人材の流動化が進み、優秀な人材の確保と定着が企業にとって大きな課題となっています。
社員一人ひとりが安心してキャリアを描ける環境づくりは、離職防止や生産性向上につながる重要な投資です。
そこで注目されているのが、国家資格を持つ専門家「キャリアコンサルタント」の活用です。
キャリア相談窓口の設置や研修への導入、制度設計のアドバイスなど幅広く機能し、人的資本経営の推進にも効果を発揮します。
本記事では、企業がキャリアコンサルタントを活用する具体的な方法からメリット、さらに実際の活用事例までを解説します。
目次
キャリアコンサルタントとは?
キャリアコンサルタントとは、働く人が自分の適性や能力を理解し、将来のキャリアを主体的に設計できるよう支援する専門家です。
国家資格として厚生労働省に登録されており、相談者のキャリア形成や職業生活設計をサポートする役割を担います。
企業の中では、社員のキャリア相談や研修、配置転換の助言などを通じて、人材の定着や成長を後押しします。
単なる「相談役」ではなく、人的資本経営を支えるパートナーとして活躍が期待されており、個人と組織双方にメリットをもたらす存在です。
セルフ・キャリアドッグとは?
セルフ・キャリアドックとは、企業が主体となって社員のキャリア形成を定期的に支援する仕組みのことです。厚生労働省が推進しており、健康診断になぞらえて「キャリアの定期検診」とも呼ばれます。
具体的には、キャリアコンサルタントによる面談や研修を一定のサイクルで行い、社員が自身のキャリアを見直す機会を提供します。
早期離職の防止や社員のモチベーション向上につながるだけでなく、企業側も人材の適性や希望を把握できるため、戦略的な人材配置や人材育成に活かせます。
企業にキャリアコンサルタントが必要な4つの理由
企業にキャリアコンサルタントが必要な理由として、以下の4つが挙げられます。
- 人材流動化に対応するため
- 離職防止・定着率向上のため
- 社員のキャリア形成を支援して企業の成長につなげるため
- 管理職の負担を軽減するため
それぞれ詳しく解説していきます。
理由1.人材流動化に対応するため
働き方の多様化やジョブ型雇用の広がりにより、人材の流動化はますます加速しています。
優秀な人材ほど自らの市場価値を意識し、より成長できる環境を求めて転職や独立を選ぶ傾向が強まっています。
その結果、企業にとっては採用や育成に投資した人材が流出するリスクが高まり、組織力の低下につながりかねません。
キャリアコンサルタントを導入すれば、社員が自社でどのようにキャリアを築けるかを具体的に描けるようになり、安心して働き続けられる環境づくりに貢献できます。
理由2.離職防止・定着率向上のため
キャリアコンサルタントを活用することで、社員の離職防止と定着率向上を実現できます。
職場での不安や不満は、相談相手がいないまま積み重なると退職につながりやすくなります。
そこで第三者的立場のキャリアコンサルタントが相談に応じることで、社員は安心して悩みを打ち明けられ、問題を早期に解決できます。
さらに、自分のキャリアプランを整理し、将来のビジョンを描けるようになることで、会社で働き続ける意欲も高まります。
結果として、企業にとっては人材の流出を防ぎ、安定的な成長につなげる効果が期待できます。
理由3.社員のキャリア形成を支援して企業の成長につなげるため
キャリアコンサルタントの活用は、社員のキャリア形成を後押しし、最終的に企業の成長へとつながります。
社員が自身の強みや将来の方向性を明確にできれば、仕事へのモチベーションが高まり、持っているスキルを最大限に発揮できるようになります。
また、キャリア形成の支援は、個人の成長を組織の成果に直結させる重要な要素です。
キャリアコンサルタントが面談や研修を通じて社員のキャリアビジョンを共に描くことで、人材の活性化が進み、企業全体の競争力強化にも貢献します。
理由4.管理職の負担を軽減するため
キャリアコンサルタントを導入することは、管理職の負担軽減にもつながります。
