人事やマネージャーとして仕事していると、従業員から「退職したい」という相談を受けることがあります。
従業員の意思を尊重したい一方で、実際に退職されると自社に大きなダメージがあるのも事実です。
その際に、退職希望者を引き止める「カウンターオファー」を実施することもあるでしょう。
本記事では、人事やマネージャーの方に向けてカウンターオファーについて解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
カウンターオファーとは?【退職を防ぐ】
カウンターオファーは、退職希望者を引き止めるための具体的な提案のことを指します。
元々、カウンターオファーは貿易や不動産取引の際に用いられていた言葉です。
ただし近年は「退職・離職を引き止める」という意味で用いられることが増えています。
具体的には、退職希望者に対して、昇給・希望部署への異動などの待遇改善を提示することが多いようです。
カウンターオファーの成功率
中途採用支援サイト『エン 人事のミカタ』が実施した「カウンターオファーに関する調査」によると、65%の企業が、過去にカウンターオファーを実施したことがあるそうです。
また、カウンターオファーの成功率については、約6割の企業が「成功率は20%以下」と回答したそうです。
この調査を見るに、ほとんどの企業でカウンターオファーは上手くいかないようです。
あくまでも「もしかしたら……」くらいの感覚でカウンターオファーを実施するのがいいかもしれません。
企業がカウンターオファーを提示する3つの理由
企業がカウンターオファーを提示する理由として、以下の3つが考えられます。
- 優秀な人材を留めておきたいから
- 業務内容が属人化してしまっているから
- 採用コストを抑えたいから
それぞれ詳しく解説していきます。
理由①:優秀な人材を留めておきたいから
企業がカウンターオファーを提示する理由として、まず挙げられるのが「優秀な人材の確保」です。
『エン 人事のミカタ』の調査によると、カウンターオファーを実施した理由のトップが「退職意向の社員が優秀(72%)」でした。
優秀な人材は、そう簡単に見つけることができません。
また、ゼロから育成するのも難しいです。優秀な人材を手放すのは、自社にとって大きな損失だと言えます。
そのうえ、優秀な人材は上昇志向が強いため、職場をどんどん変えていく傾向にあります。
その結果、優秀であればあるほど退職・離職する傾向にあるのかもしれません。
理由②:業務内容が属人化してしまっているから
企業がカウンターオファーを提示する理由として、業務内容が属人化してしまっていることが挙げられます。
属人化とは、特定の従業員が担当している業務の実施手順が、当人以外わからなくなっている状態のことを指します。
具体例としては、社内のITシステム担当が挙げられるでしょう。
社内のITシステムを特定の従業員しか管理していなかった場合、その従業員が抜けた場合に、ITシステムを管理できる人が誰もいなくなってしまいます。
そのため企業としては、属人化してしまった業務内容を担当している従業員を手放したくないのです。
理由③:採用コストを抑えたいから
企業がカウンターオファーを提示する理由として、採用コストの削減が挙げられます。
株式会社リクルートの「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用の平均コストは93万6,000円、中途採用の103万3,000円とのことです。
そのため、もし仮にカウンターオファーが成功すれば「採用コスト100万円削減できる」という見方ができます。
人事としては「採用コストを抑えたい」というのが、カウンターオファーの理由の本音かもしれません。
カウンターオファーの典型的な4つの交渉内容
カウンターオファーにおける典型的な交渉内容は以下の4つです。
- 昇給
- 昇進
- 配置転換
- 雇用形態の変更
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①:昇給
従業員にとって昇給は、もっともわかりやすい条件です。
従業員が納得できる金額を提示できれば、カウンターオファーが成功する可能性があります。
一方で従業員が、報酬ではなく職場環境に対して問題意識を抱えている場合、昇給が魅力的な条件にならない可能性があります。
そのうえ、1人の従業員を昇給することで、そのしわ寄せが他の従業員にいく可能性もあるので注意が必要です。
②:昇進
昇進も、従業員にとってわかりやすい条件です。
昇給とは異なり、上昇志向の高い従業員や、裁量権で問題を抱えている従業員を取り囲める可能性があります。
ただし、退職希望者を昇進させるということは、そのためのポストを空ける必要があるということです。
組織構造全体を見直す必要が出てくるかもしれません。
③:配置転換
職場環境や人間関係で問題を抱えている退職希望者の場合は、他部署に転属してもらう配置転換が、カウンターオファーとして効果的です。
厚生労働省が発表した「令和4年雇用動向調査結果」によると、男性は8.3%、女性は10.4%が「職場の人間関係が好ましくなかった」を理由に離職しているそうです。
退職希望者に対して退職理由をしっかりヒアリングし、人間関係に問題がありそうなのであれば、配置転換を提示するといいでしょう。
④:雇用形態の変更
退職希望者が派遣社員・パートなのであれば、正社員雇用を条件に提示するのもいいでしょう。
実際、派遣社員やパートの中には「安定して働きたい」というキャリアプランを抱えている人が多くいます。
また、育児や介護を理由に退職するのであれば、フレキシブルな働き方を提案できるとベターです。
その際は、労働法や雇用契約に注意して、法的リスクを避けるようにしましょう。
カウンターオファーを成功させるコツ3選
カウンターオファーを成功させるコツは以下の3つです。
- 退職・転職理由を聞く
- 交渉内容を書面に残す
- 情報を漏らさないようにする
それぞれ詳しく解説していきます。
コツ①:退職・転職理由を聞く
カウンターオファーを実施する前に、退職・転職理由をしっかりヒアリングするのがいいでしょう。
退職希望者の大半が、企業に対して何かしらの不満を抱いています。
その不満さえわかれば、魅力的な条件を提示できる可能性があります。
転職・退職の一般的な理由は、キャリア、報酬、福利厚生、ワークライフバランス、人間関係です。
先ほど紹介した昇給・昇進・配置転換・雇用形態の変更で、十分に対応できます。
カウンターオファーを実施する際は、まず退職・転職理由をヒアリングするようにしましょう。
コツ②:交渉内容を書面に残す
カウンターオファーを実施する際は、交渉内容を書面に残すのが良さそうです。
交渉内容を書面で残しておけば、誤解を防いだり、信用を得られたりする可能性があります。
逆に言うと、口約束で交渉するのは避けた方がいいでしょう。
もしトラブルになった場合に、もっと大きなコストを支払うはめになってしまいます。
なお、カウンターオファーについては、決められた書式が特に存在しません。
また、交渉内容の改ざんを防ぐためにも、紙媒体だけでなく、メール、チャット、PDFなどの電子媒体も用いるのがいいでしょう。
コツ③:情報を漏らさないようにする
カウンターオファーを実施する際は、その情報を社内に漏らさないようにするのが大切です。
もし「退職希望を出せば給料が増えるかもしれない」と社内で噂になってしまうと、昇給目当てで退職希望を出す従業員が出る可能性があります。
また「なんであの人だけ……」という形で、人間関係の悪化やモチベーションの低下を招いてしまうかもしれません。
カウンターオファーの情報は、当人だけに留めておいた方が良さそうです。
カウンターオファーをせずに離職を防ぐ方法5選
カウンターオファーをせずに従業員の離職を防ぐ方法は以下の5つです。
- 評価制度を改善する
- 組織内のコミュニケーションを活性化させる
- キャリアパスを提示する
- 実力主義の風土を作る
- 職場環境を改善する
それぞれ詳しく解説していきます。
方法①:評価制度を改善する
まずは評価制度を改善しましょう。
「人材評価が不公平」という理由で退職を希望する人が、一定数存在すると考えられるからです。
従業員に信用してもらえる評価制度を構築するには、まずは明確な評価基準を設ける必要があります。
そして、その評価基準を可能な限りオープンにするのが望ましいです。
また、どれだけ公平な評価制度を構築できたとしても、その評価内容が昇給・昇進に反映されないのであれば意味がありません。
評価制度と報酬をしっかり結びつけて、従業員のモチベーションを向上させるようにする必要があります。
方法②:組織内のコミュニケーションを活性化させる
普段から組織内のコミュニケーションを活性化させるのも、離職を防ぐ方法の1つとして挙げられます。
普段からコミュニケーションを取ることで、退職希望を出す前に、職場環境・人間関係に対する不満を抽出できる可能性があるからです。
それらに対して、すぐに対処できれば、従業員からの信用も得られます。
また、組織内のコミュニケーションを活性化させることは、直接的に、人間関係の改善に繋がる可能性もあります。
組織内のコミュニケーションを活発にするための、環境構築を進めるのがいいでしょう。
方法③:キャリアパスを提示する
キャリアパスを企業側から提示するのも有効な方法です。
従業員自身が計画したキャリアプランに、企業がキャリアパスを提示することで、より長期間自社に留まってくれるようになります。
また、キャリアパスを提示することで、従業員の「自社が求める人物像」に育成できるメリットもあります。
スキル習得・資格獲得の支援制度があると、なお良いでしょう。
方法④:実力主義の風土を作る
優秀な人材を自社に留めておきたいのであれば、実力主義の企業風土を作ってしまうのも得策です。
実力主義で、優秀な人材を高く評価できる環境を構築できれば、優秀な人材が自社の職場環境に満足する可能性があります。
また、実力主義の雰囲気を構築することで、従業員全体のモチベーションが向上する可能性があるのもメリットです。
ただし、冷酷になりすぎないように注意する必要はあります。
方法⑤:職場環境を改善する
退職希望が出てからではなく、常日頃から職場環境を徹底的に改善することも意識しましょう。
職場環境の改善の具体例としてはテレワーク、フレックスタイム制、休暇制度、オフィスのリフォームなどが挙げられます。
特にテレワークやフレックスタイム制などは、近年、非常に注目されているトピックです。
多様な働き方を提供できるかどうかが、従業員の満足度を左右すると言っても過言ではありません。
常日頃から、職場環境の改善に取り組むのがいいでしょう。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- カウンターオファーは退職希望者を引き止めるための具体的な提案のこと
- カウンターオファーを実施する理由として「優秀な人材の確保」や「採用コストの削減」が挙げられる
- カウンターオファーの成功率は大体20%
- カウンターオファーに限らず、常日頃から職場環境を改善することが重要
カウンターオファーは、成功率が極めて低いため、もし退職を本気で防ぎたいのであれば、退職希望を出される前に予防線を張っておくことが重要です。
そのための手段としては評価制度の改善、コミュニケーションの活性化などの職場環境の改善が挙げられます。
そしてこれらの業務は、人事担当者及びマネージャーの仕事です。
このように、常日頃から退職を防ぐ取り組みをしていれば、万が一退職希望を出されたときにも、お互いに悔いのない形で交渉を進められるのではないでしょうか。