今の能力の限界を超えるため、訓練によって高みを目指す行為がスキルアップです。
「企業は人なり」の言葉の通り、個々の従業員がスキルを向上させると、組織全体の業績アップにもつながります。
つまりスキルアップは個人のものではなく、企業が従業員のスキルアップを支援することで、企業側も大きな恩恵を受けられるのです。
変動が大きく不確定な要素が多いといわれる現在の経営環境においては、従業員ひとりひとりの成長による戦力アップが欠かせません。
そこで今回の記事では、ビジネスの現場で必要とされる「スキルの種類」や、役職によって異なる「優先すべきスキル」など、スキルアップについて総合的に解説します。
企業の経営者や関係する部署の担当者は、ぜひ参考にしてください。
目次
スキルアップとは
スキルアップとは、単に今の知識や技能に磨きをかけるだけでなく、学習や訓練を通じて新たな能力を手にすることを意味します。
スキルアップを成功させるには、まずスキルマップなどの図表を使い、現状を認識するところから始めましょう。
スキルアップのメリット
個人がスキルアップを目指すことで、所属する組織にとっても大きなメリットがあります。
「スキルアップした社員は、より良い条件を求めて転職してしまうのでは?」との心配はいりません。
自分が成長できる企業と感じれば、優秀な人材ほど離れていかないからです。
ここでは、スキルアップに関する個人のメリットと企業のメリットをそれぞれ解説します。
個人のメリット:生産性が上がる
スキルアップで個人の能力が向上すれば、業務を効率的に無駄なく進められるようになります。
また顧客に対しても、より満足度の高いサービスを提供できるようになるでしょう。
個人のメリット:報酬を増やせる
スキルアップによって社内での評価が上がれば、昇給が期待できます。
また取得した資格に手当てがつくなど、収入アップにつながる可能性もあります。
個人のメリット:仕事の幅が広がる
スキルアップすると、新しい分野の仕事を任されたり、希望する職種に関われるチャンスが増えます。
管理職や専門職として働く機会も、これまで以上に多くなるでしょう。
組織のメリット:生産性が上がる
従業員のスキルアップにより、仕事の質と効率は改善し生産性が向上します。
業務スピードが上がりタスクの消化率が良くなれば、残業時間を減らす「働き方改革」の推進にも役立ちます。
組織のメリット:顧客満足度が改善する
従業員のスキルアップで、製品やサービスの質が高くなります。
顧客の満足度も上昇し、企業の評価につながるでしょう。
人材育成へのコストは、将来の企業価値に対する先行投資となるのです。
組織のメリット:人材の定着につながる
自分の成長を実感できない企業には、なかなか人材が定着しません。
スキルアップの機会を設けることで、従業員は将来の不安を解決することができます。
エンゲージメントの維持にもつながるため、離職率の低下に寄与するでしょう。
組織のメリット良い人材を採用できる
従業員のスキルアップをサポートしてくれる企業は、求職者にとっても魅力的に映ります。
成長のチャンスが多くある職場は、向上心のある人材を引き付けるでしょう。
キャリアアップとの違い
「スキル」はそもそも能力・技能・技術を意味し、それらを証明する資格なども含めた概念です。
一方でキャリアとは、経歴や役職などのポジションと、その変遷を指す言葉です。
当然ながらスキルを向上させると、自らのキャリアも上がりやすくなります。
また、獲得が難しいスキルほど社内や市場での評価は高くなります。
つまりスキルアップとキャリアアップは、密接に関係しあい相互に影響すると考えていいでしょう。
ビジネスで求められる3つのポータブルスキル
ポータブルスキルとは、「持ち運べるスキル」を意味する言葉で、業種や職種が変わっても通用する、汎用性の高いスキルを指します。
社会人の基礎力でもあるポータブルスキルは、「対人」「対課題」「対自己」の3つに分けられます。
1.対人スキル(傾聴力、共感力、交渉力、表現力、読解力など)
対人スキルは人との関わりに対するスキルで、コミュニケーション能力とも言えます。
人間関係を円滑に進められると、そのぶん自分の意見を通しやすくなります。
また相手の要望を上手く引き出せるため、相互理解を深めながら業務を進められるでしょう。
ミーティングやプレゼンテーションなどでも、大きな成果が期待できます。
2.対課題スキル(分析力、行動力、課題発見力、情報収集力、論理的思考力など)
対課題スキルは、課題や問題を解決するスキルです。
目標と現実とのギャップを把握し、ギャップを埋めるための行動をとる能力とも言えます。
課題の背景にある原因をあぶり出せなければ、根本的な問題解決にはなりません。
現象はあくまで表面的なものであり、その背後にある「本当の問題点」を解消する策を立てられるのが理想です。
3.対自己スキル(自律力、決断力、忍耐力、自己管理力、意欲創出力など)
対自己スキルは自分のメンタルを管理し、感情をコントロールするスキルです。
その他の能力がいくら素晴らしくても、精神状態が不安定であれば仕事のパフォーマンスは低下します。
ストレスへの対応やモチベーションの維持を含め、自己管理能力があらゆるスキルを発揮する土台となります。
カッツモデルによるスキルの分類
カッツモデルとは、アメリカの経営学者ロバート・L・カッツが提唱した理論です。
カッツはビジネスパーソンに必要なスキルを3つに分け、さらには職位ごとに求められるスキルを提示しました。
およそ70年前に確立された理論ですが、現代にも通用する汎用性の高さがあり、いまだに多くの企業で参考にされています。
1.コンセプチュアルスキル(概念化能力)
コンセプチュアルスキルは、冷静に現状を把握し、物事の本質を捉える能力です。
個別の事象から一定の法則を導き出し、戦略的な決定を下すためのスキルとも言えます。
・概念化力
個別の事象を観察し、共通の性質を見つけ出してまとめる能力です。
別々の出来事から共通項を抜き出すスキルがあると、物事の本質をつかみやすくなり問題解決力が高くなります。
・多面的視野
ひとつの課題に対し、複数のアプローチで考えられる能力です。
一方向の視点にとらわれず、いくつかの角度から検討し判断を下す能力と言えます。
「新たな可能性を模索できる」「行き詰った状況を打破できる」などのメリットがあります。
・知的好奇心
未知の知識や情報を得ようとする意欲です。好奇心は新規事業への参入など、行動を起こすためのエネルギーになります。
また、ビジネスチャンスを逃さないためにも、新しいツールやメソッドに興味を持つことは大切です。
・論理的思考力
考えを体系的に整理し、筋道をたてる能力です。
他者と共通の枠組みで考え、同じ位相で対話するためのスキルとも言えます。
相手に伝えたい内容を、根拠を示しながら矛盾なく説明するためにも重要です。
・チャレンジ精神
困難な課題や未知の領域であっても、恐れず果敢に挑戦する能力です。
たとえ失敗したとしても、そこから学びを得て次に活かす意識が前提になっています。
社会の変化が著しい現代においては、自らを変革し新しい環境に飛び込んでいく勇気が求められます。
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
ヒューマンスキルは、人間関係に関わる能力です。
他の従業員が気持ちよく仕事ができるよう配慮したり、社外の利害関係者との良好な関係を築いたりするスキルです。
・交渉力
利害関係の一致しない相手に対し、お互いが納得できるポイントを提案する能力です。
説得して丸め込むのではなく、双方がWin‐Winになるような落としどころを見つける姿勢が大切です。
・問題解決力
問題の根本的な原因を突き止め、適切な対応をおこなう能力です。
表面的な出来事だけでなく、背後にある本質を見極め、解決までの道筋をプランニングします。
自分ひとりでは難しいと感じた時は、相応の人物や機関に支援を仰ぐ柔軟性も求められます。
・コーチング力
部下や後輩のポテンシャルを引き出し、成長をうながす能力です。
基本的に「答えは既に本人が持っている」という考えに基づいていて、コーチ側は傾聴や質問によって可能性や解決策を導き出します。
自分が知っている答えを教える「ティーチング」とは明確に区別されています。
・リーダーシップ
目標達成に向けて、組織をまとめる能力です。
目標に達するまでの道筋を示したうえで、問題となる要素をひとつずつ潰していきます。
周りが高いモチベーションを持ってついてくるような状態を作るには、説得力ある日々の行動も大事です。
・コミュニケーション力
他人とスムーズに意思疎通をし、円満な関係を築く能力です。
言語能力だけでなく、非言語の中にある意図や感情をくみ取るスキルも含みます。
対面以外に、メールや電話でのやり取りを正確におこなう際にも重要です。
3.テクニカルスキル(業務遂行能力)
テクニカルスキルは、従事する業務の知識や技術など、日々の仕事をよどみなく遂行するための実務的な能力です。
したがって業界や業種ごとに、求められる内容は違います。
・汎用スキル
多くの職種で、共通して求められる能力です。
社歴や職位に関係なく利用でき、市況や部署にもほとんど左右されません。
汎用スキルの具体例は以下の通りです。
PC操作力/情報収集力/資料作成力/進捗管理力/ビジネスマナー/マーケティング力
・専門スキル
汎用スキルの上位に位置する、より専門性の高い能力です。
それぞれの業務に特化しており、発揮できる領域は狭くなるものの、特定の現場で必須とされるスキルです。
専門スキルの具体例は以下の通りです。
語学力/接客力/商品知識力/デザイン力/簿記・会計力/プログラミング力
・特化スキル
職場でも限られた人材だけが任される高度な能力です。
簡単には取得できない技能や知識なので、組織の中では一目置かれます。
ただ、特化スキルがあるからといって汎用スキルや専門スキルをおろそかにしていると、業務に支障が出ることもあります。
特化スキルの具体例は以下の通りです。
特殊な医療技術/一流の調理技術/クリエイティブ力
【役職別】重要度の高いビジネススキル
カッツ理論では、マネジメント層をロワー・ミドル・トップと3つの階層に分け、それぞれが重点をおくべきスキルを示しています。
ロワーマネジメント(監督者層)
店長・チーフ・主任・リーダーなどの役職を指します。
組織の方針に従い現場を管理する役割のため、おもにテクニカルスキルを求められます。
ミドルマネジメント(管理者層)
部長、課長、エリアマネージャー、工場長、支店長などの役職を指します。
一定の範囲において、業績に対する責任が生じる立場です。
上層部の決定を下の階層に浸透させるだけでなく、現場の意見を上に伝えるのも仕事です。
そのためテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルが同じくらいの配分で求められます。
トップマネジメント(経営者層)
会長、社長、取締役などの役職を指します。
物事の本質を見極め、適切な経営判断につなげます。
組織の戦略や方向性に関わる意思決定が職務のため、コンセプチュアルスキルに重きが置かれます。
スキルアップの具体的な方法
スキルアップで個々の従業員が成長するのはもちろん、所属する部署やチームにとっても戦力アップにつながります。
ひいては、企業全体の業績アップという大きなメリットを生み出すでしょう。
とはいえ、企業側が従業員の自覚、自発的なスキルアップに頼ってばかりでは、なかなか上手くいきません。
積極的にスキルアップを後押しする制度の設立や環境の整備が求められます。
もし社内にリソースが足りないと感じるなら、外部の機関に依頼するのもひとつの方法です。
個人としてスキルアップする方法
個人としてのスキルアップは、現状の業務に関するスキルだけでなく、関わりの薄いスキルを身に着け、新たな分野に挑戦するといったことも可能にします。
ビジネス人材として能力を高めることは、今後の社会を生き抜く上で非常に重要でしょう。
スキルアップの方法には、資格取得や書籍での勉強、セミナーの受講などが挙げられます。
組織が個人をスキルアップさせる方法
組織が個人をスキルアップさせるには、組織という形を生かした方法がおすすめです。
例えば配置転換で新たな経験を積ませることや、自社内の研修制度の利用などが効果的です。
また、外部のセミナーを受講させたりするのもよいでしょう。
まとめ
ビジネススキルの向上は、本人だけでなく組織全体にとってメリットがあります。
そのため企業側の積極的なサポートも、スキルアップに重要です。
また、どのような立場であっても、ひとつのスキルだけを伸ばし続けると、いわゆる「潰しのきかない人材」になりかねません。
現状を踏まえバランスを考慮したスキルアップ計画こそ、変化が激しく不確実な現代における企業のサバイバル戦略と言えるのです。