近年、「1on1ミーティング」というワードを耳にしたことがある人は多いでしょう。
1on1ミーティングは元々はシリコンバレーのIT企業で用いられていた面談の手法で、現在は日本企業で採用されるケースも増えています。
一方で、1on1ミーティングの中で何を話すべきなのかについては、あまり注目されていない印象を受けます。
1on1ミーティングはあくまでも手段であって目的ではありません。
1on1ミーティングをどのように活用していくかが、企業の人材評価の鍵を握るでしょう。
本記事では1on1ミーティングについて徹底解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
1on1とは?【上司と部下が1対1で面談】
1on1ミーティング(以下、1on1)は、上司と部下が1対1で面談する会話手法のことです。
冒頭でも述べた通り、1on1は手段の1つに過ぎません。そのため、1on1を実施する目的は、企業によって異なります。
また、1on1は実施頻度が高い傾向にあり、基本的には週に1回、最低でも1ヶ月に1回の頻度で実施されます。
一般的な面談との違い
一般的な面談との違いとしてまず挙げられるのが「目的」です。
通常の面談は人材評価やマネジメントのために実施されることがほとんどです。
一方、1on1は人材育成や部下のサポートが主な目的となっています。
極端に言えば、一般的な面談は上司の都合で実施されるのに対し、1on1は部下ファーストで実施されるということです。
そのため、1on1において上司が一方的に話すことはほとんどなく、基本的には対話形式で実施されます。
1on1が必要とされている背景
1on1が必要とされている背景は以下の3つです。
- VUCAに対応するため
- 人材を確保するため
- 多様性が重視されるため
それぞれ詳しく解説していきます。
背景①:VUCAに対応するため
1on1が必要とされる背景として「VUCAへの対応」が挙げられます。
VUCAは、元々は軍事用語として用いられていましたが、た現在はビジネスシーンで「変化の激しい社会」という意味で扱われています。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
以上の4つの単語の頭文字を取って「VUCA」です。
VUCAに対応するためには、これまでの経験に頼らず、自分の意志で物事を判断できる主体性が必要だと考えられています。
そのため、部下の主体性を養うことができる1on1が有効だということです。
背景②:人材を確保するため
1on1が求められる背景として、人材確保が挙げられます。
現在、日本は少子高齢化社会に突入しており、労働人口の減少が顕著となっています。
また、終身雇用・年功序列の終焉、副業解禁、ジョブ型雇用などの流れがあることから、労働人材の流動性も高まっているのが現状です。
そのため、企業としては優秀な従業員をどれだけ自社で確保できるかが重要項目になりつつあるのです。
そこで1on1の出番です。1on1は、基本的に部下ファーストで実施されるため、部下の意見ややりたいことを尊重しやすい面談形式だと言えます。
こういった理由から、優秀な人材を確保する手段として1on1が求められています。
背景③:多様性が重視されるため
1on1が求められる背景として、多様性が重視されてきていることが挙げられます。
現代社会は「個性」の時代で、働き方でも性別でも、多様性が求められている時代です。
この時代では、上司の一方的な指示が通用しないことが多く、部下の意見を適度に取り入れたマネジメントが求められます。
そして、その手段の1つとして1on1が求められているのです。
1on1であれば、部下と上司が対等な立場で会話できるので、部下の個性を尊重しやすくなります。
1on1で期待できる3つの効果
1on1で期待できる効果は以下の3つです。
- 部下のモチベーション向上
- 上司と部下の信頼関係構築
- 人材育成への活用
それぞれ詳しく解説していきます。
効果①:部下のモチベーション向上
1on1で期待できる効果として、部下のモチベーション向上が挙げられます。
1on1は部下のやり方や意見が尊重されるため、部下が主体性を持ちやすくなり、モチベーション向上に繋がっていくのです。
逆に、上司が一方的に会話する評価面談では、部下は「何を話しても無駄」と考えるようになるので、モチベーションが向上しづらいと言えます。
部下のモチベーションを向上させて、チーム全体のパフォーマンスを高めたいのであれば、1on1が有効でしょう。
効果②:上司と部下の信頼関係構築
1on1で期待できる効果として、上司と部下の信頼関係構築が挙げられます。
1on1では、上司と部下が対等な立場で会話するため、部下にとって、自分の本音を言いやすい環境です。
また、業務の話以外のテーマでも用いてざっくばらんに話せる場でもあります。
そのため、上司としては部下の話を聞くことで現場への理解が深まり、部下としては上司にも親しみを持ちやすくなり、上司と部下の信頼関係が構築されていきます。
信頼関係を構築したいのであれば、1on1を試してみるのがいいかもしれません。
効果③:人材育成への活用
1on1は人材育成に活用できます。
1on1は、部下の本音を聞きやすい会話形式なので、これからのキャリアについて深く聞き出すことが可能です。
また、上司としても、1on1は部下1人に対して集中的に会話できる貴重な機会なので、手厚いサポートができます。
そのうえ、1on1は実施頻度が高い面談形式なので、定期的にフィードバックを実施できるのが大きなメリットです。
1on1の注意点3選
1on1の注意点は以下の3つが挙げられます。
- 面談に時間を取られる
- 上司が一方的に話しがち
- 形骸化する可能性がある
それぞれ詳しく解説していきます。
注意点①:面談に時間を取られる
1on1は、面談に時間を取られやすいのがデメリットです。
1on1は1回あたり15分から30分は必要なので、仮に部下が6人いるとすると、1時間半から3時間の面談時間が必要です。
準備時間も含めると、もっと多くの時間を見積もる必要があるでしょう。
そして1on1は実施頻度が非常に高いため、早くて週1回の頻度で実施されます。
場合によっては上司は週に5時間ほどのリソースを1on1に充てる必要もでてくるでしょう。
仮に週40時間の労働時間だとして、自分の持てるリソースの8分の1を1on1に充てるとなると、かなりの負担です。
本当にその必要があるのか、しっかり吟味する必要があるでしょう。
注意点②:上司が一方的に話しがち
1on1の注意点として、上司が一方的に話しがちになる点が挙げられます。
1on1の最大の魅力は、上司と部下が対等な立場で会話できる点にあります。
一方でもし「1on1を導入する」という判断が上司によるものだった場合、部下が受動的になり、上司が一方的に話してしまいがちになってしまいます。
そもそも、もともとの関係性に上下があるため、部下が上司に対して対等に話すというのは難しいものです。
1on1を導入する際は、部下が主体的に話してくれる環境を整える必要があるでしょう。
注意点③:形骸化する可能性がある
1on1は形骸化する可能性があります。
冒頭から何度も述べている通り、1on1は1つの手段に過ぎません。
人材育成や信頼関係の構築など、何かしらの目的があって初めて1on1は機能します。
しかし、特に目的もなく、なんとなくの気持ちで1on1を実施してしまっては、ただの時間の無駄です。
1on1を実施する際は目的を明確なものにして、部下にしっかり共有する必要があります。
1on1の実施手順
1on1の実施手順は以下の通りです。
- 1on1を実施する目的を知らせる
- スケジュールを決定する
- 1on1の内容を決める
- 1on1を実施する
- 1on1を継続する
それぞれ詳しく解説していきます。
①:1on1を実施する目的を知らせる
まずは1on1を実施する目的を部下に知らせます。
1on1で大切なのは部下の主体性です。
そこで上司が一方的に「1on1を実施する」と告げるだけだと、部下が受動的になってしまう恐れがあります。
1on1を実施する前に、まずは「1on1をなぜ実施するのか」を部下にきちんと説明することで、部下の主体性を確保するのです。
②:スケジュールを決定する
1on1を実施する目的を部下に知らせたあとは、スケジュールを決定します。
スケジュールの決定方法は、大きく分けて3つ考えられるでしょう。
1つめは上司が一方的に決める方法、2つめは部下が一方的に決める方法で、3つめはお互いに話し合って決める方法です。