上司は日々の業務マネジメントに加え、部下のキャリア支援や相談対応も求められますが、十分に時間やスキルを割けないことが少なくありません。
その結果、面談が形式的になったり、社員の悩みを見過ごしたりするリスクが生じます。
キャリアコンサルタントが第三者としてキャリア相談を担えば、社員は安心して将来を語れる場を持てるだけでなく、管理職は本来のマネジメント業務に専念できます。
結果として、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与します。
企業でのキャリアコンサルタント活用方法5選
企業でのキャリアコンサルタントの活用方法として、以下の5つが挙げられます。
- 社内キャリア相談窓口の設置
- キャリアデザイン研修の企画・講師
- 人事制度や人材配置へのアドバイス
- ダイバーシティ推進サポート
- 復職プログラムの設計
それぞれ詳しく見ていきましょう。
活用方法1.社内キャリア相談窓口の設置
社内にキャリア相談窓口を設けることで、社員が安心して将来のキャリアについて相談できる環境を整えられます。
人事や上司には言いにくい悩みでも、第三者的立場のキャリアコンサルタントなら本音を引き出しやすく、問題の早期解決につながるでしょう。
相談内容には、転職を考える前段階の不安やスキルへの迷いも含まれるため、企業にとっては離職予防の効果も期待できます。
また、社員がキャリアの方向性を整理できれば、モチベーションの向上や適材適所の配置にも活かせます。相談窓口は、社員と企業双方にメリットをもたらす仕組みです。
活用方法2.キャリアデザイン研修の企画・講師
キャリアコンサルタントは、社員のキャリア意識を高める研修の企画や講師としても活躍できます。
新入社員には社会人としてのキャリア形成の基礎を、中堅社員にはスキルの棚卸しや今後のキャリアの再設計を、管理職には部下のキャリア支援方法を学ぶ機会を提供できるでしょう。
また、研修を通じて社員は自らの強みや将来像を明確にし、企業は人材育成の方向性を共有できます。
キャリアデザイン研修は、社員の成長意欲を引き出すだけでなく、組織全体の生産性向上にも寄与する有効な施策です。
活用方法3.人事制度や人材配置へのアドバイス
キャリアコンサルタントは、社員のキャリア相談だけでなく、人事制度や人材配置の改善にも貢献できます。
面談や研修を通じて得た社員の声やキャリア志向を分析することで、組織全体の課題を把握し、適材適所の配置やジョブローテーションの設計に活かせます。
さらに、昇進・評価制度の改善やキャリアパスの明確化といった施策にもアドバイスを行えるため、社員のモチベーション向上や長期的な定着支援にもつながります。
制度面から社員の成長を支えることは、企業の競争力強化に直結するのです。
活用方法4.ダイバーシティ推進サポート
ダイバーシティ経営を進めるうえで、キャリアコンサルタントは重要な役割を果たします。
性別や国籍、年齢、障がいの有無など、多様なバックグラウンドを持つ社員が活躍するには、一人ひとりのキャリア形成を尊重し支援する仕組みが欠かせません。
キャリアコンサルタントは社員の状況に応じた相談や助言を行い、ライフイベントとキャリアの両立や職場適応のサポートを行います。
これにより、多様な人材が安心して働ける環境が整い、組織の活性化や新しい価値創出につながります。
活用方法5.復職プログラムの設計
出産・育児・介護などのライフイベントや、病気やケガによる休職からの復職を支援する仕組みとして、キャリアコンサルタントは大きな役割を果たします。
社員が復帰後にどのような働き方を望むのかを丁寧にヒアリングし、本人の希望と企業側の人材活用ニーズをすり合わせることで、無理のない復職プランを設計可能です。
また、復帰後のフォロー面談を継続的に行うことで、早期離職を防ぎ、安心して職場に戻れる環境を整備できます。
復職支援は、社員の定着率向上だけでなく、企業の人材確保にも直結する取り組みです。
キャリアコンサルタントの活用事例3選
ここからはキャリアコンサルタントの活用事例を解説していきます。
