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企業経営に真のイノベーションを起こす「50センチ革命」の考え方とは

企業経営に真のイノベーションを起こす「50センチ革命」の考え方とは

変化の激しい時代に対応できる人物像とはどのようなものなのか。

いまの日本が抱える問題は様々です。これらを解決し、同時に生産性を高めるにはどのような人材教育が必要かについて、文部科学省や経済産業省で研究が進められています。

その中で明らかになってきたのが、「50センチ革命」を起こせる人材の必要性です。

近年、政府は「多様で柔軟な働き方」「ダイバーシティ」といった新しい価値観と働き方を推奨しています。
なかでもダイバーシティ経営は、
「女性をはじめとする多様な人材の活躍が、少子高齢化の中で人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応力を高め、日本経済の持続的成長に不可欠[1]」
と位置づけ、特に力を入れています。

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「課題先進国」ニッポンは「課題解決先進国」になれるか

いわゆる「第四次産業革命」を迎え、産業界は多くの課題に直面しています。

世界的に見れば人間とAIの共存、グローバル化で生まれた光と陰の両側面、また、環境問題や貧困問題などが挙げられます。また、特に日本は超高齢少子化、経済的生産性の低さという課題も抱えていて、「課題先進国」だというのが経済産業省の認識です。
この「課題の先進国」である状況からいかに「課題解決の先進国」になるかが重要です。

しかし人口減少が続く中では、こうした課題解決を少数のエリートやリーダーだけに依存し続けるのには限界があります。そこで経済産業省の「『未来の教室』と EdTech 研究会」の中で提言されているのが、「50センチ革命」を起こせる人材育成の必要性です。

「革命」と名前はついていますが、まずは自分の周囲「50センチ」の範囲にある課題を見つけ、それを解決するというのが「50センチ革命」です。
50センチの範囲にある問題をひとりひとりが自ら解決していくことで、ムダが削減され、生産性の底上げに繋がるのではないか、というものです。

指示待ち人間の多さが組織に「ムダ」を与えているのは多くのマネジメントが日々感じていることでしょう。そういった意味では注目すべきことでもあります。

一方で、メンバーひとりひとりに「50センチ革命」の力があれば、50センチから先に広げていくことで、いずれは街や地域の問題、顧客の生活ニーズといったものを発見できるようになり、最終的には世界的な課題にも目が届くようになります。

むしろ、周囲50センチの課題すら解決できないようでは、それ以上大きな物事は動かせないとも言えるでしょう。

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知識があっても「50センチ」が見えていないことの弊害

筆者が社会部記者から経済部記者へ移った時、報道局幹部からこんなことを言われました。

「経済の話題を拾い上げるのに、女性の視線はとてもありがたい。特に出産・育児を経験した人にはしっかりとした生活感覚がある。それこそが重要。」

ということです。

その時はピンと来ませんでしたが、勉強をしていくうちに、世界は数え切れないほどの大小の歯車が複雑に配置されて動いていることに気づきました。その全体像をいきなり把握しようとするのはほぼ不可能です。
まずは自分の周囲にあるモノがどこで作られどのように運ばれて、自分が支払った代金や消費税がどんな風に分散されていくのか。まず自分の身近なものから理解し、その先や隣にあるものの事情を知っていくようになった印象があります。

もちろん産業構造や市場、金融といった大きな枠組みに関する知識も必要でした。そして後輩社員から教わりながら専門用語にも慣れてきたころ、現場でこんなことがありました。
ある年、野菜の生育が悪く価格が高騰していました。出荷できない白菜を自ら畑で処分する農家も多く、そんな所に後輩をひとり送り込みました。
畑を撮影し、生産者にインタビューに答えてもらうという内容ですが、驚いたのは、伝送されてきたインタビュー映像の一コマです。

農家さんが「ホラ、中身がスカスカだから軽いでしょ」と後輩に白菜をひと玉手渡したところ、彼はそれを受け取って、
「え、これって軽いんですか?」
と言い放ってしまったのです。
思わず、「それは何やねん!」と声が漏れてしまいました。

これは言い過ぎかもしれませんが、彼は、白菜の値上がりとその理由は知っていても、白菜について知らなかったのです。
「普通に」考えれば、白菜ひと玉は、ひょいと手渡されて、すんなり受け取れる重さではありません。半玉ですら持って帰るのに嫌な思いをするくらいです。それこそ、日常の「50センチの知識」なのです。
冬に一度でも家族や友人と鍋物を囲むことがあれば、おおよそ想像のつくことでしょう。

そしてここからが技術的な話になるのですが、「いかに今年の白菜が不出来か」を伝えるためには他にも手段があるはずです。その場で半分に割ってもらってみる、その上で例年との葉の量や色の違いを教えてもらうというやり方もあるはずで、そのために足を運ばせているのです。
そこに思いが至らなかったどころか、先方に嫌な思いすらさせたことでしょう。

