OJT(On the Job Training)とは、実際に日常業務を行っている職場で、従業員に実務をさせるトレーニング方法です。OJTと対をなすトレーニング方法に職場を離れて研修を受けさせるOFF-JT(Off the Job Training)があります。
厚生労働省能力開発基本調査(平成28年度)によると、正社員に実施するトレーニングについて「OJTを重視するまたはそれに近い」とする企業は74.6%、「OFF-JTを重視するまたはそれに近い」とする企業は24.1%となっています。OJTとOFF-JTは、実施方法や目的が違うのでどちらも企業にとって必要なトレーニング手法ですが、企業がOJTの必要性を重要視していることが分かります。
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目次
OJTはなぜ必要なのか
同調査の「人材育成に関する問題点」のデータによると、人材育成に関して問題点があると考えている事業所は72.9%となっています。問題点の内訳は、「指導する人材が不足している」53.4%、「人材育成を行う時間がない」49.7%、「人材を育成しても辞めてしまう」43.8%となっています。
OJT(On the Job Training)とOFF-JT(Off the Job Training)の違いの一つに、トレーニングする場面と時間があります。OJTは、職場で実務を担当している上司や先輩がトレーニングにあたるため、OFF-JTとは違いトレーニング担当として特別に人材を準備する必要がありません。また、OJTのトレーニングは業務時間に実務を行いながら実施するため、特別にトレーニングのための時間をとる必要も少なくなります。
OJTは、企業が抱えている「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」という人材育成の問題点の解決策として普及してきたトレーニング方法といえるでしょう。トレーニング手法としてコストや準備に要する手間もOFF-JTと比較すると抑えることができます。
また、OJTが求められている理由として、「専門的知識のトレーニングが可能」「個別にきめ細かいトレーニングが可能」な点もあげられます。企業の業務は多種多様であり、こうした業務を習得させたい、という要望にOJTが適していると考えられているのでしょう。実際に上司や先輩がOJTを行うことで、従業員個人の能力・資質要件にあわせたきめ細かいトレーニングを行うこともできます。
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効果的なOJTを行うためのポイント
一般的に効果的なOJTを行うためのポイントは、三つあるといわれています。
まず一つめとして、従業員にトレーニングを行う上司や先輩にOJT実施のためのスキルを身につけさせる必要があります。二つめは、OJTを行うタイミングです。OJTは、要員の増加や配置の適正化などのタイミングに合わせて実施し、企業の円滑な業務遂行を目指すからです。三つめはOJTで従業員に求める能力・ 資質要件を明確化したうえでトレーニングを実施する点です。
実際、独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人材マネジメントのあり方に関する調査」(2014年)によれば人材育成をより効果・効率的に行うために必要なこととして、「研修等を通じ、上長等の育成能力や指導意識を向上させる」が、63.3%と最も多くなりました。次に「要員の増加や配置の適正化等により、 業務の多忙化を軽減する」が46.3%、「求める能力・資質要件を明確化し、目標管理やOJT 等に直結させる」が37.3%という結果でした。
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PDCAサイクルを考えてOJTを行う
従業員のOJTを行う場合は、PDCAサイクルでトレーニングフローを考えます。Plan(計画)、Do(実行)、 Check(評価)、Action(改善)の4段階で管理することで、より実践的なトレーニングを実施できるためです。
ここでは、OJTにおけるPDCAサイクルの具体的な活用方法を解説していきます。
OJTにおけるPlan(計画)
OJTを実施する前に、まずは計画(Plan)を作成します。
世の中には「習得時間の法則」が存在し、実務レベルのスキルを習得するには600時間、それなりのレベルであれば20時間で習得できるとされています。
仮にこの法則が正しいとすれば、まずは20時間、最終的には600時間を目安に、OJTの所要時間を組む必要があります。
そして計画策定の基本は、逆算です。目標を期限内に達成するために、どのようなアクションをどのようなペースで実施する必要があるかを逆算します。
一般的には、Off-JTを20時間実施して基本的なスキルを習得させ、そのあとにOJTを600時間実施することで、実務レベルのスキルを習得させるスケジュールが無難です。
そのため、計画を策定する際は、ある程度まとまった時間を確保したうえで、余裕のあるスケジュールを組む必要があります。
OJTにおけるDo(実行)
計画を決定したら、その計画に沿って、実際にOJTを実行(Do)します。
OJTにおけるDoで、もっとも重要かつ難しいのは、指導と実践のバランスです。指導者は、どこまで教えてどこまで教えないかをあらかじめ決定しておく必要があります。
指導者が教えすぎてしまうと、従業員が自分の頭で考えなくなってしまいます。従業員が自分の頭で考えるように、あえて細かい部分を教えないのがコツです。
また、OJTを実施する際は「量」に注目した方がいいでしょう。例えば営業職であれば「商談数を月10件」を最初の目標に設定します。そうすることで、従業員は失敗を恐れずに、アポや飛び込みの回数を自主的に増やすようになるので、結果として経験値が身につきます。
何事も、失敗なくして成功なしです。成功率で考えるのではなく、行動量で考えさせる習慣を、従業員に身につけさせることが大切です。
OJTにおけるCheck(評価)
OJTをある程度進めたら、指導者による評価(Chack)を実施します。
まずはOJTの進捗が遅れていないかを確認します。もし遅れていた場合は、リスケジュールを実施し、ペースを早めます。
また、従業員が業務を遂行できるようになったら、フィードバック面談の機会を設けて、コミュニケーションを取るようにします。
この際、従業員がわからないことがあったら、ちゃんと指導するようにしましょう。ただし、細かい部分まで教えすぎると従業員が質問魔になる恐れがあります。従業員自らが頭を使う余地は残しておくようにしましょう。
そして、OJTが最後まで完了した場合も評価を実施します。よかった点はしっかり褒めるのと同時に、あまりよくなかった点については徹底的に深掘りし、次回からの業務遂行に繋げるようにします。
OJTにおけるAction(行動)
OJTにおけるCheck(評価)を実施した後は、改善点を元に、あらためて目標を設定し直します。
この際、従業員に目標を設定させるといいでしょう。ドラッカーが提唱した目標管理制度は、従業員自らが目標を設定することで、業務遂行のモチベーションを向上させるマネジメント手法です。この理論をOJTにも応用します。
PDCAサイクルが1周する度に、従業員自らが目標を設定することで、より長期的な視点を身につけることに繋がります。その際、指導者はあくまでもサポートやアシストに徹するのがいいでしょう。
OJTにおける指導者の役割は、あくまでもサポートです。まずは従業員が主体的に業務を遂行していくことを基本とし、指導者は、従業員が変な方向に進まないようにする「矯正」の役割を担います。
細かい部分まで教えすぎると、従業員が自分で考える力を身につけることができず、指導者の工数も増えてしまいます。従業員の主体性を促すOJTを実施できるといいでしょう。
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