社員の退職時に、離職票の発行を求められるケースがあります。「離職票」とは、社員の離職を証明する公的な書類です。
離職票の発行は退職にともなう重要な手続きである一方、企業としては、そもそも退職者を減らす努力も欠かせません。
そこで本記事前半では離職票の発行方法、後半では社員が定着する組織作りのポイントを解説します。
速やかな事務手続きで退職者に対して真摯に対応するとともに、残された社員が継続して働きたいと思える魅力的な企業を目指しましょう。
目次
離職票は失業給付金の手続きに使われる書類
離職票の正式名称は「雇用保険被保険者離職票」です。
ハローワークが発行し、所属していた企業を通して退職者に交付されるもので、主に失業給付金の手続きに使われます。
一般的に「離職票」として退職者に交付される書類には、「雇用保険被保険者離職票-1」(以下、離職票-1)「雇用保険被保険者離職票-2」(以下、離職票-2)の2つの様式があります。
「離職票-1」は事業所や退職者の情報、退職者の失業手当の振込先情報などが記載される書類です。
「離職票-2」には、退職理由や離職日以前の賃金支払状況が記載されます。
離職票は、退職者から発行の希望があった場合に企業が手続きを行います。
仮に退職後すぐに転職する、もしくは失業給付金を受給しない場合は発行の必要はありません。
「退職証明書」「離職証明書」との違い
離職票と似た書類に「退職証明書」「離職証明書」があります。
ここでは、それぞれの書類と離職票との違いを解説します。
退職証明書とは
退職証明書とは、退職者に対して企業が「当該社員がたしかに退職した」という事実を証明する書類です。
退職後に国民健康保険・国民年金に加入する際や、転職先から提出を求められた際に使用します。
書類には以下の内容が記載されます。
- 使用期間
- 業務の種類(営業職・技術職など)
- 業務における地位(係長・課長など)
- 賃金
- 退職の事由(自己都合など)
社員からの希望がなければ発行する必要はありませんが、労働基準法では発行する義務が定められているため、社員から希望があった際は遅延なくそれに応じる必要があります。
なお、退職証明書を請求する権利は、労働基準法第115条の規定により退職後2年で時効となります。
そのため、この期間を過ぎると企業は発行義務を負わなくなる点に留意しましょう。
離職証明書とは
離職証明書の正式名称は「雇用保険被保険者離職証明書」であり、離職票の発行を依頼するために企業が作成し、ハローワークに提出する書類です。
離職証明書は3枚つづりの複写式であり、1枚目が事業主控、2枚目がハローワーク提出用、3枚目が退職者に交付する「離職票-2」です。
つまり、企業が離職証明書に記載した内容が、退職者が失業給付金を申請する際に使われる離職票に反映されます。
なお、すでに転職先が決まっていたり、退職者が死亡したりした場はも失業給付の対象外となるため、この場合の離職証明書(失業給付用)の提出は不要となります。
ただし、その場合でも雇用保険の資格喪失届は必要です。
離職票を発行する流れ
企業は、以下のような流れで離職届を発行します。
- 発行の希望と雇用保険加入の有無を確認する
- 企業が離職証明書をハローワークに提出する
- ハローワークから離職票を受け取る
- 社員に離職票を交付する
順に解説します。
1.発行の希望と雇用保険加入の有無を確認する
説明したとおり、失業給付金を受給しない者に対して離職票を発行する必要はありません。
社員から退職の意思を聞いた際には、離職票の発行有無を確認しましょう。
また、そもそも失業給付金は雇用保険に加入していないと受け取れません。手続きを進める前に、社員の雇用保険加入有無も同時に調べる必要があります。
雇用保険加入の条件は1週間当たりの所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合です。
