若手社員の離職に悩んだり、危機を感じたりするマネジメントは少なくないことでしょう。
実際、各種調査で「今の会社に長く留まるつもりはない」と答える若者は増えています。
彼らは就職や転職をどのように考えているのでしょうか。
そして、どのように対策をすれば良いのでしょうか。
目次
「最初から転職するつもりだから」
リスクモンスター株式会社が、新卒社会人の1年生から3年生を対象に行った「仕事・会社に対する満足度」についての調査があります。
この中で、今の会社に「3年後も勤務し続けていると思う」若手社員は全体で53%でした。
男女別に見ると、男性で61.3%、女性で44.7%です。
男女差はあるものの、やはり「若手社員が早期離職する」という現代の風潮を反映していると言えるでしょう。
売上規模の大きな会社ほど「3年後も勤務し続けていると思う」若者の割合は増えていますが、それでも57.7%という水準です。
さらに、3年はおろか、「1年後」について「勤務していない」と思う新卒社員が全体で3割近く存在しています(図1)。
会社の売上規模によっての差が大きいとも言えないのが特徴的です。
図1 若手社員の勤務継続意向(リスクモンスター株式会社「アナリストモンスター」)
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/pdf/202001.pdf p7
また、働き続けていないと思う理由を見てみましょう。
「勤め続けたくない理由」として上位にある、
・給料が低いから 46.1%
・やりがいを感じないから 29.4%
というのは容易に想像がつくものですが、続く理由が
・最初から転職するつもりだから 20.6%
というのが、この調査では3位になっています。
とりあえず今の生活費を稼ぐための腰掛け、のようなものでしょうか。
そして実際、調査対象の新卒1~3年生の3割近くは転職サイトに登録しているという結果も出ています(図2)。
図2 若手社員の転職サイト利用実態(リスクモンスター株式会社「アナリストモンスター」)
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/pdf/202001.pdf p7
当座の生活費のために仕事をしながら、より満足度の高い職場があればいつでも転職できる姿勢を取っているとも考えられるでしょう。
また、転職エージェントとの密な接触は、それだけで転職意識を高める可能性があります。
「勤め先の安定」と「生活習慣の安定」のはざま
「隣の芝生(企業)は青い」。
そんな観点から、リスクモンスター株式会社が実施した別の調査があります。
「知人・友人の仕事を羨ましいと思うか」というもので、20代の半数近くが「羨ましい」と回答しています。
「隣の芝生は青い」というのは、誰もが持っているバイアスを言うことわざではあります。
それでも注目すべきは、自分の年収が1000万円、1500万円を超えていても「羨ましいと思ったことがある」若者が3割から4割近くいることです(図3)。
図3 友人、知人の仕事が羨ましいかどうか(リスクモンスター株式会社「アナリストモンスター」)
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/pdf/201909.pdf p6
しかし一方で、羨ましいと思う勤め先があったとしても、20代の43.6%が「そこに転職したくはない」と回答しています。
企業としてはこの4割の若者に響くアプローチをしたいところです。
転職したくはない理由を見てみましょう。
図4 今の会社にとどまりたい理由(リスクモンスター株式会社「アナリストモンスター」)
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/pdf/201909.pdf p16
生活習慣や環境が大きく変わることは好まない、といったところです。
プライベート重視という価値観も反映されているのでしょう。
「飲み会が少ない」という回答が他の世代より多いのも特徴です。
また、昇進に対するこだわりの低さも見て取れます。
「給料が低いのは嫌だけれども、かと言って働き方が大きく変わることは好まない」
と考えている若者が多い。
あるいは「スキルアップのために転々とする前提」という若者と「無難に」という若者との二極化が生じている可能性が考えられます。
広がる「カムバック制度」
離職防止に「特効薬」はないと考えた方が良いでしょう。
新卒全員を確保しよう、一人でも多く離職を防ごう、と考えてしまうのは当然のことですが、他の選択肢に目を向けることも重要になってきそうです。
一つは、「第二新卒」へのアプローチ。
もう一つは、逆に他社から転職してくる若手に目を付けることです。
特に第二新卒は、「就きたかった仕事のためにあえて時間をかけた」若者です。
腰掛けを良しとしなかった若者も一定数いるわけですから、働くということへの意識は高いでしょう。
また、注目したいことがあります。
近年、「カムバック採用制度」「ジョブリターン」などを導入する動きが加速しています。
一旦退職した「元社員」を再び受け入れるというものです。
再雇用の条件として、離職理由を育児や介護などに絞った制度は従来から存在していますが、近年、制度を改める企業が増えています。
学業や転職でのキャリアアップを理由に退職した社員も、再雇用の対象として認めるようにしている企業が相次いでいます。
大手では富士通、明治、花王、クラレなど業種問わずにこうした制度改革が行われています。
大企業でも若者の早期離職問題を抱えているようです。
転職を「裏切り」と捉えるのではなく、「外で得てきたスキル」と捉え、門戸を常に開いておくことで、自社のことを知っている即戦力として戻ってきてもらおうという狙いです。
なお、エン・ジャパン株式会社が実施している「出戻り社員」に関する調査によると、一度退職した社員を再雇用したことのある企業は2018年調査では72%でした。
2016年の前回調査より増加しています。
図5 退職者の再雇用経験(出所:「企業の出戻り(再雇用)実態調査2018」エン・ジャパン株式会社)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/13243.html
注目すべきは、その理由として「本人からの直接応募」も多いことです(図6)。
図6 退職者再雇用のきっかけ(出所:「企業の出戻り(再雇用)実態調査2018」エン・ジャパン株式会社)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/13243.html
若者の場合、一度外に出てみて自社の良さを認識した、ということもあるでしょうし、起業を試みたがそう簡単ではなかった、となることもあるでしょう。
しかし、それは「若い時に経験した良い出来事」でもあるのです。
日本では「出戻り」となると、「裏切り者は二度とうちの敷居をまたぐな」というようなイメージで捉えられがちなのですが、それを根本から変えなければならない時代に来ています。
逆に、仕事ぶりや人柄を知っている即戦力であり、研修にもそう手間がかかりません。
野望を抱き飛び出したがうまくいかなかった、その冒険心や行動力はむしろプラス要素だという考え方があっても良いのではないでしょうか。
退職者の方からは声をかけづらいと思うので、転職した後も、近しい上司が何らかの形で関わりを持っておくのは悪いことではありません。
もちろん、円満退職が前提です。
ここのところでは「退職代行」というサービスもあるくらい、会社を辞めることへのある意味での罪悪感や、トラブルを可能な限り防ぎたい若者の意識もあります。
「ブラック企業」という言葉が流行した時期の人材ならではの慎重さでしょう。
若者は就職前に多くの情報に振り回され、しかしなんとか生活しなければという思いも強いため、就職についての切迫感が強いと考えられます。
「よくわからないまま就職した」という若者は少なくありません。
短期での退職は避けられないものと考え、それを「縁」としてつなぎおくような、雇用の流動性に対するレジリエンスを高めるのも今後必要なあり方になるでしょう。
また、新卒、転職組、出戻り組、と様々な背景を持つ若者が入社してくることに備え、研修のあり方についても考えてみたいところです。
人材の有効活用のために、ぜひご検討下さい。
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