1990年代に日本で導入が進められたBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)が、今再注目を集めています。
BPRは企業にとって大きな改革となるため、ポイントを押さえて慎重に進めていかなければ組織の混乱を招くことも。
BPR推進のための基本や成功のヒントと課題、さらにBPR推進で成功を収めている企業導入事例を紹介します。
目次
BPRが再注目を集める背景
BPRとはビジネスプロセスリエンジニアリングの頭文字を取ったもの。
全社をあげて組織の在り方や業務フロー、職務、システムなどをプロセスから見直して再構築し、業務改革することです。
BPRの概念は1980年代からありましたが、広く知られるようになったのは90年代です。
日本で広まったのはバブル崩壊後の91~93年頃で、企業の再建のために導入する企業が多くありました。
しかし大規模なリストラを促進するなどデメリットが大きく取り沙汰され、成功したとは言い難い状況でした。
しかし近年、BPRを支援するツールが世界的に市場を拡大しているなど再注目されています。
BPRが再注目を集めている背景を解説します。
労働人口減少による人手不足
パーソル総合研究所が2019年に公開した「労働市場の未来推計 2030」によると、少子高齢化の影響で2030年には644万人の労働者不足が予想されます。
将来的にますます労働人口の減少が進むことが考えられるため、これまでの企業活動維持のためには、組織の在り方や業務フロー、社内制度などを抜本的に見直す必要があるでしょう。
企業は希少な労働人口を効率良く活用しなければならないため、BPRが再注目されるようになったのです。
DXの推進
2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を公開したことで、企業はDXを進める必要に迫られました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してビジネスや生活スタイルを変革することを指します。
DXによる抜本的な変革を行うには、これまでの業務プロセスや企業文化を見直すことが必要です。
そのため、業務プロセスを見直すBPRに注目が集まっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義を簡単に解説!進め方や導入後に実現できることも紹介 | マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム
BPR推進のための7つの基本姿勢
BPRの実行は、大きな改革が必要になる場合がほとんどです。
判断に迷うことも多く社内で混乱が起こることが予想されるため、どのような姿勢でのぞむか明確にしておく必要があります。
株式会社日本能率協会コンサルティングでは、BPRにおける7つの基本姿勢を推奨しています。
BPR実践に向けて、7つの基本姿勢を念頭においておきましょう。
1.白紙姿勢(ゼロ・リセット)
一度既存のビジネスプロセスをすべてリセットして、白紙に戻します。
顧客が誰なのか存在を認識して、顧客満足につながる価値は何なのかを明確にして、顧客起点で業務プロセスを再構築します。
その上で、新たなビジネスプロセスを創出しましょう。
2.経営力と現場力の連携
経営トップが強力なリーダーシップを発揮して全体を見渡し、トップダウン式に改革を行います。
ミドル層は経営トップと密な連携を図り、改革案を全従業員に伝え浸透させましょう。
3.段階的成果出し
短期、長期の目標を立て段階的に成果を実現し、最終的なゴールへつなげます。現場での成果を経営成果に結びつけることが大切です。
具体的には、オペレーションの成果をマネジメントやマーケティングにつなげ、最終的に事業創出へと導くイメージです。
4.ITの実際的活用
必要に応じてITを活用しましょう。トップ・ライン・スタッフのそれぞれが、BPR後の姿を描きながらITを活用します。
ただし、IT導入が目標にならないよう注意が必要です。
5.業務面・情報面の基盤整備
業務ルールやフローの標準化、データやシステムを全社で共通化します。
さらに、全社共通のデータシステムを整備して、全社で一貫したシステムを構築することが求められます。
6.人材変革の重視
経営陣はBPR後の自らの能力が不足していないか、求められる役割は何かを見直す必要があります。
加えてBPR後に必要な人材像を明確にして、課題解決を推進できる人材を育成する必要があります。
7.業務改革の徹底実施
BPRは徹底的に行うことが重要です。
BPR前後でどれほどの成果が上がったのか、パフォーマンスの効果測定ができる仕組みも準備しておいてください。
BPRの推進を成功に導くためのヒント
BPRは、実施によって生産性向上や業務効率化が達成できれば成功といえるでしょう。
ただしBPRは、やり方によっては組織を混乱させて逆効果を生んでしまうことも。
BPRを成功させるためのポイントを解説します。
ビジョン・ゴールを明確化する
BPRのゴールやビジョンを明確にしないまま進めると、改革の推進力が生まれません。
計画段階でゴールやビジョンを明確にしないと進むべき方向性がぶれてしまい、BPR実現は難しくなるでしょう。
明確な方向性を従業員に通達することで、全社的に改革に取り組めます。