【IT】株式会社インテージ
情報サービス業の株式会社インテージ(従業員数1,006人)では、社員の中長期的なキャリア形成支援を目的にセルフ・キャリアドックを導入しました。
従来の社内制度は「自己申告」に重きがあり、社員が主体的にキャリアを見直す機会は十分に整っていませんでした。
そこで、モチベーションや自律的キャリア形成の促進、退職予防を課題として捉え、試行的にキャリアコンサルティング面談を実施しました。
対象者は社内制度でキャリア支援が必要と判断された社員のうち希望者15名。
集合研修は実施せず、ガイダンス資料を個別に配布するなど、現場負荷を抑えつつ実施しました。
導入にあたっては、候補者本人への案内前に上司へ意図や所要時間を丁寧に説明し、安心して参加できる環境を整備。
結果、面談の満足度や有効性は100%という高評価を獲得し、「漠然とした思いを具体的に言語化できた」「仕事と人生を整理できた」といった声が多く寄せられました。
当初は「離職を促すのではないか」と懸念する声もありましたが、実施目的を丁寧に共有することで理解を得られました。
現在はキャリア相談窓口の通年運用や健康管理室との連携を開始しており、組織課題のフィードバックや中途入社社員の定着支援など、さらなる活用に広がりを見せています。
【建設】水ing株式会社
建設業(環境エンジニアリング事業)を展開する水ing株式会社(従業員数3,900人)では、従業員構成の大半を占めるミドル層へのキャリア支援を課題としていました。
役職なし管理職の増加や研修機会の減少により、社員が自身のキャリアを振り返る場が不足していたため、50歳前後の社員を対象にキャリア研修を導入しました。
その後、受講者15名に対し外部キャリアコンサルタントによる面談を実施。
実施に際しては、受講者や上司に事前ガイダンスを行い、面談の狙いや意義を共有するなど理解促進に努めました。
結果として、参加者からは「これまでのキャリアを整理し今後を考える良い機会になった」「異なる部署の同世代との交流が刺激になった」といった前向きな声が多く寄せられました。
経営側も、ミドル層が主体的に変革へ取り組む姿勢を持つことが組織活性化の鍵になると評価できたようです。
今後は対象を拡大し、40代や50代全般を対象にセルフ・キャリアドックを継続実施する計画です。
こうした取り組みにより、社員のキャリア自律を支援するとともに、組織変革の推進力として位置づけられています。
【保育業】社会福祉法人和修会
大阪府守口市にある社会福祉法人和修会(従業員数121人、保育業)は、職員がやりがいを持ち、安心して働き続けられる職場環境づくりを目指してセルフ・キャリアドックを導入しました。
保育業界では人材定着が大きな課題となっており、同法人でも職員のモチベーション向上や長期的な就労支援が必要とされていました。
実際の取り組みとしては、各園で中心的役割を担う職員を対象に選び、理事長からのメッセージを含むガイダンスセミナーを実施。
その後、キャリアコンサルティング面談を行い、結果を法人全体で共有しました。
実施の際は、シフト調整や引き継ぎを徹底し、現場に負担をかけない工夫も行っています。
面談を受けた職員からは「仕事もプライベートも含めて話すことで迷いが整理できた」「将来の目標が明確になり前向きになれた」といった声がありました。
経営側も、面談が個人支援にとどまらず、組織課題の把握や職場環境の改善に役立つ点をメリットとして挙げています。
今後も継続することで、職員のキャリア形成と保育現場の安定運営につなげていく方針です。
まとめ
人材の流動化が進むなか、社員のキャリア支援は企業にとって重要な課題です。
キャリアコンサルタントを活用することで、社員は将来を前向きに描けるようになり、離職防止や定着率向上につながります。
さらに、キャリア形成を支援することはモチベーションやスキル発揮を促し、企業全体の成長にも寄与します。
人的資本経営が注目される今、キャリアコンサルタントの活用は企業の持続的成長を支える有効な戦略といえるでしょう。