組織を運営していると、社員が退職届を提出して退職の意向を示す事態は避けられません。
社員がひとり退職するだけでも、残る社員の業務負担増大、士気の低下をまねくケースがあるため、日頃から定着をうながす組織運営が重要です。
本記事では、退職届を提出された際に企業が行わなければならないことや、退職者を生まないためのマネジメントを解説します。
退職プロセスの適切な管理と、社員を定着させる仕組みの構築に努めましょう。
目次
退職届の内容とその他の書類との違い
ここでは退職届とは何かと、関連する書類との違いを解説します。
退職届とは退職意思を届け出るための書類
退職届とは退職が確定したのち、企業にその旨を正式に届け出る書類を指します。
法律上、退職は口頭で合意した場合でも成立するため、従業員は必ずしも退職届を提出する必要はありません。
しかし、多くの企業では「退職の意思を伝えた証拠」として、退職届の提出を求めています。
「退職届」「退職願」「辞表」との違い
退職届と似た書類に「退職願」と「辞表」があります。それぞれの違いは以下のとおりです。
退職届 | 退職が確定したのち、その意思を最終的に示すために提出する書類。一般的には、退職願で退職日を調整したあと、直属の上司へ提出する |
退職願 | 企業に退職を願い出る際に提出する書類。退職の承認を求める意味合いを持つ。書面ではなく口頭での伝達も可能 |
辞表 | 役員や公務員などが辞職する際に提出する書類。内容は退職届に相当する。
民間の一般社員が提出することはない |
一般的に、民間企業の社員が企業との合意に基づき退職する際に提出する書類が、退職届です。
退職届・封筒の基本的なフォーマット
退職届に関して、専用のフォーマットを設けていない企業もあります。
その場合、一般的な書き方を守っていれば問題ありません。
ここでは、企業が退職届を受理する際に確認すべき一般的な記載事項を解説します。
退職届のフォーマット
退職届の書面は、主に以下の項目が記載されているかを確認します。
- 用紙サイズ:B5またはA4。無地のコピー用紙やビジネス用便箋が一般的
- 退職理由:「一身上の都合により」など、自己都合退職を示す一般的な記載であるか
- 退職日:事前に合意した退職日が明記されているか
- 退職意思:「退職いたします」など、明確な退職の意思表示がなされているか
- 届出年月日:退職届の提出日が記載されているか
- 所属・氏名:所属部署、退職者氏名が正しく記載され、捺印があるか(浸透印は避ける)
- 宛名:代表取締役社長が一般的。敬称は「殿」
なお、手書きではなくパソコンで作成された退職届を受理することは問題ありません。
封筒のフォーマット
封筒は一般的に、以下の点を確認して受理します。
- 種類:白の無地封筒が用いられているか
- 表面の記載:「退職届」と明記されているか
- 裏面:退職者の所属部署と氏名が記載されているか
封筒については、以下の点が守られているかを確認しましょう。
記載には黒のボールペンや万年筆の使用が推奨されています。
退職届を出された際に企業が行うべきこと
社員が退職する際には、企業が実施すべき手続きや対応が多く存在します。
ここでは主に人事部が中心となって企業が対応することを見ていきましょう。
引き継ぎを依頼する
組織を継続して運営していくためには、退職者が抱えている業務を代わりの社員に引き継いでもらわなければなりません。
退職までのスケジュールを明確にし、業務の引き継ぎを求めましょう。
引き継ぎマニュアルは後任者が理解しやすいよう、退職者に文章での作成を依頼します。
特に顧客や取引先との取引の進捗状況や社内システムの操作方法などは、詳細な引き継ぎが必要です。
重要または複雑な業務については、直接的な引き継ぎ期間や質疑応答の機会を設けると、後任者の理解が深まります。
管理職は引き継ぎの全体像と進捗を確認し、円滑な業務移行をうながしましょう。
貸与品・健康保険証などを回収する
仕事の遂行のために貸与している品は、社員の退職に伴って確実に回収する必要があります。
社員証やパソコン、スマートフォン、制服、鍵などはリストアップのうえ、返却を依頼しましょう。
加えて健康保険証も、資格喪失手続き後速やかに返却してもらう必要があります。
社会保険の喪失手続きをする
社員が退職すると、健康保険および厚生年金保険の被保険者資格を喪失するため、企業は速やかにこの手続きを行わなければなりません。
具体的には、退職日の翌日(資格喪失日)から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所に提出します。
ただし、組合健保(協会けんぽ以外の健康保険組合)に加入している場合は、「健康保険被保険者資格喪失届」は健康保険組合に提出が必要です。
退職者には、退職後の健康保険の任意継続制度や国民健康保険への加入についても情報提供すると親切でしょう。
雇用保険の喪失手続きをする
社員の退職に伴い、企業は雇用保険の被保険者資格喪失手続きも行う必要があります。
この手続きは、社員の退職日の翌々日から10日以内に、管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出して行います。
特に重要なのが、退職者が失業給付金の受給を希望する場合の手続きです。
この場合、企業は「雇用保険被保険者離職証明書」も併せて作成し、ハローワークに提出しなければなりません。
離職証明書には、退職理由や直近の賃金支払い状況などを正確に記載します。
ハローワークで内容が確認されると、企業経由で退職者本人に離職票が交付されます。
退職者がすぐに次の転職先で就労する場合は、離職証明書の提出は原則不要ですが、本人の意思を必ず確認しましょう。
手続きの遅延は、退職者の失業給付受給に影響を与えるため、期限内の対応が不可欠です。
税金関係の手続きをする
社員が退職する際には、所得税および住民税に関する手続きも企業側で対応が必要です。
所得税の手続き
所得税については、年の途中で退職した社員の年末調整は原則として行いません。
企業は退職日までの給与や源泉徴収税額を計算し、「給与所得の源泉徴収票」を作成したうえで、退職後1か月以内に本人へ交付する義務があります。
なお、源泉徴収票は退職者が自身で確定申告を行う際や、転職先で年末調整を受ける際に必要です。
住民税の手続き
住民税について企業が行うのは、特別徴収から普通徴収への切り替え手続き、または未徴収税額の一括徴収です。
企業は、退職者が居住する市区町村へ「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出します。
退職時期が1月1日〜5月31日の場合は、原則として最後の給与から住民税を一括徴収し、それ以外の時期は本人の希望に応じて一括徴収または普通徴収に切り替えます。
機密情報を回収する
業務を遂行していると、顧客や取引先などの機密情報を社員が個別に保管している場合があります。
不正利用や情報漏洩を避けるため、社員が保管している書類やデータなどは返却を求めましょう。
また、取引先との進捗状況が後任に引き継がれないことにより損失が発生する可能性もあります。
そのため、機密情報を含む業務関連資料は、確実に後任者へ引き継がれるよう徹底することも重要です。
必要に応じて秘密保持義務を明記した誓約書を交わすことも、情報漏洩を回避するためのひとつの方法です。
必要な書類を発行する
企業は社員が退職した際、以下のような書類を郵送または手渡す義務があります。
- 離職票(ハローワークにて発行)
- 退職証明書
- 源泉徴収票
- 健康保険資格喪失証明書
雇用保険被保険者証や年金手帳は原則本人が保管しますが、万が一企業で預かっている場合には各種書類とともに返却します。
書類ごとに発行元や関連機関への提出期限などが異なるため、それぞれ確認のうえ対応しましょう。
社員が退職しない組織作りのポイント
社員が退職すると退職手続きや採用、社内の人員調整などあらゆる業務が発生します。
各社員の業務負担が増加し、結果として組織全体の目標達成が遅れる可能性もあるでしょう。
このような組織への影響を抑え、社員の定着を図るための組織作りのポイントを解説します。
マイナス評価を取り入れる
人は自分だけが損をしていると感じてしまうと、その組織に魅力を感じなくなってしまいます。
その典型例が、業務時間中ネットサーフィンをしている、延々と無駄話をしているなどの、働かない社員がいることです。
成果や貢献度に関わらず一定の給与が保証されることで、一部社員に緊張感が欠ける状況を防ぐため、マイナス評価の導入を検討しましょう。
一般的には目標未達でも減点0とする企業が多くみられますが、未達の場合には−1〜−4点などの評価を行うことで、貢献の低い社員への適切なフィードバックになります。
同時に、他の社員の公平感を高め、組織全体の健全な競争意識をうながす効果も期待できます。
ただし、マイナス評価の導入には、評価基準の明確化と公正な運用が不可欠です。
抽象的な指示をなくす
人はそれぞれ異なる価値観を持つため、同じ指示でも解釈が異なり、期待した成果物とずれが生じることがあります。
「なるべく早めに提出してほしい」「よい感じに仕上げてほしい」などの抽象的な依頼は現場の混乱をまねき、部下が業務遂行に迷い、遅延や手戻りを生む原因となります。
それを防ぐため、現場では抽象的な指示をなくしましょう。
指示は誰が聞いても解釈が同じになるように、例えば「書類は木曜の16時までにB方式で提出」と指示すれば、行うべきことが明確になります。
すると部下の無駄な迷いがなくなり、業務の本質的な部分に時間を割けるようになります。
個人の要望を過度に尊重しない
社員のストレスを軽減するために、個々人の「リモートワークを増やしたい」「自由な服装で働きたい」といった要望を叶えようとする企業があります。
しかし、個人のルールを過度に尊重すると共通ルールが希薄になります。結果として、一部の社員の所属意識低下につながる可能性も否定できません。
個人の要望に応えることは重要ですが、組織全体の公平性や規律を損なわない範囲でのバランス感覚が求められます。
成長を実感できる仕事を与える
社員が所属し続けたいと思う企業にするためには、給与や福利厚生を整えるだけでなく、成長を実感できることが重要です。
単純作業ばかりで負荷が低い仕事ばかりしていると成長を実感できず、離職率が高まります。
それを防ぐため、社員が能力に応じた目標を設定し、その達成を通じて成長を実感できるように支援することが大切です。
ただし、現状の能力とかけ離れた困難すぎる仕事は、過度なストレスとなり成長を妨げかねません。
適切な負荷の仕事を与えることで、社員の充実感と企業への所属意識を高められます。
評価制度を明確にする
社員が目標を達成するために行動量を上げて頑張っていたとしても、その頑張りが正当に評価されなければ、企業に対して不満や不信感を抱いてしまいます。
社員の頑張りを正当に評価して給与や役職に反映するため、評価は評価者の主観や感情に左右される曖昧なものではなく、明確な基準のもと行いましょう。
達成度をベースに比率を定めて評価点を決定すれば、部下は結果と自身の行動・スキルを結びつけてとらえやすくなります。
退職届に関するよくある質問
ここでは、退職届に関するよくある疑問を紹介します。
Q.退職届を受理しないことはできるのか
労働者には退職の自由が認められているため、社員の退職届の受理を拒否することはできません。
社員が退職の意向を表明してから2週間が経過すれば雇用契約は終了します。
Q.退職時期を社員に交渉することはできるのか
引き継ぎや既存業務の進捗を考えて、社員に退職時期を遅らせてほしいと考える時もあるかもしれません。
しかし、退職の自由は民法(民法第627条)で保障されている労働者の権利です。
「可能であれば」といった形で社員に相談を持ちかけることは可能ですが、強制的に退職時期を延ばせない点には注意しましょう。
Q.一度出した退職届の取り下げには応じる必要があるのか
原則として企業が退職届を承諾したあとは、取り下げができません。
ただし、企業が承諾すれば撤回は可能です。
後任者の決定状況といった社内事情などを考慮し、企業ごとに判断することになります。
日頃から離職対策をして人材の流出を防ごう
退職届が提出された場合、多くは社員の意思が固まっており、その意思を覆して引き止めることは難しい状況といえるでしょう。
万が一退職が発生した場合でも、円滑な諸手続きを進め、退職者へ真摯に対応することは、残る社員の企業に対する信頼を維持するうえでも重要です。
社員は評価への不公平感や成長機会の不足による焦り、あるいは人間関係の問題など、さまざまな理由から退職を検討します。
だからこそ、日頃のマネジメントを見直し改善することで、社員が抱える可能性のある不満や不安を解消し、退職を未然に防ぐ努力が大切なのです。
貴重な人材の流出を防ぎ、組織全体の活力を維持しましょう。