どれだけ労働者に分配されているかを表す指標す。
大企業に比べて、中・小規模企業の比率が、長年にわたり高止まりしています。


図1:中小企業庁2020年版「中小企業白書」新たな価値を生み出す中小企業p3
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

しかし、企業の成長や事業拡大を図るには、収益の確保が必要です。
図2は、企業規模別の付加価値額に占める営業純益の割合の推移です。
労働分配率が高い中・小規模企業は、生み出した付加価値額のうち、営業純益として残る割合が、大企業と比べて相対的に低いことが分かります。

つまり、労働分配率の上昇が、収益の増大、延いては企業の成長を抑制してしまう可能性を示唆しています。


図2:中小企業庁2020年版「中小企業白書」新たな価値を生み出す中小企業p4
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

最低賃金の継続的な上昇を含め、労働者への分配に対する意識が高まるなか、
「収益の拡大から賃金引上げへの好循環」
を作ることが、企業の成長につながります。

そのためにも、企業が生み出す「付加価値の増大」は、今後必要な課題といえます[2]。

付加価値を含む「新たな価値」の創出に向けて、企業は、既存事業の差別化、事業領域の見直し、新規事業分野への進出など、さまざまな戦略課題があります。
そして、今後の事業戦略の方向性は、労働者を含む「組織のあり方」によって左右されるといっても過言ではありません。

そこで、ピンチが発端で組織構築に大きな変化をもたらした事例を元に、今後の組織のあり方について検討してみましょう。

 

牙城崩壊から始まった新たな組織の姿

 

ある日、介護事業所を運営する顧問先から電話がありました。
「先生、社長が倒れました」

架電は管理者からでした。
出社直後に社長は倒れ、病院へ搬送されたとのことでした。

面倒見の良い社長は、毎日現場に顔を出し、事業所内の業務を一人で管理していました。
起業から10年。その間、デイサービスを3カ所、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所を運営するまでに、事業を拡大しました。
社長自らも介護の資格を取得し、365日現場で活躍し続ける日々でした。

これまで、この顧問先は、「社長」という一人の人間を頂点に成立していました。

社長の口ぐせは、
「私が一元的に管理することで、スタッフが迷わずついてこられるんです」
でした。

たしかに、スタッフからも慕われ、利用者やその家族からも信頼されており、この会社はこれが正解なのだろうと思っていました。

そんな、順風満帆と思われていたある日、突如、牙城が崩れたのです。

しばらくすると、病床の社長から着信がありました。
「私、頑張りすぎたみたいです。検査の結果、過労だと言われました」
か細い声でそう告げた社長は、電話の向こうで泣いていました。

退院後、社長と筆者は、今後の事業展開について、また、組織のあり方について何度も話し合いました。
そして、いくつかの方向性を導き出しました。

・社長は現場へ行かず、管理者へ業務の権限を委ねる
・管理者との定例ミーティンで、KPIの共有を図る
・スタッフおよび管理者の「報告のしかた」を徹底する

これら「エンパワーメント」の実施に際し、不安に駆られた社長は、
「せめて週に1度は、現場を見回りたい」
などと弱気な発言もみられましたが、そこは厳しく拒絶し、組織構築に全力を注ぐよう促しました。

数日後、これまで社長の指示のみで動いていた管理者やスタッフたちが、自ら計画を立て、目標達成に向けて行動を開始しました。
管理者を中心に結成されたチームで、メンバー同士が自発的に意見交換をすることで、事業所は自然と活気づいていきました。

現場で意思決定をするということは、会社が掲げるKPIを把握する必要があります。
そこで、目下のKPIを書き出し、スタッフ内で共有することで、具体的な指標を可視化させました。

同時に、問題が起きた際の「状況を的確に吸い上げる機能」を徹底しました。
現場主導で進めるにあたり、情報の共有は必須です。
スタッフから管理者へ、また管理者から社長へ、必要事項を的確に報告するスキルを磨くことで、いざという時の迅速な経営判断が可能となりました。

こうして、トップダウン一辺倒の「ワンマン経営」だった顧問先が、大きく変わり始めました。

これらは、社長が現場から離れたことで、自然と生まれた「好循環」ですが、これぞ正に「組織の成功循環モデル」と言えるでしょう。

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は、このような循環が組織を成功に導く、と唱えています。

1 関係の質・・・コミュニケーション
2 思考の質・・・アイデア、企画
3 行動の質・・・新たな挑戦
4 結果の質・・・成果が出る
5→1 関係の質・・・信頼感が高まる

1から4の順で進み、5=1へと繰り返すことで、組織内の関係性が良くなり、成功への好循環が生まれるというものです。

企業たるもの、結果を優先しがちです。
しかし、このモデルでは「関係の質」を高めることで、組織の「思考の質」を高め、質の高い思考が「行動の質」へとつながり、最終的に「結果の質」へ向かうと説いています。
つまり、組織の持続的な成長のためには、「関係の質」を向上させることが重要だと考えられます。

この顧問先は、エンパワーメントを実施したことで、組織が変わっただけでなく、社長自身に時間的な余裕が生まれました。
そのため、営業戦略に十分な時間を充てられるようになり、社長自らのトップセールスが奏功した結果、新たな介護事業所のオープンへとこぎつけました。

 

好循環が企業と組織の質を高める

 

人間と同じように、企業にも「ライフサイクル」があり、次の4つのフェーズに分類されます。

・幼年期
・成長期
・成熟期
・衰退期

とくに、「成長期」における組織構築は重要です。
幼年期は、いかに早く、企業を成長期へ押し上げられるかがポイントとなるため、トップダウンによるスピーディーな指揮命令が欠かせません。
それが成長期に入り、収益が安定してくると、次は、人材確保や育成のフェーズに入ります。

実際に、組織の人数が増加する「成長期」に求められるのが、エンパワーメントの必要性です。
従業員へ業務の権限を委譲することで、仕事に対する自発的な成長が期待できます。
その結果、企業の成長をも促します。

しかし、全てを丸投げすることがエンパワーメントではありません。
仮に、上司への報告・相談ができる環境が整っていない場合、ミスコミュニケーションにつながる恐れがあります。
また、目指すべき方向性や、目標達成のための具体的な指標を示さなければ、従業員の自主性は育ちません。

組織の好循環は、企業の成長を促します。
いま、自社がどこのフェーズにいるのか、そして、それに沿った組織のあり方を再確認することで、さらなる企業の成長へとつなげていきましょう。

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参照

[1]参考:内閣府/少子社会の到来とその影響(少子社会の定義)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g1110010.html
[2]参考:中小企業庁2020年版「中小企業白書」新たな価値を生み出す中小企業p4
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf