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変化を求められる企業と社会 アフターコロナのニューノーマルに向けて私たちが備えるべきこととは

変化を求められる企業と社会 アフターコロナのニューノーマルに向けて私たちが備えるべきこととは

2020年の幕開けとともに、日本を襲った新型コロナウイルス。
人の健康だけでなく、社会・経済活動も大きなダメージを与えました。
社労士である筆者もこの半年、企業の雇用維持に奔走し続けています。

そのような中、離職を食い止める手段として活躍をみせたのが、「雇用調整助成金」の存在です。
振り返ると、コロナの影響で就労に黄信号が灯りはじめた2月から現在(7月末)までの「雇用調整助成金」の変遷は、驚きの連続でした。

そしてこの変遷こそ、アフターコロナの世界では何が求められ、そして私たちはどのように変わって行くべきであるのかを指し示していると言えます。

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変化に適応を求められ続けた国の対策

2月当初、「雇用調整助成金」は、コロナ用に微修正されたものの、ほぼ従来どおりの内容での運用でした。

この助成金の制度概要は、
「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される[1]」
とされています。

そしてこの時点ではまだ、コロナの影響により即座に業績が悪化したしても助成金の申請は不可能でした。
本来の生産指標要件が
「最近3か月の平均値が前年同時期に比べて10%以上減少していること」
であるため、少なくとも「3か月」待たなければならないためです。
さらに、「雇用保険被保険者」が対象であり、短時間アルバイトや学生には適用されないなど、コロナ禍という緊急事態に対応するには全くフィットしない内容でした。

そうこうするうちに、「全国の小学校等の臨時休校」や「東京都の週末外出自粛要請」など、就労環境へ重大な影響をおよぼす変化が続きます。

そこから遅れをとること約一か月、雇用調整助成金がとうとう動きました。

・生産指標要件が1か月に緩和(当初3か月)、売上は5%の減少でOK(当初10%)
・雇用保険被保険者以外もOK
・残業相殺は廃止
・解雇等をしていなければ、最大90%の助成率(当初66%)
・出勤簿は「手書きシフト」でもOK、賃金台帳は「給与明細」でもOK
・個人単位の休業でOK(当初は一斉休業のみ)
・休業計画届は不要(原則は事前届出が必要)

これらは過去に例をみない対応でしたが、その後もいくつかの拡大措置を経て、最終的にはここまで変わりました。

①受給金額の上限を8,330円から15,000円に引き上げ
②解雇等をしていなければ、最大100%の助成率
③小規模事業所の申請書類は3枚でOK
④労働保険、雇用保険未加入、保険料未納でも申請OK(ただし、要相談)

この、4つの特例措置には目を見張るものがありましたが、特筆すべきは③と④です。
③については、ここまで簡略化できるのか、というほど書類様式が刷新されました。
④については、驚愕とも言うべき運用の変化です。
雇用調整助成金の財源が「雇用保険料」であるにもかかわらず、
「雇用保険料を未納付の事業主でも、この助成金を受給できる」
という特例だからです。
非常事態下でのこの決断は、社労士の立場からは称賛すべき対応と評価できます。

国は、「三密回避」を注意喚起してきましたが、助成金の申請は「直接提出」のため、窓口は6時間待ちの「超三密状態」となる時期もありました。
その後、郵送が可能になり、オンライン申請も開設されました(7月22日現在運用停止中)が、当初は「郵送は一切、受け付けません」と、一蹴されたものです。

コロナという未曾有の事態に、国も行政も翻弄され続けています。
しかし非常事態であるからこそ「安全」と「効率」が優先され、「本来の目的」を満たすために、制度と運用が洗練され続けています。
容易に変わることができなかった行政機関とその運用が、厳しい現実に適応するために驚くほど短期間での変化を遂げていると言うことです。
今後もさらに、早期の政治的決断と、マンパワーに頼りすぎない業務のデジタル化を期待します。

「コロナの助成金」により近代化した老舗料亭

この影響はもちろん、企業にも及んでいます。
拡大特例の「雇用調整助成金」を申請するなかで、「紙」から「デジタル」へと変貌を遂げた顧問先がありました。

都内の由緒ある料亭。
伝統を重んじるこの店は、バックオフィス業務も「伝統的」でした。
労務や経費の管理は、すべて紙ベースで行われます。
出勤簿は手書き、賃金台帳も電卓を使い手計算、そして手書きの一覧表でまとめています。

手書きによる帳簿類の作成について、法律上まったく問題はありません。
しかし、今回「雇用調整助成金」を申請するにあたり、筆者は「変化のチャンス」と考え、
「添付資料を、手書きではなく、スプレッドシートによる作成でお願いします」
と、依頼しました。

これまで手作業だったものを、いきなり「デジタル化してください」と放り投げても、まず無理です。
そこで、筆者がExcelで作成した「出勤簿のひな形」の使用を提案しました。
社長は渋っていましたが、「とりあえずやってみましょう」と、なんとか受け入れてもらいました。