なお、残業で結果的に条件を満たしていても、元々の雇用契約でこれらの条件(週20時間以上の所定労働、31日以上の雇用見込み)を満たさない場合は対象外です。
雇用保険の加入状況は、社員の給与明細から雇用保険料が天引きされているか、もしくは入社時に「雇用保険被保険者証」と「資格取得確認等通知書」をもらっているかで判断できます。
2.企業が離職証明書をハローワークに提出する
社員が離職したら「雇用保険の資格喪失日(退職日の翌日)の翌日から10日以内」にハローワークに離職証明書を提出します。
失業保険の申請が遅れるとその分、失業給付金の受給開始時期も遅れる可能性があるため、早めに手続きしましょう。
3.ハローワークから離職票を受け取る
ハローワークに離職証明書を提出後、数日以内に「離職票-1」「被保険者離職証明書の事業所控」「離職票-2」が企業に交付されます。
このステップでは企業とハローワーク間でやりとりが進むため、退職者が行う手続きはありません。
4.社員に離職票を交付する
その後、企業は発行された「離職票-1」と「離職票-2」を退職者に郵送または手渡します。
このような流れであるため、退職者が離職票を受け取るのは退職後数週間から1か月後程度かかるのが一般的です。
退職者は到着した離職票とその他必要な書類を、居住地を管轄するハローワークに提出し、失業給付金の受給手続きを行います。
離職票(離職証明書)の書き方
人事総務担当者は書類を作成する際に、退職者に関する必要な情報を書類に正確に記載しなければなりません。
ここでは、「離職票-2」発行の前段階となる離職証明書の記載方法を解説します。
出典:ハローワーク
記載箇所 | 記載事項 |
1.被保険者番号 | 退職者の雇用保険被保険者番号 |
2.事業所番号 | 企業の事業所番号。「雇用保険適用事業所設置届 事業主控」で確認が可能 |
3.離職者氏名 | 退職者の氏名 |
4.離職年月日 | 退職者の離職日。資格喪失届に記載した離職年月日と同じ日付を記入 |
5.事業所名・所在地・電話番号 | 自社の事業所名・住所・電話番号 |
6.離職者の住所または居所 | 退職者の退職日時点での住所・電話番号 |
7.離職理由欄 | 該当する「離職区分」を選択のうえ、「具体的事情記載欄」にその内容を記載(「自己都合による退職」など) |
8.被保険者期間算定対象期間 | 離職日からさかのぼり、賃金支払基礎日数11日以上(または労働時間数が80時間以上)ある月が12か月以上含まれる時点までの被保険者期間
「一般被保険者・高年齢被保険者」であればA欄、「短期雇用特例被保険者」はB欄に記載 |
9.被保険者期間算定対象期間における賃金支払基礎日数 | 8のうち、賃金支払いの基礎となった日数を記載 |
10.賃金支払対象期間 | 賃金の支払いを行った期間を記載 |
11.賃金支払対象期間における基礎日数 | ⑩に対して有給休暇日も含め(無休の休職期間は除く)、賃金の支払いを行った期間 |
12.賃金額 | 月給制はA欄、日給制・時給制・出来高制はB欄に賃金額を記載。基本給の他に毎月支払われる各種手当も含まれる。退職金や傷病手当金は除外 |
13.備考 | 未払い賃金や欠勤控除や金額、締め日の変更など |
14.賃金に関する特記事項 | 3か月以内の期間ごとに支払われる賃金がある場合、賃金の支払日や名称、支給額。賞与は該当しない |
なお、作成時には必ず最新情報と併せてご確認ください。
参考:ハローワークインターネットサービス – 雇用保険の具体的な手続き
離職票の発行に関するよくある質問
ここでは、離職票の発行に関するよくある質問を紹介します。
Q.離職票は再発行できる?
社員が離職票をなくしてしまった場合、再発行が可能です。
離職票の初回発行は企業を通して行われますが、再発行の場合は退職者本人が手続きできます。
手続きは原則として退職した企業を管轄しているハローワークの窓口、もしくは行政手続きの電子申請ができるポータルサイト「e-Gov」で行います。
Q.離職票を送付したが「届かない」と言われたら?