一見すると「お互いに話し合って決める方法」が一番いいように見えますが、実施頻度の高い1on1においては、少しでも時間や手間を短縮させたいのが本音です。
1on1の優先度が社内で高いのであれば、部下の了承を得た上で、上司が一方的に決めてしまうのがいいでしょう。その方が効率的です。
③:1on1の内容を決める
スケジュールを確定させたあとは、1on1の内容を事前に決めておきます。
1on1を実施する前に会話内容を決めて、それをあらかじめ部下に共有できれば、スピーディーな1on1を実現できます。
もしくは、部下の本音を引き出すためにも、あえて部下に会話内容を事前に共有しない方法も考えられます。
ただし、1on1がただの雑談にならないように、上司だけは会話内容をあらかじめ決めておくのがいいでしょう。
④:1on1を実施する
スケジュールと会話内容を決定したあとは、1on1を実施するだけです。
上司目線での「1on1を実施する際のコツ」は、聞く姿勢に徹することです。
おそらく、普段は上司が一方的に部下に指示しているはずなので、部下の意見を聞ける機会はそう多くありません。
1on1は部下の意見をしっかり聞ける貴重なチャンスです。
上司は部下の意見を聞く姿勢に徹して、部下から話しを引き出し、話しやすいようサポートに注力するのがいいでしょう。
⑤:1on1を継続する
1on1は、高頻度で実施することで高い効果を発揮する面談手法です。
そのためにも、1on1をある程度継続させなければいけません。
1on1を継続する際のコツとしては、ルーティン化が挙げられます。
「毎週水曜日の午後に実施」など、あらかじめ曜日を決めておくなどして、習慣化するのがいいでしょう。
一般的に、午前の方が仕事の集中力が高いと考えられているので、集中力が落ちがちな午後に1on1を設定するのがいいかもしれません。
1on1の企業事例3選
ここでは1on1の企業事例を紹介していきます。
事例①:ヤフー株式会社
国内企業における1on1と言えば、ヤフーが挙げられます。
ヤフーは2012年から1on1を取り入れており、週に1度のペースで30分の1on1を実施しています。
ヤフーの1on1のベースになっているのは「経験学習」と「社員の才能と情熱を引き出すこと」の2つです。
新入社員に不足しがちな「仕事から学びを得る方法」と「モチベーションを引き出す方法」を上司がサポートしているようです。
事例②:グリー株式会社
グリーは2007年からMBO(目標管理制度)を導入しており、これに加えて「部下がチャレンジできる環境」を構築するために、2015年から1on1を導入したそうです。
MBO関連のフィードバックを半年に1回の頻度で実施する一方で、進捗確認・目標の見直しを週次で実施される1on1で補う形式となっています。
グリーのように短期的なフィードバックを実施する機会を作るために、1on1を実施するのは、有効な活用方法だと言えるでしょう。
事例③:日清食品株式会社
日清食品は2016年から1on1を導入し、2022年には慶應義塾大学との共同研究で、1on1の有効性についての論文も発表しています。
生産性とウェルビーイングに関するインサイトを得られる「Microsoft Viva」が用いられた本研究によると、エンゲージメントの高い従業員は、上司と気軽に1on1のコミュニケーションを取れる傾向にあることがわかりました。
反対に、従業員のエンゲージメントを高める手段として1on1が有効であることも判明したそうです。
このように日清食品は「1on1は本当に効果があるのか」を実証するために、様々なアプローチで効果検証を実施しています。
日清食品のように、1on1を導入する際は、投資対効果を計測できるようなツールを導入するのがいいかもしれません。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 1on1ミーティングは上司と部下が1対1で面談する会話手法のこと
- 1on1は従業員のエンゲージメントを高められる
- 1on1を導入する際は目的を明確にして部下に共有した方がいい
1on1は、部下のモチベーションを引き出すための道具として非常に有効です。
一方で、目的がはっきりせずに形骸化してしまうと、ただ時間が奪われるだけになってしまいます。
1on1を導入する際は、目的をはっきりさせて、部下に共有しておくのがいいでしょう。