出勤、退勤時刻を入力するだけですが、これまで何十年も「手書きで記入」してきた伝統を考えると、「Excelへ入力する」という行為は「改革」に近い変化です。
同様に、賃金台帳に関しても、給与の内訳まで確認できるよう、各種項目を追加・削除できるひな形を作成しました。

社長は、Excelの賃金台帳に対しても嫌悪感を示しましたが、筆者は、
「助成金のためにも、ぜひ、お願いします」
と、頭を下げました。

――この流れこそが、「デジタイゼーション」。
紙からデジタルへ、まずはここからのスタートです。

「老舗におけるデジタル改革」のおかげで、その後の必要書類は、すべてメールで受け取ることができました。
これにより、誤認が絶えなかった「6」と「0」が明確に区別できるようになったり、読みにくかった氏名が正確に確認できるようになったり、つまらないミスが格段に減りました。

その後、社長は新たなPCと会計ソフトを購入し、バックオフィス業務をデジタル化しました。
一般的な企業であれば当たり前の作業環境ですが、老舗にとっては大改革でした。

デジタイゼーションの先

コロナと直接の関連はありませんが、デジタイゼーションの「次の段階」について、発展途上にある事例をご紹介します。

これは、筆者の友人の話です。
中堅企業に勤める友人は、今年の人事異動で「IT推進担当」に任命されました。
昨今の「DXブーム」に乗り、企業内でICTの普及が進んだ結果、新たに設置されたポジションだそうです。
学生時代、プログラミングを学んでいた友人にとって、適任と思われる異動でしたが、実態は驚くべき作業内容でした。

なんと、外部から送られてくる膨大な電子データを、端末へ手入力する仕事だったからです。
理由は、「送信先のシステムと、自社のシステムが違うため」とのこと。
これでは、端末入力の際に人為的なミスが起きかねません。
友人は考えあぐねた挙げ句、取引先からcsvデータを送信してもらい、それをマクロで自動入力するプログラムを自分で組んだそうです。
これにより手作業での入力という最悪の事態は免れましたが、それでも企業間で直接、データの共有が成されたわけではありません。
とはいえ、変わりつつある世の中の変化に、現場が必死になって適応しようとする努力と言えるでしょう。

笑い話のような話ですが、世の中の変化が急激に進む際には、このような現象は必ず発生します。
他企業、他組織間でのデータ共有が、人間を介さずとも行えるようになれば、いよいよ、本来の「DX(デジタル トランスフォーメーション)」の方向性が見えてくるでしょう。

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DXとは?デジタルトランスフォーメーションをわかりやすく解説【なぜDXと略すのか】

ニューノーマルへ向けて、まずは一歩ずつ

コロナにより、人々は生活や就労について、大きな変化と改革を余儀なくされました。
しかし、「ヒト」に関わる改革は、今に始まったことではありません。
「人生100年時代」は2018年から、「働き方改革」は2019年から、DX(デジタル トランスフォーメーション)に至っては2004年から唱えられていました。

殊に「少子化」という言葉は、1990年代で既に使われていました[2]。
つまり、コロナが引き金となり、これらの動きが一気に加速しただけで、かねてより「ヒト」についての各種構想は存在していたのです。

人口減少に伴う労働力の減退をカバーするためには、ICTの整備やDXの実現は重要です。

出典:総務省/情報通信白書平成30年版(デジタルトランスフォーメーション)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html

たとえば、職場におけるICT環境を充実させること=デジタライゼーションを行うことにより、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。
そして、必ずしもデジタライゼーションの延長ではありませんが、経営改革の目指すべき先には「DX」があります。

DXは、ICTによって業務プロセスがデジタル化されるだけでなく、システム自体がデジタル化され「シームレスに関係し合う状態」を指します。
これは、既存の事業における技術や製品、働き方の話ではありません。
社会全体を含む、産業構造自体の変化を意味します。

DXが実現した企業・社会において、自らが担うべき職務・責務について、現時点で明確な答えは難しいでしょう。
コロナによりDXが現実味を帯びてきたいま、まずは一歩ずつ、今後必要とされる「ニューノーマル」とは何かを考える必要があります。

企業はもちろん、そこで働く私たち一人ひとりも今、まずは冷静に周囲を見渡し、
「変わりつつある環境・時代に、どのように適応していくのか」
「どのような強みを身につけるのか」
を、改めて考える必要があります。
積極的に動くのか、迫られてやむを得ず動くのか。
その決断が、3年後、5年後の自社の姿を大きく変えていくことになるのではないでしょうか。

参照

[1]引用:厚生労働省/雇用調整助成金(概要)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html
[2]参考:内閣府/少子社会の到来とその影響(日本の人口の変化)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g1110010.html

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