ハローワークから交付された離職票を退職者に郵送したものの「届かない」と問い合わせを受けるケースがあります。
このような際には、あて所不明や料金不足で郵便物が企業に返送されていないかを確認しましょう。
また、退職者は実家や転職先の近場に引越している可能性もあります。
その場合は転居届を郵便局に提出しているか、転居前の住所に届いていないかを確認してもらうとよいでしょう。
社員が退職を決意する個人的理由トップ3
離職票が必要となるのは多くの場合、社員が次の就職先を決めずに退職し、失業給付を申請するときです。
企業にとって社員の退職は大きな損失であり、その未然防止のためには退職理由の傾向を把握することが第一歩です。
ここでは厚生労働省の調査から、個人的理由の上位を紹介します。
1.職場の人間関係が好ましくなかった
日々の業務には、難解なマニュアルの理解や取引先との折衝など、避けられない負荷がともないます。
そうした状況下で、さらに厳しい口調での叱責や不公平な業務の押し付けなどがあれば、職場の人間関係は悪化しやすくなるでしょう。
すると社員は過度なストレスから解消されたいと思い、離職を考えてしまいます。
2.労働時間、休日等の労働条件が悪かった
仕事を継続して行うには、オンとオフにメリハリを付けたうえでの適度な休息が欠かせません。
社員が退職を決意する理由のひとつに、残業が過多である、休日出勤が多いなどの労働条件の悪さがあります。
仕事をするための体力を回復しきれないまま出勤を繰り返すことになり、心身の不調を感じた結果、職場から離れなければと考えてしまうのです。
3.給料等収入が少なかった
人は自分の頑張りと得られる対価とが釣り合わなければ、やりきれない気持ちになってしまいます。
仮に営業成績を誰よりも上げた、もしくは苦労してプロジェクトを成功させたなどの実績を出しても企業に評価されず、給与が上がらなければやる気がなくなってしまうのも無理はありません。
「自分の頑張りが、より正当に評価される企業が他にあるのではないか」と考え始めると、現在の企業への帰属意識が薄れ、退職に至る場合があります。
社員が辞めない職場作りのポイント
紹介したような退職理由を踏まえ、社員が定着する魅力的な職場環境を構築するにはどうすればよいのでしょうか。
ここからは、そのための具体的なポイントを解説します。
1.理不尽な指導をなくす
部下が上司に抱く「怖さ」は2種類あります。
ひとつは、「言い訳が通じない」「手を抜いたら見透かされる」など、基準が明確で、理不尽な部分がない「良い怖さ」です。
一方で「悪い怖さ」は「何度言ってもできないなど、頭が悪い」「どういう教育を受けてきたの?」といった精神的に追い詰められる怖さです。
後者のような指導が横行すると、部下は精神的に追い詰められ、結果として離職を考えるようになります。
そのため、理不尽な指導のない組織文化の醸成が不可欠です。
例えば上司のマネジメントの姿勢も評価対象に入れる、あるいは日頃から指導方針として「悪い怖さ」を許さないスタンスを浸透させれば、パワハラまがいな指導を防げます。
2.プロセスで評価しない
社員が辞める原因として、労働時間の長さや休日出勤などが挙げられます。
仮に「休日出勤や残業してまで頑張った」といったプロセスのみを過度に重視する評価制度を採用している場合、長時間労働を助長する一因となり得ます。
これを防ぐため、成果を正当に評価しつつ、効率的な働き方も奨励するバランスの取れた評価制度を構築しましょう。
すると、時間内に効率良く業務を終えることを良しとする文化が醸成され、過重労働で社員が疲弊する事態を避けられます。
3.競合他社に劣らない給与にする
企業に所属することで社員にとって成長の機会があり、やりがいを感じたとしても、給与が同業他社と比べて低かった場合、転職を考えるきっかけになってしまいます。
そのため、給与水準を定期的に競合他社と比較し、著しく見劣りしないための調整が必要です。
それと同時に、目標を達成した場合はきちんと評価して給与や役職に反映させることで、長期にわたって企業に所属してもらいやすくなります。
正確な事務処理と組織の改善でエンゲージメントを高めよう
本記事では、離職票の適切な発行手続きと、社員が定着するための組織作りについて解説しました。
退職にともなう正確な事務処理と並行し、退職の根本原因を探り職場環境の改善に継続して取り組むことが、企業の持続的な成長には不可欠です。
給与体系、評価制度、そして日々の指導方法を見直し、社員のエンゲージメントと帰属意識を高める組織を目指しましょう。