いま、「人手が足りない」と言われていますが、具体的には「求める人材が足りない」という方が正しいでしょう。
特に即戦力かつ専門性や管理能力のある「中核人材」は、ますます確保が難しくなっていきます。
そのため、離職率が高い状況が続いてしまうと、際限のない採用活動を強いられます。
「中核人材」として転職する人にはどのような特徴があるのでしょうか。そして、どう確保すれば良いのでしょうか。
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目次
中小企業・小規模事業者が抱える経営課題
中小企業庁の資料によると、人材に関する悩みを抱える企業は多く、その中でも「必要な人材の確保」といった項目を挙げる企業の割合が最も多くなっています(図1)。
図1 中小企業が抱える経営問題
(出典:「中小企業・小規模事業者における中核人材確保ガイドブック」中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/pdf/003_s03_00.pdf p2
専門性やスキルを持ち、マネジメント能力もある人を「中核人材」と位置付けています。これこそ企業がいま求める即戦力であり、一方で確保が難しい人材でしょう。
また、これはマネジメント層に限ったことではありませんが、積極的に転職活動をする人は人生を通じたキャリア形成に対する意識が高い傾向にあります。
そのため、離職率も高いのが現状です(図2)。
図2 中小企業での採用者と退職者数の平均人数
(出典:「中小企業における採用と定着」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2017/documents/0195.pdf p22
中途採用者では13人採用して、うち11人がやめてしまうという状況です。求人の手間がかかり続けるのも頷けます。
転職者は、この会社では自分の能力を活かせないな、と感じるとあっさりと次に行ってしまうのです。
しかし「あっさり次に行ける」ような人材ならなおさら確保したいものです。
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企業に求められる根本的な問い
全体的に、自分が何をやれるのかがはっきりしない企業は敬遠される傾向にあります。
現在の会社の状況や最優先課題、そのために今どんなことをしていて、どんな経験を持つ人が欲しいのか。
そこがハッキリしていないと、飛び込む側も戸惑ってしまいます。
転職組は「自分のスキル」や「自分のキャリア形成」へのこだわりが強いので、それに応えられるような募集、受け入れの仕方が必要です。
筆者は時々、企業のホームページの作り直しやページ追加などの依頼を受けることがあります。宣伝の出し方やホームページに載せる文章を書く作業です。
その中で、打ち合わせのために直接企業訪問することがしばしばあります。
筆者が管理職になるわけではありませんが、
「企業の外からいきなりやってきて一緒に仕事をする人間」
の立場として感じるのは、
「そういうことなら継続的に力になりたい」
と思う時と、逆に
「長続きしないだろうなあ」
と思う時があります。
「力になりたい」と感じるのは、自社の強み弱みをわかりやすく説明してくれて、かつ「今、自社はこれを最大の課題にしている」
「向こう半年くらいでこうなりたい」
「そのために会社としてはこんな取り組みを始めた」
といったことを明確に伝えてくれる企業です。
中には、創業時から現在までの経緯、自社を取り巻く環境がどのように変化していったのかも説明してくれる企業がありました。すると、何を強調する文章にすれば良いのかすぐに掴めます。
また一連の経緯や、その企業の中で同時進行しているプロジェクトについて知ることで、企業自身が気づいていない強みを発見し、筆者が持つ知識の中で第三者としての提案をすることもできます。早い段階でコミュニケーションが成り立つのです。
こうやって、企業のニーズと自分の経験がマッチすると、やりがいも変わります。
逆に、内容が漠然としたまま「古いから新しくしたい」「数字を稼ぎたい」というだけだと正直なところ腰が重くなってしまいますし、オリジナリティのある制作はできなくなります。
転職も、これに似た部分があるのではないでしょうか。特に専門分野となると「やりがい」を求める人が大半ですから、なおさらのことです。
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明確な目標が採用の「柔軟性」を生む
さて、現在の自社に対する認識や現在の最優先課題が定まると、人材確保に柔軟性が生まれます。
「必ずしも100%自社の社員である必要はない」という考え方です。
中小企業庁が現在提案している「中核人物」確保の方法として、「プロジェクト型」の採用方法があります(図3)。
図3 プロジェクト型の中核人物活用方法
(出典:「中小企業・小規模事業者における中核人材確保ガイドブック」中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/pdf/003_s03_00.pdf p4