ビジョンやゴールを明確にして、目標を定めるところに時間をかけて重きをおいてください。
全社で連携して取り組む
BPR推進はトップの経営陣だけで行うものではなく、企業全体で取り組むのが重要です。
まずは、末端の従業員までBPRの必要性や目的を浸透させる必要があります。
これによって、既存のフローや制度の変更に対する抵抗感を減らせるでしょう。
またBPR推進の協議の場に現場の人材を参加させると、当事者意識が強くなり効果的です。
現場の課題や現状を共有しやすくなる上、当事者意識を持った人材が現場に生まれると、主体的な取り組みやアイデアが生まれBPRを活性化させられます。
スモールステップで進めスピード感を重視する
BPRによる新しいシステムは、スピード感がポイントです。改革には期間を設けて、期間内に目的達成できるよう意識します。
一度にすべてを改善するのは難しいため、最初に短期目標を設定して達成へ導き、中期目標を目指すというスモールステップで進めるのが良いでしょう。
これを継続することで、長期目標達成を目指します。成果を出すためにBPRの成功事例を共有するのもおすすめです。
顧客満足度を重視する
経営利益を上げるためにBPRでコスト削減を目的にするのも大切ですが、顧客満足度は忘れてはいけません。
顧客目線の改革は、顧客からの信頼を勝ち取れるだけでなく従業員の理解を得やすいといえます。
BPR実施における懸念事項
BPR実施にはコストがかかる、従業員の負担が大きいなど懸念点もあります。
BPR実施における懸念事項を詳しく見ていきましょう。
時間と費用がかかる
BPRは企業全体の抜本的な改革のため、実施には大きな工数が必要です。
万が一BPRが中途半端になれば、社内に大きな混乱だけが残ってしまうでしょう。
また、新しいシステムの導入やシステム改修、外部への業務委託などが必要になることもあり、費用もかかります。
BPRは、費用対効果を考えて検討しながら進めることが重要です。
従業員の反発が生まれる場合がある
BPRは既存の業務フローや組織体制が大きく変わる可能性が高いため、従業員の負担は大きくなりがちです。
従業員のなかには変化を嫌がったり、新しいシステムをうまく使えず不満をつのらせたりする人が出ることも考えられます。
改革や経営陣に対して反発を覚える社員もいるかもしれません。
実施前にきちんと従業員に重要性と目的を周知し、理解と協力を得た上で進めましょう。
BPRの成功事例4選
BPRに取り組んで成果を上げている企業は少なくありません。
民間企業はもちろん、自治体の取り組みも多いのが特徴です。BPR導入の成功事例を紹介します。
経理業務を集約化|株式会社LIXIL
トイレやキッチンなど水回りと窓やインテリア、エクステリアなどの製品を提供する株式会社LIXILでは、BPRによって経理業務をシェアードサービス化させ、大幅な業務効率化に成功しています。
株式会社LIXILは、2011年から急速に進んだグローバル化によって海外にある子会社の経理や決算業務のコントロールが難しくなっていました。
加えて、本社から十分なガバナンスが効かせられないのも課題でした。
そこでグローバルでの経理オペレーティングモデルを構築し、すべての拠点の経理業務を中国・アジア・北中米の3カ所に集約。
デジタル技術を活用した自動化を推進して業務効率化とガバナンスの強化を叶えています。
業務プロセスを改革|コダック
世界的な写真用品メーカーであるコダックは、BPRによって業務プロセスを改革し、コスト削減を成功させました。
コダックは競合他社に使い捨てカメラの開発面で後れをとっていましたが、対抗商品を開発するには約70週間かかると考えられていました。
そこでコダックでは製品設計に関するデータベースを導入。
統合設計データベースを共有して設計作業を同時並行できるようにしたことで、生産における業務プロセスを約半分に短縮しています。
業務の可視化・定量化を実施|札幌市
北海道札幌市は、民間企業と連携しBPRの実施によって生産性向上に成功しています。
札幌市では労働力不足が課題であったため、全業務のプロセスをタスクレベルに分解してそれぞれのタスクの業務量を調査しました。
さらに、タスク量と人的コストを可視化・定量化。
タスク量とそれにかかる人件費を算出することで、プロセスの効率化や本当に必要なタスクを客観的に判断できるようになり、無駄なコストを削減し業務を効率化できました。
札幌市はこの経験を活かし、他の自治体にもマニュアルやフローなどを共有しています。
働き方改革に貢献|静岡県
静岡県では労働力不足により時間外勤務が常態化していたため、働き方改革の一環としてBPRを推進しています。
例えば全庁のデジタル化を進めるなかで、紙文書のデジタル化を集中的に実施するスマートワークセンターを新設し、各部署で行っていた紙の供覧文書のデジタル化を集約して業務時間削減と作業効率化を実現しました。
さらにテレワーク推進のために、「在宅勤務のルール」を作成して職員のPCのモバイル化を進めています。
BPRの成果は定量的な数値としても現れていて、2020年度は職員の勤務時間が約2,620時間も削減されました。
全社でBPRに取り組み企業利益の拡大を目指そう
BPRを成功させるには、全社をあげた業務改革への取り組みが求められます。
改革の推進力を高めるために、従業員へBPRの重要性を理解してもらい明確なゴールを設定しましょう。
BPR成功事例も参考にしながら、企業利益の拡大を目指してください。