これ以来私は他の後輩にも、物価感覚を身につけたり流通の仕組みを学んだりするために、買い物をしなくても毎日あるいは数日に一度は近くのスーパーに行くよう指導しました。
毎日見ていると、「最近これが高くなっている。なぜかな」と疑うものです。そこから調査すると、意外なことが世の中で起きていたりします。

まず「50センチ」の変化から気づきを得られないようでは、問題発見力は生まれません。

創造性を構成する「50センチ改革×越境×試行錯誤」

さて、経済産業省の研究会では「50センチ革命」に加え、「越境」「試行錯誤」がキーワードとしてあがっています[1]。

まず「50センチ革命」を起こすために必要なことは、自己肯定感や自己効力感の他に、「圧倒的な当事者意識」「他者への共感力」「課題の発見力」「勝算や成否を恐れず最初の一歩を踏み出す力」だといいます。

中でも一番の基礎は「圧倒的な当事者意識」ではないでしょうか。

「組織の話」「社会の話」になると、当事者意識は薄れがちになってしまいます。しかし「周囲50センチの話」それも「自分を中心とした50センチ」の範囲で何かを発見せよとなると、それは「自分ごと」に変わります。
自己肯定感や自己効力感は、「50センチ革命」を繰り返すほどに強まっていくでしょう。

世界には「入れ子構造」になっている要素がいくつかあります。50センチの改革が大きなイノベーションになるのは、このような構造に見事にマッチした時、つまり50センチの範囲で物事の「本質」を見つけられた時ではないでしょうか。

次いで「越境」とは「自らの思考の軸になる専門性のほか異分野の視点や知見を理解する力(本来の基礎学力)、多様性の受容力、タテ割りや対立を溶かす対話力、巻き込む力」を必要とするといいます。
特に「タテ割りを溶かす対話力」、これは年齢を問わず必要なスキルです。「出る杭を叩く」文化が強すぎると、人材の成長はそこで止まってしまいます。

そして「試行錯誤」です。
「遊び心、創造性、正解なき中での思考力、リフレクション(省察)、失敗からの回復力」が欠かせないという指摘です。
世界そのものが「正解なき」場所と化している今は、知識や常識、教科書、といったものを疑う力すら必要とされる時代だとも言えるでしょう。

しかし注意したいことがあります。
ジャズの巨匠、マイルス・デイビスの名言にこのようなものがあります。
「音楽における自由というのは、自分の好みや気持ちに合わせて、規則を破れるように規則を知っている能力だ。」
「型破り」というのは魅力的に聞こえますが、基礎知識とのバランスは必要です。「改革」というと何か、突拍子もないことにばかり頭が行ってしまうかもしれませんが、そういうことではないのです。
このバランスを損なっているがために「話が先に進まない」「無駄な対立が多い」組織も多く存在しそうです。

50センチ革命は誰にだって起こせる

ひとりひとりが自分の周囲50センチに気を配り、それがパッチワークのように繋がっていき、全体が底上げされる。これが50センチ改革の目指すところでしょう。
実際、どんな発明もカイゼンも、確かに「周囲にあるものへ対する疑問」から生まれているものです。

そこで、まず発見力を養うために、例えばオフィスを半日自由に歩かせ、「気づいたもの」「気になったもの」「改善したいもの」を写真に撮らせ、「何に気づいたのか」「それはどう改善された方が良いと思うか」というプレゼンテーションをさせるような研修があっても良いかもしれません。

50センチといえども「改革」には周囲を巻き込む力が必要ですから、各々の写真についてディスカッションするような時間があるとなお良いでしょう。

また、「門外漢の意見」こそ大切にする必要も出てきそうです。
企業や組織の文化、風土に染まっていない人ほど、50センチの中にたくさん違和感を見つけられます。「何も知らないくせに」と一方的に排除してしまうのは、せっかく懐に入ってきたダイヤの原石を、輝いていないからといって磨きもせずに捨ててしまうようなものかもしれません。

なお、マイルスはこのようにも言っています。

「全ての芸術的表現における創造性や才能には、年齢なんてない。年季は何の助けにもならない。」

年齢に関係なく、全ての立場の社員が今一度「50センチ」を観察し直すところから、新しい時代へのヒントが見えてくるかもしれません。

「圧倒的当事者意識」を持つためにまず自分の周辺から始める、あるいは、行き詰まってしまいそうな時にこそ自分の周辺に立ち返る。

そんな柔軟な姿勢が求められています。

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[1] 経済産業省「未来の教室」と EdTech 研究会 第1次提言
https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180625003/20180625003-1.pdf?_fsi=PkPyxpdI

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