自社の社員として定着してほしい、という希望はどの企業にもあることでしょうが、なかなかうまくいかないのが現状でしょう。
そうではなく、「今何が必要なのか」を明確にし、それを専門とする人材にピンポイントで力を発揮してもらうという方法です。兼業、副業、一時出向などがあります。
プロジェクト型で活躍する中核人材は複数企業で経験や知識を常に積み続けていますから、新鮮な「外の風」を常に運んでくれるというメリットもあります。
そしてマネジメント能力が高い人は、別に毎日机に座っていなくても良いものです。逆に、座って監視しているのがマネジメントではありません。
実際、このようなプロジェクト型で中核人材を採用した企業には、このような効果が生まれています。
一つは、鳥取県の建設会社です。
この企業は経営課題を「原価管理手法の改善」ということに絞り、人材像を「シニアのOB人材」と決めて採用活動を行っています。
結果、69歳のゼネコン出身者と1年間の顧問契約を結んでいます。勤務形態は月1~2日というペースですが、この顧問の支援で経営効率と生産性の向上に成功しています[1]。
この顧問契約にはもう一つメリットがあります。報酬や期間を明確に決めやすく、コストがあらかじめ「見える」ということです。
もうひとつは、北海道のPOSシステム製造・販売企業です。事業内容が先行投資型である実情を踏まえ、財務基盤安定のために、金融業界で人脈のある人材に絞って求人活動を行いました。
さらに北海道内での確保にこだわらず、むしろ首都圏の人材に的を絞っています。結果、プロジェクトに応じて兼業で勤務するという形で、東京の金融機関に所属する49歳男性を採用しています[2]。
他業種の専門家をピンポイントで確保しているのです。
また、採用された本人がその企業に決めた理由に多いのは、事前に企業の課題や明確な目標を共有できていることです。
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転職経路を押さえ、効率的な人材確保を
また、転職者がどういった場所で求職活動をしているかも知っておきましょう。場違いな求人を行っても意味をなさないからです。
転職者が求職に利用した方法は、このようなものです(図4)。
図4 転職者の求職方法(出典:「中小企業における採用と定着」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2017/documents/0195.pdf p165
黒の棒グラフが「即戦力管理業務担当者」まさに「中核人材」の求職方法ですが、「それ以外の中途採用者」より多くなっているのは民間の職業紹介機関の利用です。
そして「前職や今の職場の同僚の紹介」の割合が「それ以外の中途採用者」より低くなっています。これについて労働政策研究・研修機構は「同僚以外のネットワークを活用した転職が多いことが窺われる」と分析しています。
また、近年では、「人材プール(タレントプール)」の利用も多いようです。
タレントプールとは、転職や兼業などを考えている求職者は自分のデータベースを登録、企業側は自社の紹介や条件などを登録してマッチングさせるもので、企業としては人材データベースから求める人材像の情報を複数人分確保(プール)しておくことが可能です。
その中で企業から人材候補にコンタクトした場合、あるいは求職者側からコンタクトがあった場合に、コミュニケーションを継続し、タイミングを見て実際の採用を打診するというシステムです。
タレントプールの場合、マッチングサービスを行う事業者のサービスを利用するか、自社のSNSなどを使ってコンタクトしてきた人材のデータベースをプールしておくという手法があります。
また、退職者や過去に採用に至らなかった人材のデータもプールしておくことで、必要に応じて企業側からアプローチするという使い方もあります。
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「協業者」としてのアプローチから
タレントプールでは、何らかの形で自社に興味を持ってくれた人材を「潜在転職者」と位置付け、事前にコミュニケーションを取ることができます。
中には、まず1本のプロジェクトをやってみて、双方の合意があればその後別のプロジェクトにも協力してもらう、という継続に成功している企業もあります。
また、場合によっては実際に転職という形で定着してもらえるチャンスもあります。「いきなり社員化」というよりも、定着に向けたハードルは低くなるでしょう。
即戦力転職者はまさに「奪い合い」の状況にあります。今後働き手は減少していきますから、ピンポイントのアプローチを考えるのもまた一つの方法ではないでしょうか。
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参照
[1][2] 「中小企業・小規模事業者における中核人材確保ガイドブック」中小企業庁
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/pdf/003_s03_00.pdf p